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大爆発だっ!?

 『動くなよ! 鬼は未だこっちの位置は掴んでない。漠然と気配を感じてるだけだ。』


 (でも、動いたら襲ってくる? )


 『ああ、襲ってくるっていうか撃ってくる。ヤツはもう格闘戦をオレに挑むつもりは無いだろ。絶対に敵わないって分かっただろうからな。一発逆転狙って飛び道具を撃ってくる。』


 (撃つ? って何を? )


 『オレとの第1ラウンドで必殺技の核爆発攻撃は使っちまったんで、そんなに大規模な攻撃は仕掛けられんだろうな。精々が火炎弾。それでも、一応はヤツの得意技だからお前なんか直撃されたら一瞬で蒸発だ。』


 (えーっ! 冗談でしょ! 弱ってんじゃなかったの? )


 マンガとかラノベなんかの魔法使いが使ってるファイヤーボールってヤツですか?

 弱ってても、そんなモノ撃つだけの力が残ってんの?


 (流石、オーガってことなのね。嫌だなぁ~ )


 シデンなら雷撃だとか対抗できる手段があるんでしょうが、こっちは肉弾戦特化型なんですけど。

 飛び道具なんて、しかも大砲の弾みたいなの撃たれたら戦いようが無いし。


 『さっきも言ったが、鬼の相手はオレがする。お前はオレが戦い始めたら、今向いてる方向に真っ直ぐ走れ。300メートルほど先に行ったら祭壇みたいなオブジェがあるはずだから、そいつをぶっ壊せ! それが門の鍵だからな! ついでに、そこには魔力結石があるはずなんで忘れずに取り返しとけよ! 』


 そのオブジェを壊せば、もう異世界の門は開かないってことで良いのだろうか?


 『そういうことなんだがな~ ちょっと嫌な予感がする。」


 (嫌な予感? )


 『鬼は門を開く儀式に忙しいはずだと思ったんだが、こっちに出張って来てるってのがなぁ。』


 もしかして、門を開く段取りが終わっちゃったってこと?

 まだ異変は始まってないみたいだから、もう手遅れってことは無さそうなんだけど。


 (でもさ、門が開いてようがいなかろうが、どっちにしろ、その祭壇のオブジェは壊さなきゃなんないんでしょ? )


 『ああ、そりゃまあそうなんだが。』


 (んじゃ、やるよ。)


 ここまできて、今更方針変更しようが無いからね。

 門を閉じなきゃならないんだし、他に方法は無いだろうし。

 考えてたって事態が好転するわけじゃないんだし。


 『だよな~ それしかねぇよな。』


 んじゃ、やりましょうってことで、


 (出掛ける前の注意事項とかはないの? )


 『幸いに兵隊の小鬼どもの気配は無い。もう品切れなんだろう。オレが鬼を押さえとけば、他に邪魔は入らんはずだ。楽勝さ! 』


 楽勝って、ホントかな?

 小鬼の気配は、確かに私にも感じられないけど、他に備えが無いなんて俄かに信じられないんですけど。

 まあ、行くしかないんだから行きますけど、ちょっと、いや、かなり心配。


 (ところで、どんなタイミングでスタートすれば良いのかな? 合図してくれる? )


 『霧が晴れて互いの姿が認識できるようになったら即スタートだ。掛け声掛けるから、一気に走り出せ。』


 (了解! シデンも頑張ってね! お願いだから絶対に負けないでよ! )


 負けてもらっちゃ困る。

 ここでシデンが負けたら、世界も私も終わっちゃう。

 

 『おいおい、オレを誰だと思ってんだ? 』


 うわーっ! そのセリフ聞き飽きたわ。

 どうせ、口の端を持ち上げて、人を小馬鹿にしたような顔で言ってんでしょ。

 せっかく、私が応援してあげてんのに、何処までも生意気なワンコめ。


 『犬じゃねーって言ってんだろっ! オレは神さまなの! 』


 緊迫感溢れる状況なのに、シデンの相変わらずのセリフを聞いていたら、何となく笑えてくる。

 リラックスとまではいかないけど、カチコチに強張ってた気持ちが少しほぐされて軽快になった気がする。


 (いつでもOKだよ! )


