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キュアノエイデス防衛戦 02

 



「――結局、今日は何が原因だったんです?」

「あー、うん……気になる、よね?」


 目の前――カウンター席に座り、興味津々といった様子で見上げてくる少女、その問いかけに、若干の気まずさを感じてはいたものの、いつものことだと諦めた赤髪の彼女ニーナは、口を開く。


「えーと、ね……、……ンが原因なの……」

「……え?」

「恥ずかしい話なんだけど、あの2人――」


 ――ラーメンの好みでケンカしてたの。


 ナヴァル王国国境東域にて大規模な戦闘が行なわれている、こんな情勢の最中、大の大人であるアージェスとカルロは、こともあろうか、ラーメンの味付けやトッピング等、当人以外の者達にとっては実にしょうもないことで、本気の頭突き合いをしていたのだ。どっちも美味しいという結論では、どうにも納得がいかなかったのだと思われる。


 さて、アージェスとカルロ、それぞれが1番と考えているラーメンは、以下の通りである――




 アージェスは、豚骨しょうゆ派――デラルスハイオークのゲンコツを、適宜(てきぎ)追加投入しつつ担当を交代しながら、3日間途切れることなく炊くことで、デラルスハイオークの旨味を凝縮させた超絶濃厚ポタージュ仕立てのスープに、開拓村仕込みのエルフセウユのタレを投入。

 それを硬めの細麺でいただくのを基本とし、その日の気分でトッピングを追加することで、彼にとってのラーメンが完成する。替え玉は、最低2つ。


 カルロは、鶏白湯(とりぱいたん)塩派――コカトリスのガラを白く濁るまで、所謂、乳化という現象を成すまで煮込む。その後、ザルで()すことで、クリーム色系に分類される代表的な色――アイボリー、別名を象牙色とも呼ぶ、白に薄い黄色や灰色を混ぜた淡い色合いの綺麗なスープに仕立て、やはり開拓村で仕込まれたナヴァル西海の塩ダレを投入。麺には、スープとの親和性重視で選ばれた、コカトリスの卵を練り込んだ細ちぢれ麺。

 トッピングは、コカトリスの煮卵に加え、鳥チャーシューならぬコカトリスチャーシューと、まさにコカトリス尽くしであり、それを一心不乱に(すす)る――目の前の一杯を全身全霊で堪能(たんのう)するのが、カルロのスタイル、ラーメンへの向き合い方である。




 ――双方共に、本多 宗茂考案の一杯である。


 ちなみに、何故、頭突き合うことを選んだのかというと、これから始まるであろう戦い――近づきつつあるアードニード公国軍との戦いを考慮し、お互いに手出し無用という約束をつい昨日(さくじつ)、両ギルドのサブマスターでもある()()()に約束させられたのだが、それなら頭突きだったら問題は無いな、という、抜け道になっているかも怪しい、彼女達の頭をなんとも悩ませてくれる結論の下、先のしょうもないイザコザが起きた訳だ。




 これが、ナヴァル国境戦役開戦から10日目、朝のキュアノエイデス中央通りで起きた出来事、その内情である。










 約3ヶ月ほど前、とある飲食店が、キュアノエイデスで営業を開始する。

 当初、その飲食店に懐疑的な視線を送っていたキュアノエイデスの人々だったが、瞬く間に、真逆の反応――惜しみない賞賛を思わず送ってしまうほどに、胃袋をがっちりと掴まれていた。

 今現在、その飲食店は、キュアノエイデスに()()()だけ存在し、店の名の前半部分を冠した店舗、曰く――暖簾(のれん)()けされた別店舗が、領都内に10店舗、領内の町々に15店舗、計26店舗が展開されている。

 この数字は、王都ナヴァリルシアのそれをも上回っており、ウィロウ公爵領内における、その食べ物――ラーメンへの関心が、非常に高まっていることを示している。


 そんなラーメンブームの火付け役となった飲食店の名は――ラーメンハウス 宗茂。


 新たなウィロウ公爵である、ムネシゲ=B=ウィロウがオーナーを務め、料理長を兼任する、ナヴァル王国最高のラーメン屋である。

 ちなみに、デラルス開拓村の店舗は、商品開発をメインとした工房としての側面が強い為、キュアノエイデスの店舗こそが、ラーメン屋としての実質的な本店であると、宗茂は定めている。


 そんなラーメンハウス 宗茂の現在は、料理長不在を理由とした休業中なのだが、ドグル大平原で臨時営業的な炊き出しをしていることを知ったキュアノエイデス居残り組の領兵や傭兵、冒険者らによる、嫉妬で彩られた怨嗟(えんさ)の叫びの凄まじさからも、その人気の高さが(うかが)える。


