第54話 一同が覚悟を決める話
「オスカーの野郎、余計な真似をしやがって……!!」
「ど、どうしましょう!? 教皇様がビーンに飲み込まれちゃいましたよ!?」
死を願ったオスカー教皇は、宝玉の呪いでモンスターと化していたビーンと融合してしまった。
黄金色の鎧から蔦のように触手が飛び出し、オスカーを掴むとそのまま鎧に飲み込んだのだ。あっという間の出来事で、俺たちも助ける余裕も無かった。
「残念だが……あれではもう助けられない」
今ではビーンの胸部にオスカーの顔だけが浮かび上がっている。あれでは死んだというよりも、ただ苦痛が増えただけのようにも見える。アイツのせいで酷い目には遭ったが、あんな姿になってしまっては可哀想という感情しか湧いてこない。
「多事多難。でもわたしたちで、どうにかやるしかない……」
「ヴァニラの言う通りだ。中途半端な奴が集まったって、どうせ吸収されちまうってのが分かったしな。ここで叩くしかないだろう」
無抵抗だったとはいえ、オスカーがああもあっさり取り込まれたんだ。さっきは教会の騎士を呼ぼうとしたが、数だけ集めたところで意味がない。むしろ吸収されてアイツの戦力にされちまう。
「キュプロ、お前は俺たちの所へ帰ってきてくれるんだろう?」
「でも、ボクはジャトレ君たちを裏切ったのに……そんな資格は……」
「馬鹿。水くせぇこと言ってんじゃねーよ。あんなの、裏切るうちに入らねーっての。今はお前の戦力が欲しい。だから戻って来い」
「うっ……ジャトレくぅん……」
ぶわっと涙をあふれさせながら、キュプロが俺に抱き着いてくる。
もう眼鏡が涙と鼻水でグチャグチャだ。俺にまで彼女の汁がくっついてくるが、仕方がない。相変わらずボサボサになっているキュプロの髪を優しく撫でてやった。
「むっ、ジャトレさん。今は緊急事態ですよ? イチャついている場合じゃないですっ!」
「イチャ……? いや、別にそんな事は……」
「我田引水。……えいっ」
「ちょっと、ヴァニラ先輩!? どうして貴女まで!?」
なぜかヴァニラまで空いていた俺の腰元に抱き着いてきた。元々身長が低いので、子供が親に甘えているみたいな図になっているのだが、ミカは許せないのか目を三角にして怒っている。
「ふひ……ジャトレ君の匂い……」
「極楽浄土……暖かい……」
「二人とも!! いい加減にしてください~!!」
そういうミカも、俺の空いているスペースを探してグルグル回り始めている。だが生憎にも二人が密着しているせいでミカが付け入る隙がない。
「おい、攻撃が来るぞ! ミカも魔法の詠唱を頼む!!」
俺の周りに三人がワチャワチャと集まっていたせいで、ビーンがこれはチャンスとばかりにこちらに向けて大剣を振り上げていた。これでは一網打尽になってしまう。
「もう! あとで私にも思いっきりぎゅ~させてくださいよ! 約束ですからね!?」
悔し涙を浮かべたミカが宝玉付きの杖をビーンに向けると、やけっぱち気味に光の柱をドーンと撃ち放った。あれじゃあ、どうみても八つ当たりだ……が、ナイスだ。ビーンの上半身が大きくのけ反り、剣での攻撃モーションが止まった。
「千載一遇。あとわたしも追加でお願い……」
追い打ちとばかりにヴァニラは空中に鎖を生成し、ビーン目掛けて飛翔させた。
『グォオオッ!?』
さすがヴァニラだ。十数本の鎖はどれも狙い違わず、ビーンの鎧に突き刺さった。それだけに留まらず、ヴァニラは背中に生えている吸血鬼の羽根を開いて突っ込んでいく。
「あっ、ずるいぞヴァニラ君! ボクも!!」
キュプロも負けじと金属棒を取り出し始め、喜々として威神伝針を発動し始めた。
「お前ら……」
俺の目の前で白色や銀色の閃光が行ったり来たり。その度にビーンの身体が吹き飛んだり、蜂の巣になったり、焼け焦げたりしている。もはややりたい放題である。
「ビーン……可哀想に……」
どれもが致命傷にしか見えないのだが、宝玉の呪いなのか、はたまた鎧の性能なのか驚くほどのスピードで再生していく。俺もアンデッドだから同じように再生するのだが……あれはちょっと悲惨すぎる。
「ま、だからこそ早く終わらせてやらなきゃな」
ビーンもあれでは意識なんて残っていないだろうし、オスカーも終わらせて欲しいと願っていた。なら俺も引導を渡してやらねばなるまい。
胸元にさげたクロスペンダントに闇魔法を籠める。そして増強された闇魔法で宝剣、月光の旋律を纏った。二つの装備の相乗効果で、全身に力が溢れていく。
「待ってろよ、二人とも。今すぐ楽にしてやるからな――」
だが、この時の俺は自分の身体に異変が起きていたということに、気が付いていなかった。




