序盤戦で小鬼を一蹴!
リミッターを解除しているわけじゃないのに私の足取りは実に軽く、直線で300メートルはある彼我の距離を一気に詰めた。
大きく迂回したので移動距離ならば、ざっと600メートル以上。
斜めった山肌を、木々の間を縫って素早く進んで、3分経たずに小鬼たちを間近に見る左側面のポジションに到達した。
『遅いな。』
シデンが念で呟いた。
「ワンコと一緒にすな! 人間としては超人的な速さだっての! 」
シデンは4本足、こっちは2本足なんだから比べられたって困る。
別に競争してるつもり無かったし!
『んじゃま、早速いきますか! お互いに近くて殺りやすいヤツを担当する感じで良いか? 』
(近くて殺りやすいヤツって? )
改めて、小鬼たちのポジションを確認した。
まずは、5匹のうち2メートルほどの間隔を空けて立つ2匹が見張り役らしい。
互いに反対方向を向いて180度づつを警戒中だが、現時点ではこちらの接近には全く気付いていない。
他の3匹は交代要員なのか、それともいざという時の戦闘要員なのか、揃って地面に腰を下ろし、雑談しながら何か食べている最中だった。
(ヤツらの装備はどんな感じだろ? )
小鬼が身に付けている戦闘装束は、近くで見ると一段と奇妙に見える。
穴の開いた沢山の丸い石に紐を通して編み上げた独特の構造によって、身体の急所や手足の腱を守るようにできていて、付け飾りは身体の輪郭を隠すだけではなく、おそらく接近戦時には遠心力で舞い上がることによって、敵の接近を邪魔したり目くらましの役にも立つようになっているんじゃないかな。
(あんな鎧、こっちの世界じゃ無いよね。)
些か原始的に見えるが、シデンの話では異世界の低級な魔人たちは個人の身体能力にモノを言わせて戦うスタイルが多いらしいので、その防具は集団戦に特化した人間の防具の常識には当てはまらないと考えるべきだろう。
なんとなくだが、雰囲気だけならば源平時代の大鎧に似てなくもないなと思った。
そして、肝心の武器だが、
「え、飛び道具? 持ってんでしょ! 」
おそらく、こっちの世界で入手した猟銃と思われるが、長身のライフル銃を抱えている。
それも見張り役の2匹がである。
「厄介だね。」
『あんなのは構えて撃つ前に殺っちまえば良いだけだ。』
「それは、そうなんだけど、銃持ってるヤツは半分コだよ。」
『おお、良いぜ。他の3人は飛び道具無しだから、受け持ちは適当な! 』
座ってる3人の傍には、それぞれ武器らしい得物が置いてあるが、たぶん東京湾岸で戦ったヤツらと同じくマチェットや警棒など刃物や鈍器の類いである。
そんな程度の武器なら、何とでもなる。
「OK! 良いよ! 合図して! 」
『おお! いっ、せーのっ、せっ! 』
シデンの合図で、私は地面を蹴った。
目指すは私から一番近い、ライフル銃を構えた小鬼の片方。
呼吸を止め、バックパックを背負ったままにも拘らず10メートルほどの距離を2歩で詰め、力一杯握り締めた銃剣で、その首筋を薙ぎ払った。
(良しっ! )
手応えがあった。
銃剣の一撃は頸椎までも断ち切った。
小鬼にはライフルの銃身を僅かに持ち上げ掛けるだけの暇しか与えなかった。
声を出すこともできず、ライフルの引き金に指を掛ける間もなく、小鬼は頭部をゴロリと落とし、切り口から噴水のように血飛沫を上げながら柔らかな腐葉土の地面に崩れ落ちた。
その一連のシーンは、暗がりでも私の目にはハッキリと見えている。
かなり凄惨なシーンだったが、思ったとおり私の心に動揺は無い。
敵を倒した実感が残っているだけ。
怖いとか、悲しいとか、気味が悪いとか、そんなのも無かった。
それよりも、キチンと戦えている自分に驚いていた。
一応、東京湾岸での戦いで自信を付けてはいたけど、武器を持った殺し合いができるかどうかまでの確信は持てていなかったので、一撃で小鬼の首を打ち落とすことができて一安心。
(私、戦えんじゃん! )
そもそも、ナイフを使った近接格闘戦なんて習ったこと無いが、映画やドラマなんかでは沢山見てきた。
つまり、“魔力結石と一緒にいた10年間の間に教わったり学んだりした経験は頭じゃ忘れてても身体に刻み込まれてるんで、いつでも引き出せる” とかいう便利な能力のおかげってことである。
子どもの頃、曲がりなりにもキチンと教わった空手ならば兎も角、映像なんかで見た格闘戦もキッチリ身につくらしいから便利なモンだよ。
(これからも戦い続けるなら、格闘技の試合とかの動画は沢山見といたほうが良いかも。達人の業とかも見といたら覚えられんのかな? )
見るだけで身に付くというなら、沢山見た方が良いに決まってる。
(でも、そんなんしてたらさぁ、どんどん戦うマッチョな女子高生になってくんだよねぇ。)
普通に高校生活して、大学進学して、就職して、彼氏見付けて恋愛結婚して、子ども2人ぐらいこさえて、土地付き一戸建てで豊かな老後を過ごす私の人生設計に大きな狂いが生じてしまいそう。
(困ったなぁ~ )
そんなことを考えていながらも、身体は勝手に動いていた。
我ながら反射神経が半端無い。
私が見張りを1匹倒したと同時にシデンも1匹倒していたが、それを横目で確かめながら、突然現れた敵に驚いて立ち上がった3匹に向かう体勢を瞬時に整えている。
もちろん、小鬼には大勢を整える時間なんてやらない。
「シッ! 」
息を抜くような気合を吐きながら、マチェットを手に取った小鬼の1匹目掛け、それを構える暇を与えず、思い切り顔面に銃剣を突き刺した。
ゴッ!
