異世界転生したけど仕事から逃げられないし、元の世界からメールでじゃんじゃん仕事の依頼が来ます。秘書が欲しいのでよろしくお願いします、神様。
「あああ、仕事が終わらない仕事が終わらない。引き受けなければいいのに。いくら報酬が良いと言ってもこんな短納期はあり得なかった。アイドルのエッセイ本を書くってどういう仕事なんだ。こんな箇条書きの連続の文章をどうやってアイドルらしく書けっていうんだ。大体、このシステムどうなってるんだ。確かに僕は元の世界と変わらないパソコンが欲しいと言ったけれど」
僕はそんな事を言いながらパソコンをバチバチと打ちまくる。
ネットを通じて資料集め、元の文章を見て文章を肉付けしていく。
フリーライターと言えばかっこいいけれど、僕の仕事は文章の便利屋だ。
何でもやる。
小さいものではコラムやネットニュースから長いものでは本の文章執筆代行など。
というか、転移する時に神様に秘書も頼めばよかった。
「秘書が欲しい有能な秘書が欲しい。仕事の整理や資料集めをして欲しい。神様お願いします。このままじゃスローライフどころか過労で死んじゃう」
僕は『今からでも遅くないかな』と手をせわしなく動かしながら願い事をする。
仕事は異世界でスローライフをするために必要だ。
スローライフにだってお金が必要だから。
あれ? なんかおかしい?
僕は何か自分の考えに違和感を感じて首を傾げたところで、
コンコン……と遠慮がちなノックが響いた。
珍しい。この魔の森の中の家に訪問者なんて。
そんな珍しい訪問者には対応しなくては駄目だろう。
もしかして、迷い込んで命からがら助けを求めているのかもしれない。
僕は決死の思いで仕事はさておき立ち上がってドアを開けに立つ。
「はーい、今出ます」
僕のこじんまりした一軒家の慎ましやかなドアを開けると、そこには黒いドレスを着こなした金髪に菫色の目をした美女が立っていた。
美女なのに、首に妙な蔦みたいな刺青が入っていて怖い。
「こんにちわ。追放されました。一晩泊めて頂けないでしょうか?」
僕の目の前で華麗なお辞儀を披露した美女はそう言った。
「つ、追放ですか?」
---
僕は異世界に転移した。
同時に異世界に転生したとも言う。
だって、元の世界ではさえないフリーライターの古山明28歳だったのに、エルフの28歳(エルフで28歳は若造も若造だ。元からあった種族の記憶で分かった)になったから。
何故エルフになったのか。
それは、元の世界で子供をかばってトラックに轢かれて、僕が死んだのは神様の手違いだったと聞いたときにそう願ったから。
異世界に転移させてもらう時に願ったのだ。
『異世界では飽きるほどスローライフを送りたい。でもほどほどにモンスター狩りも楽しみたい。だから寿命の長いと言われてるエルフになりたい。後、魔法をガンガン打てるのが良い。でもスローライフも楽しみたい。あ、あと、元の生活も楽しみたいから元の世界と同じ性能のパソコンとプリンターが欲しい。元の世界とのネット環境よろしく』
と。
異世界に転移転生させてくれる神様は、
「うんうん。全部お前の願いは叶えるぞ。私の手違いだからな。申し訳ない」
とニコニコしながら頷いてくれた。
ギリシャ神殿の中みたいな周りの白い空間に居た不思議な存在と確かにそういう風にお話しした。
僕は死んだって聞いた。まあ、死んでしまったなら仕方ない。
子供をかばって死んだなら周りの人もそう納得してほしい。
ただ、異世界の神様(?)には、手違いで僕を殺してしまったなら、ちゃんと責任は取って欲しかったのだ。
「うんうん。何でも言って」
異世界の神様(?)らしき人はニコニコ笑って頷いていた。
ただ! ただね! 黒い鳥の羽と黒い巻き角が生えている女の人型をしているのが気になったかな。
