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シデンの気遣いは嬉しいけど

 「相良がいるのは、この先なのね? 」


 小鬼たちが見張りしていたのは、私たちが越えようとしていた尾根の手前。

 その向こうに異世界の門を開くための “鍵穴の地” とかいうのがあるらしい。


 『兵隊も随分減ったことだし、ヤツも焦ってるだろう。』


 だから、可能な限り早く門を開こうとするだろうとのこと。


 「それじゃ、早く止めに行かなきゃ。」


 シデンを促しながら、早速歩き出そうとした私を、


 『ちょっと待った! 確認! 』


 と、言って呼び止められた。


 「どしたの? 」


 打ち合わせがあるなら歩きながらでも良いのにと思いながらも、私は一応立ち止まった。


 『これから先のことについて、キッチリしとかなきゃなんないからな。』


 シデンは、いつになく真剣な感じ。

 釣られて私も、真剣なノリにならざるを得ない。


 『これから、オレらは鬼が異世界の門というか壁をぶち壊そうとしてるのを阻止しに行くわけだが。』


 そんなのは、今更確認する必要も無いのだが?


 『その際には、お前が教師として世話になっていた相良という鬼をぶっ殺すことになる。それは良いな? 』


 良いも何も、その件について、私は既に割り切ってる。

 世話になったという事実はあるが、それはヤツらが私の持っている魔力結石を奪うための作戦の一環だったわけだ。

 しかも、子分の洲崎と一緒になって私を手籠めにしようともしていたのだ。

 だから、感謝などする筋合いなんか無い。

 それよりも、“あじさい” のオジサンやオバサン、仁太くんを残忍なやり方で殺した事実の方が今は大きい。

 あの、優しく親切だった家族に2度と会えないと考えたら、今だって無性に悲しくなる。

 私は、あの家族の仇を取ってやらなければならないのだ。


 「もう既に、私はクラスメイトの洲崎を撃ち殺してんだよ。今さら相良なんていう極悪非道なヤツに情けなんて掛けるわけないじゃん。」


 そうハッキリと言い切れる。


 「それに、見てごらんよ。小鬼が食ってたモノをさ。」


 私たちに襲われる前まで、見張りに立っていた2匹以外、3匹の小鬼は食事中だったわけだが、そいつらが食い散らかしたモノが地面の上に残っている。

 それらは明らかに人体の一部だった。

 半分骨になってはいたが、元は手や足や腹や尻だったと分かる程度には食べ残っている。

 いったい、どこから攫ってきたものなのか、骨の作りや大きさを見れば被害者が子どもであるということがハッキリと分かる。

 小鬼は人を食うと、以前にシデンが言っていたが、その事実を今初めて目撃した。

 そんな危険で最悪な人食いどもの親玉に情けを掛けるつもりなんて、私には毛頭無いんだってことをシデンに向かって強く言い切った。


 『んじゃ、まあ、それは良しとしよう。』


 それはってことは、他にもあるのね?

 私が戦いに臨むに当たっての心構えを確認するだけじゃなかったのかな?


 『これは仮にの話だから、そのつもりで聞けよ。例えば、ウチらが失敗したら、異世界の門ってヤツが最悪の場合は開いちまうわけだが、そういう事態になっても決して慌てんなよ。』


 え? いきなり失敗する話ししちゃうのってどうかと思うんですけど。

 お仕事を始める前に、失敗することとか言い出したりするのはダメって、子どもの頃から言われてたんですけど。


 『まあ、ぶっちゃけると、阻止できる可能性は半分ってとこだな。』


 「半分って、そりゃ、いくらなんでも少な過ぎじゃない? 」


 いつも自信満々なシデンにしては、随分と消極的なことを言うと思った。

 イケイケでオラオラなヤツだと思ってたのに。


 『前にも言ったけどな、失敗する時は失敗するもんだ。敵さんだって、色々考えてんだし、こっちが作戦負けすることだってあるわい。』


 うーむ、シデンがそういうこと言えるタイプだってのは意外。


 『ま、だから失敗するのは良いんだけど。』


 「良いんかいっ! 」


 思わず突っ込んでしまった。

 この会話、私たちを見送ってくれた自衛隊の皆さんの期待を裏切ってる気がするんだけど。


 『そこだ! オレが心配してんのは、お前のそういうトコ。』


 「え、どういうトコ? 」


 私、何かシデンを心配にさせるようなこと言った?


