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えっ! 異世界からの侵略? 世界中にモンスター? 私の平凡な日常はどうなっちゃうの? そんなん もう戦うしかないじゃん! ~ 紗耶香とシデンのモンスター事件帳  作者: TA-MA41式
序章 ~ 詳しい事情は後々に語ることにしますが、とりあえず世界は今こんな感じになっちゃってます。
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戦闘開始っ! 

 私の絶叫に応えるかのように、ギガスたちの咆哮が始まった。


 ギャハハハハーッ!


 イーヒッヒッヒーッ!


 クェーッ! ケッケッケッケッケ!


 まるで、こちらを嘲笑うような鳴き声。

 それに加えて、木の幹を叩く音、枝や葉を揺らす音で周囲は騒然とし始めた。

 森全体が、敵意を剥き出しにして襲い掛かってこようとしているかのようであった。


 『変わった威嚇だな。』


 「猿って、こんなもんなんじゃない? 」


 昔、テレビの動物ドキュメンタリー番組かなんかで見た猿の群れが、これと同じことをしていたような記憶がある。

 だが、たかがケダモノの奇声にビビるほど、こっちは素人じゃない。

 大声を出してくれたら返って相手の数や位置が分かりやすくなって助かる。


 「半径20メートル範囲内で、死んだ2匹も入れて15匹、そのうちこっちを取り囲んでいるのが10匹前後。他にもいるだろうから、ネット情報は思い切り間違ってたみたい。」


 『そりゃ、しょーがねぇーよ。相手は山ん中にいるんだからさ。』


 「追加の報酬申請できそうね。ラッキー! 」


 ここまで私とシデンのやり取りを震えながら聞いていた( もちろんシデンのセリフはテレパシー的なモノなので聞こえていないから私の独り言だと思っている )男がヒステリックに叫んだ。

 

 「なんで、んなに冷静にしてんだよ! ふざけんなよ! 」


 なんだか、この男の声を聞くだけでイライラする。

 まったく、いったい誰のせいでギガスたちに包囲されるなんて初歩的な罠に嵌ってしまったのか?

 暫く口を閉じて黙ってて欲しいのだが、


 「オレは死にたくねーぞ! このクソ女! お前ぇ、ぜってーにオレを守れよ! そーしねーと訴えてやっかんな! 逆らったら犯すぞ! オレはやると言ったら必ずやる男だかんな! 」


 何を言っているのだろうか?

 たぶんパニクって、今、自分が置かれている状況とか、これまでの経緯とか、何もかも忘れてしまって、脳みそが沸騰状態なのかも知れない。

 

 『ぶん殴って、気絶させといたほうが良いかもよ。』

 

 「そんなことしたら、絶対に後で面倒なことになるから放っときなさい。」


 こういう馬鹿を一発でも殴ったら、せっかく助けてやっても傷害罪で訴えてくるかもしれない。

 かなり煩いが、口が疲れるまで喋らせておくしかない。


 「そんなことよりも、これはちょっとマズいかも。」


 ギガスたちに動きがあった。

 彼我の距離に変化は無いが、奇声のトーンが変わった。


 ホーッ! ホッホーッ!


 ウッフォーッ! フォーッ!


 さっきまでと比較して若干低めで息を吐くような声。

 この声に聞き覚えがあった。

 伊豆の修善寺でギガスの駆除案件に関わった時のことである。

 ここのギガスに比べたら少々小ぶりな種類だったが、とある攻撃の直前に仲間同士で交わす鳴き声があった。

 それが、この声と一緒だったのを思い出した私は叫んだ。


 「頭を守って! 身体を小さくして! 」


 すかさずシデンが頭を身体の内側にして丸くなった。


 「お? あ? なんだって? オレに命令すんじゃねぇ! 」


 それまで意味不明な罵声を叫び続けていた男が、口では逆らいながらも、オドオド、キョロキョロしつつ両手で頭を覆った。


 ドゴッ!

 

 窪地の真ん中に重たい物体が勢いよく飛び込んできて、その衝撃で湿った腐葉土が四方に飛び散った。

 それに続いて、石、木切れ、丸まった泥など、次々に飛来し、窪地を襲ってきた。


 ドガッ! バシャッ! ゴシャッ! ガン! ズドン! グサッ!


