表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/78

え? 誘拐犯! 怖い! でも一蹴しちゃった(汗)

毎回ご覧いただいております皆さん

ありがとうございます!


明日の投稿は、少し早めの時間にすると思いますので

よろしくお願いします。

 (私、誰かに狙われているのかもしれない・・・ )


 そう思わざるを得ない事件が続いた。


 前記した2件の他にも、10月に入ってからは高校の生徒用玄関の靴箱が荒らされたことがあったし、体育の授業中に更衣室のロッカーを壊されたこともあった。

 高校での事件が続いたことで、犯人は校内にいるのではないかと見た警察が乗り込んできて、私は事情聴取されるだけじゃなくて、保護監視対象になったらしい。


 だが、警察の目が24時間行き届いているわけではないので、その隙を縫って事件は起きた。


 それは11月7日の木曜日、立冬で仏滅の日。

 高校からの帰り道、夕暮れ時の16時過ぎ、一連の中で最も怖かった事件が起きた。


 私はいつもと同じ下校ルートを歩いていた。

 高校を出て、荒川の堤防沿いに南へ歩き、頭上を走る首都高の騒音を聴きながら大橋を渡る。

 毎日の歩きなれた道であり、その途中に危険なことが起こるなど全く想定していなかった。


 (今日もアルバイト前にお肉持って~ 公園に寄って~ それにしても、いくら和牛ステーキだからって毎日同じお肉ばっか食べてて飽きないのかな? )


 そんな、日々の生活にすっかり馴染んだワンコとの日課のことをツラツラと考えながら、嫌な事件が続いている割には呑気に道を歩いていた。

 それは、持ち物や部屋が荒らされたりしてはいるが、犯人の姿を目撃したり、直接襲われたりはしていないので、身の危険をあまり感じていないということに尽きる。

 しかも、高校や自宅アパートには警察の監視が付いているらしいので心強くもあった。

 最後に起きた更衣室のロッカー壊しは10月の上旬に起きた事件であり、以降は警察の監視が厳重になったためか校内での事件はプッツリと途絶えている。


 もう安心、もう大丈夫、そう思うことがフラグになるってのは、物語の中でのこと。

 そんなのはクライマックスを盛り上げるための仕掛けでしょう。


 「だから現実じゃ、もう大丈夫と思ったら、それはホントに大丈夫なんだと思って良いんだよ。」


 とは、親友たちのうちの誰かが言っていた言葉。


 (でも、たぶんそんなもんでしょ~ )


 いつの間にか、この日の私の下校ルートは終盤の交差点に差し掛かっていた。

 その交差点の横断歩道を渡ってから右折、そのまま真っ直ぐ進んで途中の路地を曲がれば直ぐに自宅アパートが見えてくるはず。

 人通りも多い時間帯なので、特に何かを警戒するでもなく歩道の端に立って、歩行者用信号が青に変わるのを待っていた。


 ギッキーッ! ガッコン!


 耳障りなブレーキ音と、歩道の段差に車の腹が擦れる鈍い衝撃音がした。


 「えっ! 」


 異変を察知し、声を出した時には、目の前に黒塗りのワンボックスカーが横付けしてあり、その扉が勢い良く開くと同時に車内から二人の黒いマスクをした作業着姿の男が飛び出してきた。

 そして、男の一人が未だ状況が掴めずにいる私の後ろに素早く回って両腕を拘束し、もう一人の男は手に持っていた大きな麻布製の袋を私の頭からスッポリと被せようとしてきた。

 スパイ映画や犯罪ドラマなんかで良くある誘拐シーンと同じ手口である。


 「キャーッ! たいへん! 誘拐ぃーっ! 」


 その時、叫んだのは私ではない。

 私の後ろに少し離れて信号待ちしていたオバサンである。

 その甲高い声に気を取られたか、一瞬、私を拘束している男の手が緩んだ。


 ところで、


 この直後に起きた“誘拐されそうになった私が咄嗟に見せた行動について”を述べる前に、伝えておくべき前提がある。


 一つ、私の運動神経は人並みより少し上ぐらいで、力は女子の平均値程度ということ。


 一つ、本気の男の力に掛かっては簡単に捻じ伏せられる非力な女子高生であるということ。

 

 それなのに、私は誘拐されそうになった瞬間、自分でも信じられない力と俊敏さを発揮した。

 両腕を後ろに捩じ上げていた男の力に大した苦も無く逆らって、その流れで相手の右手首を取ると逆関節方向に折り曲げてやったのだ。


 べキッ!


