思考が空転しちゃってるよ~
ちょっと意外だったけど、汐見さんは私が無理矢理突き付けた一方的な結論に反論しなかった。
かなり身勝手でクズっぽい発言をしたのに、それについて咎められたり窘められたりもしなかった。
たった一言だけ、
「普通に生きるってのは、けっこう大変なんだぞ。」
と、心配顔で言われた。
それは言われるまでも無い。
大変なのは承知の上である。
(力は使わないし、無かったことにするし! )
シデンと汐見さん、双方にキッチリと宣言した。
どんな力を持っていても私には何もできないから、私は一般人と同じ。
私を襲うバケモノが現れたら逃げる。
私はバケモノを殺せないのだからしょうがない。
逃げ切れなきゃ殺されちゃうかもしれない。
また友だちを盾に取られて、魔力結石を渡せと言われたら直ぐに渡しちゃうだろう。
(すごく無気力なことを言ってるような気がするけど、そんなことはないもん! こんなの極々普通の一般的な意見だと思うし。)
たぶん、同じ状況に遭遇したら、世の中の殆ど人が私と同じ行動を採るに違いない。
これは、決して私だけの特別な考え方じゃない。
凄い力を持っているんだから普通の人と一緒じゃダメだ! って言う人がいるかもしれないけど、私の中身は普通の女子高生。
普通の女子高生相手に何言ってんだ! って言い返してやる。
そう言えば、昔観た映画で、“Greatな力にはGreatな責任が伴う” とかいう名言を聞いたことがある。
当時は、カッコいいセリフだなぁと思って聞いていたけど、
(何、カッコつけてんだ? バッカみたい! )
と、今なら思う。
望んで得た力でもないのに、責任取らされるなんて勘弁して欲しい。
(そもそもGreatな責任なんて、一般人が背負えるわけないじゃん。フィクションとは一緒にできないわけよ。)
私や魔力結石がピンチに陥ったら、シデンや汐見さんたちが動くこともあるだろう。
戦える人が戦うことを否定したりはしない。
救いの手を拒否したりするつもりはないし、救けてもらえるならば心の底から感謝する。
(でも、基本的に私には抵抗するつもりが無いから、次に洲崎が来たらアッサリと殺られちゃうかも。)
私だって殺されるのは嫌に決まっているけど、
(でも、私が頑張ったら、ナツキや死傷した大勢の生徒や先生みたいに、傷つく人がいっぱい出るじゃない。)
それならば、無抵抗で従った方が良い。
私が蹂躙されるだけで、皆が無事でいられるのならOK。
私が面倒見られるのは、そこまで。
目の前で苦しむ人を見なくて済むならばそれで良い。
その先で世界がどうなろうが、それは私の手に負える責任範囲じゃない。
見えないところで傷つく人がいても、そこまで面倒見るのは無理。
(超人的な力なんて、与える人によっては何の役にも立たないってことだよねぇ。)
焼き肉屋での面談中、薄っすらと勘付いていたんだけど、汐見さんは私を公安が異世界の侵略に備えるに当たっての協力者にしたかったんだと思う。
汐見さんがというよりは公安や、その上の人たちの意志かもしれないけど、私の特殊な能力は彼らが異世界の侵略者と戦うためにはきっと役に立つと考えてたのだと思う。
(そりゃまあ、普通はそう考えるでしょう。)
人知を超えた能力を持つ女子高生の扱い方なんて、国の管理下において働かせるか、監禁して実験動物にするかの2択しかない。
そこで、お上は今回、私を戦う女子高生にしようと思って、汐見さんに面談させたのだろう。
(たいへん申し訳ないですが、その件については辞退させていただきます。)
戦おうが戦うまいが、今後の人生が国の管理下、監視下に置かれるのは、ほぼ間違いなさそうなんだけど、実験動物にされるようなことは無さそう。
シデンじゃなくてマカミさまだっけ?
お上には一目置かれてる存在らしいし、信じられないけど敬われているっぽいので、その眷属ということになっている私が逮捕されたり監禁されたり酷い目に遭わされる心配は無用のようである。
(見張られながら生活するのは嫌だけど、普通に暮らすことを邪魔されなきゃ目を瞑れるもんね。私って、さわらぬ神に祟りなし的な感じで生きてくのに抵抗無いし、自分の手に負えないことは黙過できる人間だし・・・はぁ~ )
なんか疲れた。
焼き肉屋でお腹いっぱいの夕食をご馳走になって、汐見さんに自宅まで送ってもらって、言いたいことも全部ぶっちゃけてきた。
だから、気分はスッキリしていても良いはずなのに、
(なんか~ あれから思考が空転し続けてるんだよなぁ~ )
シデンや汐見さんにはキッチリと私の意志を伝えたのだから、それでこの件についての議論は終了ってことで良いはず。
後事はできる人たちにお任せして、私は普通の高校生としての日常に戻れば良い。
そのはずなのに、
(なんで私、自分が宣言したことの言い訳を探して、ダラダラと並べ立ててばっかいるんだろう? )
宣言したは良いが、自分が納得しきれていないという矛盾が生じていた。
自分の口から飛び出す言葉がクズ過ぎて、心にグサグサと突き刺さってくるし、それを否定せずに黙って聞いてくれた汐見さん、もちろんシデンに対しても、とんでもなく申し訳ない気持ちがいっぱいで、それがいつまでも消えそうになくて、これから引き摺りそうってのもある。
(色んな意味で、ヘタレだよねぇ~ )
長ったらしく言い訳並べて、自虐的に自己分析したりしてるけど、実のところ宣言の理由なんて一つしかない。
(怖いんだよ。)
ナツキの傷ついた瀕死の姿を見て思った。
こんなに酷い目に合わされたのは私のせい?