あれ? これ悪魔なんじゃない? ってね。
「失礼な。私はこれでもこれから君を転移させる世界『リリスゲート』では神様って呼ばれているんだ」
ますます怪しかった。
自分で『神様』と言わない。さっきから『神様』と呼ばれていると名乗っているだけだ。
「なかなかお前は抜け目ないなぁ。大丈夫大丈夫。お前を私から酷い目には合わせないから。ちゃんとお前の言っている事も実現させるし。スローライフ、エルフ、モンスター狩り、魔法、パソコン、プリンター、元の世界とのネット環境な。あ、という事は元の世界とある程度連絡が取れた方がいいんだろ?」
「ん? まあ、元の世界の漫画とか小説読みたいしね」
「そかそか、じゃあネット環境の中ではネットを使ってお前と元の世界が連絡取れるようにしておこう。その際に死んだお前と連絡が取れていることが不審に思われないように調整っと。な、サービス良いだろ」
「いいですね」
「じゃあ、向こうのデジタルコンテンツを買うときにこっちの貨幣でも買えるようにしておくし、向こうの銀行口座に入った金もこっちでもあっちでも使えるように調整しておくから。大サービスで」
「いいですね! なんかすみません。それなら異世界でモンスターを狩って売ったお金であっちの漫画とか見れたりするんですかね」
「もちろんだよ! 異世界のスローライフを分かってきたじゃないか。じゃあ、ちゃんと不自由なく暮らせるように一軒家も用意したし、近くに物資が揃う街もあるから。スローライフ楽しめよ。じゃあな!」
「あっ、ちょ、まだお願いが……」
と『神様』(悪魔?)との会話はこんな感じだった。
もう僕はそこから罠にはまっていたのである。
ちっくしょー!!
あんなにニコニコしているからおかしいと思った。
---
まずは、僕のプロフィールだ。
名前は元の名前から「アキラ・フルヤマ」に変更だ。
種族はこの世界ではまあ珍しいかなというエルフ。28歳。男。
スローライフとモンスター狩りという我がままライフをを楽しむという変わったエルフだ。
(早くも話がおかしくなってくる。エルフはこの世界では大多数のエルフが『神聖の森』というところに引きこもっていて出てこない。そんな話聞いてない。)
そして、その我がままライフを楽しむためモンスターのたくさん居る『魔の森』に建っている一軒家に住んでいる。
全体が進化する魔道具で出来ている一軒家で、色々便利で家事も家が時々やってくれるし不自由しない。
野菜や果物が周りに生えていて、手入れをしてもしなくてもいつも収穫できるし美味しい。
(おかしい。モンスターがうじゃうじゃいる。でも家の周りや畑には結界が張られていて害意がある生き物を寄せ付けない。でも僕はそもそも農業とかできる方じゃなかったし、丁寧な暮らしもできないのを失念していたので、家が便利だったり野菜や果物が勝手に生えるのは助かった。)
『魔の森』にうじゃうじゃいるモンスターに向かって、勝手に覚えている魔法(ファイヤーとかウオーターとか適当に頭に浮かんだ魔法)を適当に撃つとモンスターがグシャア……となって死ぬ。
近くの街から買った本を読んだところによると、捌いてその中に魔石やレア素材があるらしい。
(いきなりのスプラッタ。捌くなんて現代人の僕にできるか。そういう事じゃないんだよ。)
最後のパソコンとプリンターが曲者だった。確かに最初は良かった。ネット環境は神秘的な力(?)で完備されていて、元の世界から漫画や小説や動画を購入放題。
(しかし、畑に生えている野菜と果物を売るだけではそこまで稼げない。すぐに金がなくなった。そもそもこの世界には元の世界のような娯楽が少ない。元の世界の日本のような溢れる娯楽コンテンツはない)
すぐに金が底をついた。
(おかしい。異世界でチート俺tueeeは?)
