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黒天の内に在りし者 〆

ちょい短め。

 



「――にしても、見事に消えちまったな……」


 ようやく正気を取り戻したルストが、わずかな落胆を見せるシンの様子に気づく。


「あの厄介な者を相手に、あそこまで一方的に事を運び、最後は完全に滅ぼした。結果としては悪くないように思えるのだが?」

「あー……ほら、アイツって魔導器なんで、調べれば色々と有用なんですよね……」

「た、確かに……しかし、敵の幹部を討ち取り、戦力を大きく削れたのだ、十分な戦果――」

「――討ってないですよ」

「…………今、なんと?」

「希望のフェルメイユは――生きてます。さっきまで相手にしてたアレは、あくまでも魔導器――」




 ――魔導師本人が生きてるのは当然ですよね。




 それは本来、ユグドレアという世界の常識、その範疇(はんちゅう)――魔導器が完全に破壊されたとしても行使していた魔導師が死に至ることなど有り得ないことを、魔導師であるルストならば、理解していて当然のこと。

 だが、人族にしか見えないフェルメイユの姿それ自体が、ルストの思考を閉ざす蓋となり、正体が魔導器であるとシンから知らされながらも尚、ひとつの生命であるかのように()()していた。


 今の今まで、フェルメイユと名乗った魔導器のことを、まるでひとつの生命であるように()()()していた――させられていた。



「――認識を誘導する呪術が、あの魔導器には仕込まれてて、黒魔法師以外の人らは大抵騙されるんで、あんまり気にしないことですよ……くっ――」

「むっ、平気かね?」


 足に力が入らないのか、半ば倒れこむように地面にうずくまったシンの姿に、ルストは、そのことを察した。


「ふむ……どうやらあの武術は、かなり消耗するようだね……少し休むかね?」

「あー……じゃあ、少しだけ。これからのことを話しながら、休ませてもらいます」

「うむ……ところで、だ、マルス殿……奴を討ったあの技や、そもそもあの武術のことを――」

「ねーねー、むずかしいお話、終わったー?」

「あー……大体はな。あとは、これから何処に行くかとか――」

「マ、マルス殿、黒龍様にそのような口調……無礼ではないのか? それと、デンノーブシン流のことを――」

「はあ……ひとつずつ、答えますよ。ヴェントはホラ、こっちこい――」

「うんっ! わーい!!」


 あぐらをかいて地面に座り込むシンと楽しそうに(じゃ)れるヴェント、問いかけては答えてもらうたびに頷くルスト――天幕内は一時的に、この三者の為の憩いの場と化していた。




 ちなみに、シンとルストの問答は以下の通り。




Q.デンノーブシン流とはどんな武術?

A.空撃っていう、空気を操って攻撃する武術。


Q.最後の大技である彼岸花、それを放った時に動揺していた理由は?

A.本来の彼岸花とは似ても似つかない結果があったから。ちなみにアレは、ゼルメルヴェントによる()()の結果。


Q.黒曜龍(ジ・アートルム)ゼルメルヴェントによる補助とは?

A.根源龍独自の魔法である龍魔法の一、龍降ろし――通称ブーストがその答え。根源との適合性を向上させる増幅魔法の完全上位互換である。


Q.あの根源龍にフランクな言動で接するのは、怒りを買ったりはしないのか?

A.龍や竜のような高位種族に対して、敬語や丁寧語一辺倒でのコミュニケーション方法は、むしろ悪手。それらは、人族が勝手に定めただけのルールを押し付ける結果となり、逆に気分を損なう可能性が高く、コミュニケーション自体を安易でありながらも的外れなものへと変える要因としている。

 例えばゼルメルヴェントの場合、硬い言葉で応対し続けると、相手から嫌われているのだと感じ、最悪の場合、泣きながら癇癪(かんしゃく)を起こして暴れ回りかねない。ユグドレアにおいて円滑なコミュニケーションを望む場合、相手に応じて臨機応変に変えなければならないということである。




「――って事で、街中とか人前ではあんまり動かないように。なんなら寝ててもかまわねぇから……できるか?」

「はーい!」

「まさか、黒龍様を装飾品にするとは……」

「あー……街中とかを自由に動き回られるのは問題しかないんで――」


 問答を含めた雑談的な休憩を挟むこと、約30分。

 身体の中心軸周りの筋肉群――体幹とも呼ばれるそれらが、ほぼ同時に痙攣した事で行動不能に陥っていたシンも回復。


 よって、次の行動に移る――


「音とか気配とか魔力線とか、俺の方で全部隠蔽(いんぺい)するんで、はぐれないことにだけ、気をつけてください」

「了解だ、()()殿。それにしても、まさかこの私が、あそこに五体満足で赴くことになろうとはな……」

「もういいのかなー? 言ってもいーい?」

「どんだけ楽しみにしてんだよ……」

「えっとねぇ……旅の始まりは元気一杯がよろしいのよ――って、イーたんが言ってたのー!」

「イーたん……あぁ――黄金龍(ジ・フラーウム)か……」

「うんっ! それでそれで、もういーい?」

「あー……ほどほどにな」

「やったー! えーと……みんなで――」


 ――キュアノエイデスに向けて、出発進行!!




 斯くして、ドグル大平原6日目が終わりを迎える。


 故に、次に語られる()()は、場が異なる。

 そこは、此度の戦いの絵図を描いた者たちが、総じて、もうひとつの戦場と位置付ける舞台へと繋がる、戦略的戦術的にも重要な街道――沿いにある集落。

 その集落こそが、ナヴァル国境戦役6日目にて、今後の戦況を左右する重要な戦い、その最後のひとつが発生する場所。


 ――邂逅(かいこう)


 怒れる炎姫が出会いしは、剣を極めし()

 翁が対するは、現代ユグドレアにて最強の()()


 即ち、訪れるのだ――選択の刻が。




 歴史の分岐点(ターニングポイント)、来たれり。






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