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アルトストーリア  作者: あきら ななせ
生贄の詐欺師と白竜の運命
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白き古都 5

 真っ白な世界。 窓ガラスの外側に凍りつく雪を見て、レイは深くため息をついた。

「わたくしも京都というところに行きたかったですわ」

「そう言ってらんねェだろ……。 こういう状況なんだぞ」

「わかってますとも。 ただ愚痴を言いたかっただけです」

 暗殺部隊の制服を着たレイとジョシュアが、窓の外を見ながらゆっくりと歩みを進めていた。 二人は暗殺部隊の任務が言い渡されており、祭星と蓮の任務に同行は出来なかったのだ。

京都は二人とも初めての場所であり、楽しみにしていた。 それがなくなってしまったとなると、凹むのも無理はないだろう。

今世界の危機が迫っていたとしても、少しは愚痴りたいものだ。

「ところで、任務の内容は分かっているんでしょうね?」

「んだよ、馬鹿にしてんのか? このままだと暴徒が乗り込んでくる可能性が高い。 混乱したやつらを落ち着かせんだろ」

「そうね。 そういったところよ。 早いことロビーに戻って現場を確認しなければ……」

 ロビーへ続く扉を開ける。 するとロビーは蜂の巣をつついたように騒がしかった。 響きあう怒号と悲鳴。 レイとジョシュアは一気に顔と身体が強張るのを感じた。

混乱した住民達が押し寄せているのだ。 と、最初は思った。 だがこれは違う。

「ほとんど日本人か」

「……ここまでくると、日本に魔法が広まっていないのが誰かに仕組まれているのではと思ってしまうわ」

 溢れかえる日本人は、全員が政治家やマスコミばかり。

中には別の国の者もいるようだ。 確かにこれは暴徒を取り締まる者が必要になる。

しかし、ヴァチカンもまだ原因を調査中だ。 問い詰められても、わからないと返事をすることしかできないだろうに。

その時、一際大きな怒号が響く。

「おい! 早く杯とやらを出せ! アイツがここに所属してというもの、日本にろくなことがないだろう!」

 そちらに目をやれば、恰幅の良いスーツを着た老人だった。

「どなたかしら」

「日本のお偉いさんだ。 あのおっさんは批判することしか出来ないんだよ」

 後ろからひょっこりと姿を現したクラウンが呟く

どうやら近辺調査が終わったらしい。 報告に戻りに来たのだろう。 レイは老人が言うことに耳を傾ける。

「杯中尉は現在特殊任務中です。 お呼び出しすることは出来ません。 それ以前に、彼女がここに来たのとこの現象は関係など……」

「いいから連れ戻して来い!! アイツが日本にいる事を拒んだからこんなことになったんだ! 日本人なら、国のために尽くすのが当たり前だろう!」

 なんとも横暴な態度だ。 レイは我慢が出来なくなってずんずんと老人の元へ突き進んでいく。 ジョシュアが止めようとした時にはすでに遅く、人だかりを押しのけて老人の目の前へ。

「言い方がなってなくてよご老人。 あの子を散々バケモノ扱いしておきながら、自分たちの身が危うくなれば呼び戻せですって?」

 気品ある彼女の声がロビーに響き渡る。

「子供のように甘い考えをお持ちですのね? そもそも、あなた方がもっと魔法に理解を示し、他国と協力を進めていれば、こんなことにはならなかった筈ですわ。 もっと魔法を研究し、自国に魔法使いを所属させていれば、混乱することも何もなかった!

 先の戦い、ボロボロに崩れた西城を誰が救ったのか、ご存知なくて??

あの街を救ったのはわたくしたちヴァチカンよ、そしていち早く皆を助けようとしたのは祭星よ! 自らの体を血に染めてでも、あの子は街を救うために賢明に戦ったの!

 なのに貴方と来たら、こんな事態になるまでぬくぬくと安全な場所で暮らしていたのね! 魔法使いを迫害するくせに、都合が悪くなれば魔法使いに頼り、危険を魔法使いへ押し付ける! あんたなんてクズよ、いいえ、クズ以下の人間よ!」

 レイから睨まれ、老人は狼狽える。 そこに聖騎士でもあるクラウンが現れる。

「これはこれは、大企業の社長様が遠路はるばるようこそヴァチカンへ。 空の旅はいかがでしたか? 我々魔法使いが魔力で動かす旅客機です。 さぞかし眺めがよく心地の良かったものでしょう。

 そうだ、社長様、とてもとても残念なお知らせなのですが……。 杯祭星は日本人ではありません。 彼女は私の娘なのです。 私の家はイタリアにありますから、あの子はイタリア人です。 訳あって偽名で日本にいたのですが、本当の名はエトワール・アドルフ・デイビッドといいます」

 それを聞いて老人の顔が青ざめた。

あの聖騎士の娘だ。 その娘を今まで自分たちはどう扱って来た??

「……お帰り下さい。 今ここにあなた方にお渡しできるような情報はございません。 最も、私たちヴァチカンになんの貢献もしていないあなた方に渡す情報など最初からありません。 あなた方がヴァチカンに、魔法使いに何をして来たのかは……、私たちがよくわかっていることですから」

 クラウンはそう言って指を鳴らした。 するとロビーにいた暴徒の体がすぅと消え失せた。 強制的に移動でもさせたのだろう。 今頃日本に戻されている筈だ。

あっという間に静かになったロビー。 ジョシュアは「クラウンさんが1人でくればオレ達来なくてよかったじゃん」と憎まれ口を叩いた。

「昔、日本から救護要請が来たことがある」

 ロビーにいる職員全員へ聞こえるように、クラウンが口を開いた。 この話は、古き者ならば知っている話だと言う。

「ヴァチカンは当然救護に向かった。 だが指定された座標には誰もおらず、不思議に思った魔法使いが気を抜いた瞬間に、彼女は捕まってしまった。

 捕まった彼女は拷問を受け、辱めを受け、生きたまま体を開かれ、そして死んだ。 帰らない彼女を助けに行った他の魔法使い達も同様に、日本の実験に使われた。

 あの国には裏がある。 恐らく何者かの手によって操られている可能性が大きい。 だから、みんなも気をつけることだ。 全員が悪者というわけではない、いい奴もたくさんいる。 蓮やここみ、文緒次席のようにね」

 ロビーに残った職員は深く頷いた。 日本という小さな国に渦巻く陰謀を、深く胸に刻み込んだのだ。


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