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ぼんれくか  作者: 小畠由起子
1/3

前編

前編、中編、後編の三つのパートに分かれています。それぞれすべて本日中に投稿する予定です。

 『なんでも願いごとがかなうなら』あなたはなにを願うかしら? 大金持ちになって一生遊んで暮らしたい? 王子様みたいな素敵な彼氏が欲しい? 超人気ユーチューバーになって登録者数1000万人越え? 書籍化? ブクマ100? ……コホンッ、ちょっと脱線しちゃったけど、とにかく人間っていうのは、たくさんの欲望を持つ生き物ね。……その代償に、あなたはなにを支払うかわかってるの?


 わたしが今日紹介するお話は、願いごとをかなえるかわりに、背負いきれない代償を払うことになった女の子のストーリーよ。えっ? 願いごとに、代償は払わなくていいって文言を含めればいいじゃないか、ですって? うふふ、賢い坊やね。でもそれは、願いごとをかなえる側も考えることよ。……さぁ、それじゃあとくと知るといいわ。欲望の代償を。安易に願掛けすることへの恐怖を……。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ろうそく、それに五芒星を描いた紙、お供え物のお酒……って、これビールじゃない! もう、真面目にやってよ!」


 早苗(さなえ)がふくれっつらになって真紀(まき)に文句をいう。しかし、真紀はすずしい顔で肩をすくめた。


「しかたないじゃん。うちのパパ、ビールしか飲まないんだもん」

「もう、お酒持ってくるの、真紀の仕事じゃないの」

「だって、ないものはないんだし、しかたないでしょ。それにバレないように持ってくるの、大変だったんだよ。これでバレたら、わたし未成年なのにお酒を飲む不良少女ってことで、パパとママにぶっとばされちゃうよ」


 まったく悲壮感のかけらもない声で、ケラケラ笑いながら真紀が茶化す。早苗はもちろん、里奈(りな)美智子(みちこ)も白い目で見ている。


「でも、お酒の種類は決まっていなかったみたいだし、別に大丈夫よ」


 百海(ももみ)が真紀をかばうようにいった。五芒星の頂点それぞれに、ろうそくを立てていく。接着剤で倒れないように止めていった。


「でもさ、百海、こういうときって、お酒は日本酒じゃないといけないんじゃないの? ほら、お神酒とかって日本酒でしょ」

「でも、サイトには種類は書いてなかったし、外国だったらワインとかしかないじゃん。だったら別に大丈夫なんじゃないの」


 百海はあくまでマイペースに準備をしていく。ツクツクボウシが、わびしく遠くで鳴くのを聞きながら、四人はその様子をただながめて待った。ろうそくが一本、また一本と立っていくにつれて、里奈と美智子がそわそわし始めた。


「……百海ちゃん、ホントにやるの?」


 里奈がぽつりとつぶやいた。美智子もまゆを八の字にして、里奈の腕をぎゅっとにぎっている。


「もちろんよ! 小学校最後の夏休みが、今日で終わっちゃうのよ! せっかく最後の夏休みに、ふさわしい思い出を作りたくないの? それにさ、ホントに鬼が出てきたら、わたしたちなんでも願いごとをかなえてもらえるのよ!」


 真紀が興奮気味に里奈と美智子をはげました。まだ二人は青い顔のままだったので、真紀がそっと二人のそばで耳打ちした。


「里奈は矢野先生と、美智子は中原君と、つきあいたくないの?」


 それぞれの想い人の名前を告げられて、二人は顔を見合わせた。矢野先生は担任だし、中原君は別に彼女がいるともっぱらのうわさだ。二人にとってはかなわない恋だが、もし本当になんでも願いごとをかなえてくれるのなら、もしかしたらかなうかもしれない。里奈と美智子は黙って首をたてに振った。


「それなら決まりね! あぁ、鬼が出てきたら、なにを願おうかなぁ? チョコレートパフェ一年分とか? 遊園地のフリーパス券とか? 最新ゲーム機なんかもいいわね」

「あんたの願いごと、なんか現実的過ぎて夢がないんだけど……」


 あきれ顔でツッコむ早苗を、真紀はむぅっとくちびるをとがらせてにらんだ。


「なによ、そんなこといって! じゃあ早苗はちゃんと願いごと決めたんでしょうね?」


 真紀に逆にツッコまれて、早苗はうっとひるんでしまった。それこそ真紀のいうように、夏休み最後の日の思い出として、今回の肝試しイベントに参加しただけで会って、別に早苗にはこれといってかなえたい願いはなかったのだ。もちろん真紀のように、お腹いっぱいチョコミントアイスを食べたいとか、遊園地で思いっきり遊びたいとか、好きなアイドルのコンサートに行きたいなど、現実的な夢ならあるにはある。だが、真紀の願いごとにツッコミを入れた手前、そんなことは口が裂けてもいえなかった。


「ほら、準備オーケーだよ」


 ちょうどいいタイミングで百海が四人に声をかけた。五芒星の頂点に立てられた、五つのろうそくすべてに火がともっている。懐中電灯の明かりとはまた違った不思議な温かさに、五人はそろって息を吐いた。


「……それじゃあもう一度説明するけど、『ぼんれくか』をするには、まずはわたしたちが隠れないといけないわ」

「先に隠れて、一人ずつろうそくのところに行くから、『逆さかくれんぼ』ともいわれてるんでしょう?」


 早苗の言葉に、百海は静かにうなずいた。


「うん。隠れるときも、鬼門、つまり北東ね。コンパスによると……あのイチョウの木の方角だけど、そこだけは開けて、五芒星の頂点からまっすぐ先へ隠れないといけないのよ。間違っても北東にむかっていっちゃダメよ」


 真紀にジトッとした視線を送ってから、百海は続けた。


「そして、北東に一番近い人から、反時計回りに一人ずつ、この五芒星のところにまで戻ってくるの。そのときに、息継ぎせずに連続で『よいいうも』っていい続けるのよ」

「よいいうもって、なんかかわいいわね」


 茶化すようにいう真紀を、百海は眉間にしわを寄せてにらみつけた。


「遊び半分でやると、とんでもないことになるわよ。……『よいいうも』は、もういいよの逆さ言葉ね。とにかくこれをずっと、息継ぎせずに唱え続けて、それからろうそくのすぐ前まで来たら、今度は『よだだーま』っていうの」

「それももしかして、逆さ言葉なの?」


 美智子がおどおどしながら質問する。百海は得意げに目を細めて笑った。


「そうよ。まーだだよの逆さ言葉。これを一人ずつやっていって、最後の人が『よだだーま』っていったあとに、今度は五人全員で息をあわせて、『ぼんれくか』っていうのよ。……そうすれば、五芒星から鬼が呼び出されて、わたしたちの願いを一つずつかなえてくれるの。……でも」


 百海がそこで言葉を切る。もったいぶったように口をつぐむ百海に、真紀がしびれを切らしてせかすように続きをうながした。

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