ピラミッドに蛇のモンスターって?
その祭壇は高さ5メートルほど。
棒状の自然石を縦横に組み合わせて作った階段式のピラミッドだった。
それが、相良の放った火炎攻撃により発生した山火事を受けて、闇を背景に赤く浮かび上がっている。
(これって、なんか見たことあるぞ。)
テレビの世界紀行番組なんかで見た、南太平洋にあるポンペイ島の遺跡に似ていた。
縦横交互に重ねた石の積み方なんかが、特にそっくりである。
(ポンペイ島の遺跡は、イースター島のモアイなんかと一緒でムー大陸の関係だとか、浦島伝説とか、源為朝伝説なんかも絡んだ謎の遺跡とか言われてたっけ。)
そういう話題は大好きなので、ネットなんかでも詳しく調べてみたことがある。
ちなみに、ポンペイ島の遺跡は海の中に浮かぶ人工島だったけど、こっちは山腹にできた狭い平坦地に1辺が3から4メートルほどの歪んだ四角形の土台を構え、段数は3のピラミッド型である。
(で、これのどこを壊すって? )
石造りのピラミッドを丸ごと破壊するのは、私の力だけじゃ流石に無理だと思う。
でも、シデンが壊せと言ったからには、私に壊せるはずだとの確信があってのことなんだろう。
だから、頑丈そうな石積みにばかり気を取られてないで、細かなとこまで良く観察しなければならない。
幸い山火事のせいで周囲は十分に明るくて、ピラミッド全体のディテールが良く見えている。
(壊せって、あれのこと? )
ピラミッドの最上段に細い木を組み合わせて作ったトーテムが見える。
そのトーテムは、明らかに祭事で用いられる用に作られたっぽい、意味有り気で複雑なデザインをしている。
(あれなら、速攻で壊せんでしょ! )
トーテムの木組は脆そうなので、一蹴りしたら簡単に破壊できそうである。
ここは慎重に考えてるよりは行動したほうが早いと判断した私は、ジャンプして高さ1.5メートルほどの1段目に足を掛けた。
『サヤチ! ダメっ! 』
不意に頭の中でナツキが叫んだ。
その声のおかげで、私は自らに迫る新たな脅威の存在を察知した。
ジャジャジャッ!
算盤の玉を連続して弾くような音が聴こえ、そいつがピラミッドの陰から姿を現した。
そして、私を目視するやいなや、明らかな敵意を剥きだしにして襲い掛かってきたのである。
「とっ! 」
そいつの鋭い爪が私を引き裂こうとする寸前、私はピラミッド1段目への着地を諦め、一旦足を着いた石積みを思い切り蹴って、後方宙返り飛びで逃れた。
「んしょ! 」
短い滞空時間を経て、元いた位置へと着地。
すかさず戦闘態勢を整えつつ、新たな敵の正体を確かめる。
「うぇっ! キモッ! 」
そいつはピラミッドの上段に陣取って、悠々と私を見下ろしている。
その姿、一言で言い表すならば<蛇> 。
見えてる部分だけで推測するならば、体長7から8メートルの大蛇である。
それだけならば、蛇型モンスターってだけならば、基本的に爬虫類や両生類なんてへっちゃら女子の私がキモイなんて口にしない。
そいつの姿が生理的に受け入れ難いのは、本来なら蛇にあるはずのない余計なパーツが幾つもくっついているからなのである。
まずは頭髪の無い、卵型をした頭部!
これの造形が中途半端に人間的なのが気色悪い。
卵型をした輪郭に収まった目と鼻と口のレイアウトは人間とほぼ同じ。
しかし、その目は蛇眼であり、瞳は縦型。
鼻は真っ平らな顔の中央に丸い穴が二つ空いただけ。
口の中には内側に向かってカーブした長く鋭い(おそらく)毒牙が2本見えていた。
まるで、蛇と人間の特徴を掛け合わせたかのような顔をしている。
そして、これらのパーツを含む顔全体が鱗に覆われており、こんなモノが蛇の胴体の先にくっ付いているのだから、アンバランスなんてもんじゃない、グロ過ぎる。
これに加えて、最も不気味に見えるのは腕の存在である。
しかも、4本。
頭の下、1メートルほどの胴体基部から左右に2本づつ生え出した青白くて細い腕は、爬虫類では有り得ない人間のような5本指が備わってた。
そして指の先端には、先ほど私を捉えようとした鋭い爪が備わっている。
(これは、ちょっと洒落になんないキモさだわ。)
シデンは、相良さえ押さえとけば他に邪魔は入らないだろうっていってたけど、
(んなわけないと思ってたんだ。絶対に何かいると思ってたし。シデンの馬鹿! )
この蛇モンスターが、どれほどの戦闘力を持っているかは知らないが、小鬼や鹿角よりも上なのは間違いなさそう。
一匹で祭壇を守らせているのなら、それどころの強さじゃないのかも知れない。
こういうヤツを祭壇の見張りに残してるから、相良は私とシデンの接近に気付いて出張って来れたわけだ。
(こいつは、私がやるしかないんだよね。)
