ただいま! 無事の帰還だよ!
私とシデンが出発地点の、御岳登山鉄道御岳山駅に到着したのは、すっかり夜も明けた午前8時。
吹雪くほど降っていた雪はすっかり上がって、頭の真上はピカピカの青空。
お日さまの暖かい日差しが降り注いで、積もってた雪も殆ど溶けちゃった。
そのせいで、足元はグチャグチャ。
歩き難いったらないわ~
そんな感じで、かなりヘトヘト、出掛ける前に比べたら格好もヨレヨレになった私(シデンはピンピンして艶々してる)が林の中から姿を現したら、待機していた陸上自衛隊の隊長さんと隊員の皆さん、一斉に「きおつけ! 」の「せいれつっ! 」の「けいれいっ! 」だよ。
これは、かなりビビった。
実は、相良が死んだ時点で結界が解けてたんで、それからは衛星やドローンで私とシデンの位置は常時掴めていて、開き掛けていた異世界の門が今は閉じられたってことも周知だったらしい。
そんでもって、隊員たちが揃って私たちの凱旋待ち? をしててくれたみたい。
そんなこと聞いたら、やっぱ嬉しいよね。
働いた後に労ってくれる人たちがいるのは良いもんだね。
その後、本部っぽいテントに案内されて朝ご飯をいただいた。
やっぱ、こういうのが一番のご褒美かな。
リュックの食料食い尽くして、お腹減りまくりだったし。
んで、朝ご飯いただきながら一連の出来事を口頭で報告したんだけど、それを聞いた自衛隊の皆さんが感謝しまくりだったんで驚いた。
こっちは、開き掛けた門を閉じたんであって、門が開くのを阻止はできなかったわけ。
シデンの話じゃ、既に “世界融合” ってのが始まっちゃってたっていうし、作戦大成功とはいかなかったなぁって、少し気落ちしてたんだよ。
甘く採点しても、ギリで中成功くらいかなと思ってた。
それなのに、
「我々の想定よりも遥かに良い結果です。」
なんて言って、隊長さんや同席してた何人かの隊員さんに握手を求められた。
シデンは? って見たら、そっちは隊員さんたち拝んじゃってるし。
「そもそも、我々はオーガの軍隊との交戦を覚悟していたんですからね。そうなっていたら、自衛隊や警察はもちろん、日本国中が戦場になっていたでしょう。」
そんなことまで想定していたのか。
それなら、喜ぶし、感謝されるわけだ。
オーガの軍隊なんて攻めてきたら、戦死者続出、被害甚大になるの間違いないもんね。
でもさ、落ち着いてご飯食べられないから、感謝もほどほどが良いな。
そいえば、今どきの自衛隊の戦闘糧食だっけ?
缶詰じゃなくレトルトなんだね。
マンガやアニメなんかでお馴染みの缶詰のヤツ食べてみたかったけど、それは何年も前に廃止されましたって言われちゃった。
マジか? 残念!
さて、報告も終わったし、借りてた装備は返却したし、使った装備については書類書いて提出したし、ついでに私の食事量に自衛隊の皆さんがドン引きしてるみたいだし、そろそろ下山して帰宅したいんですが?
「それがですね。」
なんか、隊長さんが申し訳なさそうな顔してる。
「暫くは、神月さんとマカミ様は、我々と一緒にこちらに留まっていただかなければならないことになってまして・・・ 」
なにそれ? どゆこと?
「我々も同様なのですが、異界との接触があった者は、1週間の隔離と経過観察が行われることになったんです。万が一、異界から侵入したウィルスや細菌に感染している可能性も考えられるため、大事をとって検疫の対象になってるんです。」
「えーっ! そうなんですか~っ?! 」
勘弁してくれよって感じ。
細菌やウィルスなんて、たぶんワームホールがある時点で、何百年、何千年も昔から、あっちからもこっちからも出入り自由になってると思うんですけど。
検疫なんて今更って感じなんですけど。
「今朝方、世界融合の件は政府から発表がありましたが、ワームホールの件は未発表というか機密事項のままです。混乱状態にある国民に更なる不安を与えないようにってことなんですよね。」
なんと! 日本政府が異世界に関する内容を発表したらしい。
世界融合がどんなになってるのか、山から下りてきたばかりの私には分かんないけど、遂に国民に隠し通せる状況じゃなくなってしまったってことなんだろう。
こりゃ、かなり下界はヤバいことになってるかもしれないぞ。
「首相官邸からの発表は今朝の6時です。世界各国がほぼ似たような時刻に同じ発表をしているようですね。ですから、今は世界中が大混乱、パニックですよ。」
そりゃまあ、そうなんでしょうね。
昨日まで平和で常識的に暮らしてたのに、これからはモンスターが出現しますので気を付けて下さいって非常識な暮らしに切り替わっちゃうんだもんね。
でも、そんな状況なら尚更早めに山を下りて家に帰って街の様子を知りたい。
友人や知人が無事なのかどうか急いで確かめたい。
「その気持ちは分かりますが、今、山を下りても都心への移動手段がありませんよ。首都圏はJR、都営線、私鉄各線、全てが運休してますし、バスも同様です。中央道を始めとして都心に向かう交通は全て遮断されてますから車でも動きようが無いんです。」
なんてこった!
そんなのって戦後日本が始まって以来のことじゃないだろうか?
