世界を救う戦い(汗) そのゴングが鳴ったっぽい
御岳登山鉄道の御岳山駅を出発してから、私とシデンは西に向かった。
但し、途中で何度も曲がりくねったので、今はどの方向に向かっているのか、さっぱり分からない。
取り合えず、シデンの案内に従って、深く暗い森の中を只管歩き、アップダウンを繰り返し、途中からは谷間を流れる細い川に沿って進み続けているのである。
出発してから小一時間ほどが経過していた。
道なんて何処にも無いし。
ケモノ道さえも無いし。
足場は、固かったり、ブヨブヨしてたり、ツルツルしてたりと最悪だし。
そういうところを、私は歩き続けている。
っていうか、歩けている。
(身体強化のおかげなんですけどねぇ。)
もちろん、疲れがゼロってわけじゃないけど、せいぜい家の近所を散歩してる時に感じる程度。
お父さんが生きてたら、私は良い感じのトレッキングパートナーになれたんじゃないだろうか。
何てったって、大荷物担いでても全然平気だし、行く手を遮る倒木なんかは簡単に持ち上げちゃえるし、背丈ほどもある大きな岩なんかでも軽く飛び越えちゃうし、灯りも無いのに視界はクリア・・・
「って、そんな女子高生いてたまるかぁ~っ! 」
お父さんが生きてたら、パートナーになる前に卒倒しちゃうわ!
『何をブツブツ言ってんだ? 変な奴だな。』
私をこんな非常識なマッチョ女にしてくれた元凶のくせに、ちっとも悪びれずに、偉そうに指図ばっかりしやがって、このワンコが!
『お前の愚痴なんか聞いてる場合じゃないんだわ。間もなく小鬼がピケ張ってるトコに着くから、ボチボチ前哨戦が始まりそうって感じだぞ! 』
ピケ? 聞いたこと無いぞ。
何か小鬼の新兵器か?
『言葉知らん奴だな。ピケはPicket、Picketingの略。労働争議とか学生運動なんかん時、見張りを立てて防衛ラインを敷いたのをそう言ったの! 』
労働争議とか学生運動とか、んな昭和な言葉持ち出されても困るんですけど。
今、令和ですよ。
私、平成生まれなんですけど。
まあ、このワンコは2000歳以上のオジイなわけなんで、昭和の頃の話でも最近のことのように感じるんだろうね。
『うるせーな! んなこと言ってる間にホラ! 見えてきたぞ! 』
「ホント? どれどれ? 」
シデンの指示する方角に向かって目を凝らした。
すると、見えてきた!
距離にして約300メートルほど。
木々の隙間から、動き回っている生き物の姿がチラチラ見え隠れしている。
「いるね! ひぃふぅみぃ、5匹いるよ。」
これまでに見た人間に化けた小鬼とは違って、5匹共お揃いの装束を身に着けている。
服ではない、装束である。
世界中探しても人間の文化圏ではお目に掛かれない、小鬼たちの異質で独自な文化によって仕立てられた奇妙な衣服である。
手足に小手や脛当てが付いているので戦闘用であるらしい。
全体的に色は地味で派手さは無いが、構造はシンプルではない。
やたらと付け飾りが多いようだが、それは身体の輪郭が掴めないような工夫ではないだろうか。
おそらく、戦闘時に急所を守るためだろう。
但し、小鬼たちの様子を見ると、動きやすく軽量にできているようだが強度は大したこと無さそうに見える。
まあ、戦ってみないことには何ともいえないのだが。
『全部が小鬼だ。鬼はいない。』
ヤツらが見張りだというなら当然だろう。
ボスは、その向こうにいるということだ。
ところで、
「鬼って相良のこと? 」
『そう。警察や自衛隊はオーガとか呼んでる。』
「オーガ! ボスキャラでしょっ! 」
ファンタジーの世界では、中ボスクラス以上の扱いで度々登場するお馴染みのモンスターである。
そんな強力なモンスターの名前をいただいちゃってるなんて、
『けっこう、強いぞ。』
そりゃ、そうでしょうとも。
相良の車に同乗した時に、それは思い切り感じた。
私なんかがリミッター解除したって絶対に敵う相手じゃないと思ったし、魔力結石を飲み込んだ後に見た変身後の相良なんて、私なんかじゃ瞬殺されてしまうレベルだろう。
『でも、オレの方が強いけどなっ。』
シデンが相良の片腕を捥ぎ取って逃走させたって話を聞いた時、
(このワンコ、どんだけ強いのよ! )
ってビックリして尊敬しかけたけど、こういう鼻息吐きながら自慢気にしてるとこ見せられると、その気持ちが失せてしまう。
ホント、神さまだってんなら、もう少し威厳を見せらんないもんかね?