 腐葉土や埃と騒音を巻き散らしながらの投射攻撃である。

 伊豆の修善寺でもギガスはこれをやった。

 一度始まったら切れ目無く、目標が動かなくなるまで投射を続ける。

 この攻撃、ギガスのヒグマ並みの怪力で掴めるモノなら何でもかんでも投げつけてくるので決して侮れない。

 その時に私と同行していた現地の警察官は、拳大の石の直撃を肩に受けて重傷を負ってしまった。

 この対抗策は一つだけ。

 なんとかタイミングを見計らって、この場を脱出し移動することなのだが、今はそれができない。

 私とシデンなら簡単に窪地を出られるだろうが、馬鹿男には無理。

 この男を連れて反撃に移るなんてできるはずがない。

 こんな足枷をくっつけてたんじゃ、私がギガスに殺られてしまう。


 (くそっ! )

 

 忌々しい石ころや木切れが私の背中や腕に当たる。

 頭とベストに括りつけてあるビデオカメラにだけは当たらないようにとガードしているが、このまま石や木切れを浴び続けていては反撃する前に痛みと焦りで消耗してしまう。

 何度か顔を上げてボウガンを構えようとしてみたのだが、その度に目潰し用に混ぜて飛ばしてくる泥の塊や飛散する腐葉土が邪魔をして目を開けていられない。


 『もう我慢ならん! 雷撃いくか! 』


 シデンが痺れを切らし、飛び道具を放ちそうになっている。

 しかし、それは最後の手段。

 他人がいる前での使用は可能な限り避けたい。

 シデンがウルトラワンコだということを知っているのは、私と特生庁の汐見さん周りの人だけ。

 

 (でも、このままじゃ、シデンの雷撃に頼るしかなくなるかも・・・ )


 そんな私の葛藤だが、そんなに長くは続かなかった。


 「もうやめてくれーっ! もうたくさんだ! 話し合おう! 」


 ギガスの投射を浴び続けて、我慢の限界を超えてしまったらしい男が絶叫しながら窪地から飛び出した。


 「あの女お前らにやる! だから、オレを助けてくれ! オレを逃がしてくれ! 」


 そんなセリフを吐きながら、怪我した足を引き摺りながら、もたもたとギガスたちの方に向かって歩き出した。

 この男、完全に錯乱してしまったに違いない。

 ギガスが話しの通じないケダモノだということを忘れてしまっている。

 忽ち男の身体は投射攻撃の的になった。

 私は一瞬だけハッとして、男を窪地に引き戻そうとしたが、もう馬鹿々々しくなってしまってやめた。


 (もう好きにすれば良い! )


 それよりも、男が集中砲火を浴びてくれたおかげで、窪地を狙った投射攻撃が若干だが薄くなった。


 (これならイケる! )


 そう私が思った次の瞬間、窪地から2、3歩踏み出したところで立ち往生していた男の頭部が破裂した。

 頭蓋が砕け、血液と脳漿が飛び散った。

 投石の直撃を受けたのだ。


 「チッ! あの馬鹿! 」


 ゆっくりと崩れ落ちる男の身体を見ながら、舌打ちが漏れた。

 当然だが、哀れみなんてモノは一切感じなかった。

 ただただ腹立たしいだけだった。

 私とシデンは、あの男によって窮地に立たされ、せっかく救いに来てやったにも拘わらず、汚い罵声を浴びせられただけで感謝の言葉も無かった。

 そして、勝手に死んだ。

 最後には錯乱してしまっていたとはいえ、私をギガスに渡すから自分は助けてくれなどという暴言まで吐いていた。

 そんな男が目の前で死んだからといって、ちっとも悲しくない。

 ただ、自分のお人好しと馬鹿さ加減が笑えるだけである。


 (せっかくだから、このチャンスはいただくけどね! )


 ギガスたちの投射攻撃に隙を作ってくれたことには砂粒ほどの感謝をくれてやる。


 「シデン! 」


 一声掛けて、背負っていたバックパックを下ろし、すかさず窪地を飛び出した。


 『おしっ! 』


 と、応えたシデンが、私と反対方向に向かって大跳躍したのが分かった。

 だから背中は大丈夫。

 私の持ち分は前方向180度。


 「見えた! 」


 進行方向正面、樹齢100年を超えるであろうブナの太い幹の陰から巨体をはみ出させたギガスが1匹と、その後ろにもう1匹。

 2匹とも投射に専念していたようで武器を手にしていない。

 まずは、この2体がターゲット!


 「シッ! 」


 吐き出した気合と共に右手でマチェットを携え、一気に彼我の距離を詰めてから、1匹目の直前で姿勢を落とし前方にヘッドスライディングした。

 私の素早い動きにギガスはついてこれない。

 おそらくは、私の姿が唐突に視界から消えたように見えただろう。

 その間、私は前方へ一回転、1匹目のギガスの脇を素通りし、後ろに控えていたもう1匹の目の前でスッと立ち上がりながら、その喉元にマチェットを叩きつけた。

 確かな手応えと共にギガスの首が千切れ飛んだが、それを確かめることはせず、私は振り返りざま、無防備な背中を晒して未だ私の行方を見付けられていない、もう1匹のギガスの頸椎を狙い左手に握ったシースナイフを突き立てた。


 (これで2匹! さっきのと合わせて4匹! )


 そのまま私は動きを止めることなく次の相手を見定める。

 ナイフは抜く手間を惜しんで置き捨てにし、マチェットを左手に持ち替えた。

 そして、右手にはレッグホルスターから抜いたショットガン。

 これを片手で構え、前方斜め上に向けて引き金を引いた!


