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第45話 堕ちた研究者が贖罪を願う話


 キュプロが消えた。それも、俺達が苦労して手に入れた未使用の宝玉を持って。


 俺はキュプロが残した手紙を握り潰しながら、月にぼんやりと照らされている夜の大聖堂を見上げた。



「キュプロのやつ……俺達に黙って去りやがって……」


 俺の予想が正しければ、キュプロはここ、リーザルにある教会の総本山に来ているはずだ。


 アイツが残した手紙には、後悔と謝罪の他に教会との関係についても(つづ)られていた。

 どうやらキュプロは、神鳴り(カミナリ)の研究をするために、随分と前から教会の支援を受けていたらしい。



 ――神鳴り。

 それは神が振るう、強大な力だ。


 キュプロはこの力を解明し、人間でも使えるようになることを目指していた。もし仮にそんな革新的な技術が実現してしまえば、誰でも大きな力を持てるということだ。



「まぁ、だからこそ教会はキュプロに目を付けたんだろうな……」


 彼女の技術が完成したあかつきには、教会でそれを奪い、そして独占することで自分達の権威を今以上に押し上げるつもりだったんだろう。


 そりゃ神の名が付く力だ。

 神の(しもべ)たる教会の連中が欲しがらないわけがない。


 それにただ箔が付くだけじゃない。下手すれば、国が教会に対して頭を下げる可能性だってある。


 なにしろモンスターの山を一掃するほどの力だ。国が所有する軍隊や冒険者がそれを使えるようになれば、周辺の国に対して圧倒的に優位に立てる。

 そうすればまさに、かつてモンスター産業を発展させた賢王の再来である。後の栄誉を考えりゃ、王だって喜んで頭も下げるだろうさ。



 ――だが、それらはあくまでも向こう側の都合だ。俺達には関係ねぇ。



「ったく、教会も余計な事ばっかしやがって……」


 キュプロの手紙には、教会の闇の部分まで事細かく書かれていた。


 実験の費用を捻出するために、信者からの献金を横領していたこと。

 教会にとって都合の悪い人間に罪をでっちあげ、神鳴りの実験体にさせていたこと。


 他にも神に仕える者とは思えねぇような、胸糞の悪い所業の数々が(いく)つも載ってやがった。



 キュプロは後から真相を知らされたようだったが――


「アイツの苦悩は相当なものだっただろうな」

「自身の研究で、罪のない人間を何人も傷付けていたのですから、それも当然でしょうね……」

「それでもキュプロは、己の研究を止められなかったんだよな……」

「それは……」


 もちろん、教会から続けろと脅されていたのかもしれない。だがそれはただの言い訳だ。


 手紙の内容を見る限り、アイツは教会の人間に言われるがままになっていた。それはもう、操り人形のように。

 ただひたすらに研究に没頭することで、現実から必死に逃げていた。



 キュプロはもう、身も心も限界だった。普段はあんなにヘラヘラとしていたが……気弱で根が優しいアイツには、とてもじゃないが耐えられなかったんだ。


 もはや彼女が自分の心を護るには『自分の行いは正しかった。誰もがそう認める成果を上げるしか無い』――と、そう思い込むしかなかったのかもしれない。


 キュプロは宝玉の呪いで『記憶を失う』ようになっていたが、もしかしたらアイツの本当の願いは――。



「だからアイツ、独りでダンジョン潜ったりなんて無茶をやってたんだよな……」

「自暴自棄……素人がダンジョン行くなんて、それこそ無謀の極み」

「だよな……」


 ヴァニラの言う通りだ。アイツの考えも分かるっちゃ分かるが、あまりにも無茶が過ぎるぜ。半分死ぬ気だったのかよ。


「キュプロさん、研究もあまり上手くいってなかったみたいですからね……」

「それでもよぉ……命あっての物種だろうがよ……」


 せめて先日の放火事件が無ければ、キュプロもそこまで馬鹿な事をしなかったかもしれない。


 何かしらの研究結果を出さなければ、教会の援助が無くなってしまう。そうなれば、研究以外に何も持たない彼女の未来は永遠に闇に閉ざされる。そんな焦燥がアイツを――。



「まったく、だったら相談すりゃ良いのによ……」


 手紙の最後の方には、焦りと苦悩、そして数え切れないほどの謝罪の言葉が、泣きながら書いたであろう震えて汚い字で長々と綴られていた。



 そこまで手紙を読んだ俺たちは互いに顔を見合わせた。そして合図することも無く、全員が一斉に街へと駆けだした。


 国選であるヴァニラの権威とコネを使い、普段はできない街の馬ヘビを貸し切り、全速力でこの場所までやってきた。


 ――すべては、キュプロを止めるために。



 だが、結局追いつくことは出来なかった。途中、教会へ戻ると言っていたサリアにすら会えなかった。


 まぁ会えなかったのなら、それはそれで仕方がない。だったら居るであろう場所に突撃するまでだ。



「やはり、お姉ちゃんも――」

「あぁ。もしかしたらキュプロと一緒にいるかもしれないな」


 普段は神聖な雰囲気が漂っているはずの大聖堂。今では空気が重苦しく、それに不気味だ。


 どうも嫌な予感が脳裏をよぎる。


 だがしかし――



「誰かの汚ぇ思惑なんて関係ねえよ。キュプロだって、宝玉がどうしても欲しかったんならそれでもいい。だがよぉ。俺たちに黙って居なくなるなんて、そんなの許せるかってんだよ」


 ったく、水臭ぇことしやがって。

 仮にも命預け合って、一緒に飯も食った仲だろうがよ……。



「行きましょう、ジャトレさん。キュプロさんとお姉ちゃんを取り返す為に……」

「あぁ。取り敢えず2人のことが片付くまで、宝玉の使い道は保留だ。それで良いよな、ミカ」


 俺は隣りで青の宝杖を握りしめている聖女にそう問いかけると、彼女はニヤッと不敵な笑みを浮かべた。



「もちろんですよ! ここまで来たら、ぜーんぶ元に戻す以外の選択肢なんて、絶対に選びませんから!」

一蓮托生(いちれんたくしょう)。わたしもいる。まかせて」


 ……ククク。いいじゃねぇか。

 それでこそ強欲な聖女らしい答えだ。


 心強いことに、俺達には最強の剣士も居ることだしな。



 さぁ覚悟しろよ、クズ共。

 ここまで俺達を嵌めた挙句、大事なモンまで奪いやがって。



「――よし。それじゃあ教会の奴らに、俺達の力を思う存分見せつけてやろうぜ!!」


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