表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/162

怒れる炎姫、蒼風の剣翁 10

※ この作品は、あくまでもフィクションです。実在する人物や団体とは関係ありません。


ちょいグロ & ざまぁ回。


 



「ま、胸糞(むなくそ)わりぃことしてんのは、テメェのオヤジ。ガキのテメェに罪はねぇ――」


 ――なんて甘ったりぃこと、考えてねぇよなぁ?


「――いっ、ギャァァァッ!?」

「なっ、速すぎる……」


 腰に差す刀へ向けて伸びる右手、その初動だけが(かろ)うじて見えた次の瞬間には、ゲルムスの叫び声が聞こえ、地面をのたうち回る無様(ぶざま)すぎる姿を(さら)したことでようやく、公国騎士が気付く。




 ステータスユニットが装着された左腕だけを残し、ゲルムスの全ての手足が――切断されていたことを。




「――ったく、この有様を見りゃぁ、テメェが何しようとしてたか、予想のひとつもできるってもんだ……ベルハウルの奴らがやることなんざ、昔っから変わりゃしねぇからな……久しぶりだな、リア嬢ちゃん」

「はい……ご無沙汰(ぶさた)しております、レイヴン卿」

「かっかっか! (かしこ)まんのは、よしてくれぇ。(わし)ぁもう、隠居したんでな」


 この場で何があって、誰が悪いか。


 地に(ひざ)をつけるリア=ウィンディルと、すぐそばに落ちている短剣、その組み合わせを見れば(おの)ずと答えは導かれ、大凡(おおよそ)を定めることは造作も無い。特に、戦場を長く生き抜いてきたレイヴンのような武人であれば尚更、理解は容易い。




 だからこそ、レイヴンは処したのだ、ゲルムス=ベルハウルという悪を、速やかに。




 ユグドレアの各大陸に暮らす人々は、その2つの魔導器のことを――性能や特性、仕様を事細かく詳細に――()()()知っていた。古くは個々で造り上げ、現在は、ネフル天聖教のような組織が率先して供給体制を築いて人々に普及させている、その魔導器達。


 ――ステータスユニットとスキルボード。


 識っているということは、応用することが容易いということであり、その一環として、古来から行なわれていた、ある種の拷問が存在する。


 ステータスユニット装着時の身体部位の欠損である。


 例えば、異世界である地球であれば、手足などを一度に失くすような事故などに見舞われた場合、ショック死や失血死などで死亡するケースが多い。だが、ステータスユニットの存在は、そういった可能性を、ほぼゼロにする。

 ステータスユニットの機能であるHP(ヒットポイント)システムが理由の半分であり、残る理由の半分は――魔素。


 大気に満ちる魔素とステータスユニットが繋がっている限り、装着者から外的要因による死が遠のく。


 左手首にステータスユニットを装着しているゲルムス=ベルハウルから、右腕や左右の脚がなくなっていようとも、HPシステムによって、即座に傷口が塞がることで失血による死が遠ざかり、痛みが和らぐことでショック死が遠ざかり、()()()()生存しているのが、その証明と言えよう。


「あ……あ、ああ、あああああっ………………」


 自分の状態に気付いたと同時に、ゲルムスは悟り、だからこそ思考が恐怖(きょうふ)に染まり、心が萎縮(いしゅく)し、見るに見かねたかのように、肉体が意識を強制的に眠らせる――やがて訪れる苦悶(くもん)から遠ざけるように。


 次は、自分の番だと――常日頃から自分が行なっていた所業が、我が身に降りかかるのだと思い至ったゲルムスは、怯えながら気を失ってしまったのだ。


 例えば、今のゲルムスを、魔物領域に放ったらどうなるだろうか――当然、魔物の餌になる、いや、もしくは奇特な魔物の(なぐさ)み物にでもなるかも知れない。いずれにせよ、その末路が悲惨なことは理解できるはずだ。

 そんな卑劣な所業を、()()()()()()繰り返し、嘆き悲しむ様を眺めては嘲笑い、心から愉しんでいたのだ、ゲルムスは。

つまり、ベルハウル侯爵家とは、そういった理不尽を平然と他者に与える者の集まりであり、そういう意味では、自業自得としか言いようがない。

 不自由極まる状態のまま、いいように弄ばれ、左腕を駆使して自害するか、ただただ絶望することしかできない、奴隷未満の生き物。


 それが今のゲルムスであり、これが今のゲルムスが置かれている状況である。


 そして、ゲルムスという名の自覚なき悪が報いを受けた、この状況を言い表すにちょうどいい言葉が、田所 信が生きていた日本のフィクションの中に存在している。




 言うなれば――ユグドレア式ざまぁ展開。




 本家とでも呼べる地球のフィクションのそれと比べ、ユグドレアのそれは、少々過激ではあるだろうが根本的な差異は少ない。

 そもそも、ざまぁと呼ばれるジャンルやカテゴリーには、復讐(ふくしゅう)に類する考えが根底にあるのだから、それも当然である。とはいえ、屈辱や侮辱を与えるだけの生温(なまぬる)い報復にすることで、罪悪感を薄め、愉悦を感じさせる大衆娯楽――エンターテインメントにしてみせたフィクションとしてのそれと、ユグドレアでのそれとでは、現実感に格差が生じるのは仕方がない。