そこからがやばかった。元の世界からどう神様(?)が調整したのか仕事のメールが届くようになったのだ。
ーこれが地獄の始まりだった。ー
例えば、
『××雑誌○○でスローライフ系のエッセイを書く予定だったタレントが直前になって文章書けないっていうから送った資料でチャチャッと書いてくれ。金は出す(意訳)』
レートがどうなっているのか、元の世界のように受けたいような受けたくないような微妙な金額だ。
しかし、僕はグチャアとなったモンスターからアイテムを捌いて出したり、重い野菜や果物を『魔の森』を抜けて街までエルフの細腕でエッチラオッチラ運んで行って換金するよりも、
「良いかも」
と思ってしまったのだ。
そこからが底なしの地獄だった。
僕が色々調べて良さげな『スローライフで充実してます(はぁと)(意訳)』みたいなエッセイを、本来やるはずだったタレント風に書いたらそれが良かったらしい。
スローライフやら趣味やらのエッセイやコラムの依頼が元の世界のようにどんどん(いや、元の世界できていた量以上に)くるようになった。
急な予定変更であっちも、
「困ってます!」
みたいな依頼がジャンジャンくる。やばい。
次こそは断ろうと思いながらも、その度にネットニュースの穴を埋めてほしいとか、最近はやりのライトノベルのおすすめランキングとか、ありとあらゆる文章を書きまくった。
その度入ってくる原稿料で、(『魔の森』のモンスターたちを魔法でグチャアしつつ)『魔の森』から街に抜けて買い出しに行く。
街は本当に神様(?)が言った通り一通りの物が揃っていた。
デーモニウム王国(この国名がもう怪しい)の王都でもない街「リリス」らしいが、本当に色々揃っている。
僕はそこで一通りの食料と好きなスイーツ(宝石苺のタルトとか世界樹栗のモンブランとかやばいくらい旨い。散財してしまう)を買うし、生活雑貨も買う。
街で新聞を買うと、一面の見出しは、
『王太子の婚約者が婚約破棄?! その真相に迫る!!』
だった。間違えてゴシップ紙を買ってしまった。
いやいや、『悪役令嬢追放物』じゃないんだから。
この異世界はどうなってるんだろう。
---
そんな異世界のおかしさを考えていた僕は、今日も今日とて買い出しを終えて、夕方に家に帰ってきて仕事の続きをしていた。
なかなか思ったように仕事が終わらなくて煮詰まってきた。
アイドルのエッセイ本。
僕に女のアイドルのエッセイとかいうのは無理があると思う。僕に書かす出版社も出版社だ。
コンコン……と遠慮がちなノックが響いた。
珍しい。この魔の森の中の家に訪問者なんて。
そんな珍しい訪問者には対応しなくては駄目だろう。
もしかして、迷い込んで命からがら助けを求めているのかもしれない。
僕は決死の思いで仕事はさておき立ち上がってドアを開けに立つ。
「はーい、今出ます」
僕のこじんまりした一軒家の慎ましやかなドアを開けると、そこには黒いドレスを着こなした金髪に菫色の目をした美女が立っていた。
美女なのに、首に妙な蔦みたいな刺青が入っていて怖い。
「こんにちわ。追放されました。一晩泊めて頂けないでしょうか?」
僕の目の前で華麗なお辞儀を披露した美女はそう言った。
「つ、追放ですか?」
「はい。婚約者に婚約破棄されて魔の森に追放されました」
「えっ、僕。ここに住んでるんですけど?」
「恐れ入ります」
真顔の表情を崩さない美女と僕は顔を見合わせる。
……、まあ、結界に弾かれないから害意はないんだろうな。
「入ってください」
「ありがとうございます」
入ってきた美女の黒のドレスはなかなか豪華で大変そうだ。
ウチの家のドアが、美女のドレスにぶつからないように広がっていった。(僕には気遣えないくせに、美女には気を遣って進化できる困った家だ)
「お手洗いと洗面所はあっち、風呂はあっち。着替えは僕ので良ければ新品を洗面所に置いとくね」
毎日家には浄化をかけてるから掃除はばっちりだし、この家は勝手にいつの間にか整理整頓されてる不思議な家なんだよね。
「好きに寛いで。ごめん、僕はちょっと仕事するから」
終わらない仕事で僕はハイになっていたのかもしれない。
異性の令嬢を放って、僕は仕事に戻るという暴挙に出た。
☆☆☆
令嬢は神秘的なものに憧れていた。
