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汐見さんっ! 絶体絶命?

ネットワークの不調でアップするのが遅れてしまいました!

失礼しました!

 (あの車の中で何が起きてんだ! )


 古びたコンテナの陰に身を隠し、汐見は歯噛みしていた。

 渋滞に巻き込まれた後、無駄に動き回ってしまったせいで大失敗をやらかした。

 自分が責任を以って守るはずだった紗耶香を拉致されてしまった。

 相良とかいう偽教師は、あんなボロボロの車で、どんな騙し文句を並べて紗耶香を攫ったのか?


 (くっそーっ! ふざけやがって! )


 追跡の途中、相良の車内では、ひと悶着起きていたのが見えた。

 だから、今は既に紗耶香が相良の正体に気付いているはず。

 そして、汐見が追跡していることにも気づいている。

 こちらに向かって何事か叫んでいるのが見えたので間違いない。

 何を言っているのか分からなかったが、


 (やっぱ、あれはオレに向かって、必死で助けを求めてたってことだろ。)


 実は、紗耶香は汐見に警告を発していたのだが、そんなこと伝わるはずもない。

 汐見の頭の中は、“如何にして紗耶香を無事に救い出すか?” それしか無かった。


 (はぁ、オレも無謀なことするよなぁ。)


 相良は異世界の魔人オーガである可能性が大きい。

 オーガの恐ろしさはドイツや中国で起きた事件の資料を読んで知っている。

 どんなに頑張ったって、人間が一人で立ち向かえるような相手ではない。

 何の策も無く、勢いと運で戦って勝てるような相手ではない。

 汐見が身に付けている唯一の武器、懐の自動拳銃 “グロック19” は、人間や小者相手ならば十分に威力を発揮してくれるだろうが、オーガなんて破格なバケモノ相手では掠り傷を負わせられるかどうかさえも怪しかった。

 防弾防刃ベストは着こんでいるが、そんなものオーガの爪の前ではボール紙程度の役にも立たないだろう。

 そんなだから、追跡の最中から今に掛けて、心の中では葛藤が続いていた。

 応援を待って、十分な体制を整えてから挑むのが正しい。

 追跡中に公安本部に連絡して、対オーガ作戦用の応援要請はしておいたから、間もなく警視庁の特殊急襲部隊か、自衛隊の特殊作戦群が駆けつけてくれるはず。

 だが、自分が何もせずに援軍を待つだけでいたら、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 紗耶香を助け出すことができなくなってしまうかもしれない。


 (結局、オレが何もしないってわけにはいかないだろう! 応援が到着するまでの時間稼ぎができれば良いんだ。何とか隙を見つけられたら、せめて車の外に出てさえくれたなら、紗耶香ちゃんを助けるチャンスが生まれるかもしれないんだが・・・ )


 汐見は葛藤しながらも、身体は勝手に動いている。

 たった一人でオーガに挑もうとする無謀を押し留めようと、頭の中では妻や一人娘の姿が何度も過っていたが、それでも足は止まらない。


 (オレが死んだら家族が悲しむし、紗耶香ちゃんも助からない。そんじゃ、生きて何とかするしかないじゃんよ! )


 ここまで来たら開き直るしかない。

 これでもベテランの警察官であり、公安の捜査官エージェントである。

 過去に何度も絶体絶命と思われたピンチを潜り抜けてきたという自負もある。


 (やってやるぜ! )


 汐見は相良の車の行方を確認した後、自らの車はコンテナヤードの外、通行人の目に触れそうな場所に一旦戻って停めておき、ここまでは徒歩で忍んできていた。

 追跡していたことはバレバレなわけだが、車から離れて大量のコンテナや木材でできた迷路の中に入り込めば、そう簡単に居場所を突き止められたり、待ち伏せは受けないはずと読んでのことである。

 それに、ここは障害物だらけの場所なのでゲリラ的な戦闘も十分に可能と思われる。


 (だが、紗耶香ちゃんまではちょっと遠すぎるな。)


 汐見が身を隠しているコンテナの陰から、相良の車までは20メートル以上もある。

 夜間なので他に駐車している車が無く、彼我の間に隠れられそうな障害物が無いので、敵に気付かれずにこれ以上前進するのは不可能であり、今いる場所がギリギリの最前線である。

 しかも、相良の車が停まっている位置は街灯から遠いし、周囲のコンテナが落とす影が邪魔になって車の中が良く見えないときている。

 紗耶香と相良が何事か話しているということぐらいは分かるが、助けに飛び出すべきタイミングを計ることはできずにいた。


 「オッサン、覗き見? そういうの良くないんじゃない? 」


 突然、声が掛かった!