 私は、そう応えてから改めて右手の銃剣、左手のマチェットを固く握り込んだ。

 相良相手じゃ心細い武器だが、こんなモノでも握ってると多少は心強く感じるので何も無いよりは全然良い。

 そして、何より大事なのはリミッター解除のトリガーを引くこと。

 荒川河川敷の時には怒りの感情が沸点に達したと同時に解除されたし、東京湾岸の時は闘志が頂点に達した時に解除された。


 でも、今は、そんなんにならなくともトリガーが何処にあるか分かっている。


 私の感情の底、心の芯っぽいところにある、なんて言うか引っ掛かり? シコリ? みたいなモノを弄ってやればリミッターが解除されるんだってこと、いつの間にか自覚できていた。

 ゾワゾワして、ちょっと不思議な感覚を覚えるんだけど、自分でリミッターをコントロールできるようになったのは便利だし、かなりの進歩だと思ってる。


 さて、私が諸々の準備を整えている間にも霧は少しづつ薄れてきて、遠くにある木々の陰も再び濃く見えるようになってきた。


 (相良はどこ? どこにいる? )


 右か? 左か? 正面か?

 魔力結石を飲み込んで、あの馬鹿げた鬼の姿に変身した相良は、どこに姿を現すのか?

 いつでもOKと言ったって、やっぱ怖いモノは怖い。

 その姿を見る前に、今すぐにでも走り出したいところだが、そこをグッと堪える。

 すると、間もなくして、


 (いた! )


 正面右寄り、山腹に生い茂る木々の間に重なって、真っ黒く大きな岩のような影が見えた。

 彼我の距離は30メートルほどしかないので、その形と大きさがハッキリと掴める。

 頭があり、肩があり、脚と腰があるから、明らかにヒト型だが大きさが尋常ではない。


 (身長2メートル半くらいかな。)


 身長180センチ程度で痩せ型だった相良と比べたら、体格的にボリュームが5倍くらいありそう。

 もはや、似ても似つかない別人、いや別種の生き物である。


 『おい! 』


 (うん!)


 『イチ、ニイ、サンでスタート! 立ち止まるな! 振り返るな! 真っ直ぐ突っ走れ! って感じで行くぞ! 』


 シデンからの指示は単純明快。

 迷ったり、聞き返したりする余地は全然ナシ!


 『いくぞ! イチ、ニイ・・・ 』


 ここで溜が入った。

 タイミングを計ってるみたい。


 『・・・サンっ! 』


 ダッシュ!


 シデンの合図と共に地を蹴った瞬間、私は全身を突き抜ける凄まじいエネルギーの迸りを感じながら、それまで全能力を制していたリミッターを解除した。


 瞬時に高まった脚力で思い切りジャンプした私は、10メートル近い距離を一気に飛び越えて一歩目の着地をした。

 続けて二歩目を繰り出そうとした、その時である。


 キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


 鼓膜をジンジン刺激する凄まじい高音が辺りに鳴り響いた。


 (なんじゃこれ? )


 両手が塞がってるので耳は塞げない。

 首を竦めて我慢するしかない。

 辛いけど、走る速度は落とせない。

 だが、二歩目は一歩目の半分ほどで着地してしまった。

 突然の高音は、直ぐに鳴り止んだが、その直後の続いたのは、


 ドドンッ! ドッドゥーーーーーーーーンンンンン!


