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黒天の内に蟆弱¥者 1蜿

ちょい長。





 



 広い範囲での攻撃射程を備え、一度に複数、それも100名単位()()の者たちへ向けたワンアクションでの攻勢が可能であり、極めて高い攻撃力を以って、敵勢力の(ことごと)くを駆逐する者。


 それ即ち、殲滅(せんめつ)者――Antipathy Brave Chronicle 開発陣は、そのような姿を、その職業に見出していた。


 それは空撃士のコンセプトであり、近接職でありながら、まるで魔法師や魔術師が扱う、殲滅を目的とした広範囲の魔法や魔術と同様のことが可能になる――と、そのように期待されていた実装当初の現状は、直ぐさま真逆の印象へと変貌を遂げた現実に成り果て、落胆にも似た諦観を与える結果へと導かれる。


 つまり、空撃士の基礎技術である、空気を()()という動作と戦闘行為との両立が難しすぎて、リタイアする者が後を絶たなかった、と、そういうことである。


 さて、世界屈指のプロゲーマー、神童ウラノスことシンの特徴の1つに、天邪鬼(あまのじゃく)が存在している。要は、ダメよダメよと言われれば、余計に手を出してしまうような気質のことだが、シンはまさにその典型であった。

 空撃士を選択したことを嬉々としてアンブレフレンドたちに伝えたところ、不遇すぎるから辞めた方がいいと言われた()()、逆にやる気マシマシになったシンは、空撃士を極めることを決意。あの手この手と、手当たり次第に試し始めた。

 続く試行錯誤の日々が約二週間ほど過ぎた、ある時、シンはそのことに気づく。


 空気中には、()()も漂っている、と。




 当たり前でありながら非日常、そんな世界の中にいるが故に見落としがちな魔素の設定と空撃士との繋がり、その可能性に、誰よりも先に気づいたシンの行動は早かった。




 オンラインオフライン関係なく、他のRPGでも採用されている職業システムには、メイン職業以外にサブ職業を選択可能なタイトルが存在する。Antipathy Brave Chronicle もまた、そういったタイトルの1つで、メインの職業とは別に、サブ職業を選択することが可能であり、メイン職業の補佐や補強を目的とした職に就かせる者が大半である。

 シンも例に漏れることなく、メインが拳士職ということもあって、拳士職に必須のステータスであるSTR(膂力)AGI(敏捷性)などの上昇補正を得られる優秀な職業として認知されている、斥候職系統の上級職である狩人をサブ職業として選択していた――それを、魔道職系統の初期職の1つである見習い魔法師へと躊躇(ためら)いなく変更した。その目的は、ただひとつ。


 魔道職系統ノーマルスキル『魔素探知(マナサーチ)』を取得するためである。


 案の定、シンが予想した通り、魔素の流れが視覚的にわかると同時に、空気を掴む際の取っ掛かり――掴みやすい箇所や方向などが、さほど意識せずとも理解できるようになった。

 そして、魔法師の世界が変わると言われている『魔素探知』上級に至った瞬間、シンの予感が正しかったことを、他ならぬシン自身が、ある確信とともに実感することになる。


 これが、本物の空撃士が観ている世界なのだと。




 だからこそ、空撃士は、超級の名を与えられている職業なのだと、シンは心底理解したのだ。




 ――というか、()()()()()さんのデタラメ具合も大概よね。

 ――まぁ、あのヤバさマックスな流派の中でも、歴代最強()()()っすからね、当然といえば当然っす。

 ――……あれで、歴代最強じゃないことにこそ、私は驚きを隠せそうにないんだけど?

 ――そうっすねぇ……個人相手なら最強っすかね?

 ――つまり、多数なら違う、と……広範囲殲滅を得意とする武人がいたということ? ドラゴンハートのそれに近いのかしら……。

 ――この国の歴史、把握してるっすよね?

