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私はヘタレなんだから

 以下、汐見さんの持論、大人の意見ってヤツを聞かされた。


 「どんなに立派な考え方を持つ優れた人物でもね、それに反対する意見を持つ者は必ずいるんだ。その2つが相争うのが正常な社会ってモノだとオレは思うね。ところが、その片方が超人的な力を持っていて逆らい難い場合は、反対意見を持つ者の多くは口を閉ざしてしまうだろう。そうなると、たった一人の超人的な能力を持つ者の意見が世の中に大きな影響を及ぼすようになる。一人の特別な人間の意見がさ、正しかろうが、間違っていようが、何でも通る世の中ができちゃうんだよ。これをどう思う? 」


 そう言われてみれば、なるほど汐見さんの仰るとおりではある。

 歴史上、多くの独裁者は、そういう風にして誕生するもんなんだと世界史なんかで勉強した。

 例えば、戦争で民衆の英雄になった軍人が絶対権力を備えた国家元首になったなんて話しは、今も世界中の定番として存在するし、英雄転じて専制政治や恐怖政治で悪名高い指導者になっちゃったなんてのも珍しい話しじゃない。


 戦争みたいに殺伐とした出自じゃなくて、平和的なジャンルならOKかと言えば、そうとも限らない。

 例えば有名スポーツ選手や芸能人、実業家なんかが政治の世界で活躍している国も多いけど、こういう人たちもカリスマ的人気を得やすくて、一般大衆のヒーローになっちゃったりする。

 んで、こういう圧倒的人気を持つヒーローの前では、対抗する意見を持つ者の影が薄くなり、自分の身を守るためにも時には迎合したり、口を閉ざさなければならなくなる流れができ上がっちゃうわけだ。

 つまり、何事も特殊な能力を持つからと言って、特定個人の影響力が大き過ぎたなら、世の中には悪い影響を及ぼすこともあるということである。


 でも、こんな人間不信に繋がりそうな考え方ばかりじゃ寂しいから、ちょっと反論を見付けてみよう。

 例えば、こんなんならどうだろう?

 

 「アニメやマンガの主人公みたいに、人知れず活躍する主人公なんてのはどうですか? 独裁者にはならないと思いますけど。」


 ウ〇ト〇マンとか〇面ラ〇ダーの中の人は正体不明なわけで、政治家になるなんて絶対に不可能だと思う。

 そんな例え話なんてくだらないと笑われるかと思ったが、汐見さんは確かにそうだねと言って真面目に受け取ってくれた。

 そして、受け取りながらも私の考えの甘さをビシッと突いてくる。


 「でも、人知れず悪と戦う主人公は、自分個人のモノサシで悪と判断した者を退治するわけでしょう。フィクションの中じゃ、明らかに誰の目から見ても世の中の迷惑にしかならない真っ黒な悪が存在するから簡単だけど、現実なら主人公は何を悪として戦ったら良いんだろうか? 」


 えっと、悪徳政治家? マフィア? それとも連続殺人犯や窃盗犯とか?


 「うーん、そうは言うけどねぇ、現実の悪ってのは大抵が灰色なんだよ。例えば政治の世界や財界なんかにも悪はいるだろうけど、その悪は世の中に必要とされている悪だったりするんだ。その悪がいなくなったら国が成り立たなくなることもあるんだよね。マフィアだって、市民に手を出すような連中は最低だけど、彼らがいなくなればストリートギャングが増えるとか、昔は間接的に地域経済を支えている組織もあったとか、歴史的に見ればバランサー的な役割を務めているって側面もあっただろう。連続殺人犯とか窃盗犯みたいな悪なら分かりやすいと思うだろうけど、彼らが捕まった後の裁判じゃ、決して一方的に裁かれたりしないだろう? 僅かなのかもしれないけど彼らを救おうとする者が現れるくらいには善の一面を持っていたりするからなのさ。」


 つまり、汐見さんが言うことは、


 「所謂 “蜘蛛の糸” ってヤツですかね? 」


 地獄に落とされても、たった一つの善行がお釈迦様の目に留まったという話。


 「うん、そういう感じの理解でオーケー。お釈迦様だって善悪のジャッジには迷うのに、人間が自分一人のモノサシで人間を裁くなんて怖いよね~有り得ないよ。」


 アニメやマンガのヒーローは現実では活躍できないってことである。


 「それに、どんな悪人でも親兄弟や子どもがいるし、親しい友だちがいるもんだ。他人には悪でも身内には善だったりする場合、割り切って退治なんてしちゃダメでしょ。」


 確かにそのとおり。

 汐見さんの意見には頷くしかないんだけど、もしかして私なんか相手にそんな類いの心配してる?

 そんなのは全くの見当違いなんですけどね。


 (えっと、何の話からこんな話になったんだっけ? )


 私が、質問に答えるはずだったのに、汐見さんが持論を力説する流れになっちゃってる気がする?


 「ああ、ゴメン! こういう説教臭い話するの好きなんだよ。」


 汐見さんが、頭を掻きながら、しゃべり過ぎて喉が渇いたと言い、ノンアルビールを一気に飲み干した。


 「んじゃ、質問の初めに戻ろうか。」


 ついでに、汐見さんは炭酸ゲップと咳ばらいを一つづつ。


 「日常生活じゃ必要が無くて、普通の女子高生が持っていても無意味な力。しかも、そんな特別な力を持っていることを世間に知られたら、羨ましがられたり、厄介者扱いされたり、怖がられたりするかもしれない。中には憧れられたりするかもしれないけど、普通の人間関係を新たに作ったり、維持していくのは難しくなるよね。」


 そのとおり!