 奥多摩山中の全域に響き渡るほどの大爆発音であった。

 そして、三歩目を踏み出そうとした私を爆風が襲った。


 「きゃっ! 」


 風圧によって宙に持ち上げられた身体が2回転、3回転しながら、爆風によって舞い上がった木や土砂と一緒になって、10数メートルを飛ばされ、腐葉土と雑木の上に叩きつけられた。


(うっ! くぅーっ! )


 体勢を整える余裕無く、背中から地面に落ちたせいで、肺の中の空気が一気に吐き出されてしまい、一時の呼吸困難に陥ってしまった。

 ゲホゲホと咳き込みながら顔を上げた私は、上体を起こしながら爆発音の聴こえた背後を振り返った。

 シデンには、立ち止まるな! 振り返るな! 真っ直ぐ突っ走れ! って言われてるけど、これはもうどうしようもない。


 (何が爆発したのよ? )


 振り返った私の目に飛び込んできたのは、


 (何なのアレ? )


 つい数秒前まで私がいた場所が消失していた。

 消失したというのは適切な表現ではない。

 燃えていた、いや噴火していた。

 そこには、雲を突き抜けるほどの高さに向かって、ゴウゴウと音を立てながら垂直に立ち上る火炎の柱があった。

 その、炎の柱は、私が立っていた場所を中心にして半径10メートルほどの円形に抉られた地面から、 ジェット噴射のように真上の一方向に向かって伸びていた。


 (これって、相良の攻撃? )


 そうに決まっていたが、その攻撃力が凄まじい。

 ファイヤーボールなんて生易しいもんじゃない、突然火山の噴火口が出現したような感じ。

 マグマが流れ出てくるわけじゃないが、勢い良く噴出を続け、簡単には消えそうにない炎の柱が発する高熱により、周囲の木々が次々に燃え上がって、グズグズしてたら巻き込まれてしまいそうな勢いである。


 (あいつ、私を手籠めにしようとしてたくせに、今度は問答無用で殺そうとしてんの? )


 シデンと戦って負けたせいで気が変わったのかもしれないが、暴力至上的な異世界のバケモノたちの考えていることは、さっぱり分からん。


 (丸焼きにされてたまるかっ! )


 私は、肌を焦がすような熱気から逃れるように、再び立ち上がって走り出した。

 相良が私を狙って第二撃を放つのではないかと思えば足が竦みそうになる。

 だが、一刻でも早く与えられた役割を果たさなければならないとの使命感に駆られているので、殆ど無理矢理だが足は動いてくれた。


 シデンが無事なのかどうかは気になっている。

 相良と戦えるのはシデンだけなんだから、無事でいてもらわなければ絶対に困る。

 でも、炎の柱が立つ円形の内にはシデンもいたわけで、巻き込まれていたら無事では済まないだろう。

 シデンの敏捷さを以てすれば逃げ出せているとは思うが、


 『シデンさんは無事だから、安心して。』


 (なっ! ナツキ? )


 またもや聴こえたナツキの声がシデンの無事を教えてくれた。

 嬉しいけど、嬉しいんだけど、


 (無理しないでよっ! 会話するだけで辛いんでしょ! )

 

 『私は大丈夫だよ。シデンさんも大丈夫でしょ? 』


 『当り前だ! そう簡単に殺られるわけねぇーじゃん! 』


 「シデン! 」


 その元気そうな声が頭の中に響いた時、私は思わず声を上げてしまった。

 シデンさえ無事でいてくれるなら、一気に見通しが明るくなる。


 『オレは鬼をぶっ殺す! お前は祭壇ぶっ壊し作戦継続! それとな、病人は黙って寝てろっ! 』


 乱暴な口調で、乱暴な指示を出すシデンだが、ちゃんとナツキを労わってくれてたりするところが嬉しい。

 そんなシデンだから、私も素直に従う気になるわけだよ。


 (信じてんだからね! 頼むよシデン! )


 一声掛けてから、一段と速度を上げて猛ダッシュ。

 すると、前方に見えてきた。


 (あ! アレだな! )


 シデンが言っていた祭壇らしきモノ。

 それは、生い茂る奥多摩山中の原生林の中で不気味に聳え立つ階段状のピラミッドだった。

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