 ――ええ、一通り、記憶してるはずよ。

 ――ラーメン屋さんと比肩する彼は、後世では、こう呼ばれてるっす……陰陽師、と。

 ――オン、ミョウジ? んー…………情報を見る限り、武術には見えないけど? この扱われ方だと、どちらかというと魔道職よね、魔術師寄りかしら。

 ――文献のは、だいぶ弄られてるっすよ? 情報操作というか……プロパガンダに近いっすね。そもそもの話、こんなに魔素が薄くちゃ、魔道なんてまともに発動しないのに、召喚式とか事象再現とか無理に決まってるっす。いいとこ魔導器くらいっすね、それも自分の魔力だけでの小規模な運用っす。

 ――それもそうね……あれ、確か、その陰陽師って、鬼とか妖怪っていう敵性存在と戦っていたのよね……そういうこと?

 ――おそらくは、お察しの通りっす。

 ――なるほど……敵は、この星の危険な原生生物じゃなくて、外天の()()だったのね。まさか、そんなに前から……待ちなさい、その陰陽師の彼は、多数を相手にしたら最強なのよね。通常、尖兵は多くても二桁後半程度しか潜り込めない。ラーメン屋さんならその程度の数、誤差でしかないし、苦もなく討てるはず……まさか、そんな……()()()の? こんな辺境で?

 ――ご名答っす。この国の言葉で、百鬼夜行なんて呼ばれた鬼や妖怪の大襲撃が、まさにそれっす。

 ――()()は?

 ――()、っすね。

 ――なんてこと……最低でも()()()の尖兵相手に滅ぼされてないなんて……なるほど、確かにそれは最強と呼ぶにふさわしいかも……その陰陽師さんは、単独でどのくらい討ち取ったの?

 ――だいたい7割っすね。

 ――……ホントに人族なの?

 ――勘が冴えてるっすね、先輩。

 ――なるほど、そういうこと……人族とは別の原生種族なのね、その陰陽師の彼は。


 ――その通りっす。彼の名は、役小角(えんのおづぬ)。又の名を、安倍晴明。この星の長命種の数少ない生き残りであり、先輩と同じような存在っす。


 ――そう……この星にもいるのね、森人が。

 ――元々は、山伏って呼ばれてた方々っす。ああ、現代の山伏とは違うっすよ? あれは、真なる山伏の教えを市井に伝えやすくした、いわば簡易縮小版っす。百鬼夜行の後、山伏の名を譲った役小角とその弟子を中心として結成された組織は、我ら天より現れし狂兵(ほふ)りし走狗と成りて、という意を込めて、天狗と名乗るようになったっす。

 ――なるほど……この国の歴史に幾つか存在していた変換点に、天狗と呼ばれる超常個体との縁がある者が現れている理由が、それなのね……ただ、それにしたって、この国はちょっと異常ね……別の大陸にも()はあるけど……流石にこれは、珍しいとかそんな次元の話じゃないわ。

 ――そうっすねぇ……3つ4つの穴が同じ地域に存在するのは、まあまあ有り得る話っすけど、3桁っていうのは、流石のウチも見たことなかったっすね。

 ――私もよ……108もの穴が同じ地域に存在するだなんて、見たことも聞いたこともないわ……ましてや、座の位階にまで拡がる穴が存在するとは思いもしなかったもの。

 ――()や知の位階が通過できる大きさにまで拡げるのは、この次元では、まず不可能。実質、最高最悪の派兵っすからね、座は。それっぽいのが視えてたんで、念のためにって、彼に()()しといて良かったっす。

 ――…………伝授?

 ――……ふあっ!?

 ――話が見えてきたわ……そうよね、現在進行形で過干渉気味のあんたが、()()()()、何もしてない訳が無いわよね?

 ――いや、えーっと……そ、そんな大したことは伝えてないっすよ? 世間話がてらヒントやらアドバイス的なのを、ちょろっとっすよ、あはは。

 ――へぇ、そう……なら、気軽に話せるわね?

 ――へあっ!? い、いや、わざわざ先輩のお耳に入れるほどのことじゃ……ないっす、よ?

 ――……………………。

 ――ひぃっ、無言!? うぅぅ、わかったっすよぉ……ええと、いくつかあるっす。まず最初に、大気中に存在する魔素のこと。次に、(こん)(はく)の関係性と機能性、外天の尖兵の情報と目的、やり口と、当たり障りのないことを伝えていったっす。

 ――……………………。

 ――ひぃぃぃ!? つ、次に、どんな種族にも必ず存在する()()の突破法を教えて……最後に、彼らの種族特性に相性のいい戦闘技術の……基礎を、伝えた……っす。

 ――…………何を伝えたの?