 若い男の声!

 汐見は慌てて振り返ったが背後には誰もいない。


 (上か?! )


 懐に手を入れグロック19のグリップを握りながら、2段に重なったコンテナの上に目を向けた。

 すると、そこには10人前後の人影があった。


 (しまった! いつの間に? )


 相良の車に気を取られ過ぎていたとはいえ、コンテナの上を接近する足音も気配も感じさせずに移動して、汐見を取り囲んでいるなど、


 (こいつらもバケモノか? )


 汐見が心の中で呟いた問いに応えるようにして、人影の中で一番背の高い男? が2段重ねで6メートル近くもあるコンテナの上からフワリと飛び降りてきた。

 重力を感じさせない、逆噴射装置でも備わっているかのような不自然な降下は、それだけで人間技で無いのが分かった。


 「ケッケッケッ! オッサン、観念しなよ! 」


 微かな街灯の光に浮き出た顔は、高校生ぐらいの歳の少年のモノだった。

 ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、汐見の前に立った少年。

 汐見に面識は無いが、思い当たる節があった。


 (こいつが、紗耶香ちゃんの高校を襲った主犯の一人か! )



 ◇



 怒りが殺意に変わる、その境目に私はいた。

 もしかしたら、今ならば私は相良を殺せるのかも知れない。

 そんな風に思えていた。


 (でも、私の力じゃ、こいつには敵わない。)


 返り討ちにされるに決まっていた。

 私を自分の女にしようだなんてふざけた言い様に腸が煮えくり返っていたが、その口を塞ぐことができない苛立たしさで気が狂いそうだった。


 「まあ、その結論は後のお楽しみに取っておくとして、まずは車を降りてもらおうか。」


 そう言って相良がセーフティロックの解除ボタンを押し、自分もシートベルトを外して腰を浮かし掛けた。


 (今! 相良が車を降りる隙を狙えば・・・ )


 チャンスは一瞬。

 相良がドアから出ようと姿勢を崩したら、その隙に私が飛び出して一番近くにあるコンテナの陰を目指して走る!

 距離はせいぜい15メートルか20メートルくらい。

 私の脚力なら2、3歩で到達できる。

 ところが、


 (くっ! )


 いつの間にやってきていたのか?

 全く気付かないうちに、10名ほどの人影によって車は取り囲まれてしまっていた。


 「僕が隙を見せると思った? そんなわけないでしょ。」


 相良は私の狙いに気付いていたのだろう。

 運転席のドアを開けながら、飽きれたように言った。


 「とりあえずは降りてくれないかな。ウチの部下は待たすと機嫌悪くなっちゃうからさ。」


 ここは従うしかなかった。

 勢いで逃げ出すのは無理。

 ならば、次は洲崎でも小鬼でも相手は誰でも良いから乱戦に持ち込む作戦で、


 (たぶん、この近くの何処かに潜んでいるはずの汐見さんとの合流をめざす! そして、相良との距離が取れたらシデンに救けを求める! )


 それで行くしかない!


 「神月さん、お久しぶり。会いたかったよ。」


 警戒しつつ車を降りた私に、聞き覚えのある声が掛かった。


 (洲崎! )


 思わず悪態を吐いてやりたくなったが何とか堪え、周囲を取り囲む人影の中から、その所在を確かめようと見回した。


 「こっちだよ。」


 声のする方向、車の正面方向から声がした。

 

 (あ? )


 そこには暗がりでも見間違えようがない、あの憎たらしい洲崎の姿があった。

 洲崎は小脇に何か大きなモノを抱えている。


 「ああ、これね。ここに置くわ~ 」


 洲崎は、そう言って抱えていたモノを私の足元に放ってよこした。

 軽々と、そしてワザと無造作な感じで、私に見せつけるようにして転がしたモノは、


 「なっ! し、汐見さん! 」

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