 『お前な、もし失敗して門が開いちまって、この世の中がバケモノだらけになったら責任感じるだろ? 』


 「ああ・・・ 」


 そういうことだったのか。

 相良を阻止できず、異世界の侵略を止められず、その結果、大勢の人の命が奪われたら、私はどうなるのかってことだ。

 特に精神面的なこと、それをシデンは心配してるわけだ。


 『以前言ったのと同じこと言うけどな、門を守るなんてことはオレもお前も義務じゃない。そんな面倒なことに関わり合いになりたくなきゃ、戦うのが嫌なら放っておけば良いのさ。オレは流石に行き掛り上、戦わなきゃならない立場なんだけど、お前にはそんな義務もしがらみも全く無いんだ。それにも拘わらず、お前はわざわざ、こんな山奥まで来て門を守ろうとしてくれてんだから、それで十分ってことなんだよな。そのボランティア精神に感謝感激する者がいても、失敗したからってとやかく言う奴なんていやしない。万が一、そんなことを言うヤツがいたら、オレがぶっ飛ばしてやる。』


 シデンは優しいことを言ってくれる。

 戦おうとしてるだけで十分、失敗しても責任を感じる必要は無いってことである。

 そう言ってくれるのはとても有難いし、少しだけ気が楽になった。

 でも、


 「シデンが、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ、それでも私はたぶん責任感じちゃうと思うんだよね。」


 それは、メンタル強度がどうとかいう話じゃなくて、性格の問題。

 “あじさい” の一家が殺されたのを見た時、心が壊れちゃったのもそのせいだと思う。

 誰にも非難されないかもしれないけど、失敗した事実に凹むだろうし、その後ろめたさは背負ってしまうだろう。


 「だけどさ、心配はいらないよ。」


 後ろめたさや後悔はするかもしれないけど、今の私には“敵”が見えている。

 昨日までの“敵”が見えていなかった私とは違うのだ。


 「今までの私は、私のせいで皆が酷い目に合うんだって思ってた。私も加害者なんだって思ってた。私がいなくなったら、全てが丸く収まるって考えてたんだよ。でも、私がいなくなっても、洲崎や相良みたいなヤツが残ってたら何も解決しないし、もっと酷い目に合う人が沢山出てくるわけなんだよね。それなのに私がいなくなるってことは、私一人が現実に目を瞑って逃避することになるだけなんだって、それって一番卑怯なことなんだって、そこんところが漸く理解できたんだ。」


 だから、こうして戦う心構えができたわけだし、この場にシデンと一緒に立つことができてるわけだ。


 「シデンが心配してるみたいに、責任感じて押しつぶされたりはしない。失敗したら後悔するだろうし、責任感じちゃうけど、それで逃げたりもしないよ。もし、門が開いて、モンスターだらけの世の中になったら、モンスターと戦って、せめて身近にいる大事な人の命を守るようにするよ。」


 失敗して、後悔して、反省した後、自分にできることを考えて、自分ができる範囲内でやる。

 たぶん、私はそう割り切って、次へ進もうとするだろう。


 『ほほう。お前も随分と成長したみたいだな。強くなったんじゃないか。』


 シデンが感心して頷いている。

 褒められて、ちょっと嬉しい。

 でも、ワンコのくせに上から目線なのが気に入らんけど。


 「一応断わっておくけど、今の私って、門の開け閉めよりも、相良をぶっ殺して皆の仇撃ちする方がメインになっちゃってるっぽいし、そっちの方の躊躇いは全然無いから安心して良いよ! 」


 だから、この後の私について心配してくれるとするならば、


 「相良と戦う時に怒りMAXで暴走しちゃって、それが原因で墓穴掘ったり、負けちゃったりしないようにとか、そういうことの方を心配して欲しいかな。」


 シデンには、そうならないように見守ってて欲しいと思う。


 『ああ、任せとけ。どっちにしろ相良を殺すのはオレの役目だし、お前はサポートで十分。ヤツほどのバケモノは流石にお前には荷が重いだろうからな。ヤツの手下の小鬼がいたら、そっちを押さえてくれさえすれば良いんだ。』


 小鬼の担当なら任せなさいって感じ。

 もう何度も戦って、何匹やっつけたか分かんなくなった。

 油断さえしなければ、決して負ける相手ではないことが分かったので、小鬼に対する恐怖心などは既に失せてしまっている。


 「ぼちぼち時間が勿体ないから、そろそろ行こうよ。それとも、他に気掛かりでもあるのかな? 」


 『いや、もう無いわ。お前の覚悟は十分に分かった。その調子なら大丈夫だ。』


 取り合えず、シデンには私の気持ちが伝わったようで何より。

 後々に、多少メンタルがブレたりすることもあだろうけど、そういう時は面倒見てもらうとしよう。

 だって、私はシデンの眷属らしいからね。

 面倒見る義務ってあるんじゃない?

 

 「さぁて、そんじゃあ、ウチらのやるべきことをやりに行きますか! ここから先は、失敗したらとか、縁起でもないことは言わないように! 禁句だからねっ! 」


 変なこと口走って、変なフラグが立ったら気持ち良くないので、ここから先は前向き発言のみで行くことにしよう!


 『んじゃ、歩きながら前向きな作戦会議すっぞ! 』


 「OKです! 」


 てな感じで歩き出した私たち。


 相良がいる “鍵穴の地” までは尾根を越えて数分歩いたところにあるらしいので、緊張感は否応なく高まってきた。


 でも、それと同時に、異世界の門っていうのが、どんな門なのか、実のところ、そっちの方も私は興味シンシンだったりする。

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