 とはいえ、ラーメンハウス 宗茂の別店舗であるラーメンハウス ダクラダを初めとした、暖簾分けが許可された者達の店舗――開拓村での修練をいち早く終えた精鋭らの活躍の甲斐もあり、キュアノエイデスや領内の町村や集落の人々の、ラーメンに対する満足度は、十分に満たされている。




 ただ、それでも――




「――店長さんが作るラーメンは、別格ですからねぇ……営業再開が待ち遠しいです」

「いいなぁ……私も、早く食べたーい!」

「ふふっ、()()()()ちゃんは、まだ食べたことないもんね。大丈夫、期待してていいよ」

「はーい! でも、ニーナさん……本当に、他のラーメン屋さんと、そこまで違うんですか――」

「あそこのラーメンは段違いだぜ、嬢ちゃん」

「あ、お疲れ様です、アージェスさん」

「はっ、ひよっこ相手に疲れやしねえよ。そんなことよりもだ、嬢ちゃん――」

「……そんなに違うんですか?」

「……純隕鉄アダマンタイトと赤鉄くらいにはな」

「えぇっ、そんなに!? はぁ、ますます食べたくなってきちゃった……あ、()()()()、お疲れ!」

「うん、中々激しかったよ……ね、()()()()()

「ああ、全身が痛えのなんの……ただ、それ以上に驚いてんのは――」

()()()さん?」

「ああ、そうだ。そりゃあ、すんげぇ強いってのは知ってたけどよ、あそこまでとは――」

「――いえ、私などまだまだです」

「あ、サーナさん、お疲れ様ー!」

「……はい、ありがとうございます」


 レベッカ、エドガー、アレックス――サーナ。この4人は、ナヴァル王国第1騎士団の、とある部隊に()()()()()者達。

 第1騎士団特別選抜連隊、通称、特選隊。

 3つの大隊で構成される特選隊の内、隊の人員の大部分が平民で占められる第3大隊に所属する部隊、そのひとつである第18分隊こそが、彼ら彼女らが()()()名乗っていた部隊の名。

 そう、彼ら彼女らは確かに、ナヴァル国境戦役開戦から6日目の朝方、つまり、今から4日前に、()()()()()()()()()()()第3大隊に所属していた者達である、筈なのだが、何故か死亡しておらず、それどころか怪我のひとつもなく、キュアノエイデスに滞在している、その意味。


 それは、第3大隊長であるウェインと現ウィロウ公爵であるムネシゲ=B=ウィロウとの間に交わされた、とある密約の結果。


 第3大隊の死体偽装協力――傭兵クラン『ラーメンハウス』派遣の対価として、ウィロウ公爵領軍への編入打診が行なわれた結果、第3大隊に属していたほぼ全ての者が、ウィロウ公爵領兵として採用。その後、秘密裏に、キュアノエイデスへと移動していたのである。


 だが、彼ら彼女らの多くが民兵、即戦力になることが有り得ないと知りつつ、第3大隊の者達を領兵として採用した、最たる理由。


 将来的な戦力となり得る可能性――これも理由ではあるが、最重要ではない。

 兵力不足――現在のキュアノエイデスは、()()()()()()()()()()()、多くの傭兵や冒険者が都市内に滞在している為、理由にはなり得ない。


 ムネシゲ=B=ウィロウ、即ち、本多 宗茂らクリストフ陣営が、今回の戦いで重要視しており、欲する物事や事柄とは――大義名分。


 第1騎士団の悪辣な振る舞い――作為的な誘導によって、第3大隊の者達をドグル大平原で殺害し、ステータスユニットとスキルボードを奪い、王都ナヴァリルシア内で魔薬に変えていた――この一連の流れは、まごうことなき悪事である。

 そして、その生き証人である第3大隊の者達が、クリストフ陣営の手に渡ることで、第1騎士団とその背後に居座っている王国宰相、ダグラス=ランフィスタ侯爵の弾劾をも可能にする切り札となる。


 そう、第3大隊の者達は皆が皆、存在自体が大義名分となり、それ故、キュアノエイデスに招かれたとも言える。


 しかし、然るべき時と場にて証言をすることだけが、彼ら彼女らの存在意義ではない。


 それは始まり。

 今は誰も知らぬ、しかし、いつか皆が知ることになる、大いなる始点。


 当時のガルディアナ大陸にて、()()()()廃れている古代式魔法を習得させた者達を主攻に据えた、ある種の特殊部隊――成り上がり魔法大隊の別称で、後世にて語り謳われる戦闘集団の中核を担うことになる者達が、()()()()、そこに集うことになる。




 本当の意味での切り札、秘密兵器(ジョーカー)的存在として、やがて正しく見做(みな)されることになる、未だ成熟しきらぬ彼ら彼女らの初陣は近い。







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