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私の身のまわりで妙な事件が・・・?

 いつも児童公園の植え込みの中で、やる気無さそうにノンビリ寝てばかりいる彼が、突然、公園の外にいたらしいナニモノかに対して激しい怒りを剥き出しにしたのは昨日の夕方、私がアルバイトシフトに入る直前の16時半過ぎのことだった。


 彼は狂犬じゃないから、意味も無く攻撃的になるはずない。

 だから、彼が敵意を向けるべき相手が直ぐ傍にいたのだと思う。

 彼がナニモノかと向き合っていた時間は1分と少々だったから、そんなに長い時間じゃなかったけれど、初めて見た野獣の顔に私は驚きを隠せなかった。

 但し、怖がったりはしていない。

 率直に感想を言うならば、


 「キミ! やればできる子なんじゃん! 」


 てな感じ。

 でかい図体して、日がな一日寝そべっている姿を見てばかりいたので、そのギャップにやられた、感動した。

 そして、彼が取った行動の中には、不愛想にしながらも私の身の安全を守ろうとする意思もあるらしいのが伝わってきたから、全然怖くは無かった。

 あの後、私がアルバイト先のお弁当屋さん “あじさい” に向かおうとした時も、なかなか外へ出してもらえなかったのはそういうことだったんじゃないだろうか?

 私をベンチに座らせといて、自分は園内の彼方此方を歩き回って、時々外に顔を出しては鼻をクンクンさせ、同じことを3回ぐらい繰り返して、漸く園外に出る許可が下りた。

 これらは全て、私のための安全確認と受け取るべきだろう。


 (意味は分からんけどね。)


 だから恐怖なんてとんでもない、親近感が増すばかりである。

 もちろん、


 「ありがとう。」


 児童公園を出る時、キチンとお礼をした。

 その時の彼は、私の声が聴こえていたのかいないのか、既に植え込みの中に戻って、いつものように寝転がっていた。


 (いったい、ホントに、キミはナニモノなの? ナニかと戦っているの? )


 あの時、児童公園の外にナニモノがいたんだろうか?

 さっぱり分からない。

 だが、いずれ分かるんじゃないかって気がしていた。


 それも、近いうちに・・・



 ◇



 高校で、お昼休みのこと。


 「最近、洲崎が積極的な件について。」


 「捲土重来って感じ。」


 「何それ? どゆ意味? 」


 「平たく言えば、敗者復活ってこと。」


 「受験に出るかな? 憶えとこ。どんな字書くの? 」


 いつもの親友たちと机を合わせて昼ご飯を食べている時、そんな話題になった。


 「フラれたって言っても、直接言われたわけじゃないから、実感ないだろうし。」


 「そうそう、実はフラれてないかもって微かな可能性に賭けてるってとこじゃない? 」


 「うーん、でも、あれは心機一転、新たな気持ちで再チャレンジみたいなヤツじゃないかと思われる。」


 「そこんところ、当人はどう思ってるのかな? 」


 「ワンチャンありますかね? 」


 ここで、皆がわざとらしく一斉に私を注目する。


 「んなこと言われてもさ、こっちには、そんな気全然ないんだし、今、直に告られても断るしかないよ。」


 答えは、「ごめんなさい」の一択。

 洲崎君は嫌いじゃないけど苦手だし、恋愛感情を持てるかといったら、それは無理。

 でも、友だちが口をそろえて言うように、最近の洲崎君は妙に距離を詰め過ぎ。

 何かにつけて私との接点を求めてくる。


 例えば、私が日直で早めの登校をしている時、何故か洲崎君も学校に来ていたりする。

 普段は、そんなに早い時間に登校していないから、洲崎君が私の日直日を狙って来ているのは間違いない。

 そして、


 「他にすることも無いし、暇だから手伝うよ。」


 とか言って、日直の仕事を手伝おうとする。

 すること無いし、暇になるなら、もっと遅く登校しなさいよと言いたい。

 さらには、毎日の昼休みになると、


 「これから、売店に行くんだけどさ、何か欲しいモノ無い? ついでに買ってくるよ。」


 そんな風に声を掛けてくる。

 毎回断わってるのに、毎回めげずに声を掛けてくる。

 私が先生方に頼まれ事をされ、大して重くもない荷物を抱えて廊下を歩いていたりすることも偶にあるが、そんな時も、


 「たいへんだね。手伝うよ。」


 と、何処からともなく現れて、私から荷物を奪い取ってしまう。

 私が何にもなく、単に校内を歩いているだけの時にも、ダッシュでやってきて、


 「あ、姿見掛けたんで、元気かなと思って・・・ 」


 ここのところ、洲崎君は常にこんな調子である。

 そして、私の前にやってくる時には、少し気味悪く感じられるほどの満面の笑みである。

 好印象を与えようとしてやっているのなら、これらは全く逆効果。

 ちょっと、やり過ぎじゃないか? いい加減にしろよ! と私は思っている。


 「洲崎、このまま放置しとくとストーカーになるかも。」


 「ま? 」


 「ヤバいと思ったら、ウチらに言いな。ぶっ飛ばしちゃるけん! 」


 「そうじゃないだろ! 先生に相談すんだよ。」

 

