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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
生贄の詐欺師と白竜の運命
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終末の合図 3

 祭星は目を見開いた。 そして、悲痛な声を上げる。

「そんなの、そんなの……! 無理だよ……!」

 自分はその辺にいる魔法使いとは違うと自覚していた。 大抵のことは出来る魔法使いだと。

だがこれは違う。 あのアルトストーリアがどんなものなのか、祭星もよくわかっている。 それこそレイが言っていた様に、おとぎ話のような存在。

だがやらなければ、クラウンはずっと一人で戦い続ける。 聖騎士と言えども、限度というものがある。

「ほんと、どうして……。 今までずっと何年も一人でアナスタシアに抗い続けて、もう一人じゃないって言ってたのに……! なんでまた一人で抱え込んで!」

 それでも彼女はいつものように無計画に飛び出そうとはしなかった。 詠斬もその様子を見て少し驚いているようだった。

「飛び出さんのやな」

「もう少し頭で考えろと言ったのは貴方です。 言われたことを実行に移せないほど、私はバカじゃないので……。 それに、アルトストーリアを制御できるようになる方法なんて私は考えつきません」

 どこか尖った言い方をする祭星。 詠斬はやれやれと苦笑した。 そしてリオンに目配せをする。 

「どうするんや? 魔界側へのアクセスなら俺ができるで。 そっちが天界とのアクセスをとってくれるなら、五日くらいで制御はできるはずや」

「……ペルセポネ、行けるか?」

「ええ、ええ。 ハデスを救う為ですもの。 一足先に天界へ戻り、ミカエルへお伝えしましょう」

 ペルセポネは少し寂しそうに微笑む。 リオンは頷くと、ペルセポネの額に口づけを落とした。

「そうね、このくらいの対価が妥当ね。 では、話がつき次第すぐに連絡するわ。 ……祭星」

 美しい彼女は祭星にスゥと近づくと、白い髪を撫でる。 その手は優しく、我が子をあやすようだった。

「きっとミカエルは貴女の力になってくれるでしょう。 でも、天使は残酷よ。 魔物よりずっとずっと。 だから、貴女を守ってくれる魔物を紹介してもらうのよ」

 そういうと、ペルセポネはキラキラと光の帯へ変化して、消えていった。 天界へ戻ったのだろう。 魔物を紹介してもらう、とは言われても、それがどうしてアルトストーリアを制御する力になるのか理解が出来ない。

「では詠斬、頼めるか? 私は聖騎士の代わりに緊急会見を開こう。 急に晴れて各国驚いているところだろう」

 通知音で煩い端末の電源を切りながら、リオンはそう言った。 ひらひらと手を振って本塔へ戻って行く。

「あの、祭星さん」

 おずおずと話しかけてきたのはリイナだ。 ボロボロになった隊服を見るに、彼女もアンチュリエとの激戦に巻き込まれていたのだろう。 リイナは祭星に深々と頭を下げると、泣きそうな声で謝ってきたのだ。

「ごめんなさい、貴女を疑うようなことを言ってしまって……! クラウンさんだって、私程度の力じゃ全然助けられなくて、足手まといばかりで……!」

「えっと、そんな大丈夫です! 顔を上げてください、謝られるほど私は偉くないですし……!」

 泣きそうな顔のリイナをぎゅっと抱きしめて、祭星は笑う。 ここで文句を言っても何も変わらないし、彼女がどれだけ最善を尽くしたのかはすぐにわかる。 とりあえず今は、魔界のことを考えるのが先だろう。

「詠斬さん、魔界っていうのは一体」

「んー、魔界に行く前にまずやらなあかんことは、そのエスペランサの守護者との契約やな。 まだしてないんやな? 存在も知らんかったわけか?」

「守護者……?」

 ぽかんとした顔の祭星。 リイナは祭星の腕の中で驚きの声を上げる。

「ま、祭星さんまさかエスペランサの守護者と契約をされていないんですか?」

「え、守護者ってなに? エスペランサ自身とは契約をしているけれど」

「ええっと……」

 リイナは祭星の腕の中から抜け出すと、一先ず座って話せる場所に移動することを提案した。 それならと、ここみは自分の部屋へ案内をした。 技術開発塔の職員の部屋はここから近いのだ。

 移動する途中、リイナの服や髪の乱れをファルシュが丁寧に戻しているのを見て、祭星は自然と笑みがこぼれた。 彼は妻に尽くすタイプなのだろう。 それとも、みっともないから綺麗にしろということだろうか? どちらにせよ気にかけているのだから良い夫だろう。

 ここみの部屋は案外広い。 それもそのはず、祭星の友人なので特別に広いものを与えられているのだ。 これは祭星が初めて自分の群青位を乱用した結果である。 クラウンにバレた時は怒られると思ったが

