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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
生贄の詐欺師と白竜の運命
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天の双白 1

 ペルセポネから連絡があったのは翌日だった。 丁度昼食をとっている時で、食堂でいきなり姿を見せるものだから周りの魔法使い達は大騒ぎだった。

それもそのはずで、あのペルセポネが急に目の前に現れたら驚きもするだろう。 祭星は慌てて食事を済ませると、物珍しそうに辺りを見渡すペルセポネを引き摺るように食堂を後にした。

 丁度近くにいた蓮とリオンも呼んで、誰もいない会議室へ入る。 使用中のランプを点けて、祭星はホッと息を吐き出した。

「ペルセポネ、急にあんな大勢の人の前で出てきたらみんなびっくりします!」

『ごめんなさいね、急いでいたものだから』

「それで、天界と交渉はできたのか?」

 リオンが尋ねれば、ペルセポネは頷いた。

『畏れ多くも、あのお方が自ら此方に来ていただくことになったの。 わたしより先に来たはずなんだけれど……』

 キョロキョロと周りを見渡すが、誰もいない。 実際は魔力を探っているようだが、それも見当たらないのだろう。

『迷ってしまったのかしら』

「じゃあ、私探して来ましょうか? どんな方か教えてもらえば……」

『そう? ええと、白くて長い髪に大きなツノがあるの。 身長が高くて、男の方よ』

 祭星はそれを聞くとメモを取り、襟元を正す。 携帯端末を腰の鞄に入れて、立ち上がった。 それと一緒に蓮も立ち上がると、祭星は不思議そうな顔をした。

「蓮、お仕事は?」

「先に終わらせた。 探すって言ってもこのイタリア中探すんだったら大変だろ、手伝うよ」

「ほんと? ありがとう」

 実は、昨日のあの夜以来まともに話してない。 バケモノになると言った祭星と、上手く話せる気がしなかった。

彼女が言った本当の意味は、きっとアルトストーリアを制御するためにどんな力でも受け入れるという意味だろう。 そしてそれが、祭星の体にどんな被害を及ぼすのかも、まだ詳しくは判らないが想像は容易だった。 彼女は、世界と仲間を救うために自分の願いを捨てる気だろう。

普通の人間として生きたい。 という願いを。

 それが彼女の新たな願いならば支えてあげたい。 でも、祭星はもっと苦しんで、また一人で泣くのだろう。

そんな考え事をしていると、祭星が顔を覗いてきた。

「れーん? 疲れちゃった?」

「っ、いや大丈夫だ」

「そう? 私は西通りを調べてみるから、蓮は東通りを頼める?」

「わかった。 何かあったらすぐ連絡しろよ」

 祭星は「わかってるって!」と微笑んで、会議室からパタパタと駆けて行った。

「何かあったのかい?」

 リオンが苦笑しながら尋ねてくる。 蓮は頭を抱えながら「まぁ……」と呟いた。 今まで何年も会えなかったのだから、気まずくなった時にどう対処するべきかわからない。 蓮もかなり不器用なので、尚更だ。

とりあえず、今はその天界からの使者を探すべきだろう。 先に出て行った祭星を追いかけるように蓮は会議室を後にする。 そういえば、自分はいつも祭星の後を追いかけることが多いなと、そう思いながら。


 西通りは所謂繁華街だ。 昼間は一番賑わう。 人混みとはいえ、天使ともなればすぐに区別はつくはずだ。 それにこっちにはメフィストもいる。 人が多く探すのが難しい西通りを祭星が選んだのはその理由だ。 だが、探し始めて早十分。 メフィストが首を振った。

『ムリ、本当にわかんない』

「え」

『いつもはそんな事ないんだけどさぁ』

 宙に浮かんでいるメフィストは、目を細めて辺りを見渡す。 その表情は少し険しい。 こんな人混みの中だが、メフィストは使い魔なので祭星や関わりのある魔法使い以外には見えない。

『なーんか良くない気配があるね、天使ではない。 そいつが凄く邪魔っていうか、負の感情が漏れ出しててさ』

「良くない……」

『祭星、蓮に連絡したほうがいいと思うよ。 多分これは……』

 その瞬間だった、賑わいを搔き消す程の爆発音が聞こえて来た。 それは空気を振動させて辺りを吹き飛ばさんとするほどだ。 悲鳴と共に、火薬のような香りがする。 祭星は人混みに逆らう様に前を睨みつける。 流れる人の波に飲まれぬ様状況を把握すると、黒い煙が立ち昇っているのが見えた。 さらに悲鳴が聞こえ、祭星はある気配を感じ取る。

