洲崎! あんたってホントどうしようもない!
瞬き一つせずに見据えた私の視線の先では、洲崎と小鬼が大慌て、大混乱中だった。
私が放った3本の杭は大当たり。
1本も無駄にならなかった。
杭が側頭部に突き刺さって、頭が半分消し飛んでしまった小鬼。
胸を刺し貫かれて即死した小鬼。
そして、3本目は洲崎の左大腿部に深々と突き刺さった。
「ひぃーっ! 痛い! 痛いぃ! 痛うぐぅーっ! 」
人を平気で苦しめて殺す癖に、自分が傷ついたら無様に悲鳴を上げるなんて。
荒川河川敷の時もそうだったが、つくづく最低の男である。
なぜ、相良はこんなヤツを手下にしたのだろうか?
その意図がさっぱり分からず、首を傾げたくなる。
(おっと、今は首を傾げてる場合じゃないでしょ! )
情けなくも左足を押さえながら蹲って泣きじゃくる洲崎より、残った小鬼3匹の方が遥かに高い戦闘意欲を見せているので、そっちを何とかしなきゃなんない。
小鬼たちは、杭が飛んできたのと同じ方向から猛ダッシュで突っ込んできた私を視認するや否や、忽ち混乱から覚めて、仲間の死など気にも掛けずに迎え撃とうとして身構えた。
こういうとこは敵ながら天晴だと思う。
立派な“シ〇ッ〇ー戦闘員”になれそう。
でも、
「ノロマなんだよ! 」
私の速度には3匹共、全くついて来れていない。
「さて、どいつからにしよう? 」
私が真っ先に相手に選んだのはマチェットを構えた1匹。
戦うに当たり、武器らしい武器が欲しかったので、刃渡り50センチ以上は有りそうに見えるマチェットはとっても魅力的で、奪い取ってやろうと思ったのだ。
そんな意図を以って一気に距離を詰める。
ブン!
私の接近を阻もうとした小鬼が水平にマチェットを払った。
でも、それは空振り!
小鬼は、当たりを確信して振り切ったマチェットに手応えが無く、目の前に迫っていたはずの私の姿が突然視界から消えてしまってポカンとしていた。
「マヌケっ! 」
私は小鬼のマチェットが届く寸前で、ヘッドスライディングの要領で姿勢を下げ、地面スレスレに突っ込んでいたのである。
左手を突いて回転軸とし、地面への接触をギリギリ避けながら、小鬼の斜め後ろへ抜けるようにクルリと方向転換した。
そして体勢を整えながら、小鬼の背後に回り込み、その背中に杭を叩き込んだ!
ギャッ!
短い悲鳴を上げてから小鬼は絶命して倒れ、取り落したマチェットは私が拾った。
(良いマチェットじゃん! )
ホームセンターやキャンプ用品店に売っている程度の品だが、ステンレス製で軽いし、グリップも手頃な太さだし扱いやすい。
(んじゃ、早速っ! )
マチェットを手にして直ぐ、私は間を取ることなく次に狙っていた警棒持ちの小鬼に向き直って、その真上から脳天に向けて刃を叩き落した。
ドシン!
切ったというよりは圧し潰した感じ。
小鬼の頭はマチェットの一撃で粉砕され、私は血と肉と脳漿と頭蓋骨の欠片をモロに浴びた。
(今、この姿で誰かに会ったら間違いなく警察に通報よね。)
なんだか今日は “あじさい” から始まって、血やら肉やらを被りまくりである。
目に見える手足や衣服はもちろんだが、顔や髪の毛を触ってみれば、返り血やなんかで、ヌラヌラ、カピカピになっていた。
(今って、相良の車の窓に映ってた姿よりも、もっと凄いことになってるよね、絶対!)
まあ、今更、そんなこと気にしてもしょうがない。
気持ち悪いとか、生臭いとか、もう何とも感じなくなった。
(だって、未だ終わってないし! )
小鬼は残すところ1匹。
こいつも武器はマチェットである。
瞬時に2匹倒されたのに、戦闘意欲は未だ旺盛らしく、私がこいつも一撃で仕留めてやろうとして振り下ろしたマチェットを、なんと自分のマチェットで受け止めた。
ガキッン!
と、金属同士のぶつかり合う音がして、
「アッ! 」
私のマチェットが中ほどから真っ二つに折れてしまった。
折れた刃先がクルクル回りながら飛んでいってしまい、その直後に私の目の前には小鬼のマチェットが迫った。
シュッ!
と、空気が避ける音。
咄嗟に上体を捻ってかわしたが、マチェットの刃が右の頬を掠った。
「しまった! 」
武器を失ったことで、それまではスムーズだった私の戦闘動作に躊躇いが生まれ、リズムが狂った。
体勢を立て直す暇もないところに、第2撃目が襲ってきた。
「くっ! 」
ここで、小鬼のマチェットなんて食らうものかと咄嗟の判断が出た!
「こんちくしょーっ! 」
私は折れたマチェットは即座に捨てて、開いた右手で小鬼のマチェットをガッチリと掴んだ。
刃が掌に食い込むのも構わず、小鬼の動きを止めようとの一心であった。
一瞬、小鬼と至近距離で目が合ったら、私の無謀な行為を見て茫然としていた。
なんて馬鹿なことをするヤツだって目をしている。
でも、私だって被害は最小限度に抑えなきゃと思って、持ち手に近いとこを受け止めたので、そんなに大怪我はしていない・・・めっちゃ痛いけどね。
でも、そのおかげで、
(隙アリ! )
ほぼゼロ距離で私が繰り出したのは右膝蹴り。
それが小鬼の下腹部に突き刺さると同時に、
ゴッ!
