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黒天の内に在りし者 18

 



 数多くの英傑を倒している事実と、その事実から(うかが)える高い軍事力を有する宗教組織、白の救世主(メサイア)。その一員にして幹部の1人。


 それが、希望のフェルメイユ。


 本来ならば単なる強者でしかない筈のその身を、魔素喰い(マナイーター)であることを活かし、結果的にではあるが、強中の強――圧倒的な強者の立ち位置に座すことに成功している。

 ならば、そんな彼女を圧倒している黒髪の少年は、如何なる存在なのか、どのように定義付けすべきなのか――簡単だ。

 強中の強の上位層――最上位に座す資格を有する、唯一の強者、その候補。


 即ち――最強候補。




 マルス=ドラゴネスの皮を被った田所 信による、天拳ウラノスの制限時間付きの再現は、戦場に、最強の座を争えるだけの実力を備える強者を顕現させる、魔法に等しい事象であるということだ。




 ところで、シンとフェルメイユの為の闘争の場と化したその場所には、2人の戦いを興味深そうに眺めている、もう1人の存在があった。


(ふむ……彼が空気を操って戦っているのは、なんとなく理解できるのだが……いや、そうだとしても、あの()()は一体……)


 彼の名はルスト=ヴァルフリード。

 義剣とも称される英傑にして、ランベルジュ皇国に属する上級貴族、ヴァルフリード辺境伯その人である。

 ランベルジュ皇国国主、大皇ジーク=アスクレイドから義剣の異名を直々に賜るほどの、その類いまれなる義勇――民を愛し、民に尽くし、民のために武を振るうその姿、その言動は、民衆だけにとどまらず、国内外を問わず、大陸各国の王侯貴族からも畏敬の念が送られている、まさにランベルジュ貴族の(かがみ)であり模範、そして、皇国が誇る才人である。

 だが彼には、家族や一部の友人しか知らない、知られざる秘密が存在している。


 それは――


(それにしても……力みを感じさせないあの立ち姿は、やはり青柳流刀術のそれと同じように見え……はっ!? そうか……これからあちら側に連れられるということは、(おきな)とも手合わせし放題ということじゃないかっ!? ふふふ……想像するだけでも興奮してしまうな……ここのところ話題になっている、ウィロウの新当主殿との手合わせもそうだが、この未知なる武術のことも知れるかもと思うと……なんて素晴らしいご褒美なんだ……近年最高の長期休暇になりそうだな)


 義剣のルストと呼ばれる英傑、そんな彼の裏の姿。それは、大の武術好き、いや、変態的なまでの武術マニアであるということ。


 名目上は捕虜として扱われることをきちんと理解しているが、いやむしろ名目上の捕虜でしかないのをいいことに、これから訪れるであろうナヴァル王国滞在を全力で満喫しようとしている辺り、なんとも豪胆、かつ、偏執的な嗜好と思考の持ち主である。


 そんなルストが、今一番気になっているのは、戦闘中にシンが何度も行なっている、その挙動。


 ところで、あらかじめ認識すべきことなのだが、義剣のルストという魔導師は、強者に類する。

 魔導師としての実力は高く、魔導騎(シュヴァリエ)を用いない魔導師としては皇国でも屈指。ランベルジュ四魔導と呼ばれる皇国最高戦力に次ぐ立ち位置に在り、他国から強く警戒されている強者――特記戦力の1人として数えられている程だ。

 実際のところ、魔素喰いが相手で無ければ、まず間違いなく、ルストが負けることはなかった。


 単純に相性が悪い――ただそれだけが、対フェルメイユ戦におけるルストの敗因であり、だからこそルストは、戦いののち知り得た情報から導き出した対応策の草案を、本国の国立魔導工房の主であるブラックスミス家当主の元へと送った。




 以降、皇国軍人が、同じような敵に負けることがないように、その対策を請うたのである。




(むぅ……結果を見れば、()()で、これを成している筈……だが、本当に可能なのだろうか……傍目には――)


 ――身体がブレて見えるだけなのだが……。


 フェルメイユが攻撃を仕掛けるのを見計らったようにシンの身体が揺れ、ブレたように見える。それと同時に、フェルメイユの身体が吹き飛ぶ。


 シンとフェルメイユが戦い始めてから2分と少々、ルストは、その光景を何度も観せられていた。


 シンの身体がブレると同時に、フェルメイユが体勢を崩される――ルストにはそのように見えていた。

 ここで重要なのは、同時に見えている()()。実際には同時ではなく、ほぼ同時というのが正確であり、僅かながらタイムラグが存在している。


 つまり、シンが繰り出す不可視の攻撃は、攻撃の起こりと被弾までの時間に差異を感じないほどの、義剣のルストほどの強者であっても同時と錯覚してしまうほどの速度を有する攻撃なのである。

 空撃士という拳士職は、そういったことが可能な職業である――とは、一般的には知られてはおらず、だからこそ、知識として知り得ていたそれの姿と大きく異なっていることに、フェルメイユが驚いていたのだ。

 空撃という技術を以って闘争する(つわもの)、それが空撃士。

 だが、シンのそれは、ユグドレアで知られている空撃士のそれとは――起源が異なる。


 ユグドレアにおける空撃士の起源、それ即ち、ドラゴンハート――神代期のユグドレアにて、異世界召喚勇者に施されていた()()から解放されし16英傑の1人。


 ――レイ=()=ドラゴンハート。


 彼女こそが、ユグドレアにおける空撃士の起源。


 α() から Ω() に至るまでに、歴史の隙間へと埋められてしまった(ことわり)へと最初に辿り着き、世界に()()させたのが、ドラゴンハートと呼ばれし彼女。

 よって、ユグドレアで空撃士といえば、彼女のそれ――本来のコンセプトである、広範囲殲滅を主とする戦闘スタイルを連想するのである。


 シンとドラゴンハート、それぞれの空撃は、空気を操るという本質自体に差はないのだが、方向性が完全に異なっている。


 ドラゴンハートの空撃は、広範囲殲滅。

 では、シンの空撃は、どのようなコンセプトか。

 ヒントは、既に出ている――シンのそれは、電脳武神流という名の空撃であるということだ。

 電脳武神とは、Soul Effect においてモーションキャプチャーを担当した M のことであり、裏ボスであるアンノウンの異名。

 そして、空撃という技術を、立花流戦場術師範が用いることで、真なる完成を遂げた空撃士。


 それが、アンノウンの正体である。


 そんなアンノウンを模した戦闘スタイルを武術として体系化し、Antipathy Brave Chronicle 内にてシンが再現した、いや、より正確に伝えよう――空撃士を選んだシンだからこそ、模倣し再現できた流派こそが電脳武神流であり、その再現率は、ほぼ100%。

 アンノウン式空撃士とも呼べる拳士職のコンセプトは、大軍勢に匹敵する強個体を単騎で撃破する、個人戦特化型の一点突破スタイル。


 つまり、希望のフェルメイユの前に現れた空撃士は、ドラゴンハートという名の()()()()()()()()()では完成させられなかった、もう1つの空撃――アンノウンの模倣者。




 そう、電脳武神流の開祖である天拳ウラノスは、現代ユグドレアにおいて紛れもなく、対個人戦における最強候補なのである。






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