 背筋が凍る程の、負の感情。 ドロドロになった感情だ。 魔力でもなんでもない気配だったが、一瞬にして分かる。 これは、危険だ。

「みんな伏せてっ!!」

 喉が切れるほどの大声で叫び、エスペランサを開く。 彼女がフィンガースナップをした瞬間、辺り一キロ程を、光の結界が覆った。 

その直後、心臓を震わす様な轟音と共に目の前で炎が炸裂した。 本当にギリギリだった、彼女の目と鼻の先だ。 劈く様な悲鳴と、子供の泣き声が辺りを埋め尽くす。

「あ、あんたは……!」

「私は世界政府管轄組織ヴァチカンの魔法使いです。 階級は中尉、今すぐヴァチカンの地下シェルターに避難を!」

 慌てふためく人々は、ヴァチカンへと向かう。 中には周りの人間を突き飛ばして我先に駆け出す者もいれば、泣いている見知らぬ子供を抱きかかえて走る者もいた。

混乱の様子は既にヴァチカンに伝わったらしく、何人かの部隊員たちが市民の誘導に入っていた。 相変わらずの素早さだ。

 祭星は決して結界を解くことなく、自分はその結界の中から抜け出した。 

「お、おい! いくらクレアシオンでも結界を維持しながらなんて無茶だ!」

「大丈夫。 そんな小さな結界維持しながら戦うなんて、息するのと同じくらい簡単だから」

 祭星は振り向きもせず、前へ進む。 黒々とした煙の中、灯油の匂いが鼻を刺激した。

とりあえずこの煙が邪魔だ。 祭星は風の魔法を使って、一瞬で煙を吹き飛ばした。 凄惨な光景が広がった。 爆破された店がいくつもあり、火傷を負った人々は既に息絶えていた。

そして、祭星はピタリと足を止めた。 ぐしゃぐしゃの髪をした男性がそこには立っていた。 顔も服も煤で汚れていて、目はひどく淀んでいる。

「お前がいたからみんな死ななかった」

「……貴方がこれを?」

「試してみたかったんだ、一度人を殺してみたかった。 たまらなく気持ち良いんだろうなって思っていてもたってもいられなくてさ……」

 血走った目で笑い狂う男。 彼は魔力など何も持たないただの人間だったが、少しタガが外れている様だった。

「たったそれだけで、罪のない人達を」

「そうだよ、あぁ〜楽しかった……最高の気分だ、気持ちがいい……!! ここまで気持ちいいなんて思ってなかった! なぁ、お前も一緒に気持ち良くならないか?」

「いらない」

 祭星はそう吐き捨てて、捕縛魔法を容赦なく放った。 手足、そして口を頑丈に捕縛して、そのままその場に捨て置く。 場所を伝えておいたので、あとでヴァチカンの本部の人間が連行してくれるだろう。

 とりあえず危険はなくなっただろう。 結界を解いて、避難が遅れている市民を探す。 どうやらもう避難がほとんど済んでいるようで、辺りには誰もいなかった。 一先ず安心だ。

 と、一人ポツンと立ち尽くす少年がいた。 歳は五つだろうか? 白い髪が美しく、煤にも汚れていない事に驚いた。 少年に駆け寄って、目線を合わせてしゃがむ。

「こんにちは、逃げ遅れちゃった?」

「……お姉さんは?」

「私は魔法使い。 お父さんとお母さんはどこにいるか分かるかな?」

「いないよ、僕はずっと一人だったから」

「そう……、ごめんね、辛い事聞いちゃった。 じゃあ、お姉さんと一緒に安全な場所に行こうか。 大丈夫だよ、怖くないからね」

 祭星は立ち尽くす少年を抱えると、ヴァチカンへ歩き出す。 途中で、東通りに行った蓮がリューゲに乗って駆けつけた。

「祭星!」

「蓮! そっちは大丈夫だった?」

「爆発の衝撃がものすごかったが、もう全員避難が終わった。 ……その子は?」

「避難するのが遅れちゃったみたいで、今から連れて行くところなの」

 少年と目があった蓮。 赤いスグリの様な瞳が、蓮を射抜く様に見つめている。

「祭星、その子を離せ」

「え、でも」

「いいから離せ!!」

「蓮! この子は親がいなくて避難が」

「親がいない? そうだろうよ、お前人間じゃないだろう」

 祭星が息を飲むのと同じタイミングで、空から上品な女性の声が降って来た。 その声はどうも、慌てた様な声だ。

『見つけた! こんなところに居たのですね!?』

 ペルセポネだ。 祭星が驚いて腕の力を緩めた瞬間に、少年はスルリと腕から抜け出した。 祭星の隣に立ったと思えば、少年の姿は美しい六枚の羽根に覆われた。 純白の輝く六枚羽根、それは熾天使の証だ。

 真っ白な長い髪、赤色の瞳に、まるで造り物の様な美しさを放つ存在。 大きな羽根を折りたたんで、少年だった彼はニコリと微笑んだ。

『初めまして、僕はミカエル。 会えてよかった、末の娘よ』

「……もし、かして」

 身体が熱くなるのを感じた。 白い髪に色素の薄い肌。 赤いスグリの様な瞳。 

祭星は自分の産まれた方法を思い出した。 天使の魔物の遺伝子を利用して創られた。 それならば、自分によく似ている天使がいるはずだ。

クラウンは、自分とはかけ離れた容姿をしている。

『そう、君は僕の遺伝子から創られた』

 思考が止まった。 祭星はただ立ち尽くして、目の前の天使を見るだけだった。

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