メイドって1匹見ると30匹はいるらしいですよ~うちの専属メイドは増えてる気がするですがどういうことでしょう?~ふえるメイドちゃん
くだらないギャグを思いついたので投稿です。
私は伯爵家の長女として生まれ、それこそ蝶よ花よと育てられてきましたの。
ただ、最近専属として配属されたメイドが、どうも様子がおかしいんですのよ。
別に暗殺されそうだとか、間者だとかいうわけじゃないのです。
平民の出だそうですが、礼儀正しいですし仕事はしっかりこなします。
ただ、おかしいのです。
私は今日のお茶請けのお菓子を買いに行くよう依頼したのです。
お屋敷で作られるものもおいしいですが、たまには外で作られたお菓子も食べたいじゃないですか。
で、お屋敷を出るのを目撃したのち、ちょっと手紙を書かないといけないことを思い出して、メイドを呼ぶ呼び鈴を鳴らしたのです。
その時は特に気にしていなかったのですよ。
普通に便箋とお気に入りのペンを持ってくるように伝えて、部屋を出て行ったメイドにふと違和感を抱いたのです。
そしたら、さっき外に出て行ったはずの専属メイドじゃなかったかと。
他人の空似なわけがないのですよ。
私の専属メイドは、この国では珍しく黒髪黒目、そして低身長、貧乳。
ある一定の方向性の殿方には大変人気が出そうなショートカットのかわいらしいメイドです。顔はふつう。
そんな、見間違え用のないメイドが、瞬間移動でもしたかのように、現れたのですよ。
思考が固まった状態で、部屋にいると、言われた通り便箋とペンを持って現れたのだ。
「ま、待ちなさい貴女!さっきお菓子を買いに行かせたはずでは?」
「そのようなことはございませんが、私はお嬢様からペンと便箋を持ってくるように頼まれましたので…」
うん?大変混乱している。どういうことだ?
とりあえずメイドを下がらせる。
双子かなんかか?いや、紹介されたときは一人だったはず…
とりあえず、お菓子が届いたらお茶を入れてもらおう。
お菓子の購入を頼んでいたメイドが返ってきて、お皿に盛ってくれているので、お茶を入れてもらうべくもう一人メイドを呼ぶためベルを鳴らす。
「失礼いたします」
「やっぱ増えてんじゃねーか!!」
全くうり二つのメイドがやってきて思わず叫んでしまった。
というかまて、そんなはずはない。このメイドは一人しかいなかったはずだ。
「何をおっしゃっているんですか?」
私が振り返ると、さっきまでお菓子を出していたメイドが消えている。
まて、退出していいなんて言ってないぞ私は。
「先ほどから私一人のはずですが、いかがいたしましたか?」
いや、解せない。そんなわけない。
どういうことだ?
「もう一人メイドを呼んできなさい」
「かしこまりました」
どうにも解せぬまま、外を眺めてみると、黒髪ショートのメイドが窓掃除をしている。
まて、さっきお茶の用意をしていたメイドが何で窓を拭いている。
私は思わず廊下に出ると、そこにも掃除中の黒髪メイドが…
「さっき他のメイドを連れて来いと命じたでしょ?!」
「私は聞いておりませんが」
「いやいやいやいやいや、えーと貴女名前は」
そういえばちゃんと名前すら聞いていなかった。メイドはメイドなんだから
「いえ、お嬢様のような高貴な方に名乗るななどありません」
まてまて、名乗らないほうが不敬だろうよ名乗れって言ってるのに。
「名乗りなさい、命令よ」
「インクレアと申します」
メイドは渋々ながら答える。名前があった。よかった。
今度そっくりさんにあっても名前を聞こう。
「わかったわ。ありがとう」
別に私傍若無人ってわけじゃないのよ。
名前も聞けたし、部屋に戻る。
「お嬢様失礼します」
さっき別のメイドを連れて来いと言ったメイドが戻ってきた。
まて、さっきインクレアと名乗ったメイドと声が同じ気がするんだが?
