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胸騒ぎ・・・悪夢の始まり

 昨日、学校をずる休みして、シデンから色んな話を聞いた。


 人知を超えた話ばかりだったから、常識が邪魔をしてその殆どを未だ信じきれず、話の中身が頭と心に馴染んでいない。

 しかし、目の前にシデンという人知を超えたワンコがいるのは事実。

 その人知を超えたワンコが人語を解していて、私の頭の中に直接テレパシー的な方法で話し掛けてくるのだから、もう常識なんてモノに拘る必然性が失われてしまっている。

 異世界だろうが、怪物だろうが、魔力だろうが、何だろうが、一切合切受け入れるしかなくなってしまったのだ。


 (抵抗は無意味だ・・・ってことね。)


 今更の抵抗は、単なる現実逃避、我儘や意地っ張りの類いでしかないだろう。

 だから、不本意だが受け入れよう。

 受け入れとかないとヤバそうな気もしている。


 (狙われてんだもんなぁ。)


 魔力結石を狙う異世界の小鬼が、今後も私を襲ってくるかもしれないということ。

 日本列島を丸ごと海に沈めてしまえるほどのパワーを秘めた、魔力結石なんて代物を狙って。

 もう私は十分ご利益に預かったので、本来の持ち主に返すと言ってシデンに押し付けようとしたのに、


 『これは、お前が持ってた方が良い。』


 そう言って、突っ返された。

 この魔力結石、10年も身に付けていたせいで、すっかり私の身体に馴染んでしまっていて、私の体力や精神力を下支えする役割を持つようになってしまっているらしい。

 つまり、私の補助バッテリーみたいなモノなので、このまま持っていれば、いざという時に役に立つからということだった。

 それに、万が一、小鬼どもに追い詰められた時、命と引き換えにするモノが必要だろうとも言われた。


 「でも、私が命惜しさに石を渡しちゃったら、こっちの世界は異世界の侵略を受けて破滅しちゃうんでしょう? 」


 これについては、世界の破滅と自分の命を天秤に掛けたら、自分の命に傾くのが当り前というのがシデンの考え方のようで、私にもそう割り切るように言っていた。


 『異世界の扉を守り切れなかったって、それはオレやお前の責任じゃない。運が悪かっただけだ。それに世界が破滅したって、今の世界が失われたって、その次にある世界で人間は生きていけば良いのよ。』


 うーむ、それは強者の哲学だなぁ~と言わざるを得ないが、シデンは野良ワンコだから、弱肉強食の世界で生きてきたんだろうし、言ってることは分からないでもない。


 (でもなぁ、そもそも私自身に戦う覚悟なんてないんだよねぇ。)


 シデンが言ってたキツイ一言、


 『たぶん殺らなきゃなんない状況になったら、お前は殺れると思う。』


 そんなこと言うけど、私は女子高生なんだよ。

 魔力結石のおかげで、怪力マッチョ女になっちゃったらしいけど、心は平和ボケ日本を愛する一般人なんだよねぇ。


 『今のまんまじゃ、そうしなきゃなんない状況が必ず訪れるからな。』


 そうしなきゃなんない状況って何さ?

 生き物の命を奪うことなんて絶対に無理!

 お肉やお魚は食べるし、ハエや蚊がいたら殺虫剤でやっつける。

 もちろん、ゴキブリは新聞紙丸めて容赦無くひっぱたく。

 でも、私は平和と非暴力を愛する日本人だから、基本姿勢としては生き物を殺すなんてできない。

 しかも、小鬼は見たことあるけど、牙以外は人間と変わんなかったでしょう。

 見た目人間と変わんない生き物を殺せるわけないじゃん!


 『小鬼はな、こっちの文明共通の倫理的には “悪” だ。連続殺人鬼みたいな凶悪犯だ。』


 というシデンの話だって、殺して良い理由にはならない。

 日本人的な倫理観じゃ、凶器振り回している極悪人相手でも、警察官が発砲して射殺したら “他に手段が無かったのか” とか、“足を狙えなかったのか” って警察官の方が悪いみたいに報道されるんだよ。

 凶器持って襲い掛かってくるヤツの足狙って命中させろ! なんて、とんでもない神業を警察官に平気で要求する国なんだよ。


 (そういう国で育った私が、多少腕力が強くなったからって、バトルモードやアサシンモードに切り替われるわけないじゃん。)


 昨夜、布団の中で考えた。

 なかなか寝付けずに、朝方まで考え続けていた。

 戦わず、殺さずに魔力結石を守る方法は無いのかどうか?


