私VS蛇 これも最後の決戦だよ!
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鎌首を持ち上げたような姿勢で上体を反り、下半身と尻尾だけで私を目掛けて真っ直ぐに突進してくる蛇モンスター。
いったい、どういう身体の構造をしているモノやら、進行方向にある木々を苦も無く圧し折り、薙ぎ倒しながらの実に器用な、そしてパワフルな直線移動である。
(限りある森林資源を無駄に消費しやがって! とんでもないヤツ! )
ついつい、そんな明後日の方向に憤りを感じてしまう。
命懸けの戦いの最中なのに不思議。
私ってけっこう余裕あるのかな?
ジャッ! シュッ!
威嚇音を吐き出す蛇モンスターをギリギリまで引き付けてから、私は予め定めていた1本の木の枝目掛けて助走無しで跳躍した。
その枝の高さは6メートルほどで、蛇モンスターの進路から若干左寄り、私の体重を十分に支えられそうな太さがある。
ガシッ!
両脚で飛び乗った枝が僅かにしなっり、木の幹もザワザワと揺れたが折れる心配は無い。
トレッキングブーツの溝が枝の樹皮にガッチリと食い込み、左手で幹を抱え込んで位置を固定した。
眼下には、突進をかわされ慌ててブレーキを掛けている蛇モンスターが見えた。
勢いを止めきれずに、反り返っていた上体が前方につんのめり、頭の上に自分の尻尾が落ちてくるという無様な格好でもがいている。
そして、その位置は今まで私が立っていた場所。
このタイミングで、私の奥の手が威力を発揮した。
「目を瞑って! 耳を塞いで! 口開くっ! オッケー! 」
自衛隊の隊長さんに教えられた注意事項を音読で確認した次の瞬間!
グワッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンンッ!
耳を塞いでいるのにも拘わらず、伝わってくる大音量。
閉じた瞼を透かして見えるほどの凄まじい光量。
胸と腹を絞めつける強烈な圧迫感。
ここら辺一帯の木々を一斉に震わした大震動。
先ほどまで私が立っていた場所、今は姿勢を崩した蛇モンスターがいる場所に放り投げておいた “閃光発煙筒” が炸裂したのである。
ブワァーーーーーーーーーーーン
何とも言えない余韻を残し、閃光発煙筒の威力は数秒で収束したが、その炸裂した瞬間から蛇モンスターは戦闘不能に陥っていた。
戦っているうちに気付いたのだが、この蛇モンスター、こっちの蛇なら備えているはずの温度で周囲を感知するピット器官のようなモノは持っていない。
視覚と聴覚で以って、私の動きを追い掛けていた。
それならば効果は絶大だろうと思って使ってみたのが、自衛隊から預かっていた閃光発煙筒である。
結果はいかがなものかと、目を開けて直ぐに樹上から蛇モンスターを見下ろしてみたら、その巨体がビクビクと痙攣していた。
(めっちゃ効いてるし! )
今なら有効打を決められそう。
(んじゃ、止めだっ! )
樹上からヒラリと飛んだ私が着地したのは、蛇モンスターのがら空きになった背中。
蛇モンスターは半分意識を失い痙攣しながらも、背中に私が飛び乗ったことには直ぐに気付いたようで、振り落とそうとして身を捻った。
しかし、その動きは今までとは段違いに鈍い。
私は左腕を蛇モンスターの頭部の付け根、顎の下に当たる部位にガッチリと回して、身体を密着させた。
そして、開いている右手で銃剣を握り直す。
「そろそろ時間も無いから、お終いにするよっ! 」
蛇モンスターは4本の腕を背中に回して私を捕まえようとジタバタしているが、そこまで関節が柔らかくなさそう。
爪の先で私のポンチョを引っ搔くぐらいが精一杯である。
「んじゃ、バイバイ! 」
そう吐き捨てた私は、蛇モンスターの喉元に銃剣を突き刺した。
ブヂッ!
分厚い蛇皮を貫く際に多少の抵抗感を感じたが、その後は大した力を入れずとも銃剣の刃先は蛇モンスターの筋肉を切り裂いて、柄本まで深々と突き刺さった。
ブシャ―――ッ!
聴こえてきたのは威嚇音ではなく悲鳴?
声帯を持たない蛇が上げた断末魔か?
