第39話 お礼を言う亡者の話
「ふぅ。これでもう大丈夫か……」
俺は地面に転がっている幼女に突き立てていた剣を鞘に戻した。
どうにかケリがついたな……。
「まるでトドメを刺したかのような言いぶりだねぇ」
「絵面だけみると、ジャトレさんがどうしようもないクズみたいですよね」
む、失礼な。
たしかにあどけない年頃の女の子の命を絶ったかのような言い方だったが、俺は別にヴァニラを殺してはいないぞ??
「これでヴァニラ先輩の意識が戻ると良いんですけれど……」
「こればっかりは俺にも分からねぇしなぁ。ヴァンパイア化も戻ってねぇみたいだしよ」
俺がやったのは、コイツと繋がっていた鎖を断ち切ったことだけ。本人には傷一つつけちゃいなかった。
理由は分からねぇが、ヴァニラはおそらく鎖に操られていた。
剣聖であるはずの彼女は普段、鎖なんか使わなかったってこと。そして鎖を断ち切った後も、ヴァニラの意思とは関係なく鎖だけがウネウネと勝手に動いていたこと。
この2つを鑑みるに、この得体の知れない鎖が原因だったと考えられる。
「今は気を失っちまっているみたいだし、事情は起きてから聞けばいいさ。それにミカだってコイツには用があるんだろ?」
「えぇ。お姉ちゃんの情報を何か掴んでいる可能性があります。剣聖と魔天は犬猿の仲でしたが、実力だけは認め合う間柄でしたから……」
「ふぅん……」
普段は仲が悪くても、同じ国選。最強同士で良いライバルだったのかもな。
しかし、ヴァニラの行動はたしかに疑問が多すぎる。
剣聖ともあろう人間が初心者向けのダンジョンに居たことも不思議だし、呪いの宝玉を持っていたことも気になる。
「……っと、そうだ。忘れるところだったぜ」
俺がここへ来た目的。それは別に、剣聖を倒したかったからじゃない。
ヴァニラを倒すことで得られる宝玉が欲しかったんだ。
さっそく神像がある祭壇へ向かうと――
「おぉ……ちゃんとあるな!」
祭壇の目の間に鎮座していたのは、キラキラと輝く宝箱。宝石や金細工で豪華に装飾がされていて、期待感がグングンと高まる。
良かった。
ヴァニラを殺さなくてもちゃんと倒した判定になっていたようだ。
「ジャトレさん……」
「あぁ。開けるぜ……!!」
ミカに見守られながら蓋をギギギ、と慎重に開けてみれば……うひひひ、これはやべぇ。金銀財宝がこれでもかってほどに詰まってやがった。確実にこの前の墓場ダンジョンを越える量の収穫だ。
だが、今回のメインはこれじゃあない。
「良かった、あった……クハハッ。ずっとお前を探していたんだぜぇ、宝玉ちゃんよぉ?」
宝箱の一番上に乗っていたのは、黒色に光る丸い玉。震える手でそれをすくい取り、大事に手の平の上で転がした。
ふひひ、小さい割にずっしりとした重みがある。間違いない、ちゃんとこの手にある……!!
呪いに掛かった時はこの宝玉もクソだと思ったが、こうして出逢えると頬擦りしたくなるほど愛しいな。
ここまでだいぶ回り道をさせられちまったが、これで俺の呪いも解くことができるはず。
問題は同じく呪いを受けているミカとキュプロたちだが……今はいい。あとで要相談だ。
「クソ……どうなってやがる……?」
お、壁際で寝かせていたビーンの方がヴァニラより先に意識を取り戻したか。
残った方の腕で起き上がろうとしているようだが、上手くいかずにイラついている様子だ。
「気が付いたか金メッキ野郎。お前がお寝んねしている間に、もう終わっちまったぜ?」
「あぁっ!? んだとこらぁ!!」
おぉおぉ、負け犬が噛み付いてきやがる。
同情はするが、残念ながらその腕は自業自得だ。命を助けてやっただけ有り難く思え。
「そんだけ元気ならもう平気そうだな。俺たちはもう用が済んだから先にあがらせてもらうぜ」
「……チッ。マジで倒しちまったのかよ。おい、話がある」
「悪いが、ダンジョンボスはもう居ない。形が変わっていても、この女は剣聖だ。手出しはさせねぇぜ?」
自分がのし上がるために他人をハメるような奴のことだ。どうせ意識を失ってる剣聖を殺し、適当な嘘をついて自分の手柄にでもしたいんだろう?
現にコイツ、俺が断ったら悔しそうな目をしやがった。
「俺様はこの為に全てを賭けてきたんだぞ!! お前らに大事なチャンスを奪われてたまるか……!!」
「はぁ? お前は何を――」
――バシン。
「……て、めぇ。何しやがる!!」
俺が答える前に、ミカがビーンの頬を叩いた。
ビーンも吠えるが、それ以上にミカの怒りの形相の方が恐ろしい。前に飛び出すミカを止めようと思ったが、動けなかった。
「馬鹿なんですか、ビーンは!!」
「あぁ!? んだとてめぇ! 誰が馬鹿だと!?」
「貴方ですよ、この大ばか者!! 他の方だって、自分の命張ってここに来ているに決まっているじゃないですか! それを貴方は他人を罠に嵌めて、勇気や覚悟も全部踏み躙って!! それをなにが『奪われた』ですか! そんな人間に国選の冒険者なんて、絶対に相応しくわけがありません!!」
おぉう、ぐうの音も言えないほどの正論だな。
ミカがここまで怒るのも珍しいが……彼女も根っからの冒険者だ。誇りを貶すような奴の物言いに我慢できなかったんだろうな。
ビーンもそれ以上文句も言えず、目を真ん丸にしてビックリしてやがる。
「ま、そういうこった。お前も気を付けて帰れよ。家に着く前が冒険だからな」
「え? お、おい。お前ら、俺を置いて行くのか!?」
俺は喋りながら床のヴァニラを担ぎ、ミカたちとフロアの出口へと向かう。
……コイツ、本当に軽いな。
やり合っておいてなんだが、こんな小柄であの力を出していたって未だに信じられねぇ。
「当たり前だろ。お前、自分が何をしたか覚えてないのか? あぁ、でも――」
中ボス部屋で嵌められた時とは逆の構図で、俺はビーンに向かって言ってやる。
「お前が用意してくれたモンスター、全部喰らったお陰で剣聖も倒せたぜ。その礼に他の冒険者にはお前は勇敢に散ったって伝えといてやるからよ。安心してモンスターに食われてくれや」




