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黒き戦鬼と聖なる狂剣 転

 




 第(ゼロ)世代魔導騎(シュヴァリエ)の代表格にして、ランベルジュ皇国の歴史上、最も戦果を挙げた魔導騎。


 ――聖なる狂剣(デュランダル)


 ランベルジュ皇国最高戦力、特記戦力たるランベルジュ四魔導の中にあって、単純な戦闘能力では、間違いなく最強と呼べる魔導師。


 ――魔導騎士シュヴァリエルシド=ウェルガノン。


 彼が、聖なる狂剣の担い手に選ばれてから、約10年。レイヴンに近い実力の相手と戦ったことはあっても、凌駕する相手などいなかった、この現実、その事実が導いてきた、とある示唆。

 そのことに気付いてしまったシドの胸中に、いまだかつて無いほどの危機感が芽生える。


 警鐘(けいしょう)が、けたたましく鳴り響く。


(俺どころか、蒼風のジジイ以上の武人とか、本物の英雄――破天以外にありえねぇ……俺が喰らい付いていけるのは、おそらく、異世界から来たばかりでステータスユニットの成熟が不完全なだけ。それに、デュランダルに斬られた異世界人が問題なく動けてる時点で、な……もし【チート】持ちなら、()()()()()で動けないはず。それが無いってことは……マズイな、俺の想定以上に、事態が進展してやがる。急がねえと――)


 ――陛下がヤバい。


 シドが気付いたソレは、何故この時代のユグドレアに本多 宗茂が連れてこられたのか、何故()()()()()()()なのか、その理由の一端に触れていた。

 それに加えて、これから起こりうるドグル大平原での()()()いくさ、その要因となる存在が、こちらに向かっていることを知るシドは、ブラックスミス一族に伝わる、とある書物の内容を想起し、最悪な可能性を想像してしまった。

 この時ばかりは、さしものシドも、自身が必死になって獲得したスキルを――『高速思考 極』と『並列思考 極』の利便さを恨んでいた。

 シドが思考する際、スキル『高速思考 極』の特性によって、制限時間付きではあるが、擬似的に時間が止まり、シドの意識だけが動く。時空間を渡る魔導騎であるデュランダルが、シドを()()()担い手として認めたのは、備わっていた2つの素養を、彼が極致へと導いたから。


 始まりの四騎(オリジナル・フォー)は、役割の重要さがゆえ、資格無き者を真に認めることはない、絶対に。


(『ほしりし災厄さいやくはらいしの者、大いなるの者に招かれし()()なり』、アーカード放浪記13巻……伝説の英雄である混沌のゼアル自身が、世界の存亡を賭けて戦い、あわや敗北かという時に現れた異世界の英雄とともに、災厄、おそらくは外天の何者かを倒した、そんな場面。重要なのは、あの()()小説が、史実に基づいてる可能性が高いってことだ――)


 白と黒の根源を連ねた、初めての英雄――原初と呼ばれる英雄の中の1人にして、混沌の大賢者の称号をユグドレアからたまわる、太極と友誼ゆうぎを結びし唯一の魔道士。


 ――ゼアル=ニズ=アーカード。




 そんな彼の生涯を書き連ねた、大衆娯楽小説。それが、アーカード放浪記。全30巻、ノンフィクションである。




 混沌のゼアル――民衆からの人気は高いが、権力者からは忌み嫌われていたとされており、他の文献では、怪人物かいじんぶつとして描かれていることが多い。だが、同じく古代期に記されたとされる、とある書物内の記述により、アーカード放浪記の信憑性しんぴょうせいは高まり、その結果、怪人物――どころの話ではないことが証明されてしまった。


 ――逆、なのだ。


 権力者が嫌っていたのではなく、ゼアルが極端な権力者嫌いだったのである。特に、国が認定した職業的な勇者や聖女を毛嫌いしていたらしく、混沌のゼアルの代名詞でもある()()魔術によって、海を隔てた別の大陸に跳ばしたり、はるか遠い大海のちっぽけな島に跳ばしたりと、とんでもないことをやらかしているはた迷惑めいわくな人物であり、古代屈指のトラブルメイカーという人物評がなされている。

 ただし、その荒唐無稽こうとうむけいかつ傍若無人ぼうじゃくぶじんな振る舞いが痛快であるとされ、平民たちからの強い支持を受けたアーカード放浪記は、古代期にて最も売れた――()()()()()()小説となった。

