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戦場の鬼たち 弐

 



 騎士、地球でいうところの騎兵という存在は、ユグドレアという世界での戦争において、けっして軽んじて良いものではない。

 かといって、戦の趨勢(すうせい)が騎士だけで決まるほど単純でもない。

 例えば、これが地球での話であれば、騎士やそれらを模した兵科の重要性は高い。数を揃えただけで戦を有利に、質を高めれば勝利を決定づけるだけの優位性をもたらし、時代や地域によっては、事実、騎兵という存在は、最強の兵科とされてきた。


 騎馬を駆る。ただそれだけのことが、戦を制するに足る力を有しているということだ。


 では、ユグドレアにおいて、騎士はどれだけの地位を得ているか。

 端的に言うならば、選択肢のひとつ。

 結論を言うならば、必須ではない。

 それが、ユグドレアという世界における、騎士という兵科の立ち位置である。


 何故、地球とユグドレアで、こうも差が生まれるか、その理由はただひとつ。




 ――魔道職の存在である。




 ガルディアナ大陸のみならず、ユグドレアという世界に存在する各大陸での戦場の初動は、そのほとんどが決まっている。より正確に述べるならば、その選択を選ばなければ、事と次第によっては――早々と敗北してしまう。

 ドグル大平原という広大な大地に、()()()()が生まれた理由こそが、選択の結果ということだ。


 さて、魔道職の存在が騎士の立場を危ぶませているのだが、何を以って、その流れが生まれたか。


 魔道職の基本にして始まりである魔法師――魔法とは、事象や現象を世界に再現もしくは発現させるものである。

 それに対し、魔術師――魔術は、魔法という奇跡を再現し、いつか凌駕するための技術。その根底には、魔法に対する敬意が存在する。

 その想いが身を結んだからこそ、ユグドレアの戦場における初動の選択肢として、多くの結果を生み出している。

 各根源の魔法の中でも、特に高い威力を有するものを模倣し――再現もしくは改変し、魔術書のひとつのカテゴリとして確立し、世界に示した。


 その魔術の名は――殲滅魔術。


 大人数の魔術師による広範囲の殲滅魔術こそが、ユグドレアの戦場の流れにおいて初期警戒を必要とし、同時に、初期戦術として採用されている。


 ドグル大平原の中央部には東西に2つの丘があり、ナヴァル王国が西側、ランベルジュ皇国が東側に軍を布陣。2国間の争いが始まった頃から、布陣する場所に大きなズレはなく、しかし、丘の高さは年々()()()()()()()、その意味。




 ドグル大平原中央部の大地をえぐりながら、両軍の殲滅魔術がぶつかり合い、相殺される光景こそが、開戦の号砲である。




 そして、ユグドレアには、ある現象が存在する。

 戦場に、その現象が起こることが当たり前になっている現状。それこそが、騎士の意義を薄め、魔道職の価値を高める最大の要因。

 魔法や魔術、一部の魔導などの魔道的行動の結果、空気中の魔素濃度が上昇、ある地点を突破したと同時に――場が出来上がる。上昇中もその傾向はあるのだが、肌で感じる空気の質感が明らかに変わった、その時から、魔道職が本領を見せつける時間が始まる。


 それは、魔道職が自由に――魔素の制約から解き放たれる時間。




 ――臨界。













 魔道という力が世界に与える影響は大きい。

 そのため、ユグドレアに存在する国々では、()()な規制を魔道に設けることが多い。

 国の情勢と魔道の基幹である魔律戒法(まりつかいほう)、この2つを擦り合わせて出来上がった法律をもとに規制する。


 ユグドレアにおいて、大概が規制対象になる有名な魔道的行動は、空を飛ぶこと。


 どのように規制されるかは、大きく分けて2つ。

 全面的に禁止か、一部だけ禁止にするか、そのどちらか。

 空を飛ぶという行為がもたらす影響力はかなり大きく、軍事的にも経済的にも、与える影響は計り知れない。空を自由に飛べるという行動は、立場に関係なく恩恵を享受できる最たるものであり、疑う余地など見当たるわけもないほどに便利な魔道である。


それゆえに、悪用されることを避ける必要がある、そういうことである。


 そして、他にも有用なものが数多く存在する魔道だからこそ、ひとつの問題が生まれる。


 ――魔素消費型の魔導器の存在。


 魔導器は、文明の発展にどうしようもなく寄与しているものであり、価値の高さを疑うものはいない。だからこそ問題になるのが、世界にあまねく存在していなければならない魔素、それを消費することで稼働する魔導器の存在だ。

 現在のユグドレアの魔導器には、魔素消費型と魔素還元型の2種類が存在する。

 2つの違いは、基礎性能と製造難易度。


 魔素消費型は、基礎性能が高く、製造難易度が低い。

 魔素還元型は、基礎性能が低く、製造難易度が高い。


 魔素は生物だけでなく、星の環境全てに影響する。それだけに、魔素消費型の魔導器は規制の対象になることが多い。

 だからこそ、魔律戒法の『四』である異世界英傑召喚、その対極に置かれている『肆』に含まれている異世界勇者召喚が禁忌とされている。

『四』を成すための異世界英傑召喚陣が、魔素還元型の魔導器であるのに対し、『肆』とみなされている異世界勇者召喚陣は、魔素消費型の魔導器でなければ、起動することすら叶わない。


 異世界勇者は、ユグドレアに召喚されるたびに魔素を消失させている。つまり、ユグドレアに来た時点で、世界を傷つけているということだ。


 それはさておき、本来は有限ながら結果的に無限に魔素を使える――臨界に至りやすい戦場で使われる魔導器は、性能面が考慮されるからか、魔素消費型がほとんどである。

 その結果、両軍の殲滅魔術が相殺されたことで臨界した戦場にその光景――魔道職が空を駆け、身体強化の魔法や魔術、魔導を施した軍馬にまたがる騎士が大地と()を駆ける。


 ユグドレアでは、陸海空、全てが戦場である。


 ところで、なぜか異世界の若者は勘違いしている者が多い。

 地球では、人々が想像し創造し続けた結果、破城はじょうついや投石機などの中世期兵器群や、戦車や戦闘機、潜水艦や空母、それらに搭載する銃弾や砲弾を射出する近代期兵器群などが開発されていった。

 それは、適者生存ともいうべき、星の環境を理解し活かした、知的進化の結果である。

 そしてそれは、地球でもユグドレアでも変わらないことを、異世界の若者は理解していない。


 魔法、魔術、魔導の三魔。すなわち魔道とは、想像力の権化である。


 勘違いしてはならない。

 想像をダイレクトに自由に創造することができる、魔道という概念と技術が存在する世界なのだ、ユグドレアは。

 地球で描かれている一部のフィクションのように、主人公とその仲間だけが優位に立てるような、誰かがぬるま湯にそっと浸からせてくれるような、そんな甘く優しい世界ではないのだ、ユグドレアは。


 実際を知らぬ中途半端な地球の知識など、ユグドレアの各大陸で覇を競う本物達からすれば、塵芥(ちりあくた)に等しい無用の長物でしかない。


 勘違いしてはならない。

 地球の軍事力が、必ずしも異世界のそれを上回るとは限らないということを。

 地球の人々の空想妄想の類いが軍事力となっている世界、それを侮るような愚行は、己の首を絞めているに等しいということに気づかなければならない。


 浅はかな妄想の如き、生ぬるいフィクションでの知識や常識が通用する世界ではないのだ、ユグドレアという異世界は。




 異世界勇者たちは、その現実に()()()()()





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