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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
群青の創造主と静謐の聖騎士
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闇に堕ちた彼 1


 足がすくんでいた。

ずっと会いたいと心から思っていたのに。 幼馴染の彼は、自分(まつほ)とは違う思いを抱いていたのだ。

 蓮は戦慄して動けない祭星をじっくりと見て悦楽の笑みをこぼした。

 彼の胸元で妖しく光る、赤い結晶のペンダントが揺れる。

「逢うのをずっと楽しみにしてた。 いつお前の前にこの姿を現そうかと毎日毎日考えて、再開したら何をしようって長年考えた。 俺にとって、祭星の代わりなんて一人もいない」

 祭星から離れ、蓮は周りをゆっくりと歩く。

「だがお前は違うんだな、祭星」

「……」

 愛憎で曇らせた瞳をまっすぐと祭星に向けて、蓮は立ち止まった。

「俺がいなくても、他の人間に笑いかけて……。 俺は裏切られた気分だったんだ」

 気づけば蓮の左手には鈍く輝く刀が握られていた。紫の魔力を纏うその刀をみて、祭星は恐怖を感じた。それを見て、例えようのなかった恐怖の正体に理解する。 ギリっと祭星が唇を噛む。

  火、水、風、土、光、闇、無。

 この世界にあるもの全て、七つの属性が宿り、その属性により優劣がある。

祭星は極めて光の属性が高い。 それこそ同じ年代の魔法使いとは比べ物にならないくらい膨大な魔力量も誇っている。

 そして蓮の魔力。

決して特別多いわけではない。 だが、闇の属性に飲まれているのだ。 制御が出来ていない彼は、渇望する者も一緒に飲み込もうとしているのだろう。

「なぁ、祭星……」

 刀を祭星へ向けて、幼馴染(れん)は嗤う。

「俺のことが好きなら、どうして俺だけを見てくれないんだ……?」

 覚悟を決めた。

戦いたくないと思っていた。

光は闇に強い。 逆もまた然り。

 蓮は刀を使うのならば、どちらかといえば魔法より体術だろう。 祭星はからっきしそれがダメなのだ。 彼女の使う創造魔法は、詠唱にかなり時間がかかる。

下級魔法だと20秒くらいだが、強いものになる程5分かかったりする。

いつもはその間に自分をサポートする魔法使いがいた。

 彼女は1対1の戦いにすこぶる向いてないのだ。


でもここで何も抵抗しなければ?

 

 先は見えている。 彼に捕まって、一生寵愛を受けることになるだろう。 それだけじゃないはずだ。

ゾッとする。

「貴方が、貴方の欲望を突き通すのならば」

 手を空に差し出す。 大気に漂う魔力と、隣人達の魔力を借りて、胸の中で詠唱を加速させる。

「私は私の願いを、願い通す。 たしかに会いたくて私も楽しみにしてたけど」

身の丈を越す、青く輝く槍を創り出し、祭星はコツンと地面を叩く。

「今の貴方は、蓮じゃない。 誰に何を言われてそうなったのかわからないけど……。 魔力に飲まれたままの貴方に、私を渡すわけにはいかない!」

 それを聞いて蓮は地面を蹴った。 あっという間に祭星の懐に入った彼は、刀を祭星へ振りかざす。

 柄で刀を凌いだ祭星は蓮の腹を蹴り飛ばし、刺先を地面に突き刺して一気に飛翔。 空中で足元に魔法陣を描き、それを踏み台にしてさらに高く上へ。

「我が名に従い、その力を施したまえ……」

 創造魔法とは、万能だ。

その使い手が思う、創りたいモノを等しく創り出せる。

槍の形状が変化する。 鋭く、美しい神話の槍へ。

「穿て!」

神話の槍、グングニル。

 本物ではないが、その力を槍に込めて創り直した。

力いっぱい、槍を蓮へ向かって投げた。

風を切り、魔力を纏いその槍は狙い違わず蓮へ突き刺さった。

青白い光が炸裂し、爆風を起こす。 地面に綺麗に着地できなかった祭星は、よろけて膝をついたが、その光が収まるのを待った。

だが。

「詰めが甘いんだよ、お前」

 背後から押しつぶされそうなほどの魔力を感じ、振り向いた。

 その瞬間、腹部に激痛が走る。

先ほど自分が放った槍を、蓮が祭星に突き刺していた。 あろうことか、光属性を纏う武器を、闇属性が強い蓮が、手にして、それを自分に突き刺して。


そんなことが……?!

