第34話 金ぴか豆男と再び出逢った話
「よう、ミカ。お前もこの新ダンジョンに挑むつもりなのか?」
そう言ってダンジョンの入り口に並ぶ俺たちに話し掛けてきたのは、以前ミカとレクションの街にある酒場で会った冒険者の男、ビーンだった。
奴は相変わらず金ぴかの装備を身に纏い、隣りには3人の美女を侍らせている。
いや、前とは女の顔ぶれが違うな。それに斧や剣といった装備をしていることから、彼女たちも冒険者なのだろう。佇まいからそれなりの腕を持っているのが分かる。……ビーンの影響なのか、防具が金色なのはだいぶ違和感があるが。
「えぇ。この日の為に準備も整えてきたのよ?」
「準備……ねぇ?」
自信満々に、ミカは自然な笑顔でそう答えた。奴の馬鹿にしきった態度なんて、まるで気にした様子もない。
対するビーンは彼女の大きく張った胸を舐めるように見た後、後ろに居た俺を冷めた目で流し見た。
まったく、すがすがしいほどのスルーっぷりである。コイツはミカ意外に興味はないんだろうか。
いや、キュプロに関しては興味深げに見ていたから、おそらく男に興味が無いんだろうな。……まぁ、俺に興味を持たれても困ってしまうが。
「ふん。相変わらず人を見るセンスは最悪だな」
コイツ、俺のことを舐めやがって!!
性懲りもなく、また眠らされたいのか……!?
「そんな事はないですよぉ? キュプロさんは天才的な研究者なだけでなく、ちゃんと戦闘面でもお強いですし」
「ほぉ? なぁ、眼鏡のお前。今からミカと二人で俺のチームに入らないか? 俺様ならその軟弱男よりも満足させてやれるぜ?」
「なっ!? てめぇいい加減に……」
「きひひっ。残念だが、ボクは強さにはあんまり興味が無いんだよねぇ~。キミの性器を解剖させてくれるっていうなら、ちょっとは考えてみてもいいよぉ?」
「「かっ、解剖!?」」
おっと、思わず俺とビーンの声が被っちまった。
とんでもないことを口走ったキュプロは腰元のポシェットからナイフを取り出し、舌なめずりをしながらニヤリと笑っている。
なんだろう。俺に言われたわけじゃないのに、メチャクチャ怖いぞこの女……!!
狂った研究者による、得体の知れない圧力に気圧されてしまったのだろう。屈強なモンスターにもビビらなさそうなビーンも顔が真っ青になり、ジリッと後退っていた。
「それにジャトレさんだって、すっごく強いんですよ? 夜の方だってあんなに……ねぇ、キュプロさん?」
「あぁ。ジャトレ君の黒くて大きいアレは、初心なボクを狂わせるかと思ったよ……」
「お、おい!?」
まるでビーンに見せつけるかのように、ミカとキュプロは俺の両サイドで腕を抱きしめ始める。大きさは違うものの、俺の両腕が二人の胸に包まれてふわふわな感触が伝わってきた。
って二人とも何を言ってるんだよ!?
夜のアレって、お前らが頼むからマッサージをしてやっただけだろうが!
黒いアレだって、キュプロが『闇魔法を纏った手はリラックス効果があるから是非に』とリクエストしただけであって、別にイヤラシイことなんて一切していないからな!?
「な、なんだと……!? ミカがこんな男に……!?」
「ねぇ、ジャトレさん。今夜もお願いしたいなぁ……」
「は? ダンジョンの中でか!? ……って言い方ぁ!!」
すっかり話に乗せられてしまい、墓穴を更に深く掘っていく俺。列の前後に居た他の冒険者たちも顔を赤くしながら、チラチラとこちらの様子を窺っている。
やめろお前ら……俺をそんな変態みたいな目で見るんじゃない……!!
「ねえ、ビーンさん? そろそろ私達も行きましょうよ~」
「え? あ、あぁ……」
唯一平常心で、こちらに興味も無さげだった金色の美女達。暇に耐えきれなくなったのか、ビーンを急かし始めた。
あぁ、いや助かったわ。
お陰で変な空気がようやく晴れたぜ。
「そ、そうだ。俺様だってあれから上級の冒険者の仲間入りしたんだぜ? それに教会専属のコイツらを借りることができた。どうだ、羨ましいだろう!?」
おぉー、上級になったのか。そりゃおめでとう。お祝いの拍手をしてやるぜ。
酒場で会った時は、中級ダンジョンを幾つも制覇したとか言っていたしな。
「教会専属の冒険者……ですか?」
「あぁ。なんでも最近、教会が大量の冒険者を引き入れたらしくってよ。高い金を払えばこうして貸し出してくれるっつーわけ。クククッ。これで新ダンジョンさえ踏破しちまえば、俺も国選への道がグッと近付くって寸法よ」
「教会が……いったい何故冒険者を……」
ビーンは美女たちの肩を抱きながら、自慢げに語っている。もはや国選になる気で満々みたいだな。
しかしミカはそれよりも教会の動向が気になるようだ。奴の話をまるで聞いていない。
「ま、まぁ。そういうこった。もう俺様に頼ろうとしたって遅いからな?」
「ふふっ。いいでしょう。こうなったらどちらが先に踏破するか競争ですよ、ビーン」
「はんっ。堕ちた国選なんざ、相手にすらならねぇよ。精々ポンコツ共と仲良く、冒険者ゴッコでもしているがいいさ」
ビーンは金の差し歯を剥き出しにしてミカに捨て台詞を吐く。
そして美女たちと共に冒険者たちの列を無視して割り込み、そのままダンジョンの中へと消えていってしまった。
うーん、これ以上なく分かりやすい男なんだけどなぁ。なんとなく小者臭が拭いきれない残念な奴だ。
何となくあぁいうタイプはこの後も妨害してきそうな予感がするなぁ。まぁその時は商売敵として対応させてもらうが。
「それじゃあ、私達はゆっくり順番を待ちますか!」
「あぁ。屋台で串焼きでも食べながらな」
本番はダンジョンに入ってからだ。
進化した俺たちの実力を存分に見せてやるぜ……!!