 ともあれ、アーカード放浪記には、古代期の人々の生活が、ゼアルというトラブルメイカーの活躍とともに赤裸々に描かれており、研究資料としても非常に価値の高いものとなっている。


 つまり、アーカード放浪記の記述、その信憑性は、他の文献に比べて、極めて高いということ。


(いつの時代も、世界は均衡きんこうを望む、ってか……ったく、運が良いのか悪いのか、わかったもんじゃねえな……いずれにしても――)




 ――本当の敵を探し出さないとな。










(むっ、戦意が薄れた……どうやら()()()()ようだな、ならば後は――)


 魔導機や魔導騎のように、複数の魔導器を組み合わせて造られる連結式と呼ばれる魔導器を駆る者には、高い知性が求められるということを、リィルから聞かされていた宗茂。そのため、遅かれ早かれ、シドが、宗茂の正体に気付くことを想定していた。

 とはいえ、シド=ウェルガノンという男の人物像から、可能性の1つとして考えていたものの、シドから一騎打ちの申し出が本当にあったことには、さすがの宗茂も驚き、同時に、好感の持てる人物であると評していた。

 それはさておき、この時点で、宗茂自身が果たすべき役割の半分は終えた。

 そう、宗茂は、シド=ウェルガノンに、自身がユグドレアに招かれた――連れてこられた異世界人であることを、秘密裏に伝えたかった。

 シドを選んだ理由は、ヴァルフリード辺境伯領軍として参加する軍人たちの中で、デュランダルを駆るシド=ウェルガノンが率いる魔導騎士団だけが、唯一、暗躍する者たちと関わりがないことを確信していたからである。


 その根拠は、宗茂が両の手に握る魔導戟、すなわち崩天牙戟・対アルメヒティヒ・ツヴァイにある。


 さて、何故デュランダルは、聖なる狂剣と呼ばれているのか。無論、その名の由来、地球にて聖剣と呼ばれしデュランダルの銘を名乗っていることも理由の一部ではあるだろう。

 しかし、あくまでもそれは、地球出身の異世界人ミコト=ブラックスミスの知識であり、現地の人々は、その由来を知ってはおらず、伝聞によって由来を聞いた者だけが知ること。現代に生きる大多数の人たちが、知る由もないことなのだ。

 では、何故、聖なる狂剣と、人々から呼ばれているのか。厳密には、聖なる、という文言は、どこから来たのか。

 ユグドレアの人々が、聖、という文字から連想するものは、大概の人が――聖女である。

 そして、聖女と呼ばれし者たちには、代名詞的な魔法、繋がる根源を問わない特殊な魔法がある。


 ――解呪魔法。


 呪詛と呼ばれる状態異常群には、対象の肉体的精神的な強度によって、成功するか否かが決まるという特徴がある。つまり、肉体的にも精神的にも高い強度を備えている存在は、呪詛にかかりにくいということ。

 そして、これはいかなる存在にも適用されるのだが、なんらかの要因で身体から部位が離れたとしても、その部位は、魔素に転じて霧散するその瞬間まで、その存在と同一である。

 切り離された部位とは、肉体であると同時にはくでもある。そのため、大気内に魔素が存在する限り、魄だけは修復されるため、肉体の繋がりは無くとも、魄の繋がりが途絶えることはない。


 この特徴こそが、デュランダルの異名に、聖という文字を冠する理由。


 崩天牙戟・対には、蒼穹竜ジ・ブルーファクシナータの牙が使われている。

 デュランダルが携えし双剣――赤と黒の二振り(ベガルタとモラルタ)には、紅蓮竜ジ・レッドジークヴァルスの爪が使われている。

 当然のことながら、根源竜たるファクシナータやジークヴァルスに通じる呪術は、極めて少なく、ほぼゼロ。

 崩天牙戟・対も、赤と黒の二振りも、その内には未だ、世界最強の一角たる根源竜が生きている――存在の強大さをも備えながら息づいている、言葉通り、生きた武器なのである。


 これが、宗茂の確信、その根拠。




 宗茂やデュランダルの側にいる者たちに、生半可な呪詛は通用しない――偉大なる根源竜の護りが、それを許さないのである。







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