 本物と偽物の間に隔絶に等しい差が有ることなど、議論するまでもなき事実であり、どのような世界においても紛れもない、絶対的な真理なのだから。


 さて、もしもこの場に、ゲルムスに運命を狂わされては翻弄(ほんろう)され、命を落とした当事者の家族や友人がいたなら。

 ゲルムスの無様な姿を見て、ある者は涙を流し、ある者は声を荒げ、ある者は引き()った笑いを見せる――大概が、このどれかに当てはまる行動を起こすことだろう。

 そして、その中の誰かが、ゲルムスの殺害を試みようとも、きっと誰も止めようとはしない。

 ただ殺すだけでは生温い、生きて責め苦を味合わせてこそ、溜飲(りゅういん)が下りる。だが、それがわかっていても尚、自らの手で殺したい、苦痛に次ぐ苦痛を与え、望みの一切合切を断ち切り、その命を奪い取ってやりたい――そういった想いを皆が皆、心に抱えているからこそ、理解できる。


 自分1人であろうと、自分を除いた誰かの手で果たされようとも、(こと)顛末(てんまつ)が納得できる結末となっているならば――ゲルムスのような悪に、犯した罪と同等以上の(しか)るべき罰が与えられるなら、極論、なんだっていい。




 最終的に、ゲルムスという外道が、その命を無為かつ無様に散らすなら、それでいい――と、ゲルムスの()()()所業が生んだ被害者達は、心の底から、それが当然の(むく)いだと思っているのだ。




 ひとつ断言しよう。


 復讐を悪と定める法に、絶対的な正義など存在しない。


 何故なら、復讐を禁ずる表向きの理由とは別の、法の裏側に隠された真意がそこにあり、復讐を恐れた()()()権力者を護るべく定めたのが法であり、それこそが真実である――こういった主張を完全に否定することができず、このような疑念を持つ者が存在する限り、掲げた正義の絶対性が曖昧であることを示し、民衆を(あざむ)く為のまやかしである可能性を示唆している。


 誰かを殺したから、自分が殺されるべき対象であると見做(みな)される。つまり、殺されたくないなら、最初から殺さなければいい。


 当たり前の話なのだが、復讐されたくないなら、されないように生きればいいだけなのだ。子供にでも理解できそうな簡単な理屈を、ああだこうだと理由をつけて禁じる時点で、隠したい罪の重さが(うかが)い知れるというもの。

 それのどこに正義が存在するというのか、いや、違う。


(権力者にとって都合の良い)不条理な正義であれば、其処彼処(そこかしこ)に、きっと存在している。


 あまりに不憫(ふびん)で、気の毒なほどに可哀想な話なのだが、何処(いずこ)かの世界、何処(どこ)かの国では、そのように気色悪い正義が(まか)り通っているというのだから、笑い話にもなりやしない。




 願わくば、正義を(かた)る偽物を本物と信じる罪なき善良な者達が――()()()真実に気付いた時、心折れぬことだけを思う。




 それと、復讐することを無法者の愚かな行為と声を挙げる者がいたとしても、安易に責めてはいけない。その者は、ただ単に無知なだけの可哀想な者でしかなく、きっと知らないだけなのだ。


 愛する者を殺された悲しみを。

 大切な家族を殺された苦しみを。


 ただ亡くなるだけでも、悲しく苦しいのだ。誰かに殺されたことを知った時、その衝動の強さは比べ物にならない――そのことを、実際に感じてから口にすべきと、是非とも警告してあげた方がいい。


 無知蒙昧(むちもうまい)であると自覚できない哀れな者にしかできない行動――中身の(ともな)わない薄っぺらな言葉を迂闊(うかつ)に口にするという、浅慮(せんりょ)がすぎる幼稚(ようち)な振る舞いの結果、何が起きるか予想もつかないのだから。


 さて、他者を正当な理由なく殺すのは、間違いなく悪だ。しかし、復讐するに足る資格を有する者が、それを成し遂げることを、ユグドレアでは、悪とは呼ばない。

 仇討(あだう)ちに一生を捧げ、それを成し遂げたのち、自分が復讐の対象になることも含めて、不退転の覚悟を決めた者を、ユグドレアでは――復讐者と呼ぶ。


 そして、ある意味では、見知らぬ誰かの復讐の代行を為してきた一族こそが、ウィロウ公爵家である。

 偽物の正義には絶対にできない、復讐の代行という業を担い続けてきたからこそ、レイヴンは、ウィロウ公爵家は、民衆から認められている。




 何せ、正義が討つべき悪とは、必ず誰かの復讐の対象になっているのが、世の道理なのだから。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