アマンダ・フラガリア・アナナッサは生まれながら侯爵令嬢だったが、貴族らしくなく夢見がちな所があった。
妖精やエルフやドワーフや小人や獣人と言った異種族が大好きで、特に『神聖の森』に引きこもって出てこない美貌の種族エルフに会ってみたいと思っていた。
「エルフの耳って、本当に長いのかしら。どんな美しさなのかしら。人間より魔法を使いこなせるって本当?」
「御本にはそう書いてありますね」
ヘアメイク担当の気安い侍女にそう話しかける。
夢見るだけならタダ。
私は所詮侯爵令嬢だから政略結婚しなくてはいけないことは分かっている。
「エルフって古代ニホン語を話すのですって。言語学習の一つに入れてみよう」
「お嬢様は本当に勤勉なお方ですね」
「外国語を2個以上は習得しなくてはならないの。そのついでよ」
年齢が近く、爵位が妥当で派閥争いに大きな影響がないという事で、10歳の時に王太子の婚約者に決まった。
さっそく当たり前のように怒涛のような勉強や実地研修が降ってくる。
古代ニホン語風に言うとOJTの嵐だ。
幸い、現王妃様は優しい方で私にも優しく色々教えてくださるし、陛下も時々私を気遣ってくださる。
幸い、王太子の婚約者になって良いこともあった。
「こんにちわ、綺麗な女の人」
「こんにちわ、会えて光栄ですわ。妖精王様。妖精王妃様」
13歳の時、デーモニウム王国で近隣の外国を招いて開いた夜会で、妖精に会えた。
私はいつもの貴族の笑みではなく、本気で笑顔だったと思う。
妖精の国については、簡単な会話と文化の学習だけだったが現王妃様と共に無難な挨拶ができた。
妖精は遠回しな言い方を好まない。
間違っても『ごきげんよう』から始まり、無難な天気の話などしてはいけない。
妖精は人の気持ちを見抜くからだ。
妖精は本当に綺麗だった。妖精王は背丈は私の腰ぐらいまででキラキラと光る蝶の羽が生えており、最近迎えた妖精王妃様は小人族(小人族は比較的会おうと思ったら会える。布小物や革小物や生き物のテイムが得意だ)の方で、やはり背は妖精王と同じくらいだった。
髪や目の色彩は自然にある色だ。
髪は濃い茶色で目は深い緑。妖精王妃様も同じ色彩だ。
妖精と結婚すると髪と目の色と能力が結婚したどちらかの方に統一されるのだ。
興味深い。
「私たちと会えて本当に嬉しいと思ってくれているのが、私も嬉しい。夜会は楽しませてもらうよ」
「よろしく」
妖精王と妖精王妃様が揃って笑顔で頭を下げてくれる。
私も慌ててお辞儀をした。
「どうぞよろしく」
夜会にはドワーフも来ていたけれど、事前通達により、挨拶はできなかった。
大量の酒を夜会会場に置いておいて、ひたすらドワーフをもてなすだけだ。
ドワーフたちはそれで満足で、よりよいドワーフが作り出す魔道具や細工物の数々をデーモニウム王国と取引してくれるらしい。
私は失礼にならない程度に遠くからドワーフを眺めた。
男女ともに髭の生えた小人族のような筋骨隆々の人々で、あのような体から繊細な品物が生まれるのだと思うと尊敬できた。
夜会では様々な異種族を失礼にならない程度に眺めることができて楽しかった。
本命のエルフはいなかったけれど。
特に妖精王妃様は何故か私を気に入ってくださって、色々とお喋りしてくださった。
その後もデーモニウム王国で夜会が開催されるたびに妖精王と妖精王妃様は結構な頻度で足を運んでくださった。
異種族の方々はなかなか見た目が年を取っていかない。
私だけが年を取っていき、18歳になった。
今まで目を反らし続けていた王太子の問題に強制的に向き合う羽目になる。
この国の貴族は15歳から18歳まで貴族学校に通って交流することになっているのだが、一つ年下の王太子と全く交流することはなかった。
意図的に避けられている(断言)。
陛下も王妃も王子の話になると話をそらし、口をつぐむのだ。
どうなっているのだろうか、この国は。
そして、庶民の新聞には『王太子と侯爵令嬢の婚約破棄間近!!』とか書かれているというのを王宮の使用人のお喋りで聞いた。
ーーー
私は今日も焦燥感を抱えたまま、煌びやかな夜会に参加していた。
今日は陛下と王妃様が外遊でいない。
私が仕切らないといけない。
……王太子はいない。
私は幻と婚約して結婚しようとしているのだろうか?
