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なんかヤバイことになってる?

 ここは東京湾に浮かぶ江東区の埋立地、人工島。

 時刻は午後の16時半。


 北東南の三方向を水路に囲まれ、人工の森の中に馬術を始めとするスポーツ競技場が設置された都内で最も大きな公園であり、都民の憩いの場である。


 ところで、この公園、わけあって昨夜から閉鎖されている。

 公園だけではない。

 西側に隣接する海運会社やゴミ処理センターも含め、島全体が封鎖されていた。

 島に通じる2本の橋と1本の海底トンネルは通行を遮断され、一般人は全て締め出されてしまっている。

 封鎖の理由は化学物質の流出による汚染。

 トンネルの入口や橋のたもとには化学防護車や除染車が待機しており、防護服を着た自衛官の姿も見える。

 しかし、現在のところ島内にいるのは、千葉県習志野市の駐屯地から派遣された自衛隊特殊作戦群第1中隊の猛者たちのみである。

 化学防護隊ではない。

 そして、島の上空には、高度10から20メートルほどを保ちながら10数機のドローンが飛び回っているが、これらは幅200メートルほどの水路を挟んで南側に浮かぶ人工島に設置された特殊作戦群の臨時作戦指揮所にいるオペレーターが操っていた。


 「島内に敵性生物の存在は確認できません。」


 指揮所の中で、ドローンから送られて来る映像データを確認していたオペレーターの報告である。


 「ということは、全員始末できたと考えて良いのか? 」


 そう応えたのは自衛官ではない。

 ダークスーツにトレンチコートを前開きに着崩している私服警官、警視庁公安部外事四課の汐見である。


 「島内の中隊長からも敵の姿は確認できないとの報告ですな。」


 ここまでの人工島内に於ける作戦の指揮を執っている、一等陸佐の階級章を付けた特殊作戦群長が言った。

 昨夜から現在までの間に島内で行われていたのは、都内に潜伏していた異世界からの侵入者が1か所に集まるという警視庁公安部が入手した情報を基にした、自衛隊特殊作戦群による駆除作戦である。


 < 特殊外来生物駆除 >


 異世界からやってくる危険な生き物は、全てこの対象となるが、それを実行するのは自衛隊の一部部隊と各都道府県の警察に設置された専門部署である。

 警視庁公安部もその1つなのだが、今回の作戦は規模が大きいので、主導するのはあくまでも自衛隊であり、この場における汐見の立場は公安から派遣された監察官、実質はオブザーバーであり発言権は無い。


 「倒した敵の中にBlessed Gemを持っているヤツがいるはずだ。確実に回収するように伝えて下さい。」


 そう要望を述べるくらいしか汐見にはできないのだが、先ほどからオペレーターの報告を聞きつつ違和感を憶えていた。


 ここまでの作戦は順調に進んでいる。


 (島内にいたのは、魔人Type Bugabooバガブーが12体。Type Boggartボガートが41体。特戦群にも負傷者は出たが、その全部を退治できた。作戦は成功ってことだが、本当にそうなのか? そんなに簡単なヤツらなのか? )


 指揮所の中では緊張感こそ維持されていたが、先ほどまで続いていた戦闘時の緊迫感は既に解けかけている。

 それは駆除対象がいなくなり、戦闘行動が終わったのだから当然のことであるが。


 (島にいたバガブー12体は間違いなく先月の下旬から昨日までの間に国内へ侵入してきたヤツらだが、いったい何故集まっていた? それと、41体のボガードは国内で活動していたヤツらだろうが、敵対しているはずの両種族が何故一緒にいた? そもそも、弱っちいボガードが独自では動かんだろうから、ヤツらを兵隊として引き連れてきたリーダー格のヤツがいたんじゃないか? )


