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第53話 教皇が神に願う話


「……グッ!? な、なにを……」


 コイツ、一体何をしやがった!?

 オスカーからビーンと同じぐらいの威圧感が放たれたせいで、俺は思わず身体を硬直させてしまった。


「ジャトレさん……大丈夫ですか!?」

「――平気だ。殺気を飛ばされただけで、特に何か攻撃をされたわけじゃねぇ!」


 身体は細いし、軽い言動ばっかりだったが……やはりコイツも化け物かよ。戦えるくせに、力を隠してやがったな。



「それに僕だって混沌神の悪戯(ケイオスチート)の恐ろしさは身をもって承知しているさ」

「は? おいまさか、お前も――?」

「当たり前だろう? 普通の人間が何百年も生きているワケないじゃないか。そう言う意味では、僕はキミの先輩なのかな。……ね、キュプロ?」


 突然話を振られたキュプロの身体が、ビクっと跳ねた。

 どうしてここでキュプロが出てきたんだ……? いや、まさか……。



「神の力、か……?」

「結果的に言えば、そうとも言える……かな」

「もしかして教皇様も、宝玉を使っていたってことですか……?」


 攻撃魔法でビーンをけん制しながらミカが驚いたセリフを吐いた。そりゃ、いちおうは聖女として教会に所属していたんだから驚きもするか。


「でも僕が願ったのは、そんな大仰なコトじゃなかったんだ……そう。かつて昔に願った望みは、『誰からも愛されたい』。ただ、それだけだったんだよ。だけど神は、そんな僕に天罰を下した」


 愛されたい……? たったそれだけの願いで、この男は何万もの教徒のトップに立ったっていうのか……?

 俺が驚いた顔をしたのを見て、オスカーは苦笑いを浮かべた。自分でも荒唐無稽な話だと思っているのだろう。


「僕は孤児だったんだ。そうそう、ジャトレと同じ境遇だね。だから愛に飢えていたんだと思う。ただ、僕は僕を拾ってくれた義父に愛されたかっただけなのに……」


 まさか、教皇ともあろう人物が俺と同じ孤児だったとは……。

 誰かに愛されたい、見てほしいというのは痛いほどわかる。今はもう思い出したくもないが、母親代わりだったアイツには、自分の事を男として特別視して欲しいという願望があったぐらいだしな。だが、宝玉には代償があるわけだが……



「代償は酷いものだったよ。たしかに、こうして教徒のみんなが僕を慕ってくれるようになった。その代わり、僕はみんなを愛することができなくなってしまった」

「愛することができない……?」

「僕が彼らを愛そうとする度に、どうしても逆の感情が湧いてくるんだ。本当はこの手でみなを守りたいのに、滅茶苦茶にしてやりたくなるんだ」


 オスカーは両手を宙に彷徨わせ、空気を掴むように握り潰した。

 ミカとサリアは二人揃って悲痛そうな顔で眺めている。そこには敵視はなく、ただ宝玉に翻弄された男の境遇を憐れんでいるだけだった。



「……この悲しみは誰にも理解できないだろう。それはもう仕方のないことだと、とうの昔に諦めたよ」

「オスカー……」

「そして神に与えられた呪いで、自分では死ぬことも赦されず……ただ自分を愛する人たちを憎みながら、だらだらと数百年もの間、無為な時間を生き続けてしまった。僕はこんなこと、ちっとも望んでいなかったのに……!!」


 オスカーは双眸からツゥと涙を流しながら慟哭する。



「だから僕は、ずっと待ち続けていたんだ。オスカーという救いようのない人間を、終わらせてくれる存在をね。だからこうして、可能性のありそうな人間を裏から援助していたんだ」


 それがキュプロだったってことか。神鳴り(カミナリ)は神に近付く研究だ。同じ神に届く力があれば、オスカーを殺すことができるかもしれない。



「すまない、ボクもずっとジャトレ君たちに言いたかったのだけれど……いつ神の反感を買って、ボクの記憶を消されてしまうかが怖くて……こんな言い訳をしても、ただの臆病者だと思うかもしれないけれど……」

「キュプロ……」

「彼女は長い時の中でも、もっとも僕に近い存在だったんだ。もし僕を殺せるとしたら、キュプロか……もしくはキミ達だと思った」


 俺たちが……?

 ミカ達と顔を見合わせるが、誰もがいまいちピンと来ていない。たしかに宝玉の使用者ではあるが、二人ほどの力が無いことは自覚している。



『グォオオオッ!!』

「一触即発。みんな、逃げて」


 俺たちが会話している間、ヴァニラが必死にビーンを抑えてくれていたのだが、そうも言っていられなくなってしまったようだ。肥大した身体の使い方を覚え始めたのか、先程よりも奴の動きが洗練され始めている。ヴァニラも上手く鎖の大剣で捌いていたのだが、少しずつ押されてしまっていた。


 これは一度、態勢を整えないとヤバい。せめて教会の騎士たちに応援を頼みに行こう。



「一度、ここは引きましょう……!!」

「わ、分かった。ごめん、ボクが巻き込んだせいで」

「キュプロは悪くない。……サリアも。行こう」

「……はい」


 とにかく、文句があるとしたら無事に帰ってからだ。誰も言わずとも、全員の意見がそれで一致した。さっそく礼拝堂から退避しようと走り始めたところで、オスカーだけは逆にビーンに向かって呑気に歩いていく。



「おい、危ないぞ……!」


 アイツ、一体何をするつもりなんだ――!?



「あぁ、この際ならモンスターが相手でも構わないさ。さぁ、ビーン。僕を殺せるものなら、殺してみたまえ!!」


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