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これって、やっぱ因縁の対決?

 獣だって歩かないような道無き道を進む私とシデン。

 目指すは、奥多摩山中にあるという異世界の門を開く “鍵穴の地” とか呼ばれてるところ。


 其処では今、相良が魔力結石を使って、異世界の門を開く段取りを着々と進めているらしいが、そんな暴挙は絶対に許せない。

 私たちの世界が異世界の鬼だの小鬼だのに侵略されてしまっては、どれだけの規模の被害が出るのか? どれだけ多くの人々の命が失われるのか? 想像するだけで背筋が寒くなる。

 そして、私の親しい友人や知人たちの命も危険に晒され、私の平和で平凡な日常的なモノも根こそぎ奪われてしまう。

 そうなる前に、私たちは相良の息の根を止めて、その野望を阻止しなければならない。


 そう決めたのだ!


 「ねえ、シデン。異世界の門は未だ開いてないんだよね? 」


 『ああ、開いたらすぐに分かる。お前にだって分かるぞ。』

 

 「ふーん。んじゃさ、今、私たちのことを敵意丸出しで窺ってるのってナニモノなの? 」


 それに気づいたのは、見張りの小鬼たちを倒し、“鍵穴の地” を目指し、尾根を越えてから間もなくのこと。

 いつの間にか、私たちを左右から挟み込むようにして3から4匹ほどの生き物の気配がついてくる。

 木や草や岩、地面の凹凸を利用して、その姿を巧みに隠しながら、一定の距離感を保ち、私たちが進むのと同じ方向へ、同じ速度で移動している。


 『お前も気付いてたのか? 』


 「まあね。私も五感が鋭くなってるからさ~ どうやら小鬼じゃないみたいだけど何だか分かる? 」


 小鬼ならば2足歩行。

 今、私たちをつけているヤツらの足音は4足歩行。

 普通の人間なら聴こえない程の小さな足音を立てているが、そいつらの足の数の違いをキッチリ聞き分けられるほどに、私の聴覚は鋭敏である。


 『おそらくワームホールから入り込んだバケモノどもだろうから、門の開け閉めとは無関係だ。小鬼どもが食ってた人肉の血の臭いにひかれてやってきたんだろう。厄介なのは向こうの生物なんで鬼の怖さを知ってるんで、あっちにゃ絶対に掛かって行かないってことだな。襲うのならウチらのほうがイケそうだと勝手に判断して隙を狙ってんだろうよ。まったく、迷惑な話だぜ。』


 「このまま、放っとくわけにはいかないんでしょ? 」


 『そりゃな。ウチらの仕事の邪魔になるからな。』


 これから、相良相手に大事な一戦しなきゃなんないってのに、余計な仕事が増えてしまった。

 まだまだ序盤が続いてるんでリミッターを解除するわけにいかないから、さっきの小鬼たちと同じく、限定された能力と体力だけで相手をしなければならない。


 (相手によっては、けっこう辛いかもしれないんだよねぇ。)


 もともと、武蔵御嶽山から奥多摩の一帯はワームホールが不規則に開く場所らしいので、時々異世界から侵入してくるバケモノが現れるとは聞いていた。

 実際、私も子どもの頃に、そういうバケモノに襲われたことがあるわけだが、大事の前なんで、できれば遭遇したくなかった。


 『ん、霧だ! 』


 シデンは歩きながら、鼻をヒクヒクさせた。


 「霧? どこに? 」


 言われて直ぐには気付かなかったが、シデンより30秒ほど遅れて視界が徐々に霞んでいくのに気付いた。

 真っ暗な夜の闇の中に灰色の靄が混じり始めていたのである。


 『なるほどな。こいつは、お前に取っちゃ懐かしの相手だぞ。』


 「懐かしの? 」


 シデンは何を言わんとしているのか?