 (たぶん、無い。)


 これを一晩中ループさせていた。

 何度考えても結論は同じ。


 (一番近い答えは、“逃げの一手” なんだけどね。)


 正解じゃないけれど、とりあえず実現可能ではある。


 「私が魔力結石を持って逃げる → シデンが追っ手をやっつける。」


 こんな感じ。

 シデンが、暫くは私を囮にして寄ってきた小鬼をやっつけるという段取りで行くと言ってくれていたので、現状ではコレが採用された感じ。

 囮になるのは嫌だけど、先日の路上誘拐みたいなことを仕掛けてくるヤツはもういないだろうとシデンは言っていたし、本来の小鬼は賢いから、あんな強硬手段は取らないそうである。

 それならば、我慢して囮を務めていれば良い。

 戦闘はシデンに任せて、私は只管逃げ回る。

 自分の手を汚すのは無理だけど、他人が自分のために手を汚すのは有りだなんて、利己的で偽善的だと言われるかもしれないが、


 (だって、他にどうしようも無いじゃない。逃げるのだって、きっと大変なんだから。)


 この考え、実はとんでもなく甘かったのだということを、間もなく思い知らされることになった。

 人には、逃げたくても逃げられない時がある。

 自らの意思で、絶体絶命の場に踏み止まらなければならないこともある。

 逃げてはならない! との使命感に駆られ、耐えて立ち向かわなければならない状況に陥ることだってあったのだ。


 その時、私はどうするのか?

 戦えるのか?

 殺れるのか?

 戦う覚悟を決められるのか?


 私にその決断をさせる瞬間ときが訪れた。

 11月22日の金曜日。

 二十四節気では小雪の日。

 翌日に勤労感謝の日を控えた週の最終日


 その時、私の通う高校では、一日のうちで最も気怠い昼食後の五時限目を迎えていた。



 ◇



 ジリリリリリリリリリリ!


 おそらく、半分以上の生徒が襲い来る睡魔と戦いながら世界史の授業を受けていた私たちのクラスは、突然鳴り響いた非常ベルの音で騒然となった。


 「緊急放送! 緊急放送です! 火災発生! 1階ボイラー室より出火! 生徒の皆さんは先生の指示に従って、至急避難を開始して下さい! 」


 間を置かずに流れた校内放送の声は、私たちのクラス担任、相良先生だった。


 「火災発生」


 唐突に聞かされても、なかなか現実感が伴わない単語を聞き、気の小さな者は悲鳴を上げたり、不安そうにオロオロしたりしているが、大半の生徒は、


 「めんどくせ~ 」


 「授業つぶれるから、まあ良っか~ 」


 「逃げなきゃダメなの? ボヤじゃねーの? 」


 「荷物どうすんの? 戻って来れんの? 」


 などと呑気なものである。

 

 「おーし、みんな、落ち着いて避難するぞ! 廊下に出て出席番号順に並べ~! 荷物持つなよ、手ぶらだ! 手ぶらで逃げるぞ~! 」


 世界史の先生も避難の段取りをしているとはいえ、その口ぶりに緊張感は無い。

 それでも、一応生徒たちは指示に従ってガタガタと席を立ち、慌てることなく整然と廊下へ出て避難を始めた。

 

 「うぅ寒いわ~ 」


 「マフラー持ってればよかった。」


 「手冷たいよ~ 」


 「なんで、こんな日に火事なんだよ。」


 「お前ら~! 私語厳禁! 静かに歩けーっ! 」


 この日は最高気温が13度と11月にしては些か低すぎる気温であり、しかもそこそこ風の強い日だったため、皆が寒さに震えながらの避難になった。

 私たちは寒いの面倒臭いのとブツブツ文句を言いながら、度々先生に怒られながらも、一旦校舎を出てから敷地に沿った道路をグルリと回り、荒川の河川敷にある野球のグラウンドに到着した。


