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事件は一先ず収束・・・でも

これにて

第1章が終わりました。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


引き続き第2章も

よろしくお願いします


ご感想などいただけるとたいへん嬉しいです。

ブックマークや評価も

ぜひよろしくお願いいたします!

 『まあ、魔力結石を守り切ったことで、良しとすべきだろう。』


 敵を取り逃がしてしまった私に、シデンは優しかった。

 いつも口が悪くて偉そうにしてばっかなのに、まあ今回も口が悪くて偉そうではあるんだけど、一言も文句を言わなかったし、私を非難する言動も無かった。

 私が洲崎を殺せなかったということも正直に話したが、それについては、


 『今回が “殺らなきゃなんない状況” じゃなかったってことさ。』


 って、ちょっと気になることを言っていたけれど、どういう意味かは教えてくれなかった。

 教えてくれないと言えば、私が荒川河川敷のグラウンドに皆と一緒に閉じ込められていた時、シデンがナニモノと戦っていたのか聞いたけれど教えてくれなかった。


 『そのうち言う・・・ 』


 何となく言い辛そうに、歯切れの悪い感じだった。

 私たちを閉じ込めた幻術とやらを放った術者は “学校にいる” とシデンが言っていたのを憶えている。

 それが、学校への侵入者を意味するのか、洲崎のように生徒や先生、又は事務職員の仮面を被ったヤツがいたということなのか、それも教えてくれなかった。


 『強敵では無かったが、戦い方の上手いヤツだった。オレを足止めして、手下がお前から魔力結石を奪えるだけの時間を稼ごうとしたんだから、かなりの手練れであることは間違いない。手下がマヌケでさえなかったら、今回はしてやられてたな。』


 だそうである。

 洲崎マヌケが、目的そっちのけで暴走してくれたおかげで、魔力結石は無事なまま私の手元にある。

 但し、あの場にいた生徒や先生の被害は甚大だった。

 死者26人(教員2)、重体154人(教員5)、重傷326人(教員6)、軽傷者158人、行方不明92人(教員5)。

 閉じ込められていた756人の中で、傷ついていない者は一人もいなかった。

 行方不明とされている92人は、巨大イカに食われてしまった数である。


 解放されてから後のことは私の記憶には無い。

 事件後の私はエネルギーを使い果たして気絶し、その後の2日ほど病院のベッドで眠り続けていたので、その間に起きたことはシデンからと、見舞いに来てくれた学校関係者、そして江戸川西署の汐見さんから聞かされて知ることになった。


 ところで、荒川河川敷のグラウンドを囲んでいた呪術は、認識阻害や不可視などの隠蔽がされていなかったので、中で起きていた騒動の一部始終が周囲からは丸見えだったらしい。

 よって、目撃者は多数あり、警察には複数の通報が入っていたし、消防や救急車も出動していたという。

 だが、呪術の隔離フィールドがシデンによって破壊されるまでは、私たちが外に出られなかったのと同じように、誰も現場に踏み込むことができずにいた。

 何が起きているのかは見えていても、全く手の出しようが無い状態だったということである。


 但し、写真や映像は多数撮影されていた。

 だから、巨大イカの暴れまわる姿が極めて鮮明に映し出された写真や動画と共に、この事件がマスコミによって報道されるや否や日本中の話題になった。

 もちろん、動画投稿サイトには数えきれないほどの動画がアップロードされており、その影響力により東京都江戸川区の荒川河川敷で起きた“怪獣事件”が、私の目覚めた時には世界中が注目する大事件に拡大していた。


 ≪ 怪物出現! 白昼の高校を襲った巨大イカの謎! ≫


 間もなくして、こんな週刊誌の見出しが目につくようになり、テレビのワイドショー番組でも似たようなタイトルの特集が連日報道されていた。


 「今んとこ、病院の外は報道関係者がビッシリだよ。自宅だって待ち構えてるかもしれない。せっかく目が覚めたのに残念だけど、あと2、3日は入院してたほうが良いだろう。この病院の中なら警察がガッチリガードしてるし、関係者以外が入ってくることは無いから安心しな。」


