世界遺産の白神山地でモンスターハンティング!
なんとなく、日々妄想していたネタを書いてみました。
中世風の異世界とか、文明滅亡サバイバルじゃなくて
現代社会の日常の中で普通にファンタジー的な要素を融合させたら
こんな感じになるのかなぁ~ってお話です。
まずはイントロからですが、詳しい説明は後々ということで
今後とも何卒よろしくお願いいたします!
摂氏40度近い暑さが常態化し、日本国中が猛暑に茹だる7月の下旬。
私は、青森県と秋田県の県境に位置し、1000メートル級の山々が連なる山岳地帯、日本では4か所のみ指定されている世界自然遺産のうちの一つ『白神山地』にいる。
そして、下界の暑さとは隔絶された涼やかさの中で、鬱蒼と茂るブナの原生林が絶え間なく吐き出す緑のマイナスイオンを浴びながら、かつては観光客向けの散策道として使用されていたであろう荒れた山道を歩いていた。
「それにしてもさぁ、山ン中は涼しくて助かったわよね~ 宿出たのは朝早くだってのに、そん時もう30度超してたからウンザリしてたんだわ。猛暑の中、装備担いでトレッキングなんて洒落になんないもんねぇ。」
只今の時刻は午前11時。
おそらく今頃、下界では気温が摂氏35度を遥かに超えているに違いないのだが、現在地の気温は20度に届いていない。
高地であり、幾重にも重なる広葉樹の葉で直射日光の殆どが遮られているせいだと思うが、常に動いていなければ肌寒さを感じるほどの気温だったりする。
だから、歩き始めて直ぐには、暑さ対策と動きやすさ優先のためデニムのトレッキングスカートに半袖Tシャツという、ちょっと可愛めの山ガールっぽい装いでいたのだが、30分も経たないうちに肌寒さを覚えてきて、今は念のためバックパックに突っ込んでおいたフード付きミリタリーコートのお世話になっている。
『ふん! 暑いだの寒いだのって、人間ってなぁ我儘なモンだな。』
これは、私の後ろを歩いている相棒のセリフ。
「シデン! あんたねぇ、年中その分厚い毛皮着ていて暑くないの? 熱中症とかなんないの? 見てるだけで鬱陶しいんだけど。」
『気温の変化に順応できない不便な人間なんかと一緒にすな! 夏と冬の温度差なんて、オレにとっちゃ誤差だよ誤差! 』
この、“シデン” というのは相棒の名前。
なんか、偉そうに人間を見下した発言をしているが、彼は人間じゃなくてワンコだったりする。
『犬じゃないって、何べん言ったら分かるんだよ! オレはオオカミなの! そんで大神だから、神さまなの! 』
と、本人は自称しているが、たぶんワンコで間違いない。
どう見てもシデンは、シベリアンハスキーのボディにゴールデンレトリバーのフサフサでモフモフな毛並みを乗っけた感じの、抱き心地満点のワンコなのである。
但し、只のワンコではないのだけは認める。
超能力を備えたウルトラワンコなのである。
人語を解することができて、私の頭の中へ直接テレパシー的な思念を送ってくるので会話が可能だし、それに、なんだか良く分からないけどメチャクチャ喧嘩が強い。
『米空母機動部隊とガチでやっても勝てるんだぜ! オレはスゲェつえー神さまだからなぁ! はっはっはーっ! 』
でも、そんな大ボラ吹くとこなんて、どう見たって神さまとは思えない。
そもそも口の利き方は乱暴だし、直ぐムキになったり、ふてくされたり、偉そうにしたりするので全然威厳が感じられない。
『ホラじゃねーっての! いい加減にしろや! このバカ女! 』
こういう女性を侮辱する発言もしばしばだし、そんな神さまなんて有り得ないと思う。
『女を侮辱してんじゃねーんだわ~ お前をバカだって言ってんの! 』
まあ、ワンコの自慢話なんてぶっちゃけどうでも良いんだけど、頼りになる相棒ってことだけは間違いない。
さて、
今日の私だが、何故山歩きなんかしてるのかというと、愛犬と一緒に白神山地のアウトドアレジャーを楽しみに来てるなんてわけじゃない。
私たちは、只今絶賛仕事中。
白神山地に出没するというモンスターを、地元自治体の依頼を受けて退治しにやってきているのである。
ちなみに、
本日のターゲットは、山の中でコロニーを作って生息している10匹前後の人型モンスター。
お役所から戴いた情報では “ヒト型 魔人” と識別されているようだが、その性質は凶暴かつ貪欲であり、頻繁に付近の村や町を襲撃して家畜や農作物を奪い、このモンスターに遭遇した一般住民には拉致や死傷の被害が出ているということである。
目撃情報によると直立身長が約2メートルから2.5メートル、足跡から推定した体重は200キロ超、皮膚の色はグリーンで体毛は無し。
環境省に登録済みの魔人、Type GIGASと推定されている。
ギガスならば、魔人各種族に於ける知能や文化の発達程度を測るため有識者により設定された判定基準に照らし合わせると、レベル4(ホモ・エレクトゥス、ホモ・ハビリス並み)である。
それなりに知恵が回るし、火や簡単な道具、罠を工夫することもできるので駆除には十分な注意警戒を要する。
つまり、そこそこ厄介な魔人なのである。
ところで、
何故、モンスターなんて代物が日本にいるのか?