 

 信じられない、考えられないという顔をしている祭星に視線を合わせるように、蓮が膝をつく。 さらに奥へ槍を捻りこませ、痛みに歪む祭星の顔を見て愉悦の笑みを浮かべた。

 血が制服を濡らす。 込み上げてきた血をたまらず吐き出して、祭星は痛みに喘ぐ。

「ああ、やっぱり」

 やがて祭星の魔力が低下すると共に、槍は粒子になって消え失せる。

腹部を抑え、立ち上がろうとした祭星を蓮は蹴り飛ばし、笑った。

「痛みに喘ぐお前もこれはこれで良いものがあるな」

感じたことのない激痛。 痛みで悲鳴すら潰れる。

 これが、本当の彼?

いや、絶対に違う。 違うはずだ。

スッと瞳を閉じて、魔力探知に集中する。 痛みだとか恐怖だとか、そんなものはもう遮断した。

今はまず、自分が生き残れるためのなにかを探さなければ。 どこか魔力の綻びを見つけられれば、そこに光魔法を叩き込めば大きな隙が作れるはずだ。

「っ!!?」

 違和感を感じて目を見開いた。 膨大な闇の魔力。 その源は、間違いなく彼の胸元に光る結晶。

さらに集中して探ってみれば、かけられている魔法が判った。 精神支配系の呪術魔法だ。

アレが。

「蓮……」

「ん?」

まだ口を聞ける元気があったのか。

と、蓮が嬉々として話す。

「蓮のお母さんとお父さんの葬儀の後……。 あの後蓮はどこに行ったの?」

 彼が、口を閉ざした。

「誰と会ったの? どこに連れていかれたの? 何を……」

祭星を奮い立たせたこの感情は、恐らく怒りだ。

「何を吹き込まれて……」

 拳を痛いほど握りしめて、痛みなど関係なしに蓮に強く問いかける。

「誰に、何をされたの!」

 ビリッと辺りに張り詰めた空気が漂う。

彼女の怒りを感じ取った、目に見えない隣人や魔の生き物達が、息を潜めた。

 祭星の瞳が、赤く魔力で色付いていく。

「助けて欲しいなら、ちゃんと言わなきゃ……。 私と逢いたいと思ったその感情は、今の状況から抜け出したいから……」

「何をデタラメを」

「今はデタラメだと思われてもいい!!」

魔道書を創り出して、魔力を高める。

 上級魔法を詠唱破棄できる回数、それは5回だ。

本当は無謀だが、でもそれを忘れてしまうくらい彼女は激昂していた。

 やっと出会えた、大切な幼馴染(ひと)

優しかった彼を誑かしたのは誰?


「私は今、とっても怒ってるの」


 蓮がフッと笑いながら、一歩身を引いた。 彼の額には冷や汗が流れる。


(こんな姿、藍沢さんが見たらどう思うだろうか)


少し考えたが、前を見据えた。

 今この瞬間のために、生きてきた。

 彼と離ればなれになってから、ずっと。

「バケモノって言われるのは気に入らないけど、でも多分」

 足元にはひとりでに魔法陣が刻まれていく。 それに反応して、彼女の後ろにも無数の魔法陣が現れた。

「今あなたの目に写っている『群青のクレアシオン』としての私は、間違いなくバケモノだよ」

自分で呪詛のように吐き捨てて、深淵の笑みを口元に作った。




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