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何はともあれ、おつかれさまだね!

いつもより遅くなり

失礼しました!

 その映像に映る風景には、こちら側の世界と同じく、海、山、川、湖があり、広大な平原、鬱蒼と木々が生い茂るジャングル、荒涼とした砂漠もある。


 人工的に改造、改良を施された地形や農地も数多くあり、そこに異世界の住人たちが暮らす村や町、大都市も数多く存在した。


 都市の中には歴史を感じさせる建造物から、高度な科学力、技術力の存在を匂わせる現代建築、行政や娯楽を目的とした多様な施設なども共存していた。


 そこが異世界であっても、私たちの地球上と何ら変わりなく歴史を積み重ねて発展し、固有の文化が営まれる世界があった。


 但し、その世界は私たちの世界と等しいモノではない。

 同種、同系統などとは決して呼べるものではなく、決して相容れることの無い、私たちの理解の外にある文化を持っていた。


 例えば、異世界に於ける人工的な創造物の多くが、地球上には存在しない特殊な意匠が施されている。

 屋根の形、石の積み方、窓の配置の仕方など、こちらの世界では有り得ない様式を備えていたが、そこから垣間見えるのは異世界に於ける文化の根底にあるモノ。


 狂気! 暴力! 闘争! 殺戮! 征服! 支配! 略奪! 破壊!


 常に死と隣り合わせにいることへの喜び、強者への礼賛、弱者を虐げる快感、飽くなき権力への欲求。

 そうしたモノが幾重にも積み重なってできた悍ましい血みどろの文化であることが視覚的に伝わってくる。


 私たちの世界の価値観に基づいて見るならば、そこには心から美しいと思えるモノなど一つも無く、嫌悪と畏怖をもよおす悪魔の文化と断じるしかなかった。


 それでは、自然や生き物たちはどうなのか?


 私たちの暮らしが成り立つ環境なのか?


 これも、こちら側の世界とは違い過ぎている。

 異世界で育まれた文化と同様、その下地となる環境も殺伐としたモノだったのである。


 肉食、草食、雑食を問わず、あらゆる動物が好戦的であり、狩りのため、そして身を守るために特殊な武装を施し、それを進化させていた。

 中には魔力と呼ぶべきなのだろうか? 異能力? 超能力を備えたモノも多くいる。

 私たちの世界では、そんな生き物をモンスターと呼ぶだろう。


 植物もまた同様である。

 食物連鎖では下位に位置している彼らの一部には、異世界に暮らす様々な住人や生き物たちの脅威に晒されているうちに、自己防衛機能を極端に進化させ、捕食や採取される側から、積極的に生物を捕食、攻撃する側へと回ったモノがいた。

 鋭い棘や硬い表皮で身を守るモノ、鞭のように弦を飛ばして外敵を攻撃するモノ、猛毒を放ち生き物の命を奪うモノ、さらには獲物を求めて移動する能力を備えたモノもいた。

 それができなかった植物も、繁殖力や耐久性を高めたりと、弱肉強食の世界ならではの進化を遂げているモノが数多くいた。


 こうした異世界の有様が映像としてピラミッドの外壁に次々に浮かんでいたが、


 (こんなの、とても人間が住める世界じゃ無い! )


 私に限らず、誰もが同じ感想を口にするだろう。

 なんで、こんな映像が見えてるのか分からないけど、観ているだけで背筋がゾッとして鳥肌が立ってくる。

 こんな世界とは絶対に融合なんてしたくない。


 (大丈夫なの? シデン・・・? )


 完全にお任せ状態にしちゃって本当に申し訳ないんだけど、もうシデンに縋るしかない。

 今回ばかりは、神さまとして手を合わせて拝んじゃう。


 (シデンさま、えっと、ナントカのマカミさま? そだ、オークチのマカミさまだ! 何卒、この世界が異世界なんかと一緒になったりしないよう、がんばって下さい! これが終わったら和牛ステーキ食べ放題にしますから、よろしくお願いします。)


 目を閉じて、これを3回くらい繰り返した。

 んで、4回目に入り掛けたとこで、


 『終わったぞ。』


 いつの間にか、シデンがピラミッドから降りてきて目の前にいた。

 ビックリしちゃった!


 「おっ、おつかれさまです。」


 何て言ったら良いか分かんなくて、思わず言っちゃったけど、本当はもっと激励の言葉を用意してたはずなのに・・・


 (なんか、調子狂っちゃった。)


 一応、シデンは一仕事終えた感は出してるんだけど、飄々としていて壮大なスケールの大仕事を終えた感はぜんぜん無い。


 『いやぁ、疲れたわ~ 』


 とか言って、軽く残業終えた後のオッサンみたい。

 大きな欠伸しながら思い切り伸びをして、それから身体中に纏わりついた雪をブルブルして払い落している。


 (ふーむ? )