シデンが相良と一騎打ちの真っ最中なら、私が相手をするしかない。
私は大きな溜息を一つ吐いてから、これまでは戦闘中でも下ろさずにいたバックパックを肩から外し、傍の地面に置いた。
蛇は意外に素早い生き物なんで、少しでも身軽にしておいた方が良い。
(何に注意したら良い? 長い尻尾? 毒牙? それともあの気味の悪い腕? )
その全てが脅威になると思われる。
顔と腕のある上半身? に気を取られていたら、長い尻尾に襲われそう。
尻尾に気を取られたら、鋭い爪と毒牙を防げない。
(かなり、厄介そうなバケモノなんですけど。)
手持ちの武器はマチェットと銃剣と、
(こういう時、飛び道具が使えたら戦いようがあるんだろうけど。)
懐に拳銃はあるが、これを実戦で使えるような腕は私に無い。
蛇なんか相手にして戦ってる最中に撃ったって当たるわけない。
的が止まってようが動いていようが、どっちにしろ当たらないだろう。
(結局、肉弾戦ってことなのよね。)
もう覚悟するしかなさそうだった。
いずれにしろ、ピラミッド最上段のトーテムを破壊しなければならない。
そうしなければ、この世界は異世界の侵略に晒されてしまう。
そのためには、私がこの蛇モンスターを退治するしかないのだ。
(いくら動きが早いったって、こっちは思考力が10数倍に跳ね上がってんのよ。)
問題はリミッター解除時間が短いということだが、
(一応、備えはしてあんのよ。)
お尻のポケットに2本突っ込んでおいた高カロリーエナジードリンクを取り出した。
そして2本同時にキャップを開けて一気飲み。
「うぇっぷーっ、げふっ! 」
もう、女子高生というか女子を捨ててしまったっぽい私。(汗)
これで、30秒くらいは時間延長できるんじゃないだろうか?
たった30秒、されど30秒である。
それだけあれば、柔道やボクシングの試合で大逆転が起きたりするわけで、貴重な延長時間である。
さて、こっちの準備はOK!
「グズグズしてないで掛かってきなっ! 」
空になったエナジードリンクの瓶を、蛇モンスターの不気味な顔を目掛けて投げつけた。
一本目はヒョイと余裕でかわした蛇モンスターだったが、私が続けてもう一本投げたのは見逃していたようで思い切り顔面に直撃した。
ジッ! ジャァーッ!
ガラスの小瓶がぶつかったぐらいでは大したダメージになるわけないが、モンスターでも馬鹿にされたら腹が立つらしい。
怒りの籠った唸り声をあげると、上体を鎌首のように持ち上げたまま下半身をくねらせてピラミッドの上から滑り降りてきた。
ジャジャジャジャジャジャーッ!
算盤の玉を連続して弾くのに似た不快な威嚇音を上げながら接近してきた蛇モンスターは、マチェットと銃剣の二刀流で身構える私の目の前まで来てから、その上体をスーッと持ち上げた
(意外にデカい! )
胴の太さは直径40~50センチくらいはありそうで、細く見えた4本の腕も近くで見ると人間の成人男性の腕よりも筋肉質で逞しい。
何よりも、身長165センチの私よりも頭2つくらいは高く持ち上がった上体の先にくっ付いている頭部だが、人間に似ているのは形だけ。
その大きさは大人用のバランスボールほどもある。
私を睨みつける眼球は握り拳よりも大きく、真横に裂けた口はスイカ2個ぐらいなら横に並べて丸呑みできそうだった。
ホンモノのモンスター!
私がこれまで相手にしてきた小鬼や、ついさっき戦ったばかりの鹿角もモンスターには違いない。
だが、あいつらは、人間相手なら兎も角、こっちの世界の猛獣を相手にしたら勝ち目は無い。
ライオンやトラやヒグマを相手にしたら絶対に負ける。
しかし、この蛇モンスターはレベルが違う。
正に人知を超えたバケモノである。
こっちの世界の最強の猛獣たちと戦っても、それらを餌食にするだけの実力がある。
(でもさ、私はあんたに、相良の時に感じたほどの圧倒的な強さってのを感じないんだよねぇ! )
蛇モンスターは間違いなく強い。
だが、戦えない相手じゃない。
蛇モンスターは威嚇音を上げながら私の出方を窺っているようだが、おそらくヤツも私が簡単に倒せるような相手だとは思っていないのだろう。
警戒しながら隙を狙っているのだ。
(そういうことしなきゃなんない相手なら、私は全然怖くないっ! )
待っていても埒が明かないと考えた私は蛇モンスターの左に回り込むようにして横っ飛び!
蛇のトグロが右巻きだったので、左に回り込むことで尻尾からの攻撃を遅らせることができると読んでのことだった。
ジャーッ!
蛇モンスターがひと際大きな威嚇音を上げ、その上体を捻って私を迎え撃とうとする。
「このっ! 」
私が繰り出したマチェットの刃と、蛇モンスターの爪が、
ガギン!
と、鈍く重たい音を立ててぶつかった。




