宝箱
掲載日:2020/06/27
宝箱
本当は人がとりもどせるものは
・・・・何もない
悲しい悲しい悲しいある日も
嬉しい嬉しい嬉しいある日も
鈍色の心に流した涙は一筋の塩っからい跡を残して蒸発した
思い、感覚、嘆きや怒りでさえ
とりもどすことはできない
あなたが「好きだよ」と言ったときの温もりのある声や温かな眼差し
記憶は古い昔の写真のように色あせていく
なぜ、なぜ、なぜと問うても
答えは出てきはしない
言葉は煙のようにふっと口の先から消えていく
ほんの少し誰かの耳の奥にこだまして
すーっと流れ星の引く尾のように消えていく
とりもどしたいものは時間の大河に呑み見込まれる
とりもどしたいものは宝箱の中
まだ生まれない以前の場所
悲しい悲しい日はなかったし
嬉しい嬉しい日もなかった
涙を流す理由もなかった
私が宝箱だったから