 一見したところ、シデンの見た目に変化は無いんだけど、


 「体調とか大丈夫なの? 」


 『別に、体調とかそんなのは全く異常無し。』


 確かに、見た感じで心配したくなるような様子は見えない。


 「魔力、けっこう使った? 」


 『ああ、その点だけはヤバいな~、もうスッカラカンだわ~ 』


 そうらしい。

 そこら辺は体調とは無関係っぽいから、心配するのは止めて、肝心なトコの確認だけしよう。


 「やっぱ、弱くなったの? 」


 『そりゃ、まあな。』


 「それでさ、異世界の門は・・・ 」


 『完全に閉じた。もう当分は開かないだろうな。』


 それは良かった。

 本当に良かった。

 私も手を合わせて拝んだ甲斐があった。


 「当分って、どのくらい? 」


 そこはかなり重要なので聞いとかなきゃなんない。


 『オレが魔力結石作れるようになるまでって感じ。アレが無きゃ開きようが無いからな。』


 ってことは、向こう300年は大丈夫らしい。


 『300年じゃ足りないなぁ。まずは、オレ自身が満タンにならなきゃなんないんだから、それに最低50年は掛かるから、そこから300年だわ。』


 シデンの魔力って満タンになるのに50年掛かるんだ~

 んじゃ、当分はヨワヨワなわけなんだ。


 それにしても、350年かぁ~ 私はもう生きていないから関係無いけど、子孫のためにも、こんなトンデモな危機は2度と起きて欲しく無い。


 「魔力結石が仕上がっても、シデンが最強になれば大丈夫なんだよね? 」


 『まあ、オレが持ってる分にはな。但し、今回みたいに誰かに渡しちゃってると、何が起こるか分かんないぞ。』


 んじゃ、絶対に渡さないどいて欲しいんだけど。

 魔力結石なんて渡されたら、無駄に超人が誕生しちゃうんだから、気を付けてくれなきゃ困るよね。


 あ! そう言えば、話変わっちゃうけど、さっきのアレの報告しとかなくちゃ!


 「あのさ、さっきまでシデンがピラミッドの天辺にいた時、下の段のところに異世界の風景みたいなのがいっぱい見えてたんだよ。何だったのかなアレ? 」


 正味3分くらいだったと思うが、異世界の各所? で起きた色んな出来事を映し出した映像がピラミッドの壁面上で、ホログラム映像のようにして幾つも浮かび上がっていた。

 それらが、シデンが下りてきたのと、殆ど同時に全て消えてしまっている。

 ピラミッドは今も普通に残っているが、さっきまで映像が浮かび上がっていた形跡は何処にも残っていなかった。


 『その映像、オレは見てないから何とも言えんけど、門の扉の向こうじゃ、洒落にならん数のバケモノどもが、こっちの世界との融合を手ぐすね引いて待ってたんだぜ。そういうヤツらの思念が、このピラミッドを媒介にして流れてきたんじゃないか? そもそも、このピラミッドは儀式の祭壇として作られちゃいるが、異世界の門の扉を開く鍵穴として機能させるためのモノだったわけだし、鍵穴を通して向こうが見えたってことなんじゃねぇの? 』


 「へぇ~ なるほどねー 」


 そりゃ、単純で分かりやすい。

 そういうことってあるんだね。


 『なんにせよ。世界が完全融合しちまったら一番厄介なことになる “鬼どもの帝国” な、アレは100パー食い止めたから安心しろ。もう、鬼とかオーガなんてヤツらがこっちの世界に現れることは無いぞ。小鬼どもも、二度と現れんだろうな。』


 オーガに小鬼、そこのところをシデンが強調して言ってくれたのは、私に対する気遣いみたい。

 一連の騒動の中で、私を何度も酷い目に遭わせた元凶が完全に排除されたのなら、そりゃ安心なんてもんじゃない。

 幾つかの出来事はトラウマになっちゃいそうだけど、その元凶が残っているかいないかは大違い。

 もう嬉しくって、シデンを思い切りハグして、モフモフして、最後に手を叩いて飛び上がって歓声をあげたいくらい。


 『ってことでさ、礼はいらんから、ちょっと試したいことがあるんで手伝って欲しいんだが、良いか? 』


 なんか、シデンが真剣な顔しちゃってる。

 私が聞きたいことは、もう聞いちゃったんで、シデンが何かしたいことあるなら、私や世界を救ってくれたお礼に手伝いくらいするのは吝かじゃないんだけど?


 『おお、そりゃスマンな。ちょっと頼むわ。』


 「何を? 」


 『まあ見ててや。んで、結果の感想を聞きたいんだわ。』


 「何を見るのさ? 感想ってどんな? 」


 私が質問してるのに、シデンは答えてくれない。

 答えないで、何か始めようとしている。


 『この真っ直ぐに見える隣の山の頂上近くにな、大きめの杉の木があんだろ? 』


 シデンが指し示す先には、確かに周囲に生えている木々より飛びぬけて大きな杉の木が見える。

 距離にして、ざっと1.5キロくらいだろうか?

 吹雪が邪魔だが、私のウルトラ視力なら十分視認できている。


 「うん、あるねぇ。」


 『そこ注目な。』


 「へ? 」


 と、首を傾げながらシデンを見ていたら、いったい何をしようとしているのか段々分かってきた。

 分かってきたら、このクソ寒いにも拘わらず冷や汗が出てきちゃった。


 『さぁて、いっくぞ~っ! 』


 「おい! ちょっと待て! 馬鹿っ! やめろーっ! 」


 突如、闇を切り裂く閃光が十数本の槍となって、隣のお山の頂上付近に立て続けに突き刺さった。

 それから、一呼吸遅れて、耳を劈く爆発音が奥多摩の山地一帯に響き渡る。


 「もうっ! いい加減にしろーっ! この馬鹿ワンコ! 」

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