何故、私がモンスター退治なんかに赴いているのか?
何故、私が人語を話すワンコを相棒としているのか?
これらの経緯を全部話したら、メチャクチャ長くなる。
なんてったって、私が都立高校に通う16歳の女子高生だった3年前まで遡らなければならないので、今は止めておくことにする。
取りあえず今は、日本に限らず世界中がモンスターの脅威に晒されていて、その退治を生業とする職業、
『 特殊外来鳥獣駆除業[ 国土交通省・環境省・農林水産省共同資格認定 ]』
というモノが日本には存在しているということ。
そして、私の本業は女子大学生なのだが、諸般の事情により『 特殊外来鳥獣駆除業 』のライセンスを取らざるを得ない嵌めになり、学費稼ぎのアルバイトを兼ねて、学生なのにモンスター退治なんて仕事に携わっているということ。
とりあえずは、この2点だけをご理解ご承知おきいただきたい。
そして、ここからは話を3年前ではなくて、3日前に遡ってから改めて進めさせていただくことにする。
◇
3日前と言えば、7月20日の火曜日。
ついでに、全然どうでも良いことだが、この日は土用の丑の日だったりもする。
私が、千葉県南房総市で起きた特殊外来害獣事件に関わって、その主犯モンスターであるType SAIKYOとかいうウシの化物を退治し、自治体が用意した賞金100万円をもらって気が大きくなり、鰻重の特上を3人前平らげ、飲み放題、遊び放題した挙句、二日酔いになって自宅アパートでぶっ倒れていた時のことである。
懇意にしている元警視庁の刑事で、今は国土交通省の外局、
『 特殊外来生物対策庁 警備救難部 』
に所属する情報捜査官、汐見さんからの電話で叩き起こされた。
で、その汐見さん曰く、
「これは秋田と青森の両県庁から同時に出ている駆除依頼なんだが、高額賞金付き案件なんで請負希望者が殺到するのは間違いなくってさ、経験の浅い連中や素行不良な連中も金と売名目的で沢山押し掛けるに決まってんだ。その結果、困ったことに大量の死傷者が出そうな予感がするんだわ。お役所的には提出された案件は受けなきゃならないし、公募手続きも進めるわけだが、世間のバッシングを受けないよう、できる限り被害者を少なく抑える工夫をしなきゃならないわけよ。」
つまり、汐見さんの言う工夫とは、依頼を請負う者たちの中に腕利きを入れて先行させ、できるだけ早めに案件を処理させてしまうということ。
自慢じゃないけど私も一応は腕利きなんで、汐見さんの工夫に協力するのは度々のことであり、これまでも高額賞金付きの案件を優先的に回してもらうことが多くて、懐が具合がたいへんお世話になっていたりいる。
だから、
「もちろん、汐見さんからの案件なら、最優先で喜んで引き受けます。で、いつから何処でやる仕事なんですか? 」
片手でスマホを耳に当て、空いている手でズキズキする後頭部を抱えながら、眉間にタテジワを寄せつつ、吐き気を我慢しつつ、それでも声だけは明るくシャキッとした感じで即答オーケーした。
そんな感じで引き受けた案件というのが、既出の白神山地でのモンスター退治なのである。
そして、この案件、7月23日の金曜日から有効になるとのことだったが、インターネット上での公募情報公開は前日なので、それまでに現地へ移動して手続きを完了しておかなければならない。
よって、呑気に二日酔いしてる場合じゃなくなってしまった。
(しかも、来週から大学の定期試験期間なんだよなぁ。金土日で片付けて帰ってこなくちゃ。)
アルバイトのせいで単位を落としていたら本末転倒である。
キチンとした成績で大学を卒業して、卒業後はカタギの仕事に就くために、勉強とアルバイトは両立させなければならない。
ギクシャクする身体を無理矢理に起こし、大急ぎで装備を整え、前記した相棒ワンコのシデンを伴って、翌日の夕方には東京を出発した。
そして、春に買ったばかりの中古RV車を走らせて、東北自動車から秋田自動車道を経由、一晩掛けて白神山地の南側にある街、秋田県能代市に前日の午前中入りできた。
『 国土交通省 特殊外来生物対策庁 警備救難部 第12出張所 』
白いプラ板に黒い文字で太書きされた看板は厳めしかったが、建物は潰れたコンビニエンスストアを改修して拵えたらしい即席の主張所である。
(まあ、地方の役所なんて何処もこんなもんでしょ。)
私は、出張所の真ん前にある駐車場の端っこに愛車を停め、後部座席で腹を上にして爆睡中のシデンを置きっぱにして、