私は幻と結婚して子をなす為に今まで全ての能力を切磋琢磨してきたのだろうか。
色々忙しく会場を動き回って、一息ついたところに妖精王妃様が来た。
私に飲み物を差し出して下さるのをありがたく受け取る。
妖精はいたずらはするけれど、何の嘘も策略もない。
その妖精の妻であるお方だ。
そういう訳で、この貴族だらけの夜会の中で一緒に居ると非常に心が和んだ。
「ねえ、ご存じ? この前、妖精族の一人が、妖精の花蜜で作るスイーツショップを王都ではなくこの国の都市『リリス』に作ってね。宝石苺のタルトが美味しいらしいわ。この夜会が終わったら夫に連れてってもらうの」
「まあ、素敵ですね。私も行きたい」
本音で世間話ができるのはありがたい。
王太子の婚約者という確固たる肩書の私なのに、寄る辺ない思いを抱えている私の心が癒された。
「そうそう、それでね。なんとあのエルフも買いに来るほど美味しいらしいわ」
「エルフ?!」
はしたなくも少々声のボリュームが上がった。
私は、
「失礼しました」
と扇を出して口を隠した。
「いいえ、あなたいつだったかエルフに会いたいと言っていたものね。そうあの『神聖の森』に引きこもって出てこないはずの神秘の種族エルフよ。今日は絶対にこのお話をしようと思っていたの」
「ありがとうございます」
思いやり深い妖精王妃様の緑の目がこちらをじっと見つめた。
「町の人たちはね、騒ぎ立てて貴重なエルフにまた引きこもられても困るから、なるべく騒ぎ立てないように静かにエルフを受け入れているらしいわ」
「まあ、そうなのですね。自分の国の事なのに全然知らなくて」
意図的に私に隠されているというのは被害妄想だろうか。
周りの侍女にだって私の『エルフに会いたい』という夢は喋っているのに。
明日も王太子の婚約者として王宮で仕事三昧だ。
だけれど、もう私の心はエルフが現れるという都市『リリス』に完全に囚われていた。
「まだエルフが『リリス』に現れてそんなに経っていないらしいから。妖精の噂のお喋りは早いのよ」
そう言って妖精王妃様は、片目を瞑ってウインクした。
「追加情報として、そのエルフは『リリス』に住んでるわけじゃなくて、『リリス』の近くの凶暴なモンスターが封じられている『魔の森』に住んでいるらしいわ。変わり者よね、ふふっ」
「魔の森……それは、素晴らしい」
魔の森と言えば、モンスターが多く住み着いていて、昔の勇者の力でモンスターが出てこないように土地に封印されているところだ。
凶暴で強いモンスターが居るけれど、討伐して捌くことができれば希少な素材を持ち帰ることができる。
しかし、土地への封印の中でモンスターがあまりにも増えすぎて、立ち入ってモンスターを討伐するのは困難と聞いていた。
一匹モンスターを倒している間に次々とモンスターが集まってくるらしい。
もちろん神秘好きの私は、魔の森についても調べていた。
息も絶え絶えに魔の森に入り戻ってきた冒険者は、
「ダンジョンのモンスターハウスみたいになってる」
と言っていたと本に書いてあった。
そんな『魔の森』からエルフが出てくる所を想像してみた。
尊い……!
私の大好きな神秘で溢れている光景を想像して浸っていると(もちろん表情は貴族らしく小さな微笑みで固定している)、
「皆の者! 聞いてくれ!」
と一人の男が声を上げた。
え、あれはもしかして全然出てこない王太子様?