 とは、目覚めた翌日に見舞いに訪れた汐見さんの話し。

 大事件なので、少しでも多くの情報を集めたいという各報道メディアのレポーターたちの姿勢は理解できるが、今回のような悲惨な出来事の後で、自分が取材対象にされるのは、やはり嫌なものである。


 「病院的に問題が無いなら、そうさせてもらいます。」


 報道関係者よりも、私は洲崎やヤツの親玉の襲撃を心配していたが、シデンが病院全体を取り囲むようにして敵を寄せ付けない結界を張っているから、その心配は無いと言っていた。


 「何か欲しいモノあるか? 」


 この日の汐見さんのお見舞いは、定番の果物籠。

 果物は何でも好きなので有難いのだが、寝ている間に受けた点滴だけじゃ失われたエネルギーが回復できておらず、今欲しいのは果物じゃない。

 目覚めてから医者の許可を得て出された病院食は、お粥、カレイの煮つけ、野菜の煮物、卵焼きと、これも定番中の定番、しかも薄味。

 リミッター解除で暴れた後には、エネルギー補給が必須だった。

 それも、高カロリーでパワフルな食べ物を大量に摂取しなきゃならない。

 医者は私の特殊な事情なんて知らないのだから、病院食のメニューは当り前なのだが、そんなもんじゃ到底足りるもんじゃない。

 だから、汐見さんの行為に甘えることにして、女子的にはたいへん言い辛かったが、


 「なんか、ガッツリしたモノ食べたいです。」


 そう正直に言った。


 「大丈夫なのか? 胃が受け付けるのか? 」


 と、汐見さんは驚いて心配していたが、私が意外に元気そうだと分かって安心したようである。


 「甘いのが良いか? しょっぱいのか? 」


 「どっちでもオーケーです! 脂っこいモノとかでも嬉しいです。ザ・カロリーみたいな感じで・・・ 」


 そう言ってしまってから、やはり思春期の女子高生的な発言では無かったと反省。

 赤面した私を見て汐見さんは笑っていたが、翌日のお見舞いはドーナツの盛り合わせ。

 たいへん、助かりました。


 「退院してからのことだが、紗耶香ちゃんには色々と聞きたいことや協力してもらいたいこともあるから、これはお礼の前払いだよ。」


 「協力って、どんなことですか? 」


 事件については、他の被害者から多数の情報を得ているだろうが、汐見さんが特に私に協力して欲しいこととは何なのか気になった。

 荒川河川敷のグラウンドで起きた事件が外から丸見えだったとしたら、洲崎と私のやり取りだって誰かに目撃されているだろう。

 報道番組や動画投稿サイトで見た限りでは、巨大イカの触手が暴れる映像が殆どだったが、それ以外の映像もあるに決まっている。

 私が映っている映像だってあるだろう。

 警察がそれらの映像の回収や分析を行うのは当然なので、もしかしたらリミッター解除して戦っていた私が注目されている可能性も十分に考えられた。


 「そんなのは、退院してからゆっくり話すわ。まずは身体を治しな。」


 かなり気になったが、追及はできなかった。

 私が加害者なわけじゃないし、警察の厄介になるようなことをしてはいないが、世間に向かって軽々しく言えない事情を抱えている身としては心がザワついてしまう。

 汐見さんが帰ったその日の夜は、どうにも寝つきが悪かった。


 ところで、

 学校の皆の事件後の様子はどうだったか?


 洲崎が一番最初に手を上げた、クラス委員長の女子は亡くなっていた。

 首の骨が折れていて、即死だったらしい。

 巨大イカの触腕に薙ぎ倒された中にも死亡者がおり、現在も意識不明のままでいる重体者も出ていた。

 その他のクラスメイトも全員が重軽傷者であり、無事な者は一人としていなかった。

 私の親友たちのうち、2人は軽傷で自宅療養中。

 重傷を負い同じ病院に入院しているのが2人。

 重傷の2人も命に別状は無いとのことなので、トイレ以外に病室から出歩くことを禁じられ顔を見ることはできずにいたが一先ずホッとした。

 以上の4人からは目覚めて直ぐLINEでのやり取りができているので、差し当っての心配はいらないだろう。


 問題はナツキである。


 私を屈服させるため、洲崎に捕まって残忍な責め苦を味合わされ、大怪我を負わされた彼女がどうなったのかは目覚めて直ぐに気になって、病室を訪れた医者、看護師ほか誰彼構わず聞きまくった。