 「まあ、相良なら何とかしてくれるだろ。」

 

 ストーカーという単語を聞けばゾッとしないでもないが、今のところ洲崎君に危険な様子は見えないから多分大丈夫だと思う。


 それに、この日から、私の身の回りでは、嫌な事件が度々起こるようになり、洲崎君のことなど気にしている場合ではなくなった。



 ◇



 高校で、五限目の休み時間のこと。


 「きゃーっ! 」


 「何これーっ! 」


 「誰だよこんなことしたのっ! 」


 体育の授業の後、最初に教室に戻った生徒たちの大声が、私たちの教室がある校舎3階の廊下の端から端まで響き渡った。

 私と友だちが更衣室で着替え終わって教室に戻った時には、前後の扉に人だかりができていた。


 「あ、神月! 」


 「サヤチ、戻ってきた! 」


 「ちょっと! ドアのとこに溜まってる人、サヤチを入れてあげて! 」


 唐突に聞こえるご指名に首を傾げながら、人を掻き分けて前側の扉から教室に入った私の目に飛び込んできたのは、


 「うわっ! ええっ! なんでこんな? 」


 思わず声を上げてしまうほど驚きの光景である。

 教室の窓側から2列目の後ろから2番目が私の席。

 その席が滅茶苦茶に荒らされていたのだ。

 スチール製の学習机は横倒しになり、机の右側フックに掛かっていたスクールバックはファスナーが全開になっていて中に入っていた教科書や文房具が床に毀れて散乱していた。

 椅子が直ぐには見当たらなかったが、


 「ここだよ。」


 そう声を掛けてくれたのは先に教室に戻っていた男子のうちの一人。

 椅子は彼の足元に転がっていた。

 教室全体を見回してみれば、他の机や椅子も倒れたり斜めったり、中身が飛び出したりと散々だったが、被害の中心にあるのは間違いなく私の席だった。

 他は私の席を荒らした余波を受けてしまったという感じ。


 「・・・酷い! 」


 誰かしらの呟きが聴こえてきた。

 

 「今、先生を呼んでくるから、それまで何も触らず、そのままにしてて! 」


 しっかり者の委員長(メガネ女子)が皆に向かって叫んでから、教室を飛び出して行った。

 他のクラスの生徒まで集まって廊下はザワザワしていたが、教室内にいる者は皆が口を閉じ、


 「サヤチ、大丈夫? ウチらが付いてるから、怖くないからね。」


 親友たちが私を囲んで、ショックで口を利けずにいた私の腕を取り、何度も同じ言葉を繰り返しながら慰めてくれていた。


 間もなく、クラス担任の相良先生と学年主任の先生、それと生活指導の先生がやってきて、私たちから事情を聞き取り、現場写真を撮った。

 先生方が警察に連絡したのかどうかは分からなかったが、一応こういう事態が起きた時のマニュアルに従って動いているようだった。

 そして、私は盗られた物品が無いか確認するよう指示されたので、そこで漸く散乱したスクールバックの中身を拾い集めて確認をしたのだが、


 「無くなっているモノはありません。」


 それまで先生方の中心で、この後の段取りをどうするか話していた相良先生が、私を振り返って、


 「ちゃんと調べたのか? 見落としは無いか? お前が大事にしてたモノが無くなっていないか、もう一度良く確かめて見ろ! 」


 と、言った。

 その時の相良先生は、いつもの優しい兄貴ではなく、厳しい表情で声が怖かった。

 自分のクラスで、こんな事件が起きたのだから当然の反応だと思うが、そういう先生の顔はあまり見たくないと思った。


 これが、私の身の回りで起きた最初の事件だった。


 先生方は努力して下さったようだが、結局、犯人を特定することはできなかった。

 事件が起きた5時間目、クラスの全員が体育の授業に参加していて、見学者も含めて女子は体育館、男子はグラウンドに集合していたのでアリバイが無い者はいなかった。

 他にも校内にいた生徒や教職員の中に疑わしき者は確認されず、校舎の入口に備え付けられた監視カメラの映像を確認しても、この時間帯に校内に不審者が入ったという事実は確認できなかったという。

 それと、あれほど教室内が荒らされていたのに、隣のクラスは英語の授業だったので普通に生徒や先生がいたにも拘らず、誰も気付かなかったのが一番の不思議とされた。


 そして、事件は校外でも続いた。


 私の自宅アパートに空き巣が入ったのだ。

 犯人は玄関扉の鍵を壊して侵入したらしいが、2DK全ての部屋の家具や収納、あらゆる引き出しが開けられ、中身が引き出されて、目を覆いたくなるほどの酷い有様だった。

 それなのに、


 「何も盗られなかったって? 」


 「はい、何も。通帳や印鑑も残ってました。母の形見の貴金属類も手付かずです。」


 これには、現場検証に来た警察官が首を傾げていた。

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