色んな人が敬ってるみたいだけど、皆はこいつの性格とか知ってるんだ追うか?
知ってたらがっかりだろうねぇ。
『お前とは、そのうちにジックリと話し合わなきゃならんみたいだが、今は目の前の敵に集中するぞ! 』
こういう勇ましいとこは悪くないんだけどなぁ。
私はOKと返事して、心の準備。
それと、自衛隊さんから借りた“89式小銃用多用途銃剣”も準備。
拳銃なんか使うつもりは全く無いし、序盤に閃光発煙筒を焚くわけにはいかないので、それは仕舞っとく。
「あ、それとさ、ちょっと! 」
『何? 』
「ちょっと、尻尾貸して。」
『は? 』
シデンに有無を言わさず、そのモフモフな尻尾を引っ張り寄せて、暫くその感触を楽しむ。
「ああ、これで何とか心が落ち着いたわ~ 」
『何考えてんだよ? 』
緊張してる時に目の前にモフモフがあったら、使わない手は無いでしょう。
私は愛犬家なんだから、どんなにクソ生意気で、どんなにムカつくワンコでも、尻尾のモフモフはお宝なのよ!
「ついでに頭も撫でさせろ! 」
『このやろ! どこまでもオレを犬扱いしやがって! 』
とか、言いつつ抵抗しないじゃん。
ワンコなんだから、撫でられるの大好きって言ってりゃ良いんだよ。
『・・・ 』
暫し、ワンコの毛並みを堪能した後、
「さあ、充電完了! 小鬼をやっつけに行きますかっ! 」
そう言って背中を叩いたら、シデンが呆れ顔で私を見ていた。
そんなんシカトして、さっさと前に進もう!
「んで、作戦は? 」
『そうだなぁ・・・ 』
と、シデンは数秒間考えてから、
『雷でも落としてみっか。』
「アホかい! 」
序盤で敵に見つからないようにと閃光発煙筒を止めておいたのに、雷撃してどうすんじゃ!
『どうせ、オレらの接近なんて気付かれてんだから、慎重にいったって意味ねぇーし。』
そうだとしても、今から攻撃開始しまーす! とか、そっちに向かいまーす! とか言いながら攻めていく必要なんて無いでしょう。
敵のアジトに踏み込むとき、普通は見張りなんて足音忍ばせて近付いて後ろからブスッとでしょう。
だいたい、小鬼の兵力がどれほどのモノなのか分からんのに、いきなり大量破壊兵器をぶちかますなんてダメでしょう。
『つまらん! 』
つまんないとか言った?
何なの? このワンコ!
「飛び道具は、相良相手にぶっ放せば良いじゃん! 今は、音も無く忍び寄ってブスッとできるんでしょ? 」
小鬼の5匹くらい静かに殺れないでどうする?
相良が私たちの接近に気付いてたとしたって、攻撃を仕掛けてくるタイミングや、どの方角から攻めてくるのかなんてことは分かんないだろうし、馬鹿正直になる必要は無い。
『忍者みたいにしろってんならできるけどさぁ。それよりも、お前はできるんかい? 』
シデンは、私が懐に手を入れて銃剣の柄を握りしめてる様子を見て言っているんだろう。
これから、銃剣を抜いて小鬼を殺れるかってことを聞いているんだろう。
その答えは、
「できるよ。」
と、あっさり。
私は、もうウジウジ悩むのは止めたのだ。
私が戦うことで、私の親しい人が生き延びれるなら、幾らでも敵をやっつけてやると決めたのだ。
それに、
「“あじさい” のオジサンやオバサン、仁太くんを殺したヤツらだよ。汐見さんまで殺され掛けたんだし、ここで殺っとかなきゃダメでしょ。」
そういうことなのだ。
『良い返事だ! 』
シデンに褒められた。
少しは嬉しくないでもない。
『ただ、ナイフで戦うなんて初めてだろ? できんの? けっこうグロくてエグいぞ? 』
その点は、全く問題無し。
私のメンタル強度は、デュー■東■さん並み。
『んじゃ、二手に分かれよう。お前は左、オレは右から行く! 掛かれの合図は念で送る。』
「OK! 」
遂に始まった!
世界を救う私たちの戦いのゴングが鳴ったっぽい。