このことを他の友だちに知られたらどうしよう?
生死の境で苦しむ親友を目の前にして、その命を心配しながらも、同時にこんなことを考えている私がいた。
(いやだよ! 友だちに責められたくない! ナツキに責められたくない! )
私のせいだと知られないためにはどうすれば良いのか?
私だって被害者なのに、加害者扱いされて責められるなんて絶対に嫌だから、
(逃げるしかないじゃん! )
つまりは、現実逃避。
そして、自己保身。
弱者にとって、最も都合の良い解決手段。
汐見さんやシデンにはハッキリ言わないようにしてるけど、結局のところ私の宣言なんて理由はそんなモノ。
これを包み込んで、尤もらしい理由に仕立ててくれるオブラートが欲しいから、思考がグルグル回っているだけなのである。
◇
退院してから3週間が過ぎた。
高校から授業再開の連絡は未だ来ない。
既に校舎の修繕は終わったと聞いているが、もうカレンダーは12月の半ばを過ぎているので、年内の再開は無さそうな気がしている。
あれから、新たな事件は起きていない。
私の日常は、学校に行っていないということ以外は平穏無事に済んでいる。
1日でやることと言ったら、家事とアルバイトぐらい。
偶の買い物や、友だちに遊びに誘われた時、それと未だ意識が戻らないナツキのお見舞いには1日おきに行くようにしているが、それ以外は家の中でゴロゴロ過ごしている。
最近、シデンは何か忙しそうにしていて、あまり顔を出さなくなっていたが、昨日アルバイトが終わって帰宅したら、ソファに寝ころんで爆睡していた。
たぶん、10日ぶりぐらいだったと思う。
家にいるのは全然構わないんだけど、灯りも点けていない真っ暗な部屋の中に、デカい図体したナニモノかが寝ころんでいるのって、マジでビックリするから止めて欲しい。
まったく、出掛ける時はキチンと施錠しているのに、いつもどうやって家の中に入っているんだろうか?
ウチはペット禁止なんだから、シデンが出入りしてるとこを大家に見つかったら怒られるだけじゃ済まないんだけど、そこんところ気をつけてくれてるんだろうか?
『大丈夫だって! オレを誰だと思ってんだよ。』
ワンコだと思ってる。
人語を解して会話ができて、喧嘩が強くて、超能力を持った、偉そうなモフモフだと思ってる。
ついでに、なんか最近は忙しそうにしてるなぁ~ とも思ってる。
なんで忙しいのか? とか、何処に出掛けてるの? とか聞いてみたが、
『オレも神さまなんで、色々とやることあんのよ。忙しい身の上なんだわ。』
そんな感じで、忙しい理由は教えてくれない。
でも、どうせ異世界からの侵略絡みなんでしょう。
このワンコ、公安だけじゃなくて、もっと上の人にも面識あるっぽいので、そういう人たちのトコに出掛けているのかも知れない。
一応、こっちは家族のつもりでいるので、無断で何日も出掛けてたら心配するんだとは伝えてあるが、それに対する応えも、
『オレを誰だと思ってんだよ。』
とのことである。
心配無用とは言ってるけれど、以前、大怪我して転がり込んできたことがあるわけで、あの時みたいなのは困る。
シデンが強いのは知ってるけれど、失敗したらあんなんなるわけだし、無敵ってわけじゃないだろうし。
『お前は、余計なこと考えなくて良いから普通にしてろ。』
まあ、そうさせていただいているわけけど、
『できるだけ、お前の日常は守ってやるつもりだから安心しろ。それより、飯にしよう! 肉にしよう! 』
その言葉、私が “戦わない宣言” したことに対するシデンなりの気遣いらしい。
(それは嬉しいんだけど、シデンのこと何も知らないのは寂しいじゃん。)
自分から、異世界絡みの話には関わりたくないと言っておきながら、何も教えてもらえなくなると疎外感を感じて寂しがるなんて、私は本当に身勝手なヤツだと思う。
(どうせ、シデンに話を聞かせてもらったって、何もしないくせに・・・ )