 たぶん折れたであろう鈍い手応えが伝わってきた。


 「うぉごっ! 」


 男が苦し気に呻きながら一歩後退、私から身体が離れた。

 火事場の馬鹿力というのは、こういうモノなの?

 なんて、驚いている暇は無かった。

 いったい、いつ、私の中にこんな力が宿ったのか全く信じられないのだが、身体が勝手に動いている。


 さらに、


 「フン! 」


 と、気合い一閃!

 袋の口を開いて私に被せようとしていた男に向かって右向きになっていた私は、そのまま位置を変えずに姿勢を下げ、ローファーを履いた脚を思い切り蹴り出した。

 制服のスカートが捲れてパンツが丸見えになったと思うが、気持ちが良いほどに脚は高く上がり、ローファーの中で親指はピンと立っていて踵は上向き、まるでお手本のような足刀が男の手にしていた袋を突き破り、その下顎にヒットした。


 「え、マジ? 大丈夫? 」


 誘拐未遂犯の男二人相手に自分がやってのけた格闘の結果に呆然としてしまった私の口から、思わず出てしまった言葉。

 気遣い無用の相手だということを忘れて、怪我の心配をしてしまうほど、一方的にやっつけてしまった。


 「#$%&! 」


 手首を折ってやった男が、何語か分からない奇妙な言葉で叫び、無事な左手でもう一度私を捉えようと迫ってきていた。

 しかし、この日の私は身体が勝手に動く。

 しかも、キレッキレ!


 「シャッ! 」


 掴みかかってきた男にカウンターで放った右上段突きが突き刺さった。

 マスクが千切れ飛び、苦し気に口元を抑えて再び後退する男。


 その時に、おかしなモノを見た。


 顔の下半分を覆っていたマスクが外れ、一瞬だが男の口元が見えた。

 私に殴られて半開きになっていた口の中にあったのは、


 「牙? 」


 人間ならば四角くて平べったい前歯があるはずの位置に、鋭く尖った犬歯のような形をした歯が並んでいたのだ。

 それと、犬歯が生えているべき位置には上下一対の大きな牙が剥き出しになっていて、


 「何、こいつら? 人じゃない? 」


 流石にこれを目撃した私は、驚いて動きを止めてしまった。

 突然の路上誘拐から始まって、犯人の男二人相手に格闘技の達人みたいな信じられない動きで応戦し、ついでに得体の知れないバケモノを見てしまった。


 (もうダメ! 頭がついてかない! )


 これ以上の戦闘は無理!


 だが、幸いにも “牙男” は、それ以上私に掛かってくることはしなかった。

 私の誘拐を諦めて、逃げの体勢に入り、固いローファーの踵を食らって路上に昏倒していた男を軽々とワンボックスカーの中に押し込むと、自分もさっさと乗り込み、


 「@#=#&%! 」


 と、運転席に座っていた、もう一人の誘拐犯に指示? を出してから扉を閉めた。

 ワンボックスカーは1回バックしてから、縁石で何度かバウンドしつつ、赤信号の交差点に進入し、交差する車の急ブレーキ音を物ともせず北方向に向かって走り去った。


 「あなた! 凄かったわよ! 」


 「強いのね! ビックリしちゃった! 」


 「ちょっと! そんなことより警察よ! 警察に電話しなきゃ! 」


 「私、バッチリ車の写真撮ったわよ! 」


 いつの間にか、傍に10人くらいの人だかりができていた。

 その中から、何人かのオバチャンたちが駆け寄ってきて、怪我を心配してくれたり、落っことした荷物を拾ってくれたり、警察への連絡やら目撃証言やらに進んで協力してくれた。

