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てんい……なにそれおいしいの?




 本多 宗茂。それは、38年の人生を、ラーメンと武に捧げてきた男の名。

 そんな彼の脳内図書館ラインナップに、SF小説もファンタジー小説も、当然、異世界転生ラノベなどあるわけもなく。

 異世界ファンタジー物において、もっとも優秀な移動手段であると断言できそうなほどに有名な、あの力。

 チート能力の代表格である、あの力。

 空間制御系の能力者には必須の、あの力。


 ラーメンと武術で脳内のほとんどが占められている、あの本多 宗茂が、そんな力のことを知っているわけもなく。


「てんい?」

「はい、正しくは、長距離空間転移陣っていいます」


 それは、宗茂がティアナに、ある疑問をぶつけては返ってきた答え。

 抱いた疑問は、長距離の移動手段。

 なぜ、いつ、その疑問が浮かんだか。


 それは、とある3つの事柄を聞いた瞬間。


1.デラルスオーク、および、デラルスハイオークの討伐適正人数

2.デラルス大森林におけるオークの棲息予想数

3.デラルスレイク防衛都市の駐屯兵の数


 まず初めに、デラルスレイクの兵士は少なすぎるのではないかと、宗茂は思っていた。


 デラルスオーク1体を討伐する際の適正人数は、一般的な騎士であれば2人以上。その中に魔法騎士が1人以上編成されている場合は、一度に3体以上を対処可能。ただし個人差あり。

 次に、デラルスハイオーク1体を討伐する場合、一般的な騎士ならば最低5名。その中に、魔法騎士1名以上を含めることを推奨している。ただし、ある条件下の場合、交戦自体を避け、すみやかに帰還行動に移ることを、騎士達は厳命されている。


 その条件とは――


「狂乱状態……」


 ハイオークは通常、部下であるオーク達とグループを形成した上で棲息領域を徘徊する、集団行動を基本とする生態である。それは、デラルス大森林の変異種とて変わりはしない。

 もし、単独行動しているデラルスハイオークがいるとすれば、それは、天敵から()()()()()などの危機的状況下にある場合のみ。

 つまり、宗茂が殺したデラルスハイオーク2体は、天敵の存在を感知し、狂乱状態になっていたということである。


 その天敵とは――


「羽根つき青トカゲ――」

「いえ、蒼竜ファクシナータです」


 デラルス大森林における、名実ともに最強の存在――蒼竜ファクシナータである。

 人族の身で抗うこと自体が喜劇めいた、星銀(ミスリル)等級に認定されている存在なのだが、約1週間ほど前、そんな化け物に、ほぼ素手で挑まされた者がいた。


 その者の名は――


「次会ったら、絶対ぶっ飛ばす」

「そこはおとなしく逃げた方が……」


 ラーメン大好き本多 宗茂くん、38歳である。


 異世界に連れてこられてから、およそ30分後。まさかの最上級竜種(ドラゴン)遭遇(エンカウント)

超絶インファイトを繰り広げた結果、まさかの撃退という、その有り()べからざる事実に、暫定(ざんてい)的に原住民代表を務めているティアナの意識が、一瞬ぶっ飛んだことも、併せて記しておこう。


 なお、宗茂にも相手側にも、傷らしい傷はない。




 つまり、少々大人げない最上級竜種と、人族の範疇(はんちゅう)を超えたラーメン馬鹿の(じゃ)れあいこそが、今回のティアナ達を襲った災難の原因だったのである。










 さて、自国のみならず、他国からも魔境と認知されているデラルス大森林にて、12年前に突如(とつじょ)としてあらわれた、ある魔物の特殊変異体(ユニークモンスター)がいる。


「カイゼルオークの特殊変異体……強いのか?」

「それは間違いなく。ですが、かの魔物の恐ろしいところは、戦闘能力だけではなく――」


 ――その異常なまでの繁殖能力。


 オークは、他種族を母胎として繁殖する魔物であり、牡しか存在しない単性生物。

 例えば、デラルスオークが親となった場合。母胎となった生物は、約90日で、3頭から5頭のオークの出産をすることになる。

 人族の約三分の一という短い期間で、複数出産させるという、女性の天敵とでも呼ぶべきオークの生態こそが、オークに与えられた別名――女殺しの理由である。

 だが、オーク種最強と呼ばれるカイゼルオークは、さらに凶悪である。


 ――30。


 カイゼルオークは、通常のオーク30倍相当のハイオークを、強制的に産み落とさせる。そう、強制的に産ませるのだ――他種族の母胎から、30倍相当の痛みも(ともな)わせて。

 一度の出産で、90体以上のハイオークを産み落とすことを強制された者は、ほぼ間違いなく、死に至る。

 そのあまりの残虐性から、冒険者ギルドでは、カイゼルオークを最優先討伐個体に指定している。

 そうなのだ、最優先に討伐すべきと、多額の褒賞(ほうしょう)が懸けられている忌々しい魔物が、デラルス大森林にて発見の報告がなされてから12年の月日が経つにも関わらず、未だ生存している――滅せないでいる。


 理由は2つ。


 1つは、デラルス大森林という、()()()()()()()()()()()特殊進化、その果てに生まれてしまった――デラルスカイゼルオークという怪物の、その尋常ならざる強さ。


 そして、2つ目にして、最大の理由。


 デラルスオーク、デラルスハイオークを併せた、その総数。ナヴァル王国首脳陣が算出した、その数字。


 ――約10万体。


 冒険者ギルドが定めた基準でいうところの、銀等級であるデラルスオークと金等級デラルスハイオークで構成された、10万超の大軍勢。

 その脅威は紛れもなく星銀(ミスリル)等級であり、その中でも最上位と定められている。

 さて、そんな大軍に対し、デラルスレイク防衛都市に駐屯している兵は――約1000人。


――いやいや、そんな訳……本当なのか?


 本多 宗茂が、ティアナから聞いたときのリアクションである。至極当然の反応である。

 1日の半分以上をラーメンに費やすのが当たり前だと、心の底から本気で思っているラーメン馬鹿とはいえ、あまりに予想外な数字を聞けば、軽く動揺しても、おかしなことではない。

 その異常な数字には、人並みの知能指数さえあれば、なにかカラクリがあるはずと、疑問を覚えてしかるべきである。


 その答えが――長距離空間転移陣。




 異世界の技術である魔導を用いて造られた、ガルディアナ大陸における重要な移動手段である。







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