 『霧と言えば、ホラ、思い出すだろ。』


 「・・・あ! 」


 子どもの頃、武蔵御嶽山で遭難した時、私の周囲を取り巻いていた霧のこと。

 あの日、私は霧の中で殺され掛けて、シデンに救われた。

 今に続く、シデンと私の魔力結石を介した繋がりは、あの霧の中から始まったのだ。


 そして、霧の中から現れて私を殺そうとしたのが、


 『鹿角のヤツらだ。』


 鹿のような角を生やし、肉食獣の牙を持つ異世界の侵入者、モンスターである。


 『こいつらは、念力で霧を呼ぶんだ。催眠効果のある霧で獲物の五感を狂わして、それから襲ってくる。お前を子どもの頃に襲ったヤツも同じことをしてただろ? 』


 「うん、憶えてるよ。霧の中で意識が途切れ途切れになって、記憶が曖昧になっちゃってた。あれって、その鹿角のバケモノのせいだったの? 」


 あの時発生していた霧と、今、私たちを包み込もうとしている霧は、どちらも自然発生的なモノではないらしい。

 鹿角のバケモノが放つ異能力によるものだったのだ。


 『そういうバケモノだからな。日本書紀にあった、オレが日本武尊を助けたってことになってる話しも、こいつに絡んだヤツさ。』


 それって、2000年も前の話だって言ってたっけ。

 もうシデンの記憶も曖昧になっていて、その時にホントは誰を助けたのか分からなくなってるぐらいに昔の話らしいけど、その頃からワームホールを通って異世界からの侵入はあったわけだ。


 「ってことはさ、この霧吸ったらマズいの? 感覚が狂うの? 」


 毒霧吸い込んで五感が狂ったら、この後の戦いに差し支えてしまう。


 『まあ、安心しろ。お前はオレの眷属になってんだからな。子どもの頃みたいに、五感が狂ったりしないから、かどわかされたりもしない。目ん玉開いて周囲を警戒してれば良い。そのうちにヤツらが仕掛けてくるぞ。』


 周囲の警戒はさっきから念入りにしている。

 あっと言う間に霧が濃くなって進行方向が灰色に染まっちゃってるけど、シデンの言うとおり五感に狂いは生じていないし、その先導について行けてるから子どもの頃のように迷う心配は無い。


 『仕掛けてきたら殺っちまうぞ。準備しとけ。』


 「それは良いけど。私でも戦える相手なの? 」


 小鬼とは戦ってきたけど、異世界のモンスターと戦うのは初めてである。


 『心配すんな。大したヤツじゃない。霧に頼らなければ弱っちい角の生えたロバみたいなもんさ。』


 えっと、ロバって弱いの?

 そんな例え出されても分かんないし。


 『角の突進さえかわせば大丈夫。あとは馬みたいに後ろ足を蹴り上げてくるから、そこ注意な。』


 そう言われてもなぁ。

 今まで戦ったのって小鬼ばっかだし、人間相手に格闘してるのと同じだと思うんだよね。

 それが、今度はロバだってんなら、人間とは身体の作りが違うし、急所も何処だか分かんないんですけど。


 『急所なんて気にしなくて良い。角をかわしたら足を払って倒れたとこに銃剣をぶっ刺すって感じで行け。それでOKだから。』


 な~んて、いい加減なアドバイスなんだろう。

 突進してくる相手なら、一々言われなくっても、誰だってそうするんじゃないだろうか?

 闘牛士なんかも、そんな感じで戦ってたようなイメージあるし。


 『まあ、あれだ。鹿角をぶっ倒すことができたんならさ、お前もさ、子どもの頃に受けた借りをキッチリ返せるってことでスッキリすんじゃないか? ああ大人になったんだなぁって感慨に耽ったりもできるんじゃないか? 』


