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ナツキも目を覚ましたし、私は自分にできることをする

 結局、高校は年内の授業再開ならず、私はまるでフリーターのような生活を続けていた。


 こういう行き場があるような無いような中途半端な状況は気持ちが落ち着かないが、アルバイト先のお弁当屋さん “あじさい” では、お節料理の予約時期でもあるし、年末は大忙しなので、私が殆ど毎日シフトに入れるのは有難いと店長が申し訳なさそうに言っていた。

 時給を300円上乗せしてくれているので、私には何の不満も無いのだが、一人暮らしで高校に通えずにいる生活を心配して、店長一家そろって色々と世話を焼いてくれる。

 お惣菜の余りモノを持たせてくれるのは毎日だが、3日に一度ぐらいは晩飯を食って行けと誘われるし、お店のメニューとは別に作った家庭料理のおすそ分けもいただいたりした。

 あまりにもお世話になり過ぎてしまって恐縮しっぱなしだったので、せめてものお返しにと、休憩時間などには一人息子の仁太君(小学4年生)の勉強を見てあげるようにしていた。


 (良かったじゃないか仁太! お姉ちゃんができたみたいで嬉しいだろう! )


 (どうだい? 紗耶香ちゃん、将来ウチにお嫁に来るか? たった6つか7つくらいの歳の差なんて私らは気にしないぞ。)


 こういうオジちゃんやオバちゃんに有りがちな定番の冷やかしは、私も仁太君もヘラヘラ笑ってやり過ごす。

 もともと、仁太君とは仲が良かったし、ミリタリー関係については私の師匠である。


 (ホント、良い人たちなんだよね~ )


 天涯孤独の身の上になった私が何とかやっていられるのは、シデンや友だちだけじゃなく、“あじさい” の店長一家が醸し出すファミリー感のおかげでもあると、心の底から感謝している。

 どうせ、家にいたってやることも無いし、シデンは相変わらず出掛けてばっかだし、“あじさい” でのアルバイトで心身癒されていれば余計なこと考えずに済むので助かる。


 そういえば、汐見さんからの連絡が今週に入ってからはプッツリと途絶えている。

 例の焼き肉屋での面談以降も、3日に1回は安否確認みたいな連絡が入っていたのに、それが無くなった。

 

 (異世界からの侵略対策が忙しいんだろうか? )


 たぶん、シデンが忙しそうにしているのもその件だろう。

 汐見さんだって私に張りつく仕事ばかりしてるわけじゃないし、公安の外事四課は異世界からの侵略を阻止するために日夜頑張ってくれているだろう。

 そういう人たちが戦ってくれているおかげで、私は毎日を高校生(フリーター? )っぽく過ごせるわけだ。


 (でも、みんな無事なら良いけど。)


 異世界からの侵略者は一筋縄でいくような連中では無いってことが、先月の事件で分かった。

 人の命なんかなんとも思っていなくて、目的のためには全然関係無い人を巻き込むのも躊躇しない最悪の連中である。

 私が連中の一部を目撃したのは誘拐未遂事件の時の牙男たちである。

 獰猛そうな顔つきをしていたが、力は人間の平均的な大人程度だったと思う。

 シデンは連中のことを “小鬼” と称して小馬鹿にしているが、小がいれば中とか大もいるのだろう。

 小鬼なんて大したこと無いなんてシデンは言ってるけど、中や大の鬼ならどうなんだろうか?

 洲崎を手下にして、私たちを幻術だか何だかで荒川河川敷のグラウンドに閉じ込めたヤツ(たぶん、それは相良先生だろうが、シデンは未だに口を噤んでいる)なんかは、“大鬼” 的な存在なのではないだろうか?

