なんでナツキ? ってか、またイカ? なんでこんなモノ渡すの汐見さん?
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変身を終えた相良の姿、日本人である私がイメージできる、それに一番近いビジュアルは、
「鬼! 」
日本の昔話が載った絵本の挿絵でお馴染みの姿を実際に持つ怪物が目の前にいた。
近頃の子どもや若者なら鬼というよりはゲームなんかで登場するモンスター “オーガ” なんてのをイメージするかもしれないが、この際どっちだって良い。
兎に角、かつて私がクラス担任として、頼りになる大人として接していた相良が、こんな異世界の怪物だったことは衝撃だった。
しかも、
(こいつ、パワーアップしてる! )
魔力結石を取り込んで、元々私なんかじゃお手上げのバケモノだったのに、強さのオーラが格段に上昇してしまっている。
『カッカッカッ! まずは犬っころを平らげて、その次は皇帝を倒してオレが取って代わり、あらゆる生き物を跪かせてやる! 』
私は、相良が放つ凄まじいオーラの前に、暫し呆然としてしまっていたが、
「しまった! 」
自分が小鬼との戦闘の真っ最中だったことを思い出し、あからさまな隙を見せてしまったことに気付いて慌てた。
だが、その必要は無かったらしい。
小鬼たちは私との戦闘を忘れ、揃って地面に膝を突き、相良に向かって頭を下げている。
(おいおい、洲崎までかよ! )
いつの間にか車の中から這い出していた洲崎が、小鬼たちと同じように相良を拝んでいる。
(圧倒的強者の礼賛ってこと? これが異世界のルール? )
とんでもない連中である。
筋肉ゴリゴリで強いヤツが王者として礼賛されるなら、こっちの世界じゃ大統領や首相になるためには格闘技チャンピオンにならなきゃならないってことである。
(しかも、人殺し! 大量殺人鬼だぞ! )
異世界からの侵略が成功したら、そんな常識が罷り通る世界になってしまう。
「冗談じゃない! そんなんなってたまるか! 」
私の口を突いて出た叫びに応えるかのように、黒雲の中から立て続けに3本、これまでで最も太い稲妻が海上に落下し、殆ど時間差無く爆音を響かせた。
「シデン! 」
喉の奥から絞り出せる限りの最大ボリュームで、その名を呼んだ。
返事は無かったが、その存在はビリビリと伝わってくる。
パワーアップした相良を倒せるのは、シデンしかいない。
「シデン! 」
もう一度呼んだ。
いつものように、偉そうな、生意気な口調で返事をして欲しかった。
だが、
『オレは今から、犬っころを始末してくる! 後はお前に任せた! しくじるなよ! 今度しくじったら、その女はオレのモノにして、お前はZ&XX#$の餌だ! いいな! 』
相良はそう言い残して地面を一蹴りし、その巨体を空中に躍らせた。
そして、まっしぐらに黒雲の中央を目指して飛んで行った。
(鬼が空を飛ぶって? 重力無視なんて、もう無茶苦茶だよ! )
シデンVS相良! どんな戦いが始まろうとしているのか、全く見当もつかない。
人知を超えた戦いになるのは間違いなくて、私にはそれを見守ることも加勢してやることも不可能。
今、私にできることは、限られている。
だから、その限られたことをするしかない。
相良には太刀打ちできないけど、私にも戦うべき相手がいる!
『サヤチ! 頑張って! 』
ナツキの声がした。
空耳ではない。
気のせいでもない。
ハッキリとした声が私の頭の中で響いた。
『サヤチなら大丈夫! 絶対に負けないから! 』
間違いない!
大好きな親友の声が、シデンのテレパシーみたいに頭で直に聴こえる。
「何? どういうこと? ナツキ? 説明して・・・! 」
何故、声が聴こえるのか?
その理由を知りたかったが、答えを待つ余裕は失われた。
「なんなのよっ! もうっ! 」
私は、改めて動き出した悪意と殺意から逃れるべく、汐見さんの身体を抱いて跳躍していた。
着地場所は最も近いコンテナの上。
「なんだよ! 逃げ足は反則級だなぁ。」
今まで私が立っていた相良の車の横には、すっかり立ち直った様子の洲崎がいた。
先ほどまで相良の姿に跪いて拝んでいた5匹の小鬼たちも、既に戦闘態勢に戻っていた。
(相良に比べたら、小鬼なんてザコ! 洲崎だって敵じゃない! でも、汐見さんを安全なトコに隠さなきゃ戦いようが無いよ。)
ナツキの声が聴こえた理由は後回しにするしかない。
できれば、今直ぐにでも汐見さんを病院に連れて行ってやりたいのだが、それも絶対に無理だった。
洲崎と小鬼を倒さなければ、この場を離れられない。
(何処か戦闘に巻き込まれずに済むトコはないの? )
思考加速!
