戦う女子高生なんて無理に決まってんじゃん!
「殺っちまうって、シデンが殺ってくれんの? 」
あっさり言っちゃったけど、まあ、本人が自分は強いって言ってるんだから、できるってことなんじゃないだろうか。
自称だけど神さまなんだし、そうしてくれたら有難いんだけど、
『何言ってんの? お前も一緒に殺るんだよ。』
今、シデンに何か変なこと言われたような気がする。
頭の中に「?」がいっぱい並んだ。
『今、こっちの世界に来てるのは、小物の魔獣が10種類くらいと、魔人の類いは小鬼の類いが殆どだから何とかなるさ。魔獣なんかは世界の彼方此方に散らばってるから、他の連中が見つけて退治してくれるだろう。問題は日本に集中して暗躍してる小鬼どもだ。ヤツらは賢いし統率者がいて集団で動くから厄介だが、オレとお前が協力して攻めれば根絶やしにできるぞ。』
ソファの上に寝そべって、後ろ足で頭を掻きながら、全然緊張感無く、とんでもなく恐ろしいことを言っている。
私が、シデンと協力して魔人と戦う?
そんなの有り得ないでしょ!
このワンコ、私が非力な一般人で、尚且つ、か弱い女子高生だってことを忘れてるんじゃないだろうか?
「冗談じゃないわよ! 私が異世界の魔人なんかと戦えるわけないじゃない! 女子なのよ! 高校生2年生なのよ! 未成年なのよ! 日本じゃ18歳過ぎないと自衛隊にも入れないんだから! 」
『大丈夫だって。できるって。』
こいつ、頭おかしいんじゃないだろうか?
実はワンコだから、難しいこと考えることできないんじゃないだろうか?
『失礼な奴だな! 犬じゃないって何度言ったら分かるんだ! このバカ女はっ! 』
「今、ジェンダー差別発言した! 女はバカだとか、そういうのイケないんですぅ! 」
『女はバカっつってない! お前がバカだって言ってんだ! それにオレが何度も、犬じゃない! オオカミだ! 神さまなんだって言ってんのに、犬だのワンコだの言うのは差別じゃないんかい! それに2000コ以上も歳上に向かって、失礼なことばっか言いやがって! それって精神的な苦痛を与えるってヤツだろ! モラハラだろ! 』
「わー! わー! わー! 何も聴こえませーん! 」
『い~から、お前は黙ってオレの言うこと聞いて、一緒に小鬼どもをぶっ殺しに行けば良いんだよっ! 』
「パワハラ! それってパワハラ! 信じらんない! 私、可哀そう! 」
『こんの小娘! その性根叩き直してやる! 年長者に対する礼儀を教えてやる! 』
「暴力反対っ! 訴えてやる! ちょっとぐらいモフモフで良い毛並みしてるからって威張んな! 」
『やかましいっ! 』
≪ 中 略 ≫
「・・・冷静にお話ししようか。」
『・・・だな。』
不毛な言い争いは、一旦棚に上げておくことにした。
ちょっと、私もシデンも頭に血が上って息が切れた。
「で、シデンは私に何ができるって言うの? 私が異世界の魔人? 小鬼だったっけ? そんなのと戦えるって本気で思ってんの? あり得なくない? 」
『そんな難しく考えなくて良いって。それにお前さ、もう既に小鬼2匹ぶっ飛ばしてるだろ。何を今更って感じなんだが。』
「何のこと? 」
一瞬ポカンとしたが、直ぐに見当ついた。
「もしかして、それって誘拐犯のこと? 」
あの牙を生やしたヤツらが小鬼なのか?
確かにぶっ飛ばせたが、
『だから、できるんだって! 殺れるんだって! 10年間も魔力結石抱えてたら、いざとなりゃ普通の人間の10倍くらいのパワー出せるし、メンタルだって超強くなってるはずなんだし。』
「あーっ! それって! 」
思い当たる節どころではない。
夏からずっと悩んでたことである。
それは、最近、逞しくなったとか、硬くなったとか言われて、乙女心が深く傷ついていた例の一件のことだろう!