 それに、あの喧嘩に強いシデンに怪我を負わせたヤツだっている。

 さらには、そんな連中に同調して協力している洲崎みたいな人間がいるのも質が悪い。

 どんな餌に食いついて協力しているのか分からないが、権力欲とか暴力的欲求が強いヤツ、劣等感や社会に対する不満を抱いてるヤツなんかは、相手が異世界のバケモノでも同調することがあるのかも知れない。

 人間社会の中に異世界のスパイが少なからず紛れ込んでいて、それが突然牙をむいて襲ってきたら警察だって自衛隊だって不意打ちを食ってしまうに違いない。


 (シデンも、汐見さんも無事でいて欲しい。)

 

 皆の頑張りを知りながら、何も知らされずに蚊帳の外に置かれるのは寂しい。

 だが、そうなるのは自分で決めたことなのだから、それが嫌だと言ってしまったら我儘になる。


 (せめて、感謝の気持ちだけは伝えるようにしよう。)


 私が関われないお詫びにと、シデンが帰ってきた時にはステーキをお腹いっぱい食べさせてあげるし、汐見さんには、渡しそびれてるけどクリスマスプレゼントを用意してある。

 そういう普通のやり方で、できる限りことをする。

 私は、そう決めていた。


 そんなこんなで、今年も残り少なくなった12月27日の金曜日。

 既にひと月以上、何事も起こらず平穏無事な日常が続いている。

 もしかしたら私の知らない所で洲崎の件や異世界からの侵略の件も、シデンや汐見さんのおかげで既に片付いてしまっているのかもしれないなんて、甘いことも考え始めていた。

 シデンは昨日も姿を見せず、汐見さんからの連絡も無し。

 でも、私の日常は相変わらずで、今日も夕方からアルバイト。


 (そうだ、仁太くんから借りてたBD返すの忘れないようにしなきゃ。)


 仁太くんが絶対に面白いからと言って貸してくれた昔の戦争映画のBDパッケージをバックに入れて家を出た。

 仁太くんのオススメはいつも間違いないが、今回のは特に面白かった。

 エーゲ海の島にドイツ軍が築いた砲台を連合軍の決死隊が爆破しに行くお話だったが、これまでは日本の戦争映画ばっか観ていたので凄く新鮮だった。

 連合軍が勝つ映画は日本が相手だと口惜しいけど、ドイツ軍が相手だとそんなに気にならないもんだね。


 (戦車がいっぱい出てくる映画があるって言ってたから、次はそれ貸してもらわなきゃ。)


 時計を見たら午後の15時少し前。

 アルバイトのシフトは17時半からだから、まだ時間に余裕がある。


 (まずは先にナツキのお見舞いに行こうか。)


 未だ入院中のナツキだが、先週の末頃に漸く意識を半分ほど取り戻していた。

 半分ほどというのは、肉体的には回復しているのだが精神的なショックが大き過ぎて現実認識がままならない混乱状態にあり、意識はあっても口を利くこともできないし、身体を動かすこともできないので絶対安静が続いているということ。


 ナツキが目覚めたとの連絡を受けた時の私は大急ぎで駆けつけた。

 でも、彼女は洲崎と私のやり取りを聞いていただろうし、私のせいで人質になったことを知っているはず。

 だから、私の顔を見たらナツキがどんな反応を示すのか不安を抱えていたのだが、実際に顔を合わせてみたら、彼女は意外にも見舞いに訪れた私の顔を見て喜びの笑顔を見せてくれた。

 その笑顔を見た私は思わず泣きそうになりながら、彼女の手を取って


 「私のせいでごめんなさい。」


 と、謝罪の言葉を口にした。

 すると、彼女はゆっくりと首を左右に振り、私の手を握り返してくれた。

 長時間の面会は遠慮して欲しいと看護師に言われていたので、その日はそれだけだったが、あれからナツキの見舞いには3度ほど伺っている。

 短い時間でも私の顔を見たら喜ぶからと、付き添いのお母さんから言われたので、できる限り伺おうと思っている。

 そんなことで罪滅ぼしになるとは思っていないが、私がナツキに今してあげられることは全部しなきゃならない。


 (ナツキのお見舞いに行った後には、仁太くんにBDのお礼としてお菓子でも買って行こうかな。)


 仁太くんは辛党なので、激辛系のスナックなんかが良いだろう。

 ということで、


 (電気良し! ガス栓良し! そして、戸締り良し! )


 私は誰もいない家の中に向かって、いつもの習慣どおりに「いってきます」と一声掛けてから外に出る。


 「ううっ、寒い~っ! 」


 12月も末なので、日中でも気温は1ケタ。

 冬用のコートを着てマフラーを巻いているのに、冷たい風が沁みてきた。

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