 それによって得た情報によると、ナツキは未だ目覚めておらず、意識不明の状態にあるとのことだった。

 ところが、


 「彼女は、この病院に運び込まれた時には大怪我を負ってて、出血多量の重体だったはずなのよね。そう記録にもあったんだけど、一晩明けたら外傷が一つも無くなってたんですって。あの日は、大勢の生徒さんや先生が搬送されてきて大混乱だったから書類のミスだろうってことになったんだけど、いくら混乱してても患者さんを間違ってICUに入れたりはしないと思うのよね。」


 そう話してくれた若い女性の看護師さんがいた。

 確かに、ナツキが負っていた怪我は決して一晩で治るようなモノではなかった。

 上半身をズタズタに切り裂かれ、腕も千切れかけていたのだ。

 最後に見た彼女は出血多量で死にかけていた。

 だから、私は看護師の話を聞いた途端にピンときた。


 「シデン、あんたがナツキを治してくれたんでしょ? 」


 『ああ、あれはお前の親しい者なんだろ? 死にかけた全員の命を救うことはできないが、一人ぐらいなら魔力結石を使わんでも何とかなるだろうと思ってな、オレの再生魔法をつかってみたんだ。その結果、一晩で一切の外傷は消えたようだし、ついでに喘息とアトピーの持病持ちだったようだが、そっちも治っちまったんじゃないかな。』


 それを聞いて、心の底から安心した。

 私のせいで人質にされ、酷い目に合わせてしまったナツキが生きていることを喜んだ。

 しかし、


 『おそらく、意識が戻らないのは精神的な問題だろう。現実を拒絶して、目覚めるのを拒んでいるのさ。こればかりはオレにもどうしようもない。いずれ時間が経てば目覚めるだろうが、あんな酷い目に合ったんだからな、目覚めたところで一生涯 “PTSD” を抱えて生きることになるかもしれんなぁ。』


 シデンの指摘に愕然とした。


 「何とかならないの? 記憶を消すとか? 神さまならそういうことできないの? 」


 『そんな都合の良い治療法なんてあるわけないだろう。外傷は治せても、心の傷までは癒せないんだよ。』


 それを聞いて、思わず頭を抱えてしまった。


 「私のせいだ! 」


 私が洲崎に逆らったから、そもそも私が魔力結石なんてモノを持っていなければ、ナツキが酷い目に合わされることも無かったはずなのだ。


 (私はナツキに何と言って謝れば良いの? どんな罪滅ぼしができるの? 私は! 私は! 私は! )


 押し寄せてくる罪悪感に心が押しつぶされそうになった。


 『馬鹿なことを言ってんじゃねぇーよ! 』


 シデンの一喝。


 『ヤツらは侵略者だ! お前がヤツらに屈したら、いったいどんだけの被害者が出たか分からないんだぞ! お前の友だちと同じか、それ以上の目に合う人間が何十万、何百万と出るんだぞ! そんな状況で、一人で責任感じてんじゃねーぞ! そんなのはな、思い上がりってんだ! 人の命なんて、それが一人だろうが百億人だろうが、小娘一人が背負えるもんじゃねーんだ! 分かっとけ! 』


 そんなことは分かってる。

 分かってたって、ハイそうですかと割り切れるもんじゃない。

 それに、ナツキが私の傍にいなければ、私と親しくさえなければ、こんなことにはならなかったというのも事実。


 私がどれだけ思い悩んでも、時計が巻き戻されるわけじゃない。

 ナツキの心が元に戻るわけじゃない。

 でも、この思いは絶対に消えない。


 私は、そんなに物事を要領良く考えられる人間じゃない!

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