身から出たサビ、まいたタネ
ホントめんどくせえな、こいつら。
「――ってこい」
「貴様……今、この私に向かって――」
「ああ、めんどくせえ――」
特権階級とかいってふんぞり返ってるだけの輩は、こんなんばっかだから嫌いなんだわ。
「四の五の言ってねえで――」
てめえらの腐った肩書きなんざ、俺達の前じゃ無意味だってことを教えてやるよ!
自分、今、校舎裏に来ております。
講義を終えて放課後。
まだまだ話し合うことは多いし、約束通りにガデルの爺さんのところに行こうかと思ったら、俺のまわりに雑魚の群れが出来てて思わず吹いちまった……ヤンキー漫画かな!
それにしても、こういうイベントって久々だから中々に新鮮でちょっと楽しい。思春期の学生って感じだわ、なんかワクワクしてきたぞ!
「あー……わたしのようなへいみんに、なんのようでございますでしょうか、きぞくさまー」
「き、貴様……そのふざけた物言いといい、講義の時といい、なんのつもりだっ!!」
「……はい?」
なんかよくわからんが、雑魚の群れのリーダーっぽいガキがやかましく先導してきたから大人しく追っかけてきたんだけど……誰こいつ?
てか、講義の時、っていうと……ああ、わかった。
「なるほど、講義中にみっともない魔法もどきをばらまいていたのは貴方でしたか」
「な、このっ……もう一度いってみろ、落ちこぼ――」
「そこらのガキの点灯と大差ないカスみたいな火種をドヤ顔で一生懸命放り投げてきたのはテメエですかって聞いたんだよ――」
――この雑魚が。
(はっ、わっかりやすいな、こいつら)
わかりやすく丁寧に煽ったら、案の定、俺の周りを囲んでる雑魚どもから魔力が垂れ流され始めたので、丁寧に閉じてさしあげた。
「なっ、またか!? 落ちこぼれ、貴様なにをして――」
「つい最近、似たような問答をした気が……まあ、いいや……なあ、貴族のおぼっちゃま、あんたも黒魔法はお嫌いか?」
「当たり前だ! 下賤で低俗な黒魔法など、七源の1つに数えたくもないわっ!」
「あーはいはい、わかったわかった……あのさ、もう少し落ち着いて話してくれるかな、声デカイんだよ、おまえ」
「おい落ちこぼれ! 貴様、先程からエドガー様に対して、なんだその態度は!」
「エドガー……ああ、おまえがあのゴミ宰相の息子か、たしか……ランフェスタ侯爵、だったか?」
「ラ、ランフィスタだ、ふざけおって……」
惜しい、ニアピン賞!
でも、ランフェスタの方が楽しそうじゃね、毎日がお祭り騒ぎっぽくて。
「ま、いいや、クズ宰相の息子ってことは、お前も一応は高位貴族。なら、少しはやれんだろ」
「先程からなんだ貴様!! 貧民に落ちぶれた野良犬風情が、私や父上を侮辱するなど許されんぞっ!」
「いや、ホントそういうのいいから……あー、いいですかー、そこらのガキと同レベルのポンコツ魔法師である貴方達を今からテストして差し上げますので……」
――とっとと全員でかかってこい。
「貴様……今、この私に向かって――」
「ああ、めんどくせえ――」
どんな世界でも、プライドだけが高い無能な雑魚ってやつは、相も変わらずめんどくさい。こういう奴らに限って、潔く負けを認めないで愚痴愚痴言い訳を垂れ流して、場をかき乱すんだよな。
PvPやってると、1日1回はこういうバカに当たるんだ、これが。
異世界でも同じとか……頭痛くなってくる。
「四の五の言ってねえで――殺す気でかかってこいや、この低能クソ雑魚貴族どもが!」
ガデルの爺さんには悪いけど、正直、もう我慢の限界なんだわ。
こいつらがいじめてるのってさ、あの黒天のマルスなんだぜ?
ホントありえねえ。
「我が敵を燃やし穿ああああああっ!?」
「はい、失格」
詠唱が必要な魔術を対人戦で使うんじゃねえよ、アホか!
「くそっくそっくそぉぉ!? なんで……なんで魔法が使えな、ぐっ……がぁぁっ!?」
「はい、問題外」
魔法師が、魔法を使うなんてバカ発言してんじゃねえよ。
俺もおまえも魔法使いじゃないんだわ、魔法師なんですぅ……バカかよっ!?
「いいか、皆で一斉に撃つぞ! 落ちこぼれめ、訳のわからんことをしてきたがこれで終わり――」
「おまえらがな」
「なっ、貴様なぜああああああっ!?」
あのさ、アイコンタクトは無理でもハンドサインくらい練習しろや……相手にこれからやること教えてどうすんだよ……頭悪すぎんだろ。
結論、こいつら弱すぎる!
いや、まあ、わかってたけどさ。
対人戦最強の黒魔法師の間合いに入ってんのに呑気に突っ立ってるとか……どんだけ腑抜けてんだ、こいつら。
そんなわけで、20人くらいいた雑魚貴族の取り巻きを穏便に対処――意識を閉じておいた。
残ってるのは、雑魚貴族のリーダー。マルスの記憶が確かならコイツがイジメの主犯だ。
名前は確か――
「あー……エ、エ、エド……エドモンド?」
「エドガーだっ!」
「そうだっけ? 悪いな、興味のないことってどうにも覚えらんなくてな」
「き、貴様……」
「で、だ、ベルモンドに聞きてえん――」
「エドガー、だっ!!」
「うるせえ、話の腰折るんじゃねえよっ!」
「き、貴様……本当に、あの落ちこぼれなのか?」
「あ? 俺がマルスに見えなきゃ何に見えてんだオイ、あんま調子乗ってっとサクッとブチ殺すぞテメ、エ……なーんていう訳ないじゃないですかー、えーと……べ、べ、ベル……マーク? 違うな、ベル、ダンディ……ウェルダン?」
「……エドガーだ」
「ああ、めんどくせえ! テメエの名前なんかなんだっていいんだよ! いいから答えろ、なんでテメエらはこんなに弱いくせに俺をイジメてたんだ?」
俺がこいつらに対して頭にきてんのは、低能クソ雑魚貴族の分際で、あの黒天のマルスをいじめてた、そのあまりにふざけた事実。
俺が、俺達が一度も勝てなかった……あのすんげえ理不尽で、どうしようもないくらいに凶悪で、紛れもなく最強で……それが黒天のマルスっていう奴なんだわ。
俺達が超えるべき、越えたかったライバルなんだよ……テメエらみてえな雑魚が好き勝手に虐げていい存在じゃねえんだよっ!!
だからきっと、なにかしらの思惑が――
「――ていない」
「……あ?」
あれ、おかしいな……なんか幻聴が――
「こ、この、め、名誉あるランフィスタ家である私は……そのような姑息なことはし――」
「おい……」
「ひぃっ!?」
「名誉あるランフェスタのおまえが……なんだって?」
「あ……う、あ……」
「なあ……聞いてることに答えろ」
お偉い貴族様なんだから、耳と口以外の感覚とステータスユニットとスキルボードの魂の接続を閉じて、貴族様自身の影で丁寧に梱包して、推定40倍の重力で頬を地面にキスさせて、マルスが過去に受けてきたイジメの記憶全てを何度も擬似体験したとしても、一切動じずに俺からの問いに答えてくれるはず。
なんせ、弱い者イジメなんて姑息なことを忌み嫌う、高潔かつ品行方正であらせられるお偉い貴族様だからな。
俺からの問いにも、きっと快く答えてくれるに決まってる。
で……まだ?