と、鈍い音がした。
顔面の中央に突き刺さった銃剣は頭蓋を貫通し、後頭部を破裂させて血と脳漿を飛び散らせた。
もちろん、小鬼は即死。
(良し、次っ! )
死んだ小鬼を前蹴りで押し倒し、抜いた銃剣で、その背後に立ち上がった、もう1匹の喉元を切り払った。
「ゴォフッ!」
小鬼は悲鳴を上げようとしたらしいが、それを阻止すべく喉を裂いてやった。
だが、この小鬼、息がつまっているにも拘らず、手にした金属製の警棒を振りかざしながら、私に突っかかって来ようとする。
そんな苦し紛れの一撃を食らいたくないので、2歩後退。
小鬼が身体を左右に振る度に鎧? の付け飾りが舞い上がって私の接近を阻む。
よく見ると、付け飾りの先端には鉤が付いている。
そんなモノが引っ掛かったら痛いじゃすまない。
(死にかけだってのに、まだ戦おうっていうのかよ! )
小鬼の闘志を褒めてやる気は毛頭無い。
鬱陶しいだけ。
「いい加減にしろっ! 」
私の真正面に一直線で振り下ろされた棍棒を身を捩ってかわす。
そして、小鬼の棍棒を持つ右腕の肩口に銃剣を突き刺した。
「ゲフッ! 」
棍棒を取り落して無防備になった小鬼。
「よっしゃ! 」
私は銃剣を抜くや否や、小鬼の側頭部に向けて上段の回し蹴りを放った。
バキッ!
顎と首の骨を、硬いトレッキングブーツを履いた足刀で同時に圧し折った感触が伝わって来た。
あまり気持ちの良い感触では無かったが、これが止めになったことは分かる。
「うしっ! 」
足を引く時に、背負ったバックパックの重みで身体がぐらついたが、これは何とか持ち堪えて、4人目がいたなら直ぐに戦いを継続できるよう体勢を整えつつ、
「シデン! 」
相棒の手際を確認、と思ったら。
『お疲れさん! なかなか良い戦いっぷり! 』
シデンは既に自分の仕事を終えて、私の観戦をしていたらしい。
余裕丸出しな感じで褒められてしまった。
まあ、良いんだけどさ。
「あんたの方が強いんだから、3人目も受け持ってくれたって良かったのに。こっちは、こんな序盤戦でリミッター解除するわけにゃいかないし、荷物背負ってんだから、けっこう大変なのよ! 」
シデンが見張りの1匹を倒したのは、私とほぼ同時。
その戦いぶりを始めて見たが、なかなか凄かった。
何がスゴイって、前足に飛び出した爪。
恐竜映画に出てくるラプトルのヤツみたいなのが4本づつニョッキリ生えて、その一撃で見張りの小鬼が構えたライフルごと文字通りミンチになっていた。
もう1匹の方は見ていなかったが、こちらも死体を見る限り同様だったみたい。
飛び道具ばっか使いたがってるけど、肉弾戦もイケるんじゃない。
「いやいや~ マジに瞬殺してんじゃん! 」
『だから、言ってんだろ! オレは強ぇんだって! 』
そこで、鼻息吐いて威張んなければ、頼りがいのある良いワンコなのにねぇ。




