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ナツキは何を言いたかったのかな?

 ナツキのお見舞いを終えて病院を出たのは16時半を過ぎた頃。

 長い時間の面会はできないからと毎度言われていたが、この日は小一時間も一緒にいることができた。


 ナツキは寝たきりで未だに口が利けないので、ベッドの横に座って私が一方的にお喋りし、彼女がそれを聞きながら頷いたり首を振ったりという感じのお見舞いだったが、喜んでくれているようで安心した。


 「早く元気になってね。」


 頷くナツキを見て嬉しくなった私は、ついつい調子に乗って時間を忘れてしまい、看護師さんに注意されてから漸くお暇しようと腰を上げたところ、それまで笑顔でいたナツキが唐突に真剣な表情を見せた。

 私が帰ろうとしたので、残念がっているのかと思ったが違うようだった。

 口をパクパクと動かしながら、何かを伝えようとしている。


 「どうしたの? 何か話したいの? 」


 私は、彼女に口元に耳を寄せた。

 すると、ナツキの唇から洩れる、消え入りそうなほどに微かな声が聴こえた。


 「サヤチ・・・アブナ・・・マヨッタラ・・・ダメ・・・マケタラ・・・ダメ 」

 

 ナツキは、それだけを絞り出すように口にした後、疲れてしまったようで目を閉じて眠ってしまった。


 (私が危ないって? どういうこと? 何に迷うの? 何かに迷ったらダメなの? )


 いきなり、弱っているナツキが力を振り絞って口にした警告めいた言葉。

 その意味は、申し訳無いんだけどさっぱり分からない。


 (嫌な夢でも見たのかなぁ? )


 ナツキの精神状態は未だ正常とは言えない。

 PTSDらしき症状が時々見られると母親から聞いてもいたが、あの荒川河川敷での忌まわしい事件からずっと彼女の心は不安と恐怖の中にいるのではないだろうか。


 (もしかしたら、覚めてても悪夢の中にいるような感じなのかな? )


 だとしたら、それは辛すぎる。

 いったい、そんな状態がいつまで続くのか、医者でもない私には見当がつかない。

 ナツキの今後のことを心配し始めると、胸が締め付けられるように苦しくなる。

 お見舞いだけじゃなく、私にしてあげられることは他に何か無いだろうか?

 そんなことを考えながら病院を後にした私は、ナツキが頑張って伝えようとしてくれていた言葉の意味については考えることもせず、すっかり置き去りにしてしまっていた。


 (ああ、そうだ。取りあえずバイト行く前にコンビニ寄って、仁太くんのお土産買ってくかぁ。)


 ナツキのことは気掛かりだが、バイトはバイト。

 お仕事はキチンとしなけりゃならない。

 それに、仁太くんへのお土産選びは気持ちの切り替えに丁度良かった。


 (あの子、辛党だって言ってるけど、どこまで耐えられるか試してやろう。)


 確か、新発売の超激辛スナックがあったはず。

 未だ食べてないとか言ってたから、悪戯気分で買って行ってやることにした。


 ってことでコンビニに寄り道した私は、買い物を済ませてから “あじさい” に向かった。

 その途中で、何となくだが気が向いたので遠回りして、今となっては思い出の地 “シデンと出会った公園” を覗いた。


 (もう、ここにはシデンがいるわけなんてないんだけどさ。)


 シデンが最後に顔を見せたのは4日前のことである。

 その以前も週に1回か2回姿を見せるぐらいだったし、ここ最近は通り掛かりに寄っただけみたいなパターンが多くて、泊まったり長居することなんて殆ど無い。

 4日前だって、ご飯食べて一息吐いたら直ぐにまた出掛けてしまった。


 (忙しいんだって言われたら、それまでなんだけど、なんかつまんないよ。)


 一人ぼっちには慣れてるんだけれど、置いてけぼりにされ続けるのはちょっとねって感じ。


 「はぁ~。」


 溜息出るのもしょうがないと思う。


 (ひと休みしよ。)


 別に疲れているわけじゃないけど、公園のベンチで小休止することにした。

 未だ17時だし、バイトの前にくさくさした心はスッキリ晴らしとかなきゃならない。

 ついでに、先ほど立ち寄ったコンビニでカイロ代わりに買ってコートのポケットに入れといたホットココアも飲んじゃっておこう。


 (ココアは暖かいうちに飲まなきゃねぇ。)