だが、そう簡単に死んでくれないのが下等動物のしつっこさである。
喉元に銃剣を突き立てているのに、私を振り落とそうとして身体を左右に捻り続けている。
「いい加減にしろっ! 」
私は銃剣を一旦引き抜いてから、再び喉元に突き刺した。
そのまま、力一杯に握り締めて真横一文字に引き切る。
ブッブブブーーーーヂッ!
蛇皮が引き裂かれ、鮮血がほとばしった。
もはや悲鳴も断末魔も聴こえない。
思い切り深々と首を掻き切ってやったのだから、これで完全な致命傷になったはず。
ところが、
「わっ! 」
背中を棍棒で殴られたかのような衝撃。
蛇モンスターの上半身にばかり気を取られていて、尻尾の攻撃に備えるのを忘れていた。
私は溜まらず蛇モンスターの背から転げ落ちてしまった。
(なんなのよ! このしつこさは! )
ゲホゲホと咳き込みながら膝立ちになった私だったが、
(しまった! 銃剣落とした! )
転げ落ちる寸前までは握っていたはずだが、地面に転がった時にうっかり手放してしまったらしい。
慌てて辺りを目で探したが、何処にも見当たらない。
(ヤバイ! )
蛇モンスターは既に死にかけているのだが、そこは下等動物らしいというか何というか、なかなか動きを止めてくれない。
半分千切れた頭部を斜めに倒しながらも、その目は私を見据えていて、4本の腕で地面を掴みながらジワジワと迫って来る。
(どうする? 戦うったって、もう武器無いよ! )
慌てて身体中を探る。
閃光発煙筒はもう1個あるが、こんな近距離にいる相手に爆発物なんて使うわけにいかない。
他には・・・
(あ! )
懐の中の、その硬い手触りに気付いた。
ついつい、素人には荷が重くて、ついつい記憶の外に置いといたアレの手触りである。
(もう! これ使うしかないじゃん! )
文字通り、最後の切り札になってしまったソレを取り出すのと、蛇モンスターの上体が私に圧し掛かってくるのは同時だった。
フシャーーーッ!
迫力は無いが殺気の籠った威嚇音を吐きながら、地面に膝を突いたままの私を圧し潰し、爪で引き裂くべく、蛇モンスターが襲い掛かってきた。
「こんにゃろーっ! 」
もうヤケクソになって私が構えたのは、自衛隊の隊長さんに護身用に良いと勧められ渡されてた “9ミリ拳銃” である。
大急ぎでホルスターから抜き取って、ジタバタと安全装置を外し、そして夢中で引き金を引いた。
パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン! カッシュン!
良く分からないけど、全弾撃ち尽くしたっぽい。
(へ、蛇は? )
ついついビビってしまい、引き金を引く時に目を瞑っていたので、間近に迫っていた蛇モンスターを見損ねてしまっていた。
これで、未だ蛇モンスターが生きていたなら万事休すである。
もう打つ手は何もない。
『よっ! おつかれさん! 』
切羽詰まった状況にいた私に向かって、とんでもなく場違いで呑気な声掛けしてくるヤツがいた。
そういうことする奴は他にいない。
「シデンっ! 」
思わず怒鳴ってしまった。
唐突にやってきて、目の前に飄々と突っ立っているシデンの姿は、救いの神っぽくて、実のところ私はホッとしていた。
でも、
「あんたねぇ~、自分が相良を相手にしたら、他に邪魔になるヤツはいないとか適当なこと言って! 何なのよ、あの蛇はっ! デカいのよ! 手が生えてんのよ! 毒持ってそうなのよ! そんなのと戦ったのよ! 冗談じゃないわよっ! 」
マシンガンのように連続して口から飛び出す文句。
これだけ言っても、まだまだ足りない。
『だって、キッチリ倒せてんじゃん。けっこう良い経験になったんじゃねーの? 』
シデンは私の文句なんて右から左。
謝りもせず、その鼻先で偉そうに地面を差した。
『ホレ。』
シデンが差す方向に目をやると、
「あ・・・蛇、死んでる。」
ほぼゼロ距離で9ミリ拳銃の連射を受け、頭部が粉砕され、完全に息の根が止まった蛇モンスターの死骸が横たわっていた。




