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ここはどこ、君は誰?




 まずい、この()()()()は――


「ぐっ、があぁっ!?」


 この腹の痛み……間違いない、誰かが俺を――


「ど、どうなさいました()()()様っ!?」

「ぐぁっ……あ、れ…………あれ?」


 痛く、ない……?


「マルス様?」

「へ?」


 マル、ス、って……は?


「え、と……君は、()っ!?」

「あぁ、やはり治癒魔術師に見せるべきでした……おいたわしや、マルス様……」

「治癒……魔術?」


 あの焼けるような腹の痛みは消えたんだけど、その代わりとばかりに身体の節々が妙に痛む。それでも、さっきまでの猛烈な痛みに比べれば全然マシだけどな、てか……治癒魔術?


 いったいなんの話を――


「おお、目を覚ましたか」

「ガデル様、やはり治癒魔術師を――」

「少しは落ちつかんか、サーナ……それでマルス、やはり彼奴(あやつ)らの……む?」

「いや、えっ、と……」


 はぁ……訳がわからん。つか、ここどこよ?


「御主……本当に()()()か?」

「な、なにをおっしゃるのですかガデル様、お顔を忘れ――」

「答えよ……今の儂の目には、御主の魔力が別人のように見えておる……どうなのじゃ?」

「…………」


 ま、魔力っ!? なに言ってんだ、この爺さ……いや、ちょっと待て……ガデルだとっ!?


「あんた、まさか――黒淵のガデルか?」

「なんともまた懐かしい呼び名、を……あんた、じゃと?」

「まじかよ……黒淵のガデルにマルスって……」


 ガルディアナ()()の――()()()()()()()()()じゃねえかっ!?










 Antipathy(アンチパシー) Brave(ブレイブ) Chronicle(クロニクル)、通称アンブレもしくはABC。

 いわゆるフルダイブ型のVR機器を使うMMORPG――大規模多人数参加型のロールプレイングゲーム。

 はっきり言って名作というよりは奇作と呼べる作品なんだけど、その唯一無二と呼べるゲームシステムがその時の世情と合致した結果、世界的ゲームタイトルへと名を高めた。


 つか、キャッチコピーの時点で、俺みたいなゲーム廃人は惹かれるに決まってるんだよな。


 ――全ての異世界勇者を否定する。


 ピンポイントで狙い撃ちしすぎだよなホント、今でも笑える。

 アンブレがサービス開始した当時、アホほど氾濫してたんだわ、異世界モノが。

 マンガ、アニメ、ライトノベルにウェブ小説、果ては実写ドラマ。


 当然ながらゲーム、それもようやく比較的安価になってかなり普及してきて始めやすくなったフルダイブ型VRゲームのRPGとかにも異世界モノが広がっていた。


 異世界に転移、もしくは転生。どこもかしこもそんな作品ばかりでワンパターン。ヘビーなゲーマー達が辟易してたそんな時に、我らがアンブレが始まったってわけ。

 そんなアンブレの内容は、一言で言うなら、異世界の住民になって他世界からの侵略者を撃退しよう、だ。

 異世界の住民、つまりファンタジー世界の住民になるゲームタイトル自体は昔から存在する。

 だけど、異世界の住民になって他の世界からの侵略者――勇者()()()の神の尖兵を倒すなんてことをメインコンテンツにしたゲームタイトルなんて、今までになかった。


 実のところ、題材が題材なだけに、初めから大ヒットした訳じゃなかった。


 ジャンルが氾濫したっていうのは、異世界モノが創作物の王道になったことを意味してるわけで、当たり前だけど異世界モノが好きな奴はまだまだ沢山いる。

 そんな異世界モノの主役級の存在である、みんな大好き異世界勇者が、アンブレでは悪役になってるわけで、印象が悪くなるのも当然といえば当然。

 けど、その斬新なゲームコンセプトかつ飽きさせない運営の企画力が功を結んで、徐々に新規プレイヤーが参入。

 サービス開始から1年半、アンチパシーブレイブクロニクルは全世界同時接続数のワールドレコードを達成。


 アンブレは、名実ともに日本を代表するゲームタイトルになったわけだ。


 そんでもって、今現在を除いた俺の最後の記憶はアンブレ、つまり、ゲームの中。

 サービス開始から4年後、俺の最後の記憶から数えて約1年前に実装された、あるコンテンツの()ボス戦。

 アンブレにいくつもあるコンテンツの中でも、俺みたいなゲーム大好き廃人プレイヤーがこぞって参戦した、あるコンテンツ。

 それまでの最高難易度だった超級スレイ(討伐)クエストを凌駕する、そのコンテンツ。

 アンブレの舞台である惑星アザルス、その古き良きファンタジー全開の素晴らしき異世界にいくつも点在するワープポータルから参加可能なコンテンツ。


 ――Unknown(アンノウン)


 そのように名付けられていたコンテンツは、完全な情報規制がかけられているため、どれだけネットを漁ろうと情報は出ない、というか、コンテンツ追加時に新たな規約として、アンノウンの情報規制を認めなければ以降のプレイができなくなり、万が一情報を拡散した場合には法的措置が執行されることを了承しないと、プレイすることすら出来なかった。

 この時ばかりは運営の執念をひしひしと感じて身震いしたわ……同時に、それだけの力を入れるコンテンツへの期待感がめちゃくちゃ高まったけどな。


 で、俺たちの期待に運営は見事に応えてくれた。


 参加することで知らされた、コンテンツの真の名前は――Lost(ロスト) Mythologyミソロジー。直訳すると()()()()()()


 そして、俺達プレイヤーはゲーム内で、一冊の本を握らされていた。




 その本の名は――ガルディアナ戦記。




 俺――田所(たどころ) (しん)の意識がある身体は、ガルディアナ戦記の登場人物で、ある意味、俺達プレイヤーにとっては最も有名な Non(ノン) Player(プレイヤー) Character(キャラクター)、いわゆるNPCってやつだ。


(まさか、()()黒天になるとはな……すっげぇ複雑だわ……)


 ――黒天のマルス。


 彼は、()()()()()()がきっかけで()()()することになる、あまりに気の毒な男であり――


(けど、サーナとガデルが生きてる頃でよかったよな……闇堕ちフラグは回避しなきゃな)


 ガルディアナ戦記のラスボスである――破壊神シキフォルスを倒した後の裏ボス。


 それが黒天のマルス。


 ガルディアナ戦記に参戦したプレイヤーのトップ層、いわゆる攻略組は、マルスのことを理不尽の権化と呼んでいる。

 俺もそうだけど、攻略組になるような奴らは間違いなく歴戦のゲーマーで、数多くのRPGとかを制し、同時に数多の強敵達を倒してきたわけだ。

 そんな奴らから理不尽と呼ばれる黒天のマルスは、結論としてこのように評されてる。


 ――RPG史上、最凶にして最強のボス。


(なんでか知らないけど、マルスになっちまった以上、絶対に善性NPCのとこに行かないとな……ただでさえまともな異世界転生とは思えないしな)


 アンブレこそが至高のRPGだと声高らかに宣言できる俺としては、黒天のマルスになれたこと自体は嬉しい、んだが……問題は()()


 右腕の()()腕輪からいつのまにか表示されたステータスっぽい板状の何かに記入されてる、その()()


 ――『真生を歩む者』




 さて、俺は何に巻き込まれたのかね。

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