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第13話 亡者もやっぱり強欲だった話


「私が、ビーンの仲間に?」

「あぁ。何があったか知らねーが、冒険者としての腕が落ちちまったんだろ? 俺様についてくれば、手取り足取り鍛え直してやるぜ?」


 情欲の篭もった瞳でミカを舐めるように見回しているビーン。


 ……うぅ、気持ちわりぃ。

 脳内ではいったい何を想像しているのやら。男の俺でも寒気がするぜ。


 そもそもだ。なんで勧誘する話にすり替わっているんだ? ダンジョンの情報はどうしたんだよ。

 それにコイツ、始めから俺のことを完全に無視しやがって。



「うーん、ご教授してもらえるのは嬉しいんだけどなぁ。どうしよう?」


 一方のミカは、その誘いを嫌がるそぶりがない。それどころか本気で悩んでいるようにも見える。



「おい、墜ちた魔女がビーンに媚び売ってるぜ」

「んだよ、国選ってのは色気使えば誰にでもなれんのか?」


 ちっ、酔っ払い共め。

 酒くせぇ口を開いてんじゃねぇよ。


 どいつもこいつも下卑た視線を送りやがって。あわよくば自分達がミカを引き入れられるとでも思ってんのか?


「どうだ? 一発ヤラせれば俺の凄さが分……かはっ?」

「……え?」


 瞬きの合間に起きた、突然の異変。


 台詞の途中でビーンの頭がカクン、と下りたのだ。

 隣りに居た美女も思わず目が丸くなる。


「ちょっ、ビーンどうしたの!?」

「寝てる……?」

「えっ、嘘!?」


 残念だが、彼女たちの声はビーンには届かない。

 ビーンの胴体はそのまま力なく後ろに倒れ……椅子の背もたれにドサリと寄りかかった。


 (はた)から見れば、飲み過ぎて意識をトばしちまったように映っただろう。

 

 まぁ、大丈夫。死んではいないはずだ。

 きっと起きた時には、酔いも馬鹿な考えも醒めているだろう。



「……はぁ。ジャトレさん、何かしましたね?」

「さて、な。どうせこんな奴、ロクな情報も持ってねぇだろ。それよりさっさと出ようぜ。ここはアンデッド共より臭ぇ奴らで溢れてる」

「ふふっ。仕方がないですね。……ありがとうございます、ジャトレさん♪」


 ふん、別に礼を言われることはしてない。

 ちょっとばかし、俺の悪い手癖が出ちまっただけだ。

 それに油断する方が悪い。



 来た時と同じように、俺たちは店の出口を素通りして外に出ていく。

 陽の光が眩しい。すっかり太陽は高い位置に昇っていた。


 意味も無く深呼吸。すぅ、はぁ。

 あぁ、外の新鮮な空気がこんなにも美味いとは。ありゃマジで酷ぇ店だったぜ。


 アンデッドになって聖気は苦手になったが、やっぱり俺は清潔な場所の方が好きだな。



「うーん。でもちょっと困りましたね……」

「ん? どうしたんだよ」


 俺たちは早々に人通りの多いメインストリートに戻ってきていた。

 歩いているだけで実に良い気分だ。今日は暖かく、絶好の散歩日和だしな。


 しかしミカは俺とは違い、顎に手を乗せてウンウンと唸っている。


「情報ですよ。結局、聞きそびれちゃいましたから」

「あぁ、そんなことか」

「ちょっ!? そんなことって……これからどうするんです? ジャトレさんも何か考えてくださいよ~」


 楽観的な俺を責めるように、眉をハの字にしたミカが声を上げた。


 いやまぁ、気絶させちまったのは悪かったよ。

 だが俺だって別に伝手が無いわけじゃない。お詫びの印に、今からジャトレ流の情報収集術を見せてやるぜ。



「んー、この通りなら……あぁ、花屋が丁度いいか」

「え? お花屋さん?」

「まぁまぁ、ミカは取り敢えず見てろって」


 俺が見つけたのは、通りの端に出ていた花の屋台だ。

 街の中で栽培しているのか、いつも新鮮な生花を売っている。



「いらっしゃいませ! どれも今朝とったばかりのお花ですよ! あっ、そこのお兄さん! 彼女さんへのプレゼントにお花はいかがですか~?」


 花の香りが染み込んだエプロン。

 赤い花の髪飾りを付けたおさげ髪。


 売り子の少女は並んだ色取り取りの花たちを手で指しながら、愛想よく品物を売り込んでいる。


 俺はその屋台に近付き、彼女に声を掛けた。


「すまない、花の種を買いたいんだが」

「いらっしゃいませ! どうぞ! ウチは種も豊富ですから!!」

「それは助かる……ところで、明日の天気は分かるか?」

「え? 天気……ですか?」

「ちょっと、ジャトレさん? いったい何を……」


 ははは、そりゃ困惑もするわな。

 いきなり花屋に来たと思えば、今度は明日の天気を聞いてるんだから。


 突然始まった奇行に、ミカも俺の腕を引いて止めようとする。

 

「雲の感じだと雨なんだがな。種を植えるには今日が良いと思うんだ。お前さんはどう思う?」

「……どんな種を植えるおつもりで?」


 ニコニコとした顔のまま、少し声のトーンを落とした質問が返ってきた。

 俺の言動に首を傾げていたミカも、コレで何かを察したようだ。


「まさか……」

「ま、そういうことだ。金色の花。育てるのは屋内。あとは、そうだな。珍しいバラがあれば最高だ」


 こっちの要望はコレで全部だ。

 売り子は少し考えてから、「それなら良いのがありますよ」と言って笑みを深くした。



 ――よし、上手くいったな。



 金色の花は金を稼げるネタ。

 屋内と言ったのはダンジョンの隠語だ。

 バラは武器とかそういった類のものが欲しいという要望。


 そう、ミカが予想した通り。

 俺が話し掛けたこの花屋は、街に潜む情報屋だった。



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