他の貴族たちも、若干首を傾げそうになってから慌てて心得たという顔をする。
婚約者の私でさえ顔を忘れそうになっていた。
危ない危ない。
「私、ハインリヒ・ド・デーモニウムは、アマンダ・フラガリア・アナナッサとの婚約を破棄する! そして新たにこの愛しいロベリア・クレールとの婚約を結ぶ事にした!」
ロベリア・クレール?
……ああ、クレール男爵の所の3女だわ。
王太子の陰からひょこっと出てきた。
必死で覚えた貴族たちの顔ぶれも、なかなか下位貴族だと考えないと出てこない。
男爵か……。
どうなんだろう、私には知らされてなかったみたいだけれど、もう王家の中身はまるまる交代するのかもしれないわね。
じゃあ、私の王太子妃教育ってなんだったのかしら。
え、婚約破棄?
全然王太子様と会わないし、話が逸らされるし何れは解消されるのではないかと心の隅で予感していた。
それにしては学園に通っているとき、王太子と交流もなかったし、ロベリア・クレールも全然視界隅にも入らなかったし、恋仲が噂にならなかったわね。
陛下と王妃様によく似た王太子様が、
「アマンダは、私の恋人ロベリアを陰で虐げてきた。そんな性根の腐った女を未来の王妃にはできない! そこで私はアマンダ・フラガリア・アナナッサを……」
そこまで王太子が喋った時、周りの動作が止まった。
さすがに貴族令嬢として王太子の婚約者として動じない教育を受けている私でも驚く。
辺りをきょろきょろと見まわしていると、目の前に突然、黒い鳥の羽と黒い巻き角が生えている女性が立っていた。
「うっ……」
さすがの驚かない私でも(以下略)。
思わず叫び声を上げそうになったのを無理やり抑えた。
神秘は好きだけれど、恐怖は駄目。
というか、言い伝えられている神様の姿だとすぐに気づいた。
私は慌てて頭を下げる。
「そう、私は神だ。ようやく神と認識してくれる奴と話せるよ。異世界人もかわいいけど、私が作っただけあってこの世界の奴らもバ可愛いなぁ」
神様が私にお言葉を下さった。
今日は大変な神秘が降り注ぐ日だ。
神様にもお目にかかることができたし、エルフの行方を知れた。
「顔を上げていいよ。直答も許す。……私はね、優しい神様なんだ。今までお前は頑張ったよ。後はエルフと楽しく暮らしてはどうだ?」
神々しく美しい神様の笑顔が眩しい。
本物の神秘から更なる神秘の提案をされた。
もう私の心を分かってくださっているのだわ。
でも……
「今までの私のこの国への民の努力はどうしたら良いのでしょうか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。ありがとう。この国の貴族連中と王家は時間が経って腐ってきてるからメンバー入れ替えするから。貴族が権力闘争しているだけなんて面白くないしな。お前が頑張ってくれたおかげで良い奴と悪い奴が際立って助かったよ。いい感じにまた国が発展するようにちょちょっと入れ替えて完成だわ」
「ありがとうございます」
神様が良いように取り計らってくれるというのならそれは真実なのだろう。
「それよりもご褒美の相談だ。お前、今まで王太子妃の教育を受けて、人のサポートに関してはありとあらゆる知識を持ってるだろう『魔の森』にすむエルフが秘書が欲しくて困っている。そこに行ってくれないか?」
「行きます」
私は即答した。
あ、はしたなかったかしら……。
「いいよ、すごくいい」
神様はとろけるような笑顔を浮かべた。
「でも、……婚約破棄された私をエルフは受け入れてくれるでしょうか?」
「そこはあれだよ。お前みたいな美女が、『婚約破棄されて追放されちゃったの、かわいそうな私。一晩泊・め・て(はぁと)』ってすればばっちりだよ。実際そんな事もあるしな。それこそ『追放されました』なんてスパイとかが入り込む常套手段だと思うけど人間はそれで納得するんだからバ可愛いな。まあ、人間は心が読めないんだから仕方ないな。エルフの奴の仕事に追われる自業自得のてんてこ舞いもだいぶ楽しんだからかわいそうだし」
なんか結構人間やエルフに対して端々に貶めるような言葉が入っているような?