「まあそのくらいなら構わんよ」

 と笑って承諾された。

「さて、それで守護者っつうのはな。 これはどの魔法具にも存在するものやないから、祭星が分からんのも無理はない。 エスペランサの裁きは特別なグリモワールやから、守護者がおるんや。 そしてその守護者が魔物やから、そいつに頼るのが手っ取り早い」

 暖かい紅茶を差し出され、詠斬はそれを飲みながら言う。 祭星がエスペランサを取り出すと、リイナはエスペランサに解析魔法をかける。

「普通なら、エスペランサ自身と契約をした時に出てきてもいいんですけど……。 どうして出てこなかったのかが気になりますね、無理やり出てきてもらうしかありません」

「だ、大丈夫なのそんなことして」

「問題ありません、緊急事態なので」

 半透明のディスプレイをカタカタと叩くリイナ。 しばらくすると眉を吊り上げた。

「どや、なんかわかったか?」

 詠斬がディスプレイを覗き込む。 すると同じような顔をして、紅茶を啜った。

「なんやえらい難しいことになってるんやな」

「ですね。 でも丁度ここは、藍沢さんの作品が役に立ちそうです」

 リイナは祭星のイヤリングをエスペランサの上に置くように言う。 祭星は不思議に思いながらもイヤリングを外した。 本の表紙に触れた瞬間、リンッと音が鳴って、青白い光が内から溢れてくる。

「お出ましです」

 ディスプレイを消し、リイナが言う。 するとその光が徐々に人の形へ変わってゆく。


『人がのんびり寝てる時に叩き起こすとは良い度胸してるね、キミ』


 小馬鹿にしたような声色、少女のような可憐な見た目。 吊り上がった大きな瞳が祭星をジッと見つめ、形の良い唇がクスリと笑う。

大きなフリルのついた袖口を振りながら、彼は顕現した。

 そう、彼、である。

少女のような可憐さを持ち、薄緑色の艶やかな髪を持ちながら、この守護者は男なのである。

『エスペランサの裁きの守護者、メフィストフェレス。 ……真の名をディスペアー。 お呼びかな、可愛いパピー』

「お、男の子……?」

『そうだ、ボクは男だけど、何か問題が? ああわかった、ボクの可憐さに驚いて信じられないんだろう!? 戸惑うことはないよパピー。 ボクが可愛くて、キミはそこそこっていうのは周知の事実……』

 気怠そうに髪を払って彼が祭星を一目見る。 すると彼は目を見開いた。 そして一瞬にして祭星に近づくと、頰を両手でガシッと包む。

「ヒッ」

『その瞳、軽くふわふわの睫毛、きめ細かい透明感のある白い肌、ほんのり色づく頰、輝かしいばかりの白髪……! パーフェクトだ、素晴らしいよパピー!』

「は、はぁ」

『今まで顕現しなかったことを悔やむくらいだ……! 嗚呼、なんてバカなんだボクは!』

「あ、あの、どうしてずっと出てきてくれなかったんでしょうか……、なんか難しいことになってるって聞いたんですけど」

 メフィストフェレスは祭星から離れて咳払いをすると、苦笑する。

『ボク、美しいだろう?』

「あ、はい」

『だから、ボクと契約するならボクくらいに美しい人間じゃないと嫌なんだよね。 で、今までも契約したいって言うやつらがいたんだけど、全員ダメ。 だから今回も絶対ダメだって思って寝てたんだ』

「ええ……」

 呆れて声も出ない祭星、同じような反応を示す蓮。 メフィストフェレスはそれを見てゴメンゴメンと軽く謝った。

『で? 何かワケありなんだろ?』

「はい、アルトストーリアを制御したくて」

『アルトストーリアを?』

 メフィストフェレスはそう言うと、キッと詠斬を睨みつけた。 詠斬はニヤニヤと笑う。

『……めんどくさいことは全部ボクに押し付けるつもりだな、元アンチュリエのスパイ。 だからお前みたいなキツネは嫌いなんだよ。

 パピー、アルトストーリアを制御するならボクみたいなはずれ魔物じゃダメだ。 魔界に行く必要がある』

「どう言う意味ですか?」

『……驚いた、なんにも知らないワケ? 何も知らずにこのエスペランサと契約してそんな重荷背負ってるワケだ』

 メフィストフェレスはムッとした顔で祭星の腕を掴む。 そして顔とは似つかぬ力で彼女を引っ張って行く。

「ちょ、ちょっと……!」

『ボクを起こしてくれてどうもありがと。 みんな解散していいよ。 これはボクが借りてくから気にしなくていい』

 部屋を出る直前、メフィストフェレスはクルリと部屋を見渡して、蓮を指差す。

『お前も来い』

 そう言い残して居なくなった。 残された詠斬、リイナ、ファルシュ、ここみ、星夜はなんとも言えない空気に包まれる。

「では、解散しましょうか……」

「そうやな。 久々のヴァチカンやからその辺見てくるわ」

 呑気にそう言って出て行った詠斬。 リイナとここみは目を見合わせて、大きなため息を吐いたのだった。


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