ついでに、突発的な空手少女になっちゃった件もある!
気のせいだとか、一時的なモノだとか思おうとしていたのに・・・
『10年間も魔力結石と一緒にいたら体質も精神構造も影響受けるに決まってっし、その間に教わったり学んだりした経験は頭じゃ忘れてても身体に刻み込まれてるんで、いつでも引き出せるって便利機能もあるんだぜ。しかも、近頃はオレと出会ったことで一段と活性化した魔力が、ナント肉体改造まで施してくれたみたいだし、超ラッキー! 』
「うーっ、お前か~ お前のせいだったのかぁ~ 」
シデンと、その首に掛かったロケットペンダントを恨めしそうに見る。
命の恩人と、そのアイテムに文句は言えない。
そして、知らぬこととはいえ、魔力結石を肌身離さず10年間。
すっかりマッチョな女になってしまったらしい。
(私の理想は華奢で柔かい女だって言うのに・・・ )
しかも、子どもの頃にちょこっと齧ったぐらいの空手で、異世界の魔人だか小鬼だかを1対2のハンディキャップマッチで撃退できるほどの強さを身に付けてしまっていた。
空手なんかよりも、勉強とかそういうのを刻み込んで欲しいのに、それはダメなんだって。
体育会系な能力限定って、なんじゃそりゃ!
かなり凹んだ。
もう、引き返せそうにない。
今晩は枕を濡らして寝るしかない。
『それと、昨日でお前がオレんとこにお詣り始めてから、ちょうど100日目だったのな。神さまに100日詣りして、お供えもしまくったんだから、絶対に何かギフト授かってるって! すげーじゃん! そんなの滅多に無いことなんだぞっ! 喜べっ! 』
「まだ、あるんかい! 」
お詣りって、私が児童公園に出掛けて、シデンに会ってたこと?
お供えって、和牛ステーキのこと?
100日も通ってたっけ?
そんなことより、私がマッチョな女になったことを、まるで良いことのように、テンアゲしながらペラペラと捲し立てているのが腹立つ。
なんなのコイツ?
乙女心を全然理解していない!
世間の女子の大半は筋肉ガキガキのスーパーヒーローよりも、キレイな装いの似合う可憐なヒロインになりたいのよ!
○○○○マンとか○○ライダーじゃなくて、魔法少女みたいな感じになりたいの・・・
えーっと、魔法少女?
「ちょっと、シデン。私が授かってるギフトって何? 魔法っぽいヤツ? 」
『さあ、そのうちに自覚できるようになるんじゃね? 』
あれ? 神さまにお参りして貰えるって、その神さまってシデンなんじゃないの? シデンから私へのギフトじゃないの?
『ギフトってのはな、100日間も神さまにお詣りした結果、神さまの能力の一部が乗り移ることを言うんだよ。お詣りを頑張ったことへのご褒美みたいなもんだと思ってりゃ良い。この場合、オレの能力の一部ってことなんだが、何が乗り移ったのかはオレには分からん。いくつ乗り移ったのかも分からん。』
「どうやったら分かんの? 」
『その能力が必要になったタイミングで、ビビッと閃くんだってさ。』
「それまでは、分かんないの? 」
『そゆこと。』
分からないんじゃ喜びようが無い。
一瞬、魔法少女みたいに、コスチェンしたり、空飛んだり、空中停止して決めポーズができるようになるのかと思ったけど、このワンコの能力コピーじゃ、そういうキラキラしたのは期待できなさそう。
「なんか、殺伐とした能力っぽい。」
今まで聞いたシデンの話は物騒なものばかりなので、シデンの能力ってのも、そういうのに適してそうな能力に違いない。
「はぁ~ 」
『何、溜息吐いてんだよ! オレの能力スゲェんだぞ! 一撃で山ひとつくらい吹っ飛ばせるし、絨毯雷撃で街を荒野に変えることだってできる。オレだけで、アメリカ太平洋艦隊と海兵隊相手に戦争もできるぐらいなんだぞ! 』
別にアメリカと戦争する予定が無いから、そういうのは良いです。
「話は戻るけど、シデンは、小鬼を撃退するほどの力を持っていて、他にも凄そうな能力を秘めているらしい私に、異世界の怪物相手に戦うのを手伝えとおっしゃるわけだ? 」
『手伝いじゃなくて協力な。五分五分、フィフティフィフティ、そしてウィンウィンな感じで。』
「本気で言ってるんだ? 」
『そりゃそうだ。』
「はぁ~ 」
また、溜息出た。
やっぱ、このワンコ、考えが甘いわ!
