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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
群青の創造主と静謐の聖騎士
9/64

闇に堕ちた彼 3

  公園には剣戟(けんげき)の音が高く響いていた。

蓮の繰り出す攻撃を、祭星が再度創り出した槍で凌いでいく。

 相変わらず蓮の力は強いが、祭星はそれをしっかりと受け流し、隙をついて反撃を仕掛ける。

(まだだ……、まだ、我慢しろ……)

 祭星はそう考えながら水面下で準備を始めていた。

 創造魔法で生み出した槍は魔力の塊だ。

彼の剣を受け止め、跳ね返す。 そして構え直す際に、ほんの一瞬、地面で槍の先を削る。 その一瞬で、術者にしか見えない魔法陣が描かれてゆく。

大掛かりな魔法だ。 実際に自分が使ったことは2回程度だ。 合計で十六枚の魔法陣を描かなければいけない。

 でも不思議と、やれる気がした。

その自信がどこからくるのかわからない。 だが、やれる気がしたし、やらなければいけないのだ。

 また地面を削る。 これで十五枚目。 あとひとつだ。

もう少し。 そう気を抜いた瞬間に、自分の眼球めがけて刀の鋒が迫っていた。

「ーッッ!」

 顔をグッと反らし、なんとか目を負傷するのは避けられたが、頰に傷を作った。 顔にできた傷は小さくとも血が派手に出るもので、噴き出した鮮血を手で拭う。

「威勢がよかったのはさっきだけか?」

 横に一閃、紫の魔力とともに祭星へ襲いかかった。

地面を強く蹴って、祭星が後ろへ飛びのく。

 少し反応が遅れたものの、体を真っ二つにされることは回避できた。 代わりにブラウスにつけていた制服のリボンがハラリと舞った。

「お前は武術系じゃないだろう? これくらいで息が上がってる」

 疲れた様子も見せない蓮は、ニヤリと笑った。

確かに、重いダッフルコートを着て、しかも靴は軍用のブーツらしきものだ。 それなのに息が上がっていない。

 対して祭星は肩で息をしていた。 もともと運動神経はとても悪いのだ。 それをなんとか凌いでいるだけだ。

 だが、頭が回るのは祭星の方だったらしい。

「馬鹿ね」

「なんだと……」

 槍先を地面に高らかに叩き付け、最後の魔法陣を展開。

「これは私が使える魔法の中でもとびきり難しい魔法なの」

 その言葉の途中から、祭星の後ろに魔法陣が強く光り輝く。 十六枚の魔法陣で出来た大掛かりな魔法。

蓮は愕然し、その場で後ずさる。

「いつのまに……ッ!」

「私は蓮みたいに運動神経がいいわけでもないから、貴方を押しのけて魔法を発動させる時間があるとも思えなかったし、詠唱破棄しても発動する時間は5秒かかる。

その隙に貴方が私を殺す可能性だって多いにあった」

 魔力の輝きを背に、祭星は稀代の魔法使いさながらだった。

蓮はその姿に見惚れたように、動かなかった。

「お願い、力を貸して……」

 祭星が小さく囁くと、それに答えるかのように隣人達が彼女の周りを舞う。

 腰のホルダーに取り付けていた魔道書がひとりでに輝きを放ち、フワリと宙に浮かんだ。

白髪の魔法使いは、キッと前を見据え、狙いを定めた。

そして念じた。

(手加減、する。 殺さずに、動きを止める……!)

魔道書の名前を喚ぶ。

「我に応えろ、エスペランサ!」

 彼女が名を呼号すると、凄まじい光を放ち、魔法陣と魔道書(エスペランサ)が反応。 その瞬間、蓮を光で捕縛し、足元から光の柱が立ち昇った。 辺りに光属性の波動が流れ、魔物が一斉にして消滅していった。 隣人達は吹き飛ばされないように身を寄せ合って、辺りに静けさが戻るのを待った。

 やがて光が収まり、祭星が魔道書(エスペランサ)を閉じる。

「……っ」

 ひどい目眩がする。 今すぐにでも倒れて、気を失いそうなくらいだ。 それでも耐えて、彼の元へ。

 膝をついて、剣を地面に突き刺してなんとか体勢を保っている蓮の前に立ち、胸元のペンダントへ手を伸ばす。

 だが。

「ウっ、……な、るほど、ね……」

 小さなサバイバルナイフを祭星の腹に突き刺して、蓮が囁く。

「だからお前、詰めが甘いんだ」

 口から血を吐き出しながら、祭星が枯れた声で言う。

「何度も、言わなくたって……わかってるよそのくらいッ!」

 意地でも、これだけは。

ペンダントを強く握り、蓮へ顔を近づける。

「誰に何をされたかぜんっぜんしらないけど……! 事が終わったら全部、話してもらうからね」

「くそっ……!! 離せ! 消えろ!」

 ナイフを抜き、大きく振りかぶった蓮のその手首を、空いている方の手で止める。

「会いたかったとか、離れろとか、どっちが君のほんとの意志なの……!!」

 力を入れるたびに、傷口が狂いそうなほど痛くなる。

血を流しすぎて、回復の為に魔力もかなり減ってきている。

「うるさい……!! 黙れ、だまれ!! お前は俺のことなんて、忘れてたんだろう……!!」

「忘れてなんてない!!」

「黙れ……! お前を傷つけてでも、俺はお前を……!! そう言われたんだ、教わったんだ、言われているんだッ!」

 蓮が力を込める。 それに応えるようにペンダントが赤黒く光った。

「言ってること……おかしいよ! ねぇ、自分からそれを受け入れたの、それとも無理やりなの? どっちなの!」

「喋るな! 俺はお前を助けるために……!! そのためにお前を自分のモノに……ッ!」

「だったら!」

 最後の力を振り絞って、ナイフを持つ彼の手を弾き飛ばした。 そしてペンダントをつかみ、魔力を込める。


「こんな、曇りきった結晶を通して私を見ないで、ちゃんと自分の目で私を見て!!」


 ガラスが割れるような音が辺りに響いた。


 自分の魔力を結晶に流し、器に入りきれないほどの魔力で内側から粉砕したのだ。


「うっ……!」

 体を起こしていられない程の目眩。 だが、隣人達が肩に手を触れ、魔力を分け与えてくれた。

 普通だったら有り得ない。

驚いて周りを見渡し、横にいた隣人、風の精に声をかける。

「ありがとう……。 風の隣人だから、エアリエルだよね」

 くるりと宙を舞い、隣人は姿を消した。

 人間側から魔力を借りることはあるが、隣人が自ら魔力を分け与えることはほぼないのだ。 だがそのおかげで、倒れずに済んだ。


「っ……」


 目の前から呻き声が聞こえ、祭星はハッとして蓮を見る。

「い、った……。 俺、何を……」

 幾分か優しい声色。 傷だらけの顔をジッと祭星が見つめる。

 それに気づいた彼は、赤く強い意志を持った瞳を祭星へ向けた。 その瞳は昔から変わらない、心優しく、少し不器用な彼そのものだった。

彼を飲み込んでいた闇ももう感じられない。

「れ、れん……、もうだいじょうぶ、なの? 」

「……ああ」

 刀からも闇の魔力が消えている。 蓮はペンダントが本当に自分の胸にかかっていないことを確認すると、深く息を吐き出した。

「やっと、声が聞こえない……」

「声って……?」

「こんなに心が穏やかなのは……何年ぶりだろうか」

 ぐらりと蓮の身体が倒れる。

「蓮、蓮! しっかり……!」

「ごめん、まつほ……、ちゃんとはなす、から……」

 祭星に抱きとめられて、蓮は気を失った。

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