まあ、エルフ会えるのだからいいだろう。
神様から頂いたセリフ例はそのままは恥ずかしくて言えそうにないが、ちょっと変えて採用しようと思う。
「神様、本当にありがとうございました」
私はスカートの端をつまんでお辞儀をした。
「人に感謝されるっていいもんだよな」
神様がニカッと笑って親指を立てた。
そして目の前がぼやけるような感覚の後、再び周りの時間が動き始めた。
「そこで私はアマンダ・フラガリア・アナナッサを『魔の森』に追放する!」
侯爵令嬢の『魔の森』への追放なんて前代未聞だ。
嘲笑とどよめきの中、私は笑顔で頷いた。
「はい」
私はその後、黒の質素な服に着替えさせられ、国の魔法士から罪人の証である『蔦の首輪』の魔法をかけられた。『蔦の首輪』はあらゆる能力が罪人として下方修正される呪いだ。
しかし、私は終始浮かれていた。
神秘の極みである神様からエルフの元へ行くお墨付きをもらえたのだ。
これが浮かれないわけがない。
こうして私は『魔の森』の入り口で馬車から降ろされ、森の中を一人進むことになった。
『魔の森』にはモンスターがたくさんいるのかと思いきや、やはり神様のお導きなのかモンスターは一匹も現れなかった。
私はひたすら『魔の森』の中の道を歩いて行って、とうとう家を発見した。
私は遠慮がちに家のドアをノックすると、ややあってからドアが開いて本当にエルフが顔を出した。
「はーい、今出ます」
濃い銀の髪に銀の瞳で、長い耳が髪の間から見えている。
理想の彫刻のような顔をしたエルフだった。
「こんにちわ。追放されました。一晩泊めて頂けないでしょうか?」
私は貴族らしく渾身の力で感動の気持ちを抑え込んで、貴族らしくお辞儀をした。
それからというもの、「アキラ」というエルフは親切にもずっと私を泊めてくれた。
気さくに自分の事は「アキラ」と呼んでくれと言ってくれる。
私の方の事情は、
「令嬢の婚約破棄追放でしょ?」
と知っているから説明は大丈夫だと言ってくれる。
アキラはエルフらしく古代ニホン語で、文章の執筆をしているらしい。
アキラが休んでいる間、アキラが使っている「パソコン」(古代ニホン語が画面いっぱいに表示される不思議な魔道具)を学び、(パソコンについての本があり、私は王太子妃教育で新しい知識を学ぶことについては鍛えられていた)、アキラの仕事を手伝うようになった。
アキラが休んでいる間にパソコンを操って資料を集めたり、パソコンに届いているメールを見て仕事の優先順位をつけたり、簡単な仕事ならばやっておいてアキラのチェックを受けるなどした。
「さすがアマンダちゃんだね! ありがとう」
アキラは王子と違ってちょっとの仕事をやるだけでも大げさに感謝してくれて、憧れのエルフとの毎日にとても私の心が癒されていくのを感じていた。
もちろん、アキラは言葉だけではなく、街「リリス」で甘いものも買ってきてくれて、一緒に宝石苺のタルトを食べてゆったりしたティータイムを楽しんだりする。
宝石苺のタルトはとても美味しかった。
「アマンダちゃんのその首の所の刺青ってどうしたの? やっぱり追放された時に付けられたとか?」
「そうなの。普段の生活には問題ないのだけど、元々使えるサポート系や治癒系の魔法がほとんど威力がなくなってしまって……ちょっと気になるわね」
美味しいお茶を飲みながらそんな話をしていたら、私が仕事を手伝ってくれて余裕ができたとかで、エルフの国『神聖の森』に行ってきて、『解呪の聖薬』というのを買ってきてくれた。
あっさりとその薬で罪人の証の呪い『蔦の首輪』は解呪された。
「アマンダちゃんも異種族に憧れているから連れていきたかったんだけど、エルフしか入れない結界が張ってあって」
「気にしないわ。それよりも薬をありがとう。これでサポート系の魔法が使えるわ。王太子妃の時に手あたり次第サポート系の魔法を習得したの。あなたがいつもぐちゃぐちゃにしているモンスターを『解体』の魔法で処理できるわ」