「あのね、誘拐の時に戦って撃退したけどね、私は殺ってないよねぇ。ここすっごく大事だから! 」
人間、戦うことは意外に簡単にできる。
生き物なんで自己防衛本能があるわけで、自分に危険を及ぼそうとする相手を懲らしめたり撃退したりするのは、多少の訓練と心構えさえあれば誰でも実行可能だろう。
だが、いくら自分に害を及ぼそうとする相手でも、殺して排除するまでできる人なんて、そうはいない。
正当防衛で人を殺めたなんて話を聞くこともあるけど、それは殆ど不可抗力の世界で、結果的に相手が死んじゃったってこと。
意図的に、そんなことできる人なんて多くは無い。
つまり、何が言いたいかというと、
「私に、そんな覚悟なんてあると思う? 異世界の怪物相手に戦うってことは殺すってことなんでしょ? とどめを刺すんでしょ? ないわ~ ムリゲでしょう! 」
『相手は人間じゃないんだぞ。それに、こっちの文明共通の倫理的には “悪” だ。連続殺人鬼みたいな凶悪犯だ。殺らなきゃ、こっちが殺られる。今は正にそんな状況だぞ。』
「悪だから、殺せとはならないのもこちらの文明の倫理観でしょ。死刑廃止してる国が多いわけだし。」
『死刑廃止してる国の殆どが、凶悪犯逮捕時の射殺は認められてるぞ。誤射や暴発で殺しても、相手が凶悪犯なら無罪になるだろ。』
「シデンが言ってるのは正論だけど、私は平和ボケした日本で暮らす一般人なのよ。ミサイル飛ばしてきたり、射撃管制レーダーでロックオンしてくるような相手でも、笑顔で手を差し伸べて話し合いましょうって教育されてきた呑気な国民なのよ。それなのに、今から殺らなきゃ殺られる的な考えに変われると思う? 」
自分で言ってて、ちょっと日本人って情けないなって気もしているけど。
でも、これは事実!
戦って勝ったとしても、最後のとどめを刺すことなんて、たぶんできない。
そういう時に躊躇ってたら、ドラマなんかじゃ反撃されて死亡ってなケースは定番。
下手すりゃ、一緒に戦ってる相棒を殺すことになってしまうかもしれない。
そんなのは、絶対に嫌だ!
『でもな、たぶん殺らなきゃなんない状況になったら、お前は殺る。たぶん殺れると思う。今のまんまじゃ、そうしなきゃなんない状況が必ず訪れるんだよ。』
「そうなったら、私が自主的に戦って殺すって? そんなの信じられないんだけど。」
『その時が来たら分かるだろうし、今日のところは、そこまでの覚悟は必要ないから、まあ良いことにしておこうか。今日のところは、これで終いにしよう。』
「え? ちょっと! 」
病み上がりで話し疲れたのか、シデンは大欠伸を一つしてからソファの上で完全に寝そべり寝息を立て始めてしまった。
実のところ、私も話し疲れ、聞き疲れである。
「他にすること無いし、昼寝でもしようか。」
難しいことは、寝て起きてから考えよう。