「留守番よろしくね! 」
と、聞こえちゃいない相棒に無駄な声掛けをしてから、一人で “第12出張所”の扉を開けた。
ポーン
人感センサー音が鳴って、出張所内にいた人々の視線が一斉に私に向けられた。
そのうち、受付カウンターの中にいる職員たちの視線は直ぐに離れたが、待合所にたむろしている男たちの視線は違った。
一見して分かる素行不良の男たちであり、四六時中性欲を剥き出しにして憚らないような連中である。
そして、そんな連中の薄気味悪くて、不快で、不躾な視線は私に纏わりついて離れず、頭の天辺から足のつま先まで何度も往復を繰り返している。
ついでに、下卑た薄ら笑い声まで聴こえてきていた。
(ちっ! 鬱陶しいヤツら! )
猛暑真っ盛りの中での移動とあって、今日の私はセミロングの髪をポニテに束ね、上はノースリーブに薄手のカーディガン、下はデニムの短パンという手足剥き出しの格好でいたのだが、些か場違いの装いだったらしい。
(だって、暑いんだからしょーがないじゃん! )
舌打ちしながら男たちの無礼な視線を極力無視し、さっさと用事を済ませるべく、待合所から一番離れた奥にある登録手続き用カウンターに向かった。
特殊外来鳥獣の駆除案件を請け負う際、ネットで仮登録はできるが、最終登録は現地にある出張所でしかできない決まりになっている。
登録だけして現地に現れないような、すっぽかし野郎を予定戦力に数えなくて済むようにするための決まりだが、今回の案件に関しては秋田県能代市にある第12出張所と、青森県深浦町にある第9出張所のいずれかで最終登録しなければならない。
ちなみに、未登録の場合は依頼を達成しても賞金が貰えなくなるし、怪我や殉職した場合の保証金も、消耗品等の必要経費も出なくなる。
だから登録は必須なのだが、毎度余裕を持って現地入りしなければならないので、学生の私にとってはスケジュール的にけっこう厳しいことが多くて困る。
それに、毎度のことながら地方の出張所での登録手続きの際にはウンザリさせられることが多い。
この日もそう・・・
既にネット上では案件の公募情報が公開されていたこともあり、私が最終手続きに入った頃には既に幾つかの団体や個人が先行して請け負い登録を完了していたが、その一部が先ほどから鬱陶しい視線を送ってくる連中だったりする。
この連中、全部で20人、全員が男、顔つきは揃って軽薄そうに見えたが、それなりに頑丈そうな身体つきをしているので、一応は鍛えていそうな者たちである。
ところで、事前にネットで確認した公募情報には、
『 本案件は請負登録者数に制限無し 』
とあったが、それは駆除対象の数が多く、危険度が高く、困難な案件であることの証である。
だから、それを物ともせずに登録しに来る者は、皆がそれなりの実力者なのだと思っていたら意外に大間違いだったりする。
「おねえちゃん、一人? 何処から来たの? 」
「カワイイねぇ、今晩オレと遊びにいかない~? 」
「イイ脚してんねぇ、たまんねぇな! 」
「おケツもイイ感じだぜ~ 」
「モンスター退治? おねえちゃんにはムリムリ! それよりも、オレの股間に住み着いたモンスターを退治してくれよぉ~ うひゃひゃっ! 」
私がカウンターを離れて、提出書類の記入のため中央に備え付けの机に移動した途端、それまで離れてニヤニヤしていた連中のうちの幾人かが声を出し始めた。
傍に寄って来ようとする者までいる。
(まったく・・・ )
これは、私が全国どこの出張所へ行っても決まって遭遇する状況。
実のところ、『 特殊外来鳥獣駆除業 』なんて仕事に就こうとする者は圧倒的に男であり、しかもロクでもない素行の者が多かったりする。
この仕事、実入りは悪くないが、保障は少なくて命懸けの仕事だから、人手は常に不足状態。
よって、ライセンスの合格基準が甘くなり、失業した元暴力団関係者、暴力行為や窃盗や婦女暴行の前科持ち、さらには放っておいたら大量殺人犯にでもなってしまいそうな人格破綻者までいたりする。
中には警察官や自衛官を退職した人とか、猟友会出身者とか、まともな人もいるにはいるが、これは少数派で、そういった人たちは大抵がキチンと会社登録し、主に自治体などと契約を結び、地域密着型で堅実に活動しているため、こういう出張所で単発の案件に群がっているような者たちとは一線を画している。