と、重たく鈍い音を響かせて、私の頭突きが小鬼の顔面にメリ込んだ。
顔面陥没! 小鬼を即死させた手応えを感じた。
(これで、お終い! )
崩れ落ちる小鬼を眼下にして、ふと思った。
(なんか私って、超強過ぎじゃない? )
思考加速のおかげはあるけど、いざ戦い始めたら格闘技の達人並みに身体が勝手に動くんで、いつの間にか5匹の小鬼を相手に完全勝利。
強くなった理由は色々聞かされたけど、ここまで凄いとは我ながら驚いてしまう。
ちょっと人間離れし過ぎてんじゃないだろうか?
一応、一般女子高生なんで不安になってしまう。
(こういうのは、ひと段落してから改めてシデンとじっくり話し合ってみなきゃねぇ。)
でも、今、この場では、そんなこと考えてたってしょうがない。
これで小鬼はお終いだから、あとは洲崎にとどめを刺すだけ!
それが終われば、後はシデンが相良を倒して戻ってきてくれたなら完全に戦闘終了、万事解決である。
「ふっ~ 」
決着が見えたことで、張り詰めていた心が少し軽くなった。
というよりも、ホンの僅かだが緩んでしまった。
既に傷ついている洲崎を仕留めるのなんて簡単なことだと思って、油断してしまった。
「あつっ! 」
胸に激しい痛みが走り、眩暈がして、手足の関節から自由が奪われた。
(何これ?! )
2本の細い針金のようなモノが、胸に刺さっていた。
その針金を目で追った先には、銃のような形をした武器を構えた洲崎がいた。
足に杭を刺したまま、地面に尻餅を突いたような体勢の洲崎が構えていた武器は、
(テーザーガン? )
そんなモノを用意していたとは迂闊だった。
小鬼の持つ鈍器や刃物に気を取られて、飛び道具の存在には思いが及んでいなかった。
「ヒヒッ! 手に負えない猛獣を躾けるには、こういうのが一番なのさ! 」
洲崎が吐き捨てるように言った。
無様に泣き叫んでいたこともあって、洲崎からは戦う意思など失せてしまったものと早合点してしまっていたが、これは大間違いだった。
元人間とはいえ、洲崎も今は血に飢えた異世界のバケモノと一緒。
戦って敵を殺すことに喜びを感じるバケモノなのである。
そう簡単に戦いを放棄するわけが無かったらしい。
(でもね、そんな電撃じゃ私は止めらんないよ! )
超能力で強化された肉体には、テーザーガンのダメージなど瞬間的なモノでしかない。
そんなモノは10秒もあれば回復できる。
動けるようになったら、直ぐに洲崎にとどめを刺して、この戦いを終わらせてやる。
胸に刺さったケーブルを素手で鷲掴みにして引き抜くと、テーザーガンのショックがアッと言う間に引いていくのが分かった。
痛みもあっさりと消え、直ぐに手も足も動くようになった。
「つまんない悪足掻きだったね! 」
形勢逆転のつもりで撃ったテーザーガンに何の効果も無かったことで、洲崎も今度こそヤバいと思ったようだ。
そこで、相変わらずの、
「や、止めてくれ! 助けてくれ! 殺さないで! 」
またもや命乞いである。
この男、無様とか、格好が悪いとか、そういう羞恥に繋がる感覚の持ち合わせが無いのだろうか?
まったく、悪役のテンプレみたいなヤツである。
「見っともなく命乞いしてる割に、アレは何なのかしら? 」
そう言いながら、私は握った右拳に親指を立てて自分の背後を指し示した。
振り返りはしなかったが、私の背後にナニモノかが迫って来ているのかは見なくても分かる。
それは、もちろん巨大イカ。
移動する音が大きくて独特だから、こっちに近付いて来ていたのは丸分かりである。
これこそが、洲崎にとって正真正銘最後の切り札である。
とんでもなく大雑把な切り札ではあるが、この場を掻きまわされたら洲崎が逃げる時間稼ぎぐらいはされちゃうんじゃないだろうか?
でも、その前に私は決着付けるつもりでいるし。
「あんたねぇ、命乞いしたいなら、まずは私の背中を狙ってる馬鹿デカいお友だちを止めなさいよ! まさか、あんなノロマなデカブツで私を倒せるとは思ってないでしょ? 」
ここで洲崎が巨大イカを止めたからと言って、見逃すつもりは無い。
こいつはここで終わり。
私が始末をつけてやる!
これまで、この男には随分倒錯したセリフばっか聞かされてウンザリさせられてきたわけで、ろくでもない変態野郎だってのは知っている。
だから、私の手に掛かって死ぬのは、もしかしたら惚れてた女に殺されるんだから悪い死に方じゃないとか思ったりするのかもしれない。
(そういうのウザイんだけど・・・ )
でも、洲崎を殺すってのは決定事項。
私としては、ありったけの怒りと憎しみと蔑みを込めて、ぶっ殺してやるつもり。
「さぁてとっ! ・・・っ? 」
“覚悟しろ!” とか続けて言ってやるつもりだったのだが、言葉が出てこなかった。
また、テーザーガンを使われたとかではない。
これは、そんな一時的なショックじゃない。
(しまった! 時間切れか?! )
リミッター解除の限界がきていた。
汐見さんの傍を離れてから、既に5分以上経過していたのだ。