 ――えーっと……い、言わなきゃダメ……っすよね……あー、なんといいますか、その……。

 ――空撃士ね?

 ――……っす。

 ――あんたは、なんてことを……ドラゴンハートの()()だなんて、時間の逆説(タイムパラドックス)による次元崩壊ギリギリの伝授じゃないの……下手したら、あんたごと、(おり)に呑み込まれてたのよ?

 ――いやぁ……情が湧いちゃいまして、つい。

 ――……好奇心は?

 ――は、半分くらいっすかね?

 ――だと思ったわ……好奇心は猫を殺す、だったかしら。それは、私たちにも言えることなのよ?

 ――それは重々承知っすけど……やっぱり誰かが最初に検証しないといけないじゃないっすか?

 ――っ! それなら、なんで私に相談しなかったのよ!! あんた1人で、そんな危険なこと!?

 ――いやいや、ウチ()は、一応、替えが利くっすけど、万が一、先輩に何かあったら…………そこで、何もかもが終わり()()()

 ――っっ!?

 ――ですから…………だから、そういうヤバい要件は、ウチらが担当するのが一番()()。適材適所っすよ、先輩。おかげで、色んなことがわかった上に、他の次元全てで比較しても尚ヤバいって言える流派が生まれたっすからね、結果オーライっす!

 ――本当に、あんたはもう…………まぁ、いいわ。つまり、こういうことね。ラーメン屋さんを含めた一族の、()()()()祖先が、役小角というこの星由来の長命種で、相当薄まってはいるだろうけど、現代を生きる彼らにその特別な血脈が継がれている。それと同時に、あんたが伝えたドラゴンハート式の空撃士の情報を含めた知も継承されている。この星では希少な血と稀有な知を、武人と武術という形で引き継がせ、その名を世に出現させた。そういうことね?

 ――ほぼ正解っす!

 ――……ほぼ?

 ――9割5分、当たってるっす。

 ――残り5%が、とても気になるわね。

 ――正直なところ、割としょうもないんす。ただそれでも、この星にとっての変換点ではあるっす。ホントしょうもないんすけど。

 ――皆目、見当もつかないわね……私、何かおかしなこと、言ったのかしら?

 ――どんな識者でも、ノーヒントで答えを導くのは流石に難しいと思うっすよ? まぁ、ヒントはあったっすけど……そもそも名前自体がおかしいっすからね。そこに違和感を覚えるようであれば、ひょっとしたらワンチャンスって感じっす。

 ――名前…………まさかとは思うけど、そんな馬鹿な話って……いや、でも、それくらいしか考えられないわね。

 ――聞かせてくださいっす。

 ――武術を名乗ってるのは、()()ってこと?

 ――…………。

 ――ど、どうなの?

 ――……………………正解!!

 ――随分と溜めたわね。とにかく正解して良かった、けど……それって、つまり、何かしらの事情があって、武術の流派を名乗り始めたということね。その事情が、あんたが言う所の?

 ――はい、しょうもない理由っす。いや、当事者からすれば大事なことなんでしょうが、流石に公私混同し過ぎなんすよねぇ……。

 ――公私混同……あんたに言われるなんてね?

 ――な、なんの話っすかねぇ? 兎にも角にも、ある理由から、流派開設と相成った訳っす。

 ――ふむ……で、どんな理由なの?

 ――……不足っす。

 ――……えっ?

 ――…………による、後継者不足っす。

 ――……は?

 ――だから、当主が一途すぎて、未婚を貫いたことによる、後継者不足なんすよ。

 ――……詳しく。

 ――はいっす。天狗として活動していた彼らは、戦国時代と呼ばれた当時、本家と4つの分家、計5つの家で以って、日本列島の上から下まで、全ての穴を適切に守っていたっす。問題が発生したのは、西暦1530年頃。次期当主と目されている青年の幼馴染(おさななじみ)であり、婚姻の約を結んだ女性が、外天の尖兵との戦いで、その命を落としたんす。強く激しい怒りを力に変えた青年は、比較的大規模だったその戦いで、約2万の尖兵を単騎で葬り去った、その実績によって当主就任を確定。翌年、当主の座に就いたっす。

 ――約2万……かなりの凄腕ね。

 ――ラーメン屋さんとサシでガチで闘えて、且つ、()()()()()()()レベルの猛者っす。この時代の最強格の1人っすね。

 ――戦国時代って、要は乱世よね。そんな時代の猛者と同レベル以上のラーメン屋さんに驚きね……まぁ、いいわ、続けて?