「えっ?! さすがアマンダちゃんだね!」
アキラは私の魔法に本当にすごく喜んでくれて嬉しい。
私の手を握ってブンブンと上下に振った後、
「あっ、勝手に触ってごめん」
と顔を赤らめていた。
それにしても、魔の森のモンスターが、アキラの凄まじい魔法でつぶれて放置されているのが気になっていたのよね。
これでモンスターの素材が採れるようになれば、アキラももっと楽な暮らしが送れるに違いない。
しばらく二人で暮らしていると、私たちはゆっくりながらも関係を深めていった。
そして薄々パソコンという魔道具で気づいていたけれど、アキラは異世界から来た人だという事を詳しく教えてくれて、神秘好きの私はさらにアキラが好きになった。
私と同じで神様にも会ったらしい。
私はどんどん貴族としては手入れしないから、容姿は町娘としては美形だねレベルになって、アキラと一緒に街に出ても特に悪目立ちして困ることはなかった。
そもそも街『リリス』は妖精も居るし、異種族に慣れているのかアキラに対してもそこまで騒がない。
ある日、アキラが街で買った新聞を持ってきた。
『元王太子、魔の森で行方不明! 死んだと見られるため、王国騎士団は捜索打ち切りを発表!』
とゴシップ紙が一面で取り上げていた。
リビングでお茶を飲みながら一緒に新聞を見ると、『元王太子は断種済』『元恋人の男爵令嬢は既に修道院で肺炎にかかり死亡』『元婚約者の侯爵令嬢の名誉回復の議論が進む』等好き勝手なことがたくさん書かれていた。
「それで……、ごめん。言いづらいけど、さっき魔の森通った時、多分、元高貴な人みたいなアンデッド見つけて飛びかかってきたからびっくりして光魔法したらグチャアってなっちゃった。多分、王太子だよね」
とアキラがまごまごしながら言い出した。
「そんな扱いでいいんじゃないかしら。私はアキラが居たから結果的に良かったようなものの、居なかったら多分、魔の森に追放された時モンスターに食い荒らされて死んでいたと思うし」
「それでその、今回一人で街に行ったのは、アマンダちゃんへのプレゼントを受け取りに行ってたんだ」
「まあ、何かしら」
絶世の美形のエルフが頬を染めて、懐から小箱を取り出した。
アキラがパカッと開けた小箱の中央には……、
「これって陽光の指輪……?」
私も本でしか見たことのない希少な陽光石がはまった指輪があった。
「そう、『神聖の森』の泉では稀に取れる石らしくて。最近、生活も楽になってきたしお金貯めて石買って指輪に加工してもらったんだ。あ、指輪の金属は伸縮の魔法が掛けられてるからサイズは大丈夫。……じゃなくって、アマンダちゃん」
「なあに?」
私は緊張して返事をした。
「僕と結婚してほしい。アマンダちゃんとなら二人で幸せになれる」
「……」
私は夢みたいな事態に言葉に詰まった。
すると、アキラは私が悩んでると思ったのか慌ててフォローしだす。
「あっ、アマンダちゃんの能力に頼ってるとこもあるけど。僕もアマンダちゃんが一緒に居てくれるならもっと仕事頑張って稼げるし。最近は、僕もライトノベル書いてみて、ちゃんと自分のペンネームで書いたからちょっとずつ印税も貰えるようになってきたし、僕一人でも時々モンスターの素材が魔石ぐらいなら採れるようになってきたし」
「アキラ……」
「あっ、後ね。これは秘密なんだけれど。エルフと結婚すると伴侶もエルフのように長い寿命になるんだって。長く二人の生活も楽しめるし、お得っていうか」
「アキラ……あなたと結婚するわ」
私の答えにアキラが満面の笑顔になって、私を抱きしめた。
そして約3年一緒に暮らしていた私たちは初めてキスをしたのだった。
※関係の進みが遅いのがアマンダちゃんの不満だったりしてる。
※エルフは恋愛関係には草食系。
読んで下さってありがとうございました。
もし良かったら評価やいいねをよろしくお願いします。
また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。