「“国家非常事態宣言” 下で、我々自衛隊にも“防衛出動” の命が下っていますが、いずれも初ですよ。」
ですよね~
今まで、そんなの聞いたこと無いですもん。
ちなみに、あれだよね、“国家非常事態宣言” って、1昨年に法整備された時に野党が戒厳令を施行するための法制だって猛反発してたやつだよね。
ナルホド、実はこういう事態を見越して整備してたってヤツだね。
異世界に関すること、日本国政府はかなり前から知って準備していて、国民に内緒にしていながらも、警察や自衛隊なんかが密かに動いて備えていたんだろう。
必要な法整備も既に終わっていたということだ。
「野党の一部が緊急国会召集しろって騒いでますけど、今、それどころじゃないってのは国民も知ってるでしょうし、政府は当分無視するでしょう。」
隊長さんからのお話で、一先ず状況は理解した。
今のところ、私は動けない、動きようが無いらしいので、この武蔵御嶽山の天辺で、陸上自衛隊の皆さんと暫く過ごさなきゃならない。
それは分かった。
それは納得し、了解した。
でも、
「テレビとか無いんですか? ラジオやネットでも良いんですが? あ、それとスマホが使い過ぎで電池切れてるんで充電させて下さい。」
「テレビなら、我々が借りてる宿泊施設で観れますよ。案内しましょう。」
武蔵御嶽山の参道周辺には沢山の売店や宿屋が並んでいるが、その中の幾つかを自衛隊が借り受けているらしい。
「徹夜で疲れてるでしょうから、少しお休みになったほうが良いですよ。風呂も使えるようにしてますからどうぞ。それと、充電も含めて施設は好きに使って下さい。」
確かに、朝ご飯を食べ終わってから、眠気がやってきていた。
こりゃ、眠れる時に眠っておいた方が良さそうだ。
風呂に入れるのも有難い。
隊長さんの勧めに従うことにしよう。
ってことで、私は案内に立ってくれた女性自衛官の方と一緒に一軒の宿屋に入った。
もちろん、シデンも一緒であることは言うまでもない。
「お風呂は沸いてますから直ぐに入れますし、お布団はお部屋の押し入れにあるのを自由に使っていただいて構いません。どうぞ、ごゆっくりお休み下さい。」
宿の施設設備の説明を一通りしてくれた女性自衛官だが、年齢は20歳前後、一見しただけなら小柄なカワイイ系女子といったところ。
2等陸士と言っていたので自衛官になりたてだと思うが、十分な訓練を積んだうえでの任官なので、その肉体は実践的に鍛えられているに違いない。
自動小銃を担いだ姿は、実に自然である。
それでも、
「神月さんとは歳も近いし、そのうち非番の時にでもおしゃべりしましょうね。」
と、ニッコリ笑顔は歳相応の女子のモノ。
私は手を振りながら、そそくさと部隊に戻って行く女性自衛官を見送った。
これからの1週間、私は彼らと一緒に過ごすことになるわけなので、この先親睦を図る機会は十分にある。
せっかくだから、戦う女子の気概とかを学んでおくことにしようか。
「とりあえず、私は先にお風呂入るね。」
宿に入るなり玄関ホールに置かれた4人掛けの大きなソファを見付けたシデンは、そこを占領してゴロ寝してる。
『ああ、オレは寝てるから、用があったら起こせ。』
別に用なんか無いから起こさんし。
腹出してだらしなく寝そべるシデンは放っておくことにする
(こいつが吹っ飛ばした山の話、隊長さんにしなかったけど、衛星やドローン使ってたら知ってるよなぁ。絶対に後で自治体とか自然保護団体とかに文句言われそう。)
それにしても、自分がどんだけ弱ったかを確認するとかで、シデンが試し撃ちした雷撃。
杉の木を狙うとか言った癖に、杉の木じゃなくて山の天辺を吹き飛ばしやがった。
土砂とか凄い沢山飛び散ってたけど、大丈夫なんかな?
ところで、その吹き飛ばした山なんだけど、後で地図アプリで確認したら、ちゃんと名前の付いた立派な山だったよ。
それが頂上付近の高さを数10メートルも吹っ飛ばされて、明らかに標高が変わっちゃったんだわ。
いやはや参ったねぇ~
しかも、狙われてた杉の木は無傷で立ってたってところがミソ。
『いやぁ、やっぱなぁ~、かなりのパワーダウンだわ。』
これが、奥多摩の地形を一撃で変えやがったヤツが、溜息吐きながら呟いた感想。
「パワーダウンとか、そういう問題かっ? 」
思わずツッ込んじゃったよ。
シデンの魔力は確かに弱ったのかも知れないけどさ、日本列島は沈められないのかもしれないけどさ、山吹っ飛ばすだけのパワー残ってんじゃん!
しかも、制御力が弱ってるせいでノーコンなんて、冗談じゃない!
危な過ぎだって!
それなのに、このワンコは、
『次は、あそこの窪地に熱線をぶちこんで・・・ 』
まだ試すんかい!
あそこの窪地とか言って、また外れたらどうすんだ!
「ダメ! ダメ! 絶対にダメ! 」
やるんなら、津波の心配無いくらい沖の海とか、広大な砂漠の地平線の向こうとかでやんなさい!