 間もなく作戦の終了が告げられ、撤収に掛かるであろう指揮所の中で、汐見は一人作戦の結果に納得できず漠然とした不安に駆られていた。


 そんな汐見の不安を、あっさりと肯定する意見が背後から囁かれた。


 『ボス猿が1匹逃げたな。』


 不意に話し掛けられ、汐見は慌てて振り返った。


 「マカミ様! 」


 そこにいたのはシデン。

 この場ではマカミ様とすべきだろうが、全く気配を感じさせることなく、いつの間にか指揮所の中に入り込んでいた。

 その存在に気付いた数人の自衛隊員が慌てて立ち上がり警戒の姿勢を取ったが、すかさず群長が彼らを押さえた。


 「大丈夫、協力者だ。このお方は私たちの味方だ。」


 その一言で自衛隊員たちは警戒を解いたが、彼らの顔に納得のいった様子はなく、皆が戸惑いの表情を浮かべている。

 そりゃあ、そうだろう。

 彼らは皆が異世界からの侵略者がいることを知っている。

 この世にはいるはずのなかったモンスターの存在を知っている。

 だからこそ、いつの間にか音もなく警戒厳重なはずの指揮所に入り込んできた1匹の大型犬が、只の犬であろうはずが無いと瞬時に判断したのだ。

 群長に敵では無いと言われれば警戒は解いたが、直ぐには納得できるはずもない。

 だが、群長が犬に対して、


 「失礼いたしました。」


 と、頭を下げている様子を見たら、怪訝そうな顔をしながらも、モンスターとは違った意味で只の犬ではないらしいと思い始めていた。

 マカミ様は、そんな周囲の様子など気に掛ける気も無いようで、群長に気にするなと一言言い置いたら、汐見との会話を続けた。


 「ボス猿が逃げたんですか? ちなみにボス猿とは? 」


 『鬼だな。以前から日本国内に潜伏して小鬼どもの指揮を執っていたヤツだ。お前らの呼び名じゃType ogreオーガってんじゃなかったかな? 』


 マカミ様のテレパシーみたいなモノは、この場にいる皆に聴こえていたが、オーガという名称を聞いた途端、指揮所内に動揺が走った。

 汐見も一瞬にして顔色が変わっていた。


 シャルル・ペローの小説 “長靴を履いた猫” に登場する怪物 “オーガ” の名を採った異世界の怪物は、過去に2体ほど確認されている。

 1体目は欧州議会議員に化けていたところドイツ連邦情報局によって正体を暴かれ、山岳地帯に逃げ込んだところを、追撃に当たったドイツ陸軍の特殊戦団によって駆除された。

 しかし、その作戦終了後に精鋭揃いだった特殊戦団の約500名は、たった1体のオーガの反撃にあって半数近い人員を失ってしまったという。

 2体目は中国のIT企業の重役に化けて潜伏していたらしく、これは中国の国家安全部によって処理されたらしい。

 中国は、この事実を国家間の共有情報としていないので、詳細については明らかでないが、各国が行った調査によると人民解放軍にかなりの損害が出ていたということが分かっている。

 つまり、オーガというのはそういう危険で強力な怪物なのである。

 議員や企業の重役に化けられるぐらいなので人間並みの高い知性を持っており、異世界では皇帝を頂点とした国家を築き、協力な軍隊も組織しているらしいと聞く。

 そして、これまで収集した情報によると、異世界に存在する国家や勢力の中でも、こちら側の世界の侵略に最も積極的とされている。


 そんなヤツが日本に潜伏していたと聞かされたら動揺せざるを得まい。


 「オーガ! そんな大物が日本国内に潜伏していたのですか? 」


 『あんなデカブツが、どうやって門の開いていない現状で界渡りできたかは知らんが、こっちに来たのは10年以上前らしい。人間に擬態して普通に暮らしてやがった。オレが出会ったのは最近だが、鬼の中でもかなりの大物だ。おそらく、ヤツらが忠誠を誓っているEmperorだか何だかに先兵として送り込まれたんだろうから、あいつは地位もそこそこ高いヤツなんだろう。実力に関して言えばだな、オレが何度かやり合った感じじゃ、魔力は大したこと無いけど近接した戦いに長けてるって感じだ。そこそこ厄介な相手だったぞ。』


 「異世界の門を開こうとしているのは、オーガなのですか? 」


 『門を開きたがってる奴は沢山いるが、一番熱心なのは鬼で間違いない。あっちの世界は長年種族間で争ってたせいで荒廃してるからな。どいつもこいつもこっちの世界を取り込みたがってやがる。で、今回、アフリカから魔力結石を持ち込んだのはバガブーの勢力だが、それを鬼のヤツが奪い取ったってわけだ。おそらく、お前さんのトコがキャッチしたバガブー情報は鬼がリークしたもんだろう。自分らが暗躍するのにバガブーが主犯だと思わせときゃ都合が良いからな。小鬼ボガードの一部勢力は鬼の手下にされてるから目くらまし用に動員されたんだろう。そんで、自衛隊は邪魔な勢力を排除するのに利用されたってことさ。』


 マカミ様が直に接触し戦ったというなら、オーガの存在については疑う余地など無い。

 異世界に於ける勢力間の綱引きなど、我々より遥かに詳しい情報を得ているはずなので、今聞かされたマカミ様なりの推測も、ほぼ正しいと考えるべきだろう。


 「ボガードがウロチョロしてるからには、背後に親玉のオーガがいるかもしれないとの推測は以前からありましたけど、こりゃあ本格的に対策しなきゃなんないですね。」


 オーガたちの皇帝の先兵として送り込まれた、そこそこの身分を持ったヤツだとしたら、過去にドイツや中国に現れた攪乱目的の自爆テロリストみたいなヤツらとは格が違うかもしれない。

 早速、この件を上申すべく汐見が署に戻ろうと動き掛けた時、

 

 『鬼の件はオレに任せておけ。』


 マカミ様に言われて立ち止まった。

 いつもは温厚な物言いをするマカミ様なのに、今の言葉には激しい殺気が籠っていた。


 「え? 」


 と、言って振り返った汐見が、思わずたじろいでしまうほどの殺気だった。


 『鬼はオレが殺ると言った。あいつはオレの眷属むすめにチョッカイ掛けやがったんだ。絶対に只では済まさん! 』


 汐見はハッとした。


 (マカミ様のむすめって、紗耶香ちゃんのことか? )


 マカミ様は、先月に起きた荒川河川敷のグラウンドでの事件のことを言っているのだろう。

 そして、あの事件の後、公安の調査により事件の実行犯として異世界からの侵略者が化けていた教員1名と、その協力者である洲崎という生徒の名が上がっていた。

 そして、この2人は事件後に姿を消してしまっている。

 洲崎はともかく、教員の方は公安のマル秘情報だったので紗耶香には伝えていない。

 

 (つまり、高校の教師に化けてたヤツがオーガだったってことか?! 公安の情報じゃボガードの上位種じゃないかって言われてたけど、全然違うじゃないか! )

 

 焼き肉屋での面談で、あの事件について詳しい話を聞き取った際、紗耶香から洲崎の名は出ていたが、教員の名は出ていなかった。


 おそらく、紗耶香は知らない!

 薄々勘付いてたとしても、名前を出さなかったのは確信してはいないということ。


 自分に最も近いところにいた先生がオーガという異世界の怪物だったこと。

 おそらく、マカミ様も紗耶香にショックを与えないよう教員の名は伏せていたに違いない。

 その気遣いが裏目に出るかもしれない。


 (しまった! そんなヤツを取り逃がしちまったなんて! マズいぞ! 紗耶香ちゃんが危ない! )

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