 ドン!

 

 火薬の炸裂音と共に飛び出した9粒の散弾が、樹上にやってきていた1匹を目の前の地上に叩き落とした。


 ウゴーッ!


 即死はしなかったが、落下の衝撃で動きが止まったギガスの顔面にマチェットを落とし、これで5匹目。

 間を置かず、一抱えもある大石を両手で振り上げて、私を叩きつぶそうと背後から飛び掛かってきた1匹には、大石の一撃を避けつつ顔面にショットガンの銃口を押し付けるようにして散弾を見舞ってやった。


 (6匹目! お次っ! )


 今度は手に持ったこん棒のような凶器を頭上でブンブンと振り回し、真正面から突進してくるヤツが見えた。


 ガツッ!


 空振りしたこん棒が地面を叩く音。

 咄嗟に身を低くして横に飛んだ私を捉えきれず、ギガスが戸惑いを露わにしながら動きを止めた。

 その瞬間を見逃さない!

 側頭部に向かって左手のマチェット叩きつけた。


 「あら? 」


 手応えが鈍い。

 血油に塗れて刃が利かなくなってしまったようだ。

 咄嗟に手首を返し、身体を一回転させて今度はマチェットの分厚い刃裏を側頭部の同じ場所に叩きつけた。

 骨が砕ける確かな感触が手を伝ってきたが、未だ致命傷にはなっていない。

 それでも、ギガスは激しい痛みと脳を揺さぶられたダメージでふらついてはいたので、その顔面目掛けて、ほぼ垂直に跳躍した私が放ったのは上段の後ろ回し蹴り。

 

 「ウリャッ! 」


 掛け声と共にトレッキングブーツの踵が、ギガスの顔面を陥没させ、頭蓋の中身を押しつぶした。

 

 「7匹目っ! 」


 仰け反るようにして倒れたギガスの巨体が、柔かい地面にめり込む音を背中で聞きながら、これに続く攻撃を右手のショットガンで待ち構えたが、


 『終わったぞ。』


 「終わった? 」


 シデンが軽い足取りで近付いてきた。

 気がつけば周囲に動くモノ、立っているモノは残っていなかった。


 「終わったーっ! 」


 ひと段落したらしいと知った途端、一気に疲れが襲ってきた。

 手足の関節が笑い出し、軽い眩暈もしている。

 戦闘時、ただでさえも人並み外れた私の身体能力は更に数倍にまで跳ね上がる。

 リミッターが解除され、数時間分の体力が数分で底をつくほどの凄まじい勢いで消耗する。

 

 (絶対に身体に悪いでしょコレ。)


 フラフラしながら窪地に戻り、置きっぱにしていたバックパックの中からスタミナドリンクの3連パック取り出し、地べたに座り込んで3本連続の一気飲みをした。


 『ところで、何匹殺った? 』


 「私は最初の2を足して全部で7匹。シデンは? 」


 『8匹。』


 合わせて15匹。

 先ほど窪地からキャッチした数とピッタリ合うが、


 「逃げた奴はいないよね? 」


 『ああ、それは無い。全部殺ったぞ。他にいるとすればコロニーだが、場所が分からん。探すのは手間だな。』


 そう言ってシデンは鼻を啜った。

 未だ鼻が利かないらしい。

 私の身体にもノズチの臭いが残ったままだし、これから手探りでギガスのコロニーを探すのは、かなりの困難が予想される。


 「でも、中途で引き上げて、また出直すってのは嫌だなぁ。来週から試験だし、早めに仕事片付けて東京帰って勉強したいんだよ。」


 今回の案件にはギガスのコロニー発見も含まれていた。

 含まれていた以上、やらなきゃ仕事が完了しないから報酬が出ない。

 もしギガスの生き残りがいて、そのおかげで新たな被害が出たら、お役所も私も色々とマズいことになる。


 『どうせ殺された連中の遺体はコロニーに運ばれてんだろうし、そっちも確認しなきゃなんないだろ。もうひと頑張りしなきゃ終わらんだろ。』


 シデンの言うとおりである。


 「でも、ちょっと待って、一休みさせて。この後、現場写真だって撮んなきゃなんないし、そう急ぎなさんなって。」


 『へえへえ。』


 スタミナドリンクの次にはチョコバーに齧りつく私を、シデンが呆れた顔で見ていたが、


 「あ、ビーフジャーキーあるよ。食べる? 」


 『よこせっ! 』

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