 私の悩みは正しくコレ!

 おかしな能力が身についたことで、私が一番困っているのはコレなのである。

 そして、コレについての対処法は一つしかない。


 「私は普通に平凡に生きていきたい人ですから、こんな能力は誰に対しても絶対に秘密にします! 親しい友だちにも先生にも、将来結婚したら旦那にも、子どもができたら子どもにも、家族全員に秘密にします。私、自分を守るためなら、秘密の一つや二つお墓まで持ってくのに罪悪感とか全然感じませんからね。」


 でも、汐見さんとそのお仲間の人々には既に知られてるらしい。

 さて、この事態にはどう対処すべきなのだろう?


 「でもねぇ、秘密にしようったって無理があるでしょう? 巨大イカの時みたいに目の前で友人や知人がバケモノに襲われたらば、力を使って助けようとするでしょう? そしたらバレちゃうよ? 」


 確かに目の前で友だちがバケモノに襲われたなら助けようとするに違いない。

 そうすれば、私の能力は知られてしまう。

 でも、私は決めたのだ。


 「誓います。今後、私は何が起きても、どんな理由があっても能力は使いません。こんな力なんてあっても無くても一緒なんです。」


 私の宣言を直ぐには理解できなかった汐見さんが、「?」を浮かべながら首を傾げている。


 「私は、こんなに凄い力を持っているのに、友だち一人救えませんでした。そして、自分や友だちに酷いことをした犯人を生かしておいたら、私だけじゃなく日本中、世界中の人々の命を危うくするかもしれないと分かっていながら、全然手出しができずに逃しちゃったんです。」


 汐見さんは私の言葉を途中まで聞いてから、それが反省や後悔の弁だと勘違いしたらしい。


 「そんな、たった一度の失敗で自分を責めるのは良くない。今回は力の使い方に慣れていなかったからで・・・ 」

 

 と、私を慰めるようなことを言い掛けたが、


 「そうじゃないんですっ! 」


 私はその言葉を遮った。


 「勘違いしないで下さい。私は洲崎、あ~洲崎ってのは私の高校のクラスメイトだったヤツで、あの巨大イカを操って大勢殺した主犯格のことですけど、ヤツを逃がしたことを反省なんかしてません。逃げてくれて良かったと思ってます。ホッとしてるんです。」


 このこと、シデンにも伝えてある。

 汐見さんや、そのお仲間たちが、私の能力を知っているならば、私の気持ちも知っておいて欲しい。


 「えっと、それはどういう? 」


 いきなりのカミングアウトなので、汐見さんは言葉の真意が掴めずに戸惑っている。

 だから、ハッキリ言ってやる。

 せっかくなので、私が如何にヘタレかってことを知ってもらわなきゃならない。


 「私は洲崎が、後々大勢の人を殺す可能性があると知っていて、あの場でヤツの息の根を止めるのが世の中のためには最善なんだって理解していて、私の力ならそうすることができるって分かっているにも拘わらず殺らなかったんですけど、どうしてだと思います? 」


 この私の問い掛けに汐見さんは答えない。

 無言で話の続きを待っている。


 「洲崎は憎いですから、心の底から死んで欲しいと願ってます。でも、自分じゃ殺りたくないんです。私は人を殺せませんし、そんな勇気はありません。でも、洲崎が他の人に殺されるのはアリですね。それがベストな結末だと思ってます。」


 めちゃめちゃカッコ悪いこと言ってる自覚はある。


 (私って、かなり~クズだなぁ。)


 そんな風に思いながら、更に話しを続ける。


 「それと、今回の事件に遭って、私、分っちゃいました。“世界人類と友だち一人、どちらを救けますか? ” 的な究極の選択は私には無理なんです。私みたいなヘタレは、先で世界がどうなろうと目の前で苦しんでいる友だちがいたら、そっちを優先するんですよ。」


 ここで良い方向に勘違いされたら困るので、断わりを入れておく。


 「能力使って友だちを救うなんてヒーローっぽいことしようってんじゃありませんよ。たぶん、どうして良いか分からずにグズグズ、オロオロしているうちに友だちも自分もどっちも殺されちゃうって感じですね。でも、その方が一般人なら普通じゃないですか? 私にとっては一番楽な選択なんですよ。」


 こんなクズなカミングアウトを黙って聞かされていながら、汐見さんからの返答は特に無い。

 顎に手を当てて何事かを深く考えてるポーズ。

 呆れられている感じがしないのが不思議だが、私の言葉をじっくり噛みしめてくれているのか、それとも反論を考えているのか、たぶんそのどちらかなんだけど・・・


 「もう、分かったと思いますけど、この能力、私には宝の持ち腐れなんです。どんなに凄い能力でも、私じゃ使いこなせないんです。だから、もう二度と使わないことにして封印です。相手が世界だろうが個人だろうが助けられません。そんな責任能力、私には無いんです。」


 私の能力に関しては、もう誰が何と言おうとコレが結論なんだと言い切っといた。


 だから、汐見さんだけじゃない、シデンにも、私と言う人間の本質をキッチリ理解してもらって、今後の前提にして欲しい。

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