おじいちゃんの思い出
私の大好きだったおじいちゃん。
いつも優しくてね。
お小遣いくれたりね。
おやつくれたりね。
遊んでくれたりね。
将棋打ってくれたりね。
本当に大好きだったんだ。
私が大学に入ったころからね。
おじいちゃんがだんだん、小さくなってきたの。
あんなに大きくて、威厳があって、私を守ってくれたおじいちゃん。
どんどん小さくなって、とうとう入院しちゃって。
だんだん弱っていくおじいちゃん、見てられなかった。
だんだんおじいちゃんの匂いが薄くなっていってね。
ある日、おじいちゃん、天国に行っちゃった。
本当に悲しくて悲しくて。
私、体重が五キロも減ったの。
ご飯がおいしくなくて。
おじいちゃんと食べたご飯が、恋しくて。
でもね、そんなある日、おじいちゃんのにおいがしたの。
居酒屋でアルバイト始めたばかりのころだったかな。
懐かしくて、おじいちゃんが帰ってきたって、思ったの。
振り返ったら、知らないおじさんがいただけだった。
悲しくなってしまって。
泣いちゃったんだ、私。
お客さんが、どうしたのって聞くから、おじいちゃんのにおいがしたって言ったの。
俺はじじいじゃないって言ったお客さんを、よく見たら。
そのお客さん、おじいちゃんが吸ってたタバコ、吸ってたの。
その日から、おじいちゃんのタバコのにおいを、追いかけるようになったんだ。
私はタバコ、吸えないから、吸ってる人の隣に立つの。
そうするとね、ふわっと、おじいちゃんの香りが漂ってくるんだ。
知らない人の隣に立つのも失礼でしょう?
おじいちゃんのタバコを吸ってる人と、仲良くなる努力をしたよ。
仲のいい人に、同じタバコを吸ってる人を探したよ。
いつもタバコのにおいを香らせてもらいながら、おじいちゃんの思い出を話したの。
おじいちゃんタバコ吸いながら優しい言葉をいつもくれたの。
タバコを買いに行くと、買ったばかりのタバコに火をつけてひと吸いしたあと、煙を私に吹きかけて、おつりをいつもくれたよ。
おじいちゃんの作るホットケーキにタバコの灰がトッピングされてたりね。
遊んでるとき、いつも煙が私を包んでくれてたんだ。
灰皿と間違えて、駒台にタバコ押し付けちゃっておかしかった!
ご飯を食べてるとき、いつも煙が食卓を囲んでたんだ。
だけど。
おじいちゃん、タバコを吸うと、苦しくなるようになっちゃって。
吸っても吸っても、煙が入って行かなくなっちゃった。
普通の空気も吸えなくなってね。
いつもいつも苦しそうでね。
呼吸器つけても苦しそうでね。
毎回警告音が鳴るの。
空気が肺に届いてませんよって、鳴り響くの。
どれだけ酸素濃度をあげてもね、ずっとずっと苦しそうなの。
そうしてるうちにね、おじいちゃんのタバコのにおいがね、薄くなってきたの。
1年位かなあ、苦しみ続けてね。
本当に、本当に苦しみ続けてね、見てられなかった。
大好きなタバコが吸えなくなっただけじゃなくて、普通の空気も吸えなくなって。
においがぜんぜんしなくなった日、天国に行ったの。
私、おじいちゃんのにおい大好き。
ねえ、もっとタバコ、吸ってくれないかな?
私のまわりの、おじいちゃんと同じタバコを吸う人が、どんどんどんどん、減っていくの。
私がおじいちゃんの思い出を語るたび、タバコをやめる人が続出してるの。
何でかな。
私、おじいちゃんに、また会いたい。
私、おじいちゃんを、身近に感じたい。
おじいちゃんのにおいが、ぜんぜんしない。
公園でウォーキングをしながら、深呼吸を、ひとつ。
…ん?
おじいちゃんのにおいが、した!
振り返ると、木の根元でタバコを吸う、老人。
私はいつも持っている携帯灰皿を取り出して、老人の下へと歩み寄る。
「こんにちは!そのタバコ、お好きなんですか?」
灰皿を差し出して、私はおじいちゃんの香りに包まれながら。
おじいちゃんの思い出を、喫煙する老人に、みっちり語らせてもらった。