 そんなオバチャンたちにお礼を言いながらも心は暫し呆然としていた私が、この時にハッキリ確信したのは、


 「やはり、私は狙われている! 」


 その恐ろしい事実である。


 そして、


 「私を狙っているのは、バケモノ? 」

 

 到底信じられないことだが、とんでもないモノを見てしまった。

 見てしまったからには信じるしかない。

 もちろん、警察にも見たとおりの報告をした。

 でも、当り前だけど誰も信じてはくれなかった。

 牙の生えた人外の誘拐犯なんて話、簡単に信じる人などいるわけがない。

 身の危険を感じて興奮している最中のことなので、誰もが私の見間違えだろうと言っていた。

 玩具の牙じゃないか? とも言われたが、あれはそんなチャチなモノじゃない、間違いなくリアルな牙だった。

 でも、結局、その件はそれで済まされてしまった。


 それと、信じられないことがもう一つ。


 その日、帰宅してから直ぐに押し入れの中の段ボール箱を幾つか開いて、私の子どもの頃の写真が貼ってある古いアルバムを何冊か引っ張り出した。

 その中から、ちょうど小学校に入学する前後の数年分の記録を見つけ出したが、とにかく大至急で確かめたいことがあった。


 「あった! コレだよ~! 」


 手に取ったのは表紙に『紗耶香 6歳~ 』と、太い油性の黒ペンでタイトル書きされている一冊。

 それは、父が未だ生きていた頃に撮ってもらった写真の詰まったアルバムであり、タイトルの文字は父が書いたモノ。

 すっかり忘れていた、子どもの頃の短い記憶である。


 「やっぱ、この当時、私って空手齧ってたんだよなぁ。」


 アルバムの中には、空手着に身を包んだ小さな女の子の写真が数枚残っていた。

 練習している写真は一つも無く、父や今じゃ名前も思い出せない同年代の子どもたちと一緒に撮った記念写真ばかりだが、間違いなく私が空手を習っていたという証にはなった。

 そうなのだ、私は空手の有段者だった父が講師をしていた町内会主催の子ども空手道教室に、週一ぐらいで通っていた時期があったのだ。


 但し、それは10年以上も前の子どもの頃の話。


 しかも、そんなに熱心に通っていたわけじゃないし、空手が好きでもなかった。

 父が事故死してからは直ぐに止めてしまったので何の実績も残っていないし、単なる習い事の一つでしかなかったわけで、真似事レベルのことしかしていなかったので、私の子どもの頃の記憶からは完全に抜け落ちてしまっており、今まで思い出す必要も無かった記憶である。


 「今頃になって、身体が憶えていたっていうの? 」


 いくらなんでも、そんなことは有り得ないと思うのだが、誘拐犯を撃退した時の私の動きは、周囲で見ていた大人たちの幾人かから、


 「綺麗で良い動きしてたよ~ 」


 「有段者なんでしょ~ 」


 などと褒められていたので、かなり空手っぽかったのだろう。

 だが、私と空手の接点は6歳から7歳に掛けての一時期である。

 以降は、空手どころか格闘技なんて全然興味なかったので観ることさえしなかった。

 スポーツは嫌いじゃなかったけど、部活動は、小学校でミニバスケ、中学校では陸上、高校はアルバイトのため帰宅部と、空手とは何の縁も無い生活を送ってきた。


 それなのに、


 (子どもの頃の習い事を、今になって思い出すなんて、そんなことって・・・ある? )


 そういえば、良いことなのか悪いことなのか分からないけど、前々から友だちに、


 「サヤチ、近頃ホントに硬くなったよね。」


 などと、腕や脚やお腹を触られながら感想を言われること度々だったが、


 (私、マジ強くなった? )


 誘拐犯をノックアウトできるほどの強さ。


 (今回は役に立ったけれど、そんな力、女子に必要なの? )


 実は、一番頭を抱えてしまっているのはコレだったりもする。

 鍛えてもいないのに勝手に逞しくなってしまって、このままマッチョな女子になってしまったらどうしよう。

 自分が筋肉ムキムキになった姿を想像したら、泣きそうになった。


 「ヤダ! 絶対にヤダよ~! 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