 プルトップを起こした温かい缶を両手で包み込みようにして一口。

 ココアの暖かくてメチャ甘くてトロリとした喉越しに、少しだけ心が癒された。

 そして、また一口と啜ってたら、

 

 (あ、着信? )


 スマホのバイブが震えた。

 電話じゃなくてLINEだった。


 (汐見さんじゃん。)


 ちょっとだけ嬉しい。

 汐見さんからの連絡は、シデンよりもずっとご無沙汰である。

 2週間ぐらい会っていないし、連絡も来てなかった。

 普段身近にいる人が、何の前触れも無いまま音信が途絶えたっきりになるのは、精神衛生的に好ましくない。

 だから、今日のくさくさした気分の半分はシデン、もう半分は汐見さんのせいなのだ。


 (久しぶりに晩御飯のお誘いなら嬉しいんだけど。)


 そんな期待をしながら開いたLINEのトーク画面のメッセージは、


 < 今、どこにいる? >


 それだけ。


 (なんだろ? 汐見さん、近所にいるとか? )


 つい、キョロキョロと辺りを見回してしまったが、この公園は最近の私にはイレギュラーな場所なので、汐見さんがやってくるはずないと思い直した。


 (そう言えば、私って公安の監視付きじゃなかったのかな? )


 いちいち聞かなくったって、私の現在地なんて簡単に確かめられるんじゃないだろうか?

 でも、公安の監視付きってのは、汐見さんがハッキリ言ってたんじゃなくて、私がたぶんそうなってるんでしょ的に納得してたことなんで、いつもって分けじゃないのかもしれない。


 (しょーがないなぁ。)


 取りあえず返信することにした。


 < これからバイトですけど どうかしましたか? >


 すると、間を置かずに返信が来た。


 < バイト何時までかかる? >


 と、けっこう急いでいるっぽい。

 何か用事があるのは間違いなさそう。


 < いつもと一緒で 21時までですけど? >


 この後、1分ほどの間が明いた。

 たぶん、返信する前にメッセージの内容を考えてたっぽい。


 < 必ず迎えに行くから、バイトが終わっても、絶対に一人で帰らないように! 外に出ないで、建物の中で待ってなさい! 良いね? >


 これは、どういうこと?

 すごく気になるけど、こういう時に理由を尋ねても教えてくれないんだよね。

 汐見さんに限らず、シデンもそうなんだけど、理由も話さないで一方的に指示を出してくることが多い。

 大人ってのは大抵そんなもんなんだけど。

 良いから言うとおりにしろ! って感じである。

 今日は別にバイトの後に用事があるわけじゃないし、断る理由も無いから良いんだけどさ。

 問い詰めるのも面倒なので、


 < 了解しました >


 と、だけ送っておいた。


 (それにしても何なんだろうねぇ、今日の汐見さんってシデンに似てるぞ。)


 LINEを閉じてスマホの時計を見たら、ボチボチな時間になっていた。

 私は残っていたココアを一気に飲み干し、公園内にはゴミ箱が無いので、空き缶はコンビニ袋の中にしまってから腰を上げた。

 

 (ホントに監視はいないのかな? それはそれで不安なんだけど。)


 公園を出て、歩道を歩きながら時々前後を確認した。

 テレビドラマなんかじゃ、ずっと付けて来る車がいたりとか、尾行する人が物陰にはみ出してたりとか、分かりやすいシチュエーションが多いけど、本職ならば素人の私が見つけられるわけがない。


 (でも、公安の監視や尾行が付いてたら、汐見さんから “今どこ” なんて連絡来ないよねぇ。)


 ってことは、今現在、監視の人は付いていないってことになる。

 

 (でもまあ、今日1日くらい監視がいてもいなくても私には関係無いんじゃない? )


 監視の人たちはボディガードを兼ねてると思うんで、私の置かれた現状を考えれば付いててくれた方が有難い。

 但し、アパートの周りはシデンの張った結界だかシールドだかで守られているから、異世界のバケモノは入って来れないと言ってた。

 アルバイトを含め、家の近所に出掛けるだけなら、この1カ月間は何も危険なことなんて起きていない。


 そういう状況が続いてるんで、公安の監視の人も安心して引き揚げちゃったのかもしれない。

 

 (そこんトコ、後で汐見さんに確認しとこう。そんぐらいなら教えてくれるでしょ。)

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