「お入りなさい」
扉が開き、二人のメイドが礼をする。
よかった、一人はインクレアだが、もう一人は別のメイドだ。
お母様付のメイドのはず。
「ねぇ、この黒髪のメイドが増えている気がするんだけど、気のせいかしら」
「あぁ増えてますね」
「なっ?!」
あっさり認められた。
いやまて、増えるって何。
「”黒髪のメイドは一人見たら三十人居ると思え”というのがメイド教本にもありまして」
「まって、まって、まって、どういうこと何それ」
「うちは人手不足ですから、ご主人様がようやく黒髪メイドを雇ってくださったおかげで、仕事の負担が減りましたね。食費はかからないし、人件費は浮くし」
「いや、まって意味が分からない。どういうこと」
「こちらのインクレアは、水をかけると増えます」
ぺこりとインクレアがお辞儀をする。
「は?」
いや、まて、意味が分からん。水をかけると増える?なにそれ。
「試してみますか?」
いやいやいやいや、こわいこわいこわい。なにそれ見れんの?!
「このように水をかけると」
そういってお母様付のメイドがインクレアに水をかける。
まって、それさっきお茶を入れてもらおうと思ってたお湯だけどいいの?
ずぶぬれになっていくインクレア。
しばらくすると、プルプル震えだし、頭が二つに分かれる。
え、気持ち悪いナニコレ。
徐々にねっちょりと分裂し始め、最後には完全に分かれる。
どういう魔法かわからないが、メイド服まで綺麗に二つに分かれているんだけど、なんだこれ?まじで、なにこれ?
「このように、黒髪のメイドは増えるので、人手に困らないのです」
「いや、人手には困らないかもしれないけれど、食費はかさむでしょうよ?!」
「大丈夫ですよ。叩くと減ります」
増えた側のインクレアの頭をメイドが殴る。
ゴンといい音がすると、スパッと消えた。
「は?」
「なので、朝にお風呂に入ってもらい、必要分増えてもらったら、夜はこうして数を減らして、夕飯を食べてもらうのです」
「いやいやいやいや、こわいこわいこわいこわい」
あまりの現象に気が狂いそうである。
こんな恐ろしい子を専属にしないでほしい。
私は大慌てで父の執務室に行き、専属メイドを別の者にするよう頼むのだった。
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私の名前はインクレア。
苗字はない。平民なので。
さて、私は少々特殊な能力がある。
親から受け継いでいる能力なんだけれど、水を浴びると増える。
モコモコ増える。
だいたい自分の体重と同じだけ水を浴びると、もう一人分増える。
質量は守られている。
あと、叩くと減る。
最後の一人になって叩かれると、普通に痛い。
また、増えた分の私は意識は共有していないけれど、減ってくるとその記憶が徐々に集まってくる。
なので、増えすぎた後に一気に一つになると頭がパンクする。
雨の日に傘を差さずに外に出るとすごいことになる。
なお、この能力が発動するのはメイド服を着た時だけ。
謎。
メイド服を脱いでお風呂に入れば増えないが、増えていた場合、その状態で殴られると減る。
お母さんもメイドとして仕事をしていて、お父さんと結ばれ、私が生まれた。
黒髪に生まれた私に、両親は「将来メイドになるのよ」と英才教育をされた。
まだ13歳だけど、伯爵家に雇ってもらえたのも、黒髪メイドの家系だから。
黒髪メイドの家系じゃないと、この能力は持っていない。
ただ黒髪の人にメイド服を着せてもダメで、この家系だからの能力らしい。
なので、黒髪メイドの家系の女性は必ず王家に届け出をさせられる。
悪用される可能性が高いから。
分裂すると能力は引き継がれるので、例えば幼少期から戦闘訓練を重ねて、一気に増やして、武装させれば軍隊ができてしまう。
なので、そういう使われ方をされないための登録でもある。
ただし、あまり強い衝撃が加わると消えちゃうので、そういう使い方をされたとは聞かない。
あと、誘拐されるときも、最後の一人になっていないと意味がない。
強い衝撃で消えちゃうから。
便利なような、不便なような、能力なのです。
このお屋敷では毎日10人ぐらいに増えてお仕事をして、夜は二人まで減らされます。
二人に残してもらっているのは、10人を一気に減らされると脳みそがパンクして1週間は動けなくなるから。
もっと増やす必要があるときは、残す人数を増やしてもらいます。
一人当たり5人分の記憶がいいところなので。
え?本体ですか?そんな概念あるんですかね?
減るときもランダムに減りますから、どれが本体とか本物とかないんですよ。
試しに増えて殴り合いのけんかをした結果、先手必勝した者が残るだけなので、不毛な戦いです。
私の姉は侯爵家で働いているので、今度手紙で聞いてみます。
それでは。
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