 ――うっす。当主とは、つまりは本家の長。分家を含めた天狗たちのリーダーってことっす。血筋が真っ当であることも就任の条件なんすけど、既にある程度世代を重ねている以上、純血やそれに近い人材はかなり少なくなってるっす。さらに、外天との戦いの中でそういった者たちが失われた結果、当主になった彼とその妹だけが、条件を満たしていた訳っす。

 ――なるほど……後継者不足っていうのは、そういう……。

 ――当主に就いた彼は、それはもう精力的に戦いに明け暮れました。先輩も知っての通り、世が乱れれば乱れる程、穴の開閉も活発化するんで、見境なく出現する尖兵を、殺しに殺してまわった訳っすね。ちなみに、役小角氏以上の殺害数で、堂々の歴代1位っす。

 ――純粋な長命種以上って……それは凄いわね。

 ――ラーメン屋さんが現れるまで、個人最強候補の1人っすからね。ただ、世が世なだけに、個人よりも多数の相手の方が、実は得意なんすけどね。それはそれとして、話を戻すっす。彼が戦いに身を投じていたのは、伴侶になる筈だった女性の仇討ちの側面が強くて、それはつまり、その女性のことをいつまでも忘れられなかった、と、そんな悲しく儚い美談ではあるんですが……。

 ――えぇ、そうね……星の守護を担う一族として、組織の長として、彼の行動は……最低ね。

 ――その通りっす……血脈を拡げることに重きを置くべき組織、例えば世襲制の国家の主にとって必須とも言える仕事に、後継者作りがあるっす。天狗という特殊な組織の長である彼もまた、励まなければならなかったんですが……どうしても、それができなかった、と。こんな感じの、割としょうもない理由っす。

 ――そう、ね…… 明らかに覚悟が足りてなかったわね……私事を優先させるべきじゃないもの、上に立つ者は……でも……。

 ――嫌いじゃない、っすよね?

 ――…………続けなさい。

 ――了解っす。天狗の上層部は、彼のことは諦めたっす。力づくであてがう、ってのが無理な相手っすからね。ここは、彼の妹である彼女に頑張ってもらうしかない、んすけど、彼女は彼女で若干の問題がありまして……人族マニアといいますか、天狗の男よりも人族の男に恋するタイプだったっす。

 ――ああ、短命種だからこそ愛せる、っていう人たちね。なんとなく気持ちはわかるわ、性格に難がある人が多いのよね、長命種って。変にプライドが高い人とか……うわぁ、嫌な奴のこと、思い出したわ。

 ――先輩も、よく被害にあってたっすからねぇ……まぁ、そんな訳で、彼女の気質を理解している上層部の方たちは、当時お世話になっていた武家の方からの助言もあって、人族の中で闘いの素養を有している者を見出すと同時に、婿として見繕う為に、人の世に進出することを決めたっす。

 ――なるほど、そうして生まれた訳ね。

 ――ういっす。そんでもって、(くだん)の武家から名を拝借させてもらって、その流派の名付けがされたっす。その家、以前は戸次(べっき)と名乗ってまして、ちょうど改名したばっかりのその勢いに便乗した形で道場を開いたんで、そこそこ名が知られるようになったっす。

 ――その割に文献に載ってないのは、そういうことね?

 ――そういうことっす。自分たちの真実を文献なんかに記載してしまうと、外天の奴らに利用される、そのことも役小角に伝えてあったんで、その教えを徹底して遵守したんすね、子孫である彼らは。

 ――結果、血と知を現代まで継承させた、と。なるほどね……()()()自体の歴史は、実は浅かったのね。


 ――そういうことっす。しかし、その実態は、原生種族による文明が築かれた当初、つまりは10万年以上も前から、星を守護してきた一族の秘中の秘を連綿と受け継ぎ、進化発展させてきた、武術の皮を被った外天狩りのスペシャリスト。それが、ラーメン屋さんたちの一族が掲げる流派。




 ――……立花流戦場術。







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