 「点呼しまーす! 出席番号順を崩さないでくださーい! 」


 クラス毎に整列し、委員長(メガネ女子)の点呼が始まったは良いが、


 「うひゃー! 」


 「寒すぎだよ! 」


 そこは寒風吹きっ晒しの河川敷である。

 女子はキャーキャー言いながら友だち同士で抱き合ってるし、男子も身を寄せ合って縮こまっている。

 ハンドスピーカーを構えた先生たちの指示出し声、各クラス委員長たちの点呼、生徒たちのボヤキ、この場にいる全ての者の声が寒さに震えていた。

 そんな中で、もちろん私たち仲良し女子6人組みも、ほぼ密着状態の円陣を組んで雑談しながら寒風に耐えていた。


 「ねえねえ、ボイラー室で火事って言ってたけどさ。避難してる最中に煙とか見た? 」


 私たちの高校のボイラー室は、ここに避難してくる途中に道路から見える位置にあるのだが、


 「ううん? 見てない。」


 「見てないかも。」


 「私も。」


 「気付かんかった。」


 「そう言えば、煙も火も見てないね。」


 てな感じで、私の友だちは揃って見ていないと言った。

 私も避難の途中で、ボイラー室の辺りを注目していたのだが、外側からは何の以上も見られなかった。


 「直ぐに消せたのかな? ボヤだったんじゃない? 」


 「そうかもだけど、それじゃ寒いの我慢しての避難なんて無くない? 」


 「いやぁ、学校ってのはボヤでも避難することになってんだよ。」


 「生徒の安全第一。風邪ひきそうなんですけど。」


 「早く、戻りたーい! 」


 何となく嫌な感じがしていた。

 ホントに火事だったのだろうか?

 シデンから、私の身に起きている異常な事態について詳しく聞かされた日から、日常で少しでも変わったことが起きたら身構える癖が付いていた。

 唐突に始まった全校での避難行動について、私は始まって直ぐの時点から疑って掛かっている。

 火事で全校避難なんてのは、どんなに真面目にやったって多少の混乱が生じるもので、今日は寒さと強い風も相まって、生徒たちは先生の話に注意を払おうとせず、点呼の時には一時的に整然としていた列が、今はグチャグチャになっていて、隣のクラスと混じり合ってしまっている。

 この混乱に乗じて、魔力結石を狙うヤツらが動こうとしているのかも知れない。


 「ねぇ、消防車のサイレン聴こえないよね? 」


 「ホントだ。火事ならさ、ボヤでも消防来るでしょ。」


 そのことに気付いたのは一人や二人ではない。

 その違和感は、あっという間に生徒たちの間に広がり、先生たちも首を傾げたりしていた。


 「いつまで、ここにいれば良いんだよ? 」


 誰かが叫んだ。

 それを合図に、河川敷に集まった800人近い生徒たちが一斉にザワつき始めた

 この状況、もし異世界の小鬼とかいうヤツらが仕掛けてくるなら絶好の機会である。

 教室に残してある荷物を探るのはもちろん、この場の生徒の中に紛れ込めば、私に近付いてきて襲ったり拉致することだってできるだろう。


 何かが嫌なことが起こりそうな予感がする。


 私は制服の上から胸にあるペンダントロケットの感触を確かめた。

 私を狙っている連中は、この中の魔力結石を探し求め、学校で私の荷物を荒らし、留守宅に侵入までした。

 そこまでして見付けられなかったため、遂には私を拉致しようとまで試みた。


 (たぶん、もうヤツらは私が魔力結石を家に置いていたり、荷物に入れていたりはしていない、身に付けているんだって絶対思ってる。)


 そして、この全校避難が魔力結石を奪い取るための罠だとしたら、


 (来るよね、絶対! )


 私に直接何かを仕掛けてくるに違いない。

 荒っぽい作戦でくるのか?

 こっそりと油断を誘うような作戦を用いるのか?

 どのように仕掛けられたとしても、できる限りは魔力結石を守りたい。

 シデンは命との引き換えなら渡しても良いみたいに言ってたけど、そうならない限りは手放したくない。

 だって、渡してしまったら、

 

 (異世界からの侵略が始まっちゃうんでしょ! )


 そんなのは、絶対に嫌だ。

 だから、一応だが私は友だちと雑談し戯れているようにしつつ、ナニモノが仕掛けてきても直ぐに反応できる体勢を整えていた。

 魔力結石を10年も身に付けていたことにより強化されてしまった私の身体能力を以ってすれば、異世界の小鬼ぐらいなら十分に対処が可能というシデンの言葉を信じて、いつ起こるとも知れない事変を待ち構えていた。


 「ねえ、誰か洲崎見てない? 」


 クラス委員長が叫んでいた。

 

 「洲崎? 教室出る時はいたよね。」


 「でも、ここ来てからは見て無くない? 」


 「面倒臭がって、サボって帰っちゃったんじゃねーの? 」


 優等生タイプの洲崎君がサボるなんて、あまり考えられない。

 どちらかというと、サボろうとする不真面目な男子を引き留める側だと思う。


 これは、ちょっと本格的に胸騒ぎがしてきた。

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