結局、ライセンス所持者で圧倒的に多いのは個人の自営業者になるわけだが、その殆どは法律で一定の範囲内での武装と暴力的活動を許可された愚連隊と言って良い。
つまり、向こう見ずで、馬鹿で、怖いモノ知らずで、暴れたがりの集まりなので、危険とか困難とかを立ち止まって考えるような知恵は無く、勢いと欲望だけで動くので、どんな案件でも登録を躊躇わないだけなのである。
そして、こういう連中は総じてトラブルメーカーだったりもする。
モンスター退治だけに精を出していれば良いのに、自らの武勇を過大に誇り、英雄気取りで威張り散らし、街中で一般人相手に暴力事件を頻繁に起こすので、この業種全体が世間から白眼視され、まともな者が敬遠する職業になる原因を作っていた。
本来なら、人々の生活を脅かすモンスターを命懸けで退治するのだから、感謝されても良いくらいの仕事なのだが、そんな現状では望むべくもない。
「ねぇ、おねぇちゃん~ そんな書類なんて放っぽってさぁ オレと一発ヤリにいこうぜぇ。」
いつの間にか、私が最後の書類である “装備品の登録書” に必要事項を記入している机の横で、朝っぱらから酒臭い息を吐きながら、身体を摺り寄せてくる男がいた。
テカテカに磨いたスキンヘッド、迷彩柄のカーゴパンツ、カーキ色のノースリーブ、如何にも戦う男っぽい格好をしていて、これ見よがしに腕の筋肉見せつけ用にタトゥーまで入れてやがる。
(こういう形から入るヤツって大嫌い! キモ過ぎ! うぅーっ! キモキモッ! チョーキモイんですけど! )
正に、こういう手合いが『 特殊外来鳥獣駆除業従事者 』の典型と言われ、評判を落としている張本人なのである。
もちろん、こんな危険な馬鹿どもが始終出入りする出張所内には無法を取り締まる警備員が数名配置されている。
防弾ベストで身を固め、短機関銃H&K MP5と自動拳銃Glock 17で武装した屈強な男たちである。
但し、彼らの警備対象は出張所に勤務する職員や偶に出入りする一般人のみ。
特殊外来鳥獣駆除業従事者同士のいざこざなど、勝手にやらせておけば良いとでも思っているのだろう。
度を越した暴力行為が発生しない限りは動かず、セクハラ程度ならば取り締まる気も無いらしい。
そして、彼らから見れば、私も女性ではあるがゴロツキの一人と認識されているようで、酔っ払い男に絡まれているのに助けようともしてくれない。
(仕事の前なんだから、ここは我慢しなきゃダメ。)
先ほどから苛々しっぱなしだが、ここで面倒を起こすのは時間の無駄。
さっさと書類を書き上げて窓口に提出して、登録証を貰ったら表に出てしまえば良い。
その後は、せっかく秋田に来たんだから、美味しいご飯を食べて、美味しいお酒を飲む。
そうしたら、こんな馬鹿な酔っ払い男に絡まれたことなど直ぐに忘れられる。
そんな風に思考を明後日の方向に流しながら、最後の一項にペンを走らせようとした、その時である。
「お~い ねぇちゃん、オレの話を聞けってばよぉ。」
そう言いながら、酔っ払い男の手が机上へ伸びてきて、あと僅かで書き上がるはずの書類を鷲掴みにして、クシャクシャにして、取り上げてしまった。
「ぐぇへへっ! 」
男は意地悪そうに笑いながら、クシャクシャにした書類を持って私の目の前の机上に尻を掛けて座り、唖然としている私に見せつけるようにしながらビリビリと破き始めた。
「ぎゃははははーっ! やっちゃったぜぇ! 」
「ダメだよ、いぢわるしちゃ~ ひゃははっ!」
待合所から離れて見ていた男たちから、人を小馬鹿にしたような嬉しそうな歓声が聴こえてきた。
「おーい 泣くなよ~ ねぇちゃんよぉ。」
「これで モンスター退治なんて行かなくて良くなったんだからさぁ、今晩は暇なんじゃねぇの? 」
「なんなら オレら全員で可愛がってやっからさぁ。」
好き勝手なこと言いながら大爆笑している。
(こういう時も放置なのかなぁ? )
無駄とは知りつつもチラリと警備員の様子を窺ってみたら、なんと!
酔っ払い男と仲間たちのセクハラに同調してニヤニヤしているヤツがいた。
ブチブチッ!
私の堪忍袋の緒が切れた音である。
(ダメだ、こいつら。もう我慢の限界! もう好きにさせてもらうことにするわ! )
そうすることに決めた。
そうしないと腹の虫が収まらない。
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