周囲360度の情報が一斉に流れ込んで来る。
だが、安全な所など何処にも無かった。
私が傍にいれば、そこは常に危険地帯になる。
安全な所は、私のいない所。
でも、それじゃあ汐見さんを私が助けようとしていること自体が矛盾となってしまう。
(そうじゃなくって! あーもう! )
思考加速しても、頭が良くなるわけじゃない。
そんなに簡単に、ピンチを切り抜けられるアイディアなんて浮かぶわけない。
自分の不甲斐なさに頭を抱えていた時、
「ん? 何だコレ! 」
今、立っているコンテナの真下の地面の中から、とんでもなく暴力的な気配が迫ってくるのを感じた。
「ヤバッ! 」
間一髪! 再度の跳躍で私は30メートル以上も空中を移動し、別なコンテナの上に着地した。
「痛ぅ!」
硬いコンテナの上に、汐見さんを抱えての着地。
怪我こそしていないが、思い切り脚が痛い。
そもそも、リミッターが解除されているとはいえ、30メートルなんて、そんな馬鹿みたいな距離の跳躍できるはずがない。
私が跳躍に入る直前、突然地面が爆発し、吹き飛ばされたコンテナがブースターの役目を果たしてくれたのだ。
「また、あいつか! 」
土砂とアスファルトの破片、コンテナやパレットの残骸を巻き上げながら、地面を爆発させたとんでもないヤツが姿を現した。
「シデンに殺られたんじゃなかったのか? もう一匹いたのかよ! 」
巨大な10本の触手が宙を舞っていた。
そして、荒川河川敷のグラウンドに現れた時は最後まで姿を見せなかった本体が、地の底から這い出そうとしている。
それは忘れようの無い、学校の生徒や先生を大勢殺しまくった異世界の怪物。
洲崎が召喚し操る、巨大イカのバケモノだった。
「№〷&〇§~ ! 学校の時は残念だったけど、こいつが本気出したらメチャクチャ強いってとこ見せてあげるからね! 」
何だか洲崎が勝ち誇ったように叫んでいる。
確かに巨大モンスター召喚なんて反則技を出されたら、殴る蹴るは大したダメージにならなさそうだし、肉弾戦に特化してる私じゃどうやって戦ったら良いか分からない。
でも、
(あいつ、馬鹿だな! )
巨大イカがダイナミックな登場をしてくれたおかげで、洲崎たちと大きく距離を取ることができた。
私は一旦戦うのを止めて、コンテナを飛び降り走った。
そして、洲崎たちの目の届かないコンテナヤードの端まで行って、そこに停めてあったフォークリフトの運転席に汐見さんを乗せた。
「5分以内に蹴りつけます! それまで、ここにいて下さい。」
意識の無い汐見さんの耳元で、そう言い残してから戦闘に戻ろうとした私だったが、
「・・・さや・・・ちゃん。」
汐見さんが口を利いた。
意識を取り戻したというわけでは無さそうだが、朦朧とした状態であっても微かに口を利けたなら心強い。
「汐見さん! 無理して喋らなくても良いですから。」
汐見は口を利くだけでなく、身体を捩って自力で動こうとしていた。
大怪我をしているのに、それは明らかに無茶だった。
「止めて下さい! じっとしてて下さい! 」
そう言いながら私は汐見さんの身体を押さえ付けたのだが、
「オレの・・・ベルト・・・腹んトコ・・・持ってけ。」
汐見さんが無理矢理頭を動かして視線で自分のヘソの辺りを示しているのに気づいた。
「え? なんですか? 」
汐見さんの視線を追った先にあったモノは、
「ええっ! 」
ヤバいモノを見てしまった感じ。
でも、汐見さんは警察の人だから持っていて当然なのだが、一般人の私は初めて見るホンモノである。
「これ・・・そこそこ・・・使えるから・・・ 」
汐見さんは、そこまで言うと再び意識を失ってしまった。
私は驚かされたままで、一人取り残されてしまったわけだが、
(使えるからって言われたって、私、こんなモノ使い方知らないんだけど? ってか、こんなん私が使ったら法律違反じゃないの? )
汐見さんに促されるまま、思わず手に取ってしまったのは、自動拳銃グロック19だった。