 何言ってんだか、このワンコは。

 まあ、鹿角のバケモノってのは因縁の相手なわけだし、ここで退治しとくのも悪くない。

 トラウマってほどじゃないけど、時々夢の中に出て来て私を怖がらせるくらいはしてくれたバケモノなんで、そういう負の残滓は断ち切っといた方が良いと思う。


 『とにかくだ、このまま歩みは止めず、襲ってきたらオレは右、お前は左からくる鹿角をやれ! 』


 「うん、分かった。」


 応えて直ぐ、懐のホルスターから銃剣を取り出して右手に握った。

 実は、私の左手には小鬼から奪ったマチェットが握られている。

 刀身は1メートル近くありそうで、重さもけっこうあるので、突進してくる相手に叩きつけたら、かなりのダメージになりそう。

 シデンは、このマチェットでバケモノの足を払えと言っているわけだ。


 「マチェットとナイフで二刀流か。そんなんできんの? って感じなんだけど、なんかできそうな気がすんのよね。」


 もう、すっかり戦う女子高生である。

 突進してくる4つ足のバケモノの足を切り払うイメージなんかは、頭の中でシミュレーションができちゃってる。

 いつでも来いや! って感じである。


 『来たぞっ! 』


 「え、マジ? 」


 四つ足が地面を蹴る音は聴こえるが霧でバケモノの姿が見えない。


 でも、


 「こっちだっ! 」


 自信一杯に叫びながら殆どヤマ勘なんだけど、反射的に身を捻った私の右側スレスレを鋭い鹿角が過った。


 「あっぶねぇ~ 」


 一瞬、ヒヤッとしながらも身体は勝手に動き、一旦姿勢を低くとった私は左手のマチェットを力一杯水平方向に払った。


 ガキッ!


 マチェットが鹿角の片足の骨を断った手応え。

 それと同時に、突進してきた勢いのままバケモノの身体が地面に倒れ込む音がした。


 お次は、


 「銃剣でぶっ刺す! 」


 相変わらず霧は濃いが、バケモノは間近に倒れているので、その姿はハッキリと見えている。


 (そうだよ、確かにこいつだ。)


 一見、鹿のように見えるが鋭い肉食獣の牙を生やし、子どもの頃の私を襲って、死の一歩手前まで追い込んでくれた因縁のモンスターである。


 (あん時のお礼をさせてもらうから! )


 暴れるバケモノの顎を目掛けてトレッキングブーツのつま先を力一杯に浴びせた。

 その一撃でバケモノは半回転して横倒しになったが、折れた片方の前足を庇いながら、もう片方の足で宙を激しく掻いて、私の接近を阻もうと頑張っている。


 (こいつ、往生際悪いヤツだな! )


 素早くバケモノの背中側に回り込んだ私は、振り上げた銃剣の先端を側頭部目掛けて垂直に落とした。


 「10年越しの因縁にサヨナラだねっ! 」


 そう言って銃剣を引き抜いた時、既にバケモノは即死、絶命していた。


 「良し! 次のヤツは? シデンは? 」


 鹿角のバケモノは複数いたはずなので、1匹倒しても気は抜けない。

 シデンは何匹倒したのか?


 『鹿角は全部殺ったぞ。』


 余裕の返事が返ってきた方向に目をやると、霧で薄くボンヤリとしか見えないほどの距離に立ったシデンの姿と、その傍に横たわる2匹のバケモノの死骸が見えた。

 私が1匹倒している隙にシデンは2匹!

 流石に素早い。


 「ふぅ! 」


 2人掛かりで、あっと言う間に鹿角のバケモノを3匹倒した。

 なかなかの上首尾でしょう。

 他に襲ってくるモノの気配はしないので、


 「これで、邪魔者は片付いたんだね。」


 そう声を掛けながらシデンに駆け寄ろうとした。

 そしたら、


 『待て! その場を動くなっ! 』


 いきなり、シデンに怒鳴られた。

 いつになく荒々しい口調に新たな脅威の発生を感じた私は、上げかけた足を慌てて下ろし、一旦解除しかけた戦闘態勢を再び固めた。


 (どしたの? 他に何かいるの? )


 シデンに念を送りながらも、周囲への警戒は怠らないようにする。


 『霧の向こうに気配がする! 鬼だ! 』


 (つ、遂にっ?! )


 その言葉に全身が鳥肌立つのを覚えた。


 (相良っ?! )


 『ああ、もちろんだ。こっちを狙ってるぞ! 』


 シデンが即答した。


 その時が来てしまったらしい。

 私の親しかった人たちを殺し、苦しめた怪物。

 教師の皮を被って、私を欺き続けていた悪魔。

 そいつが、今、私たちの間近にいる!

 

 (霧、かなり薄れてきたね。)


 『そうだな、鹿角のヤツらが死んだからな~ もう直ぐ鬼